本格派と言われるジル・マゴーンの新作「踊り子の死」である。もともとジル・マゴーンは日本に紹介されたのが遅い人なので、新作と言ってもこの「踊り子の死」も1989年の作品だ。
全寮制のパブリック・スクールの舞踏会の夜。副校長の妻が暴行され、殺された。彼女には男とみれば見境なく関係を結んでいたとの噂があったが、一体誰が・・・。首席警部ロイドと部長刑事ジュディ・ヒルは捜査に乗り出すが、関係者は一様に口が重く、なかなか本当の事を話そうとしない。個性的な美術教師、新任の英語教師などが走査線上に浮かんでは消えていったが、やがて一年半前から学内で頻発している盗難事件との関わりが見えてきた。
事件そのものは、猟奇殺人でもなければ、連続殺人でもなく極めて普通の殺人事件で(殺人事件を普通というのもおかしいが)、断片的な証言から丹念に真実と嘘を見分け、それらを繋ぎあわせて真犯人に迫る。そんな展開だ。確かに本格派らしく最後の謎解きにおいて明かされる伏線はみごとだ。読み返してみてサラリと書いてある一文が重要な鍵になっていることに気付いた。
しかしながら、主人公の二人のキャラクターが本編だけでははっきりしない、ボンヤリした印象だけが残る。ロイドとジュディのシリーズとしては三作目だそうで、前二作を読んでいれば多少違った感想になったかも知れない。二人は不倫の関係にもあるのだが、無用の設定のような気がする。それなりの味はあるものの、いかんせん全体としては小粒な印象ですね。
ところで、容疑者の取り調べについての苦情がロイドの上司アリソン警視に持ち込まれてきたため、アリソンはロイドを叱責する。
「でも、まるきり無関係とは言えないと思います」
「思います?」鸚鵡返しにアリソンは言った。「これは泥棒と警官ごっこのテレビ番組じゃないんだ、首席警部。勘や推測は自宅に置いておけ。(後略)」
小生も仕事では勘だけが頼りだが、たまにはこんな啖呵もいいかもしれない。
| 書名 | 踊り子の死 |
| 作者 | ジル・マゴーン |
| 翻訳 | 高橋なお子 |
| 出版社 | 東京創元社 |
| ISBNコード | 4-488-11205-6 |