消えたスクールバス


 狡知にたけた誘拐犯と警察の息詰まる攻防と言いたいところが、警察は完全に誘拐犯に押されっぱなしだ。 ザカリー・アラン・フォックスの「消えたスクールバス」は、障害児ばかり乗せたスクールバスが行方不明になるところから物語は始まる。わずか二日ばかりの物語なのだが、分刻みで誘拐犯と警察の動きを描きながら、いっきに読ませる。
 捜査陣の組織的軋轢に悩む警察署長に対して、主人公の女性刑事エレンは

「大学時代に読んだ本のなかである男性がこんな実験をやってた。ばらばらに部屋に入ってきた人たちに折り襟につけるピンを渡す。ピンの色は赤かまたは緑。完全に無作為に渡すんだけど、緑のピンをもらった人たちは自然と部屋の片側へより、赤のピンをもらった人たちは反対側へ寄った。あとで聞き取り調査をしたら、緑のピンの人たちは、自分たちのほうが赤のピンの人たちより洗練されていると思っていたとわかった。逆の場合も同じく。複数の機関が集まった場合も、それと同じことが起きるんだわ。みんな、自分の所属する機関に期待して、総体的な価値を見失ってしまうのよ」

と言う。そんな具合だから、市警にFBI、保安官、はては軍隊まで出てくるが不協和音ばかりで、犯人の仕掛けた罠にはまり、捜査は迷走する。
 しかし、この犯人、なんと箴言を集めるのが趣味(?)なんですね。箴言をつぶやきながら完全犯罪をもくろむ。

「準備に失敗すると言うことは、失敗を準備していることにほかならない」
(出典・作者不詳)

なんて言いながら、誘拐の計画を綿密に立案するのだ。このホームページのもう一つのコーナー、折々の戯言でも紹介したが「Time Quest」という本に「計画に失敗することは、失敗を計画するようなものだ」という言葉が載っていたが、どうやらこれは「Time Quest」の著者が考えた言葉ではなく、昔からある言葉なんですね。
 誘拐、特に金目当ての誘拐では、なんといっても身の代金の受け渡しがポイントで、自信たっぷりの犯人がどんな手を考えてくるか楽しみにして読んでいったのだが、ここはもう一ひねり欲しいところだ。それとこんな極限状態でありながら、主人公の女刑事の色恋がしっかり入っているのだが、せっかくのテンポを削いでいるようで感心しない。


書名 消えたスクールバス
作者 ザカリー・アラン・フォックス
翻訳 川副智子
出版社 角川書店
ISBNコード 4-04-282801-9