カムバック・ヒーロー


 スポーツ・エージェントであるマイロン・ボライターを主人公としたこのシリーズは典型的はお気楽読み物で、サイコ・ミステリーなどを読んだあとには、一服の清涼剤といったおもむきがある。しかし、第三作目にあたる「カムバック・ヒーロー」にはビールのようなちょっとした苦みがある。
 マイロン・ボライターは大学バスケット界の花形選手から、将来を約束されNBAに入るが、シーズン前の練習試合で重傷を負い、公式戦のコートに立つことなく引退し、現在はスポーツ・エージェントをしている。今回はそんな彼がNBAの失踪したスター選手を捜すため、チームに選手として復帰することになる。それは同時に彼が重傷を負ったいきさつの本当の理由を知ることにつながり、マイロンのいつもの軽口が湿りがちな原因になっている。
 でも基本的にこのシリーズは、TVドラマでも意識したような脇役によって固められており、それが一つの魅力になっている。友人にして相棒のウィンザー・ホーン・ロックウッド三世は資産家にして、格闘技、射撃の達人、かつハンサムというスーパーマンである。秘書のエスペランサはかつては「リトル・ポコホンタス」という名で活躍した女子プロレスラーといった具合だ。このエスペランサ嬢はなかなか才気にあふれ、マイロンの本当の気持ちを言い当てて

「助けがほしいなら精神科医へ行きなさい。真実がほしいなら、わたしのところへ来なさい」

なんてセリフを吐くのだ。魅力的な秘書というのはいいものだ。「ペリー・メイスンのデラ・ストリートを思い出しますね。中学生の頃に、このシリーズを読んで、将来デラ・ストリートのような秘書を持つ身分になりたいと思ったものだが、どうやらそれはかなわぬ夢であったようだ。


書名 カムバック・ヒーロー
作者 ハーラン・コーベン
翻訳 中津悠
出版社 早川書房
ISBNコード 4-15-170953-3