ロシア最後の皇帝ニコライ二世御用達の宝石細工師ファベルジェと彼が残したインペリアル・エッグと呼ばれる豪華な宝飾品。ロシア革命により皇帝一家を襲う悲運とインペリアル・エッグをめぐるさまざまな逸話。これはミステリの材料として格好のもので、メアリ・J・クラークの「緊急報道」も物語の中心にあるのはファベルジェのインペリアル・エッグである。そう言えば、子どもと見た名探偵コナンの映画版「世紀末の魔術師」にもインペリアル・エッグは登場していましたね。
ニューヨークのKEY報道局でかつて敏腕女性プロデューサーとしてならしたファレル・スレイターも現在はスランプ。局との契約打ち切りも宣言されていた。そんな折りファベルジェの宝飾品のオークションの取材を命じられたファレルは、当初あまり気乗りではなかった。しかし、オークションで6百万ドルの値がついたムーンエッグが贋作との情報に、関係者の取材をはじまる。しかし、本物のムーンエッグを持っているという老婆は自宅が火事となり重体、ムーンエッグも行方不明となる。やがて新たな犯行がオークション関係者の身を襲う・・・。
このミステリは小刻みな場面展開と小出しの読者への情報が特徴で、さながらジグソー・パズルのように、小さな断片を集めていって最後に全体像が明らかになるような仕掛けになっている。メアリ・J・クラークは本編が二作目らしいが、物語の組立にはなかなか巧みなものがある。「アメリカで、今後を最も期待される作家の一人」という触れ込みもあながち嘘ではないでしょう。女性主人公となるとバリバリのキャリアという設定がお決まりだが、少し落ち目で自分の人生を振り返って悩んでいるという設定も好感が持てる。犯人が第二、第三の犯行におよぶ理由がすこし強引で、説得力に欠けるという印象はあるものの、全体としてはよくまとまっている。なによりも、ファベルジェにまつわる物語の魅力がある。
さて、今回紹介するのは、かつて著名なバレリーナであった女性のセリフ。
「いまになってなぜですか、ミセス・パラダイス。なぜいまになって、こうした品々をオークションで売却する決心をなさったのですか」
ナジーネは微笑した。「人間は年をとると、自分の人生を単純にしたくなるものです。品物をいくらか処分して、残りの人生を送るためには、いまがちょうどいい潮時だと思ったのです」
もとよりオークションに出すような価値のある物をもってない一般人でも、長く生きているといろいろな物がたまりますね。もっともその思い出の品をおいておくスペースに苦労するのが、ウサギ小屋に住んでいる我々の常なのですが。
| 書名 | 緊急報道 |
| 作者 | メアリ・J・クラーク |
| 翻訳 | 山本やよい |
| 出版社 | 講談社 |
| ISBNコード | 4-06-273502-4 |