全面支配(その1)


デイヴィッド・バルダッチの「全面支配」を読む。すこぶるおもしろい。しばらく前から読んだ本を5段階評価しているのだが、この本なら5つ星をあげてもよい。
旅客機の爆破事件と企業買収をめぐる機密漏洩事件の二つを軸に物語は展開していく。機密漏洩の疑いをもたれたまま行方不明になった夫ジェイソンの無実を信じ、孤軍奮闘する弁護士シドニー・アーチャー。しかし、夫が真相を伝えるために送ったフロッピィ・ディスクをめぐり、敵の魔手はシドニーにも襲いかかる。と、こんな具合で、舞台装置は大がかりではあるが、少しずつ謎が深まっていくのと、真相が明らかになっていくのとタイミングが良く考えられており、最後まで一気に読ませる。

爆破された旅客機に連邦準備理事会(経済ニュースにもFRBとして出てきますね)議長が乗っていたため、FBIは関連を調査するため理事会のメンバーであるサンフランシスコ連銀総裁チャールズ・タイドマンに会う。その時、タイドマンは言う。

「連邦準備理事会のメンバーは、自己の思考力と、自己の判断力を用いるために、理事会に名をつらねているのであって、現実にはなんの根拠もない、ばあいによっては破滅的結果にもなりかねない意見に、盲目的に従うためではない」

政府の○○審議会とか、はたまた会社の取締役会とかあるけれど、そのメンバーはまさに自己の思考力と、自己の判断力を使うことを期待されているわけだが、さてどんなもんでしょうか。また彼はこうも言う。

「景気予測の批判者が好んで使うフレーズがある。”エコノミストに望む結果をいっておけば、裏付ける数字はちゃんとみつけてくる”というんだ。この首都には数字処理屋(ナンバー・クランチャー)がわんさといて、連邦の財政赤字から社会保険の余剰金にいたるまで、まったく同一のデータを見ながら、その解釈は千差万別、大幅に、根本的に異なるんだ」
「つまり、データは操作が可能である、と」
「もちろん可能だ--−だれが責任を取り、だれの政策が推し進められているかによってな」タイドマンは辛辣にいいはなった。

最近、証券会社の手数料が自由化になり、オンライン証券などともてはやされるので、少し関心があって経済ニュースなど見るのだが、この言葉は肝に銘じておく必要がありそうですね。ミステリーで経済の勉強もできるという事例だ。そして物語のほうは旅客機爆破事件、機密漏洩事件がFRB議長がからんだ不正な金利操作へと一本の線でつながっていくことになる。


書名 全面支配
作者 デイヴィッド・バルダッチ
翻訳 村上博基
出版社 徳間書店
ISBNコード 4-19-891199-1