雨に祈りを


本編に登場する精神科医に「ホモセクシャルの要素を抜いた『明日に向かって撃て』のブッチとサンダンスってとこかしら」などと評されるパトリックとアンジーのシリーズも五作目になった。さすがに脂がのっているデニス・レヘインだけあって、ミステリとしての展開、意外な結末、重厚なテーマが一体となった読みごたえのある秀作となっている。

ストーカーに困っているという若い女性カレン・ニコルズの依頼をうけてパトリックは彼女を助ける。しかし、わずか半年後に彼女は投身自殺を図ってしまう。この半年の間に、フィアンセが事故で植物人間になり、職場を失い、住むところもなくなるという不運に彼女は遭遇していた。単なる偶然なのか、それとも誰かの悪意が潜んでいるのか、パトリックが調査をすすめるうちに、一人の人物が浮かび上がってくる。しかしその時、パトリックの周囲にも恐ろしい魔の手が伸びていた・・・。

はじめは、謎の犯人に守勢にまわるパトリックとアンジーだが、やがて攻勢に転ずるあたり、読者も一緒になって溜飲を下げる気分で、さすがにここらのツボはしっかり押さえてある。事件が解決したと思われた後に明かされる真相と結末もレヘインらしい余韻がある。

デニス・レヘインの本の基本的なテーマは人間の心に巣くう悪意と暴力だと思われる。本書でもごく普通の女性カレン・ニコルズを自殺に追い込む犯人の手口は悪辣で、読んでいる方が思わず引いてしまうところがある。全編を通じて暴力に匂いがふんぷんとするところがあって、おもしろいことに間違いはないが、好き嫌いが分かれるのはここらあたりかもしれない。

にもかかわらず最後まで読みとおせるのは、パトリックとアンジーの守護神ともいうべきブッバ・ロゴウスキーの存在が大きい。どこか存在自体がユーモラスで、救いとなっている。本編では、なんと彼女ができるのだが、それ以上に兵士としての才能を発揮して二人を助けている。

「よし」ブッバが言った。「じゃあ、三人で行くぞ。これだけは忘れるな。実戦で犯す唯一の過ちは、躊躇することだ。だから、まちがっても躊躇するんじゃない」

と、二人を指導までしている。訳者あとがきによれば、レヘインはこのシリーズを少し休む予定のようだが、ブッバだけでも他の作品に登場させて欲しいものだ。


書名 雨に祈りを
作者 デニス・レヘイン
翻訳 鎌田三平
出版社 角川書店
ISBNコード 4-04-279105-0