本書、「狩りの風よ吹け」はデトロイトの警察官時代にうけた銃弾がいまだに心臓のそばに残っている私立探偵アレックス・マクナイトのシリーズ三作目にあたる。もっともマクナイトはこの稼業にちっとも熱心ではなく、相棒のリーアンがいつのまにか”プルーデル=マクナイト探偵事務所”というホームページをつくっていることを聞かされて驚くほどである。そのホームページを見たかつての友人が訪ねてきたことから事件は始まる。
30年前にバッテリーを組み、ともにメジャーリーガーを目指した親友ランディー・ウィルキンズが突然アレックスのもとを訪ねてきた。ランディーがデトロイト・タイガースに昇格したときに10日間だけつきあった恋人マリアを探し出してくれという依頼だった。その動機に疑念をいだきながらも、アレックスは30年前の親友ランディーをともなって、警官時代の忌まわしい記憶の残る街、デトロイトへと出向く。しかし、マリアの消息も途中で立ち消えになり、調査を断念したアレックスとランディーはデトロイトで別れる。しかし、翌日アレックスのもとにオーカス・ビーチという小さな町の警察から電話がかかる。ランディーが撃たれて、重体だという。いったい、別れたあとに何があったというのか。そして、この事件にマリアは関係しているのか・・・。
前作「ウルフ・ムーンの夜」でもそうだったように、アレックスはもっぱら殴られ役と狂言回しの役割で、周囲の人々によって事件は進展していく。やがて、アレックスの知らなかったランディの30年間やマリアの素性が明らかになっていく、という筋書きなのだが、いささか玉虫色の結末で消化不良の印象は拭えない。メジャーリーガーを目指して挫折した記憶、警官として人生の裏表をみた経験、そして銃撃を受け同僚を死なせた悪夢、そんなデトロイトでの過去にどっぷり浸った中年アレックスの姿がもともと本書の狙いなのかもしれない。そのせいか、本国アメリカのアマゾンの書評でも評価がわれているようだ。
ところで、ランディはデトロイト・タイガースで、まがりなりにもメジャー・リーガーとしてボルチモア・オリオールズを相手に一試合だけ登板した経験を持つ。1イニングに3本塁打をあびて降板、生涯防御率189.00という記録を持っているという設定だ。メジャーのファンにはなつかしい名前もでてくる。
「第一球、ベランジャーはレフト線沿いにポップフライを打ちあげた。ほかの球場なら、世界じゅうどこでも問題はなくアウトだが、ここはタイガー・スタジアム(両翼までが極端に短い)だから、ボールは恥ずかしそうにフェンスを越えた。満塁ホームラン。よりによってマーク・ベランジャーにやられた。ようやくビリー・マーチンが出てきて、おれに言った。”オーケー、もうじゅうぶんだ、坊や。ボールの在庫がなくなっちまう”」
”ボールの在庫がなくなっちまう”とは、小説の中の作り話とは思うが個性派監督ビリー・マーチンらしいセリフ。阪神タイガースの星野監督にもこのセリフをまねて欲しいものだ。アッ、今年の阪神タイガースの投手陣はそんなに打たれませんかね。
| 書名 | 狩りの風よ吹け |
| 作者 | スティーヴ・ハミルトン |
| 翻訳 | 越前敏弥 |
| 出版社 | 早川書房 |
| ISBNコード | 4-15-171853-2 |