貴方と一緒なら〜内気なACTRESS〜  後編

                       ☆☆☆ 前回のあらすじ リヴェティス劇場改装記念公演の手伝いをすることになったセイル達。 しかし、その途中で、劇団員達が原因不明の食あたりに襲われて倒れてしまう。 急遽、劇の全てを任されたジョートショップの面々。 なんとか劇を成功させようと右往左往するが、 なんだかんだといううちに、ついに公演当日に・・・・・ はたして、セイル達は無事にカーテンコールを迎えられるのか!?                                ☆☆☆ 「とうとうこの日が来たか・・・・」 3日というあまりにも短い時間はあっという間に過ぎ去り、とうとう公演当日になってしまった。 今は開演前の最後の下準備である。 あの後、みんな寝る間も惜しんで練習してくれ、なんとか形にはなったのだが、 まだいかんせん素人芝居の域を出ないというのが実情であった。 「君たち、大丈夫なのかね?私はもう心配で、痛たた・・・・・」 オーナーはそう言って、胃の辺りを押さえる。もう、気が気でないのだろう。 「大丈夫ですよ、なんとかなりますって。」 セイルはそう言ってオーナーを励ましたが、実のところ、セイル自信も不安であった。 「そうだ、みんなの様子でも見てくるか。」 一足先に支度が終わっていたセイルは(もう勇者の格好になっている)、 自分の不安を紛らわすことも兼ねて、みんなの控え室の方へ歩いていった。 「お〜い、アルベルト〜。」 扉をノックするが、返事はない。セイルはそ〜っと扉を開けて中を覗いてみた。 (いた。しかし何やってんだあいつは・・・・) アルベルトは鏡台の前に座って、念入りに化粧のチェックをしていた。 「う〜ん。リップはこの色の方がいいか・・・いや待て、この色も捨てがたいし・・・」 (魔王が化粧してどうするんだよ!) 思わず後ろからどつきたくなるが、あれがアルベルトの不安の解消法だと思い、 セイルは黙って部屋の前を後にした。 実際には、ただのアルベルトの趣味だったのだが・・・ 「ふっふっふ、アリサさん、見ていて下さい。アルベルト、この舞台を貴方に捧げます。」               ♪♪♪ 「後は・・・・シェリルか、大丈夫かなぁ。」 あの後、他のみんなの様子を見て、最後にシェリルの所にやってきた。 トントン・・・ 「シェリル、入っていいかい?」 ガチャ ドアが開いて、そこから顔を出したのは、シェリルでなくトリーシャだった。 シェリルの手伝いに来てたらしい。 「ダメだよ、セイルさん。まだ着替え中なんだ。もうちょっと待ってて。」 そう言ってドアを閉めてしまう。 「シェリルは着替え中か・・・・・・・」 ふと、着替え中のシェリルを想像してしまうセイルであった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ、いかんいかん。何を考えてるんだ俺は。」 必死に頭を振って、よからぬ妄想を追い出そうとする。 「何やってるのセイルさん?」 「え、ト、トリーシャか。な、なんでもないよ。」 いつの間にか支度は終わってたらしい。 「ほら、お姫様、勇者様がお待ちかねだよ。」 「ト、トリーシャちゃんてば・・」 トリーシャに惹かれて、おずおずとドレス姿のシェリルがでてきた。 (えっ・・・・) セイルは、最初誰だかわからなかった。 今日のシェリルは、髪を下ろし、眼鏡も外していて、さらにお化粧までしてたからである。 まるで、ホントのお姫様のようであった。 (き、綺麗だ・・・・) セイルは思わず見とれてしまう。 「セイルさん、シェリルのことじーっと見つめてどうしたの?」 「わ、私やっぱり変ですか?」 「い、いや、そそ、そんなことないよ。す、凄く似合ってる。」 何故かどもってしまう。 シェリルの方は「似合ってる」と言われて真っ赤になっていた。 「ありゃりゃ、ボクはおじゃまみたいだね。じゃあ、ボクは客席の方で見てるから、頑張ってね〜。」 気を利かせたのか、そう言ってトリーシャは去っていった。 「あ、あのバカ・・・・」 2人っきりになると、どうもお互いに言葉が詰まってしまう。 「あのさ・・・」 「あの・・・」 「どっ、どうぞ・・・」 「いや、そっちから・・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 沈黙がしばし支配する。 「わ、私、さっきまで凄く緊張してたんだけど・・・セイルさんの顔見たら勇気がでてきました。 今日は、が、頑張りますね。」 「俺もシェリルの顔見たら『頑張らなくちゃ』って気分になってきたよ。頑張ろうな。」 「はいっ!」 ブー 開演5分前を知らせるブザーが鳴った。 いよいよ本番、真剣勝負である。 「よしっ、みんな、絶対に成功させるぞ!」 「お〜!!」                ♪♪♪ そして公演が始まった。 「姫、必ず助けにまいります!」 「ふはははは!全世界の民よ、我が前にひれ伏すがいい。」 「レイル様、シャーリィは信じています・・・」 「あれが・・・魔王の城か。」 みんな精一杯の熱演である。 劇は滞りなく進んでいった。 そして、なんとか最後の山場、魔王との対決のシーンに。 「くらえぇぇ!」 「うぬっ、人間のくせに!」 「精霊よ、私に力をっっ!!」 「ぐわぁぁぁ!!!!」 勇者レイルは、苦しい戦いの末、 その勇気と精霊の力を持って、とうとう魔王シドゥーをうち破ったのだった。 (よしっ、これであとは最後のシーンだけだな。) セイルは心の中でほっと安堵し、次のシーンの台詞を思い出していた。 (確か、ここでお姫様がでてきて・・・・) そう、後はレイルとシャーリィの再開のシーンである。 しかし、シャーリィはでてこない。 (あれっ、シェリルのやつ、どうしたんだ?) セイルが心配していると・・・・・・・ 「ひゃひゃひゃひゃひゃ!!」 誰かの笑い声と同時に照明が落ちる。 「お、おい、こんな演出あったっけ?」 思わず倒れたふりをしているアルベルトに訊いてみる。 「知らねーよ。これで終わりのはずじゃなかったのか?」 「アレフのやつ、こんな演出するなんて言ってなかったぞ。」 セイルが困惑していると、 「魔王退治ごうくろうさん。勇者様。」 またさっきの声がする。 「でも、残念ながらお姫様はでてこないんだな。」 「なっ!、それはどういうことだ!」 「こういうことだよ。ひゃひゃひゃ。」 パッと、灯りがともる。 そこには、ぐったりとしたシェリルを抱える、奇妙な格好をした男が立っていた。 「お、おまえはシャドウ!また俺の邪魔をしに来たのか!? 食事に毒を盛ったのもお前だろ。」 「食事?知らねーな。こういうのは一番盛り上がったところで邪魔をするのが楽しいんだよ。」 「じゃあ一体誰が?」 「ひゃひゃひゃ、とにかくお姫様はもらっていくぜ。」 そう言い放つと、シャドウは壁に大穴を開け、そこから飛び出していった。 「ま、待てっ!!」 セイルもシャドウを追って飛び出していく。 ガヤガヤ・・・・ 「なんですかな、あれは?」 「魔王を倒した後に続きなんか・・・」 「壁に大穴を開けるなんて・・・」 観客がざわめきだつ。 「も、もうおしまいだ・・・・・・う〜ん・・・・・・・」 オーナーは泡を吹いて倒れてしまった。 「どうするのよアレフ?」 「そ、そんなこと言ったって・・・・肝心の主役が居ないんじゃ話に・・・ そうだ!こうなりゃ一か八かだ。」 そう言ってアレフはマリアに耳打ちする。 「え〜!!そんなんで大丈夫なの〜!?」 「他に方法ないだろ。マリア、頼んだぞ。」 「わかった、やってみる。え〜い!!!」                ♪♪♪ 「だあぁぁぁ!!!」 セイルの持つ剣が凄い勢いで振り下ろされる。 セイルとシャドウは町の西側にある山の中で戦っていた。 シャドウは振り下ろされた剣をひょいとかわす。 片手でシェリルを抱えてるとは思えない動きである。 「ひゃひゃひゃ、しっかりしろよ勇者様。そんなんじゃお姫様は助けられないぜ。」 「うるさいっ、黙れ!」 ひゅんっ 「おっと。今頃はあっちでも大騒ぎだな、クックック。」 「くっ、とにかくシェリルは返してもらう。」 「ひゃひゃひゃ、そんな武器で俺が倒せるとでも?」 (はっ、そ、そうだった。) 今まで夢中だったので気づかなかったが、セイルの持っている剣は竹光であった。 もちろん、持っている盾も、鎧もハリボテ、なんの役にも立たない代物である。 「くらいなっ!カーマイン・スプレッド!!」 シャドウの手からいくつもの火球が放たれ、セイルに炸裂する。 「うわ〜!!」 直撃こそかわしたものの、爆風に吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。 剣や盾、鎧はあらかた吹き飛ばされてしまった。 (く、くそっ。どうすりゃいいんだ?シェリルを抱えられてたんじゃ魔法は使えないし・・・・) 「ほらほらっ、逃げてばかりでどうするんだ。ええ、勇者様?」 シャドウは意地の悪い笑みを浮かべながら、火球を放ってくる。 セイルはただ、それをかわすことしかできなかった。 (どうにかしてシェリルを奴から離さないと・・・・) 「うわっ!」 またも爆風にはじき飛ばされてしまう。 「う、う〜ん・・・・・・・・」 その時、ようやくシェリルが目を醒ました。 「こ、ここは・・・・セ、セイルさん!!」 シェリルの視線が傷つき、倒れてるセイルの姿をとらえた。 すぐにセイルの元に駆け寄ろうとするシェリルを、シャドウがぐっと捕まえる。 「いやっ、は、離して下さい!」 「そうはいかねーな。ここであの勇ましい勇者様がやられるのをじっとみてな。クックック・・」 「い、いやです!セイルさーん!!」 ぴくっ 「う・・・・・」 シェリルの叫びに反応したのか、セイルがふらふらと起きあがる。 「シェリル・・・・よかった、気がついたのか。待ってな、今助けてやるから・・・・・」 「セイルさんっ!」 「ちっ、しぶとい奴だな。あれだけ痛めつけられながら立ってくるとは。」 「へ、へへへ・・・シャドウ、目の前にお姫様がいるってのに、倒れる勇者はいないんだよ・・・勇気百倍ってやつだ。 それにお前のへなちょこ魔法なんか、何発喰らっても効かねーな・・・」 そう言って笑ってみせる。 「ボロボロのくせして言うじゃねえか。クックック・・・いいだろう、とどめを刺してやるよ。」 どんっ 「きゃっ。」 シャドウは大きな魔法を使うためにシェリルを突き飛ばす。 「ひゃっひゃっひゃ!これで死んじまいな。ヴァニシング・ノヴァ!!!」 シャドウがかざした両手に、眩いばかりの光が集まり、セイルに向かって放たれる。 「セイルさーん!!」 もうすぐ光に飲まれようかというとき、セイルがにやっと笑った。 「待ってたぜ、お前がシェリルを手放すのを!」 セイルは光に向かって走り出した。 光がセイルを飲み込む瞬間、突然光は消失し、代わりにシャドウ自身を飲み込んだ。 「ぐわ〜!!!」 「お前が挑発に乗ってくれて助かったぜ、お前を挑発したとき、そっと魔法を唱えてたんだよ! これで終わりだ。エーテル・バースト!!」 セイルは自分の力を増大させる魔法を使って、シャドウへと殴りかかった。 しかし、拳が当たろうかという瞬間、シャドウの姿がすっと消えてしまう。 「なにっ!?」 (くくく・・・今日の所はこれで勘弁してやる・・仕事はもう滅茶苦茶だしな・・・ 次はもっとお前を苦しめてやるからな・・・・・首洗って待ってろ・・・・・ひゃっひゃっひゃ・・) シャドウの声が空から響いてくる。 「クソッ、逃げられたか・・・・・そ、そうだ、シェリルを・・・」 セイルはシェリルの方を振り向いた。 そのとたん、 どんっ シェリルがセイルの胸に飛び込んでいた。 「シェ、シェリル・・・・・」 「し、心配したんですから・・・・・セイルさんが私のせいで死んじゃったら・・・・・ぐすっ・・・」 「シェリル・・・よかった、無事で。」 「セイルさん・・・・・・」 シェリルは涙に濡れた眼差しでセイルを見上げる。 (どきっ!か、可愛い・・・・・) 涙に濡れたシェリルの瞳につい見とれてしまう。しかも、口紅の塗られた唇がなまめかしい。 (ドキドキドキ・・・・・い、いいよな。誰も見てないし・・・・・・) セイルがゆっくりと顔を近づけていくと、シェリルも察したのか目をそっと閉じる。 そして二人はゆっくりと口づけを・・・・・・         ・         ・         ・ 「ごめんなさい、私のせいでお仕事が滅茶苦茶になってしまって・・・・」 「何言ってるんだよ、悪いのはシャドウであってシェリルじゃない。 それに、劇の成功より、そ、その・・・シェ、シェリルが無事だった方が俺には・・・・」 最後には赤くなってしまう。 「セイルさん・・・・」 シェリルも真っ赤になってうつむいてしまう。 「さあ、帰ろう!みんなも心配してるだろうし。みんなにも謝らなきゃな。」 「はいっ!!」 2人は劇場へと戻って行った。                ♪♪♪ 『そして二人はゆっくりと口づけを・・・・・・』 一方、劇場の方はというと。 2人にとっては幸か不幸かわからないが、大成功で幕を終えていた。 「すばらしい。この話をこうアレンジするとは。」 「今までにないアレンジの仕方でしたね。」 「劇場の中だけに縛られない自由な発想。一体誰が考えたのか・・」 「最後で、ああどんでん返しが来るとはねぇ。」 「最初は素人のような演技でしたが、最後の戦いの所はいい演技してたな。 あの役者、これからが楽しみだわい。」 「劇場を実際に壊してまでリアリティを追求する・・・すばらしいの一言につきる。」 「いや〜、いいもん見せてもらった。」 セイル達が飛び出していった後、アレフ達がどうしたかというと・・・ 魔法で、セイル達の動きをリアルタイムで映し出していたのである。 以前、ピートとアレフを追跡するときに使った魔法の発展型なのだが、 声と映像を映し出す魔法は非常にハイレベルの魔法であり、 マリアが唱えて成功したのは奇跡に近かった。 ともかく、劇は意外なほどに大成功であった。 客も、普通の劇を見るのに飽き飽きしていたらしい。 名前の違いなんかも、名前が似ていたのと、爆発などの音のせいでばれなかったらしい。 何人かは気づいただろうが、ほとんどの人はあまり気にしていないようだ。 「よかった・・・壁の修理が大変だが、大成功したのなら良しとしよう。」 オーナ−もやっと胸のつかえがとれたようだ。 「アレフさん、やったね!」 「まあ、それほどでも・・・・これからは『名監督アレフ』って呼んでくれ。」 「マリアの魔法のおかげなんだからね、そこの所忘れないでよ。」 「ア、アリサさん。見てくれましたか?俺の演技。」 「ええ、アルベルトさん。とてもよく似合ってらっしゃいましたよ。」 「やった〜!!」 「アルベルトさん・・・・素直に喜んでいいっスか・・・・?」 「皆さん、ありがとうございました。これでこのリヴェテス劇場も当分安泰です。」 「あれっ、なんか騒がしいな?」 「ま、まさか・・・みんな怒って暴動を起こしてるとか?」 「はは・・・・ま、まさかなぁ・・・・・!?」 帰ってきたセイルとシェリルは、いやな予感を感じながら劇場の中に入っていった。 「あっ、セイルさん達が帰ってきたよ。」 「おっ、やっと主役の登場か。」 みんながセイルとシェリルの元に集まってくる。 「セイルくん、シェリルちゃん、お帰りなさい。」 「セイルさん、凄い演技だったね。あそこでシャドウが出てきたのって、アレフさんの演出だったんでしょ?  あれ、誰がやってたの?」 「セイル、なかなかやるじゃねぇか。まあ、俺には劣るがな。」 「えっ?お、おいアレフ、ど、どういうことだよ?」 予想外の反応に、セイルは驚き、アレフに事情を尋ねてみた。 「実はさあ・・・かくかくしかじか・・・・・・ってわけでさぁ。」     「み〜んな、マリアのおかげなんだから。」 「ま、待て・・・と、ということは・・・・・・ま、まさか!?」 今の話からすると、どうやらシェリルとキスしたことは、ここにいる全員が知っているということに・・・・・ もちろん、あれが演技でないと知っている者はごく少数であるが。 当然アレフは知っている方である。 「で・・・どうだった?シェリルの唇は・・・」 さっきからニヤニヤしていたアレフが、耳元でささやいた。 「ア、アレフ!?」 「う〜ん。」 ばたっ 「わ〜っ!シェリルが倒れた〜!!」 「ア、アレフ、絶対に言うんじゃないぞ!?」 セイルは耳まで真っ赤にしておろおろしている。 「何やってっるっスか?セイルさんは?」 「きっと、劇が成功して嬉しいのよ。」 「今度はボクもお姫様やりたいなぁ〜。」 「よ〜し、今日はこのまま祝賀パーティーだ!!」 「あれアルベルトさん、自警団の仕事は?」 今日もエンフィールドはいい天気である。 暖かな陽差しが、町に住むみんなを祝福するかのように包みこんでいた。

お・し・ま・い♪


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