映画「カサブランカ」を初めて見たときに、クロード・レインズ演ずるフランス人の警察署長とドイツ軍将校との関係はすっきりと理解できなかった記憶がある。この当時のフランスとドイツの関係には複雑なものがある。J・ロバート・ジェインズの「磔刑の木馬」もほぼ同時代を舞台とした複雑な歴史的背景のうえになりたっている。場所はドイツ占領下のパリ、主人公はフランス人の主任警部ジャン・ルイ・サンシール、その相棒にして監視役のドイツゲシュタポ、ヘルマン・コーラー大尉とくる。この二人がある種の友情を感じながら、殺人事件の解決にあたる。
針金で絞殺された少女と散乱する金貨、そして回転木馬で殺されたポンびきと射殺されたドイツ軍伍長。犯行は一連の連続殺人事件と思われたが、被害者にドイツ軍伍長がいたことから、占領軍はパリ市民27名の身柄を拘束。真犯人が見つからなければ、27名を処刑すると発表した。27名の命を救うためのフランス人の警部ジャン・ルイ・サンシールとドイツ人のゲシュタポ、ヘルマン・コーラー大尉は懸命に捜査にあたるが、複雑な政治状況が二人の捜査の難しいものとしていた・・・。
話の舞台設定や二人の主人公の関係はなにしろ魅力的だ。ドイツ人が悪で、フランス人が善といった単純な構成でない点も好感がもてる。本当にその時代を生きた人には申し訳ないが、映画のワン・シーンを見るような雰囲気のあるミステリである。
だたし・・・、である。大きな欠点はとにかく読みにくい。一つには前作で語られたと思われる背景について何も説明がない。まあ、これはシリーズ一作目から読めばすむことだが、それ以外にも唐突な場面転換、複雑な人間関係や登場人物の立場についての説明不足で、物語がすんなりと頭にはいってこないのだ。本書の解説の関口苑生氏によればそれも作者が意図的にやっていることのようだが、大いに不満だ。さすがに犯人が誰であったが判ったような気はするのだが、それも名探偵が書斎に一同を集めて真犯人を解説するように、そうとう強引な真犯人特定の場面が用意されているからだ。
この犯行の背景にはある復讐の物語があるのだが、サンシールはこんなことをいう。
「復讐は甘美なものさ、ヘルマン。おできのように、膿がいっぱいになったとき絞りだすのが、いちばんだ」
簡単に読み流せにないことを覚悟のうえならば、おすすめである。
| 書名 | 磔刑の木馬 |
| 作者 | J・ロバート・ジェインズ |
| 翻訳 | 石田善彦 |
| 出版社 | 文芸春秋社 |
| ISBNコード | 4-16-766105-5 |