輝ける日々へ(下)


 バーで酒を呑む楽しみの半分はバーテンダーにかかっている。無論、うまい酒への道案内という面もあるし、気分転換の話し相手でもある。しかし、それだけではない。ある時にはプロとしての矜持を見せてくれるし、人生や酒の何たるかについて教わることもある。

「誰にも変化は止められない。悪い方への変化はな。イェーツが言ったように”ものすべて崩れ去る”だよ」こう言ってから彼は急いでつけ足した。
「イェーツってのは詩人だったよな、確か。それともバーテンダーかな?」

 従って、こんな具合に詩人とバーテンダーを一緒くたにしてしまってもおかしくはない。
前回に引き続きテレンス・ファハティの「輝ける日々へ」である。
 この作品の主人公スコット・エリオットはギブスンしか呑まないのだが

「どうして」リンダが言った。「楊枝に差すものをオリーブからオニオンに変えるだけで、ジンとベルモットを混ぜたお酒の名前がすっかり変わってしまうの?」
彼女が尋ねた相手は私だったが、ドルリーが解答者の役を引き受けた。「チャールズ・デイナ・ギブスンの名にちなんでいるのですよ。有名なイラストレーターのね。あるとき彼がニューヨークの<プレイヤーズクラブ>でマティーニを注文した。ところがオリーブをきらしていたので、バーテンダーはギブスンのグラスにオニオンを入れて出したのです。だから発案者はバーテンダーのチャーリー・コノリーって男なのだけれど、カクテルに名を残す栄誉はギブスンのものになってしまった。だからといって、どうということはないのだけれど。マティーニのファンはいまだにギブスンを格下に見ているのだから」
「ということは、あなたは判官びいきなの、エリオットさん?」リンダは言った。
「ただのオニオンびいきです」私は答えた。

といった、カクテルの由来に関するうんちくまで出てくる。
 あとがきによれば、次回作(と言っても、本当はこちらが最初に書かれたもので、日本での翻訳が逆なだけ)では、エリオットがなぜギブスンしか呑まないかの謎も明かされるという。楽しみである。


書名 輝ける日々へ
作者 テレンス・ファハティ
翻訳 三川基好
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-079253-4