冒頭、テレビで放送されている映画のワン・シーンの男女の描写が続く。いやに念入りに書くものだと思って読んでいくうちに、この男、ひょっとしてフレッド・アステアのことかなと思う。男がアステアなら女の方はジンジャー・ロジャースと言うことになる。はたせるかな、この二人なのだが、もっと映画に詳しいファンなら映画の題名まで分かるかもしれない。
テレンス・ファハティの「輝ける日々へ」はこんな導入シーンではじまる。元俳優で警備会社に勤めるスコット・エリオットを主人公にすえ、1950年代を舞台にしたノスタルジーに溢れるミステリーである。
懐かしのハードボイルドの雰囲気がたっぷりある。ちょっと出てくる端役までが
「英雄的な行為がただそれだけのことなのだったら、誰だって勲章をもらえるさ。本当に勇気が要るのは、空虚な日々を生き抜くことだぞ。そして自分の体重と、それプラス少しの重みを支えていくんだ」
なんて言い出すから油断がならない。むしろ、気の利いたセリフをしゃべるのは脇役の役割になっているらしく、主人公エリオットと土地開発業者の会話でも
「仮にどんな値段をつけられても開発業者に土地は売らないという者がいたら?」
「仮にと言われてもね。私は現実と現金を扱っているのだ。少し講釈させてもらおう」
と開発業者に言わせている。
物語の方は、映画撮影現場で頻繁に妨害が発生するため、その警備をエリオットが依頼されることから始まる。ご多分に漏れず殺人事件が発生するのだが、こちらの結末には、最近のサイコ・ミステリーの影響が少し出ているように思う。そこまでしなくてもと思うが、まあこれは好みの問題でしょう。
| 書名 | 輝ける日々へ |
| 作者 | テレンス・ファハティ |
| 翻訳 | 三川基好 |
| 出版社 | 早川書房 |
| ISBNコード | 4-15-079253-4 |