「エリザベスだろ、それにレイナ、後は・・・・よし、20〜30個はかたいな。」 「ねぇねぇ、シェリルは誰にあげるの?」 「えっ、・・そ、それは・・・トリーシャちゃんこそ誰に?」 「う〜ん、ボクはお父さんと・・・後はないしょ♪」 「お嬢様も誰かに差し上げるのですか?」 「あっ、ジュディ。貴方も誰かにあげるの?」 「あれ、ご主人様。何かいい匂いがするっスね?」 「ふっふっふ・・・クリス君、待っててね〜。」 「どうかアリサさんから・・・・・貰えますように。どうか・・・」 突然だが、ここエンフィールドにもバレンタインというものが存在する。 もちろん、女の子がチョコレートともに好きな人に告白するという、 もてる男には天国、もてない男には地獄のようなイベントとして。 男はこの日、チョコレートの数に一喜一憂し、 女の子は、普段伝えられない胸の思いを、チョコレートの勇気の魔法によって思い人に伝えるのである。 今日は2月13日、 皆、明日の用意に心躍らせているのだった。 「ドカン!! モクモク・・・・・・」 「出来た〜!!」 どうやらこの少女も例外ではないらしい。 たった今出来たばかりの、少女の思いがいっぱい詰まったチョコレート(?)、 これが今回の事件の発端になるとは、神のみぞが知ることであった。 ♪♪♪ 日は変わって、今日は2月14日、いよいよバレンタインデー本番である。 「う〜ん、いい天気だなぁ。」 カイトは部屋の窓から空を見上げ大きく深呼吸をした。 彼は、ここジョートショップに住み込みで働いている青年である。顔は・・・まあ、女うけする方であろう。 「おっと、今日は・・・とっとと出かけなくちゃ。」 カイトは、着替えを済ませ、下へと降りていった。 「おはようございます、アリサさん。」 「おはよう、カイト君。あっ、そうだわ。 はい、これ。」 そういって差し出された手には、ラッピングされた可愛い包みが乗っていた。 「今日は、バレンタインデーだし、カイト君にはいつもお世話になってるから。」 「ありがとうございます、アリサさん。俺、ちょっと出かけてきます。」 「いってらっしゃい。」 早速1個目のチョコ(義理ではあったが)を手に入れ、カイトは上機嫌で出かけていった。 今日はマリアに呼ばれていたのである。 こんな日の呼び出しである、カイトは期待しながらマリアの元へ向かった。 「はい、これあげる。ここで食べてね。」 「サンキュー、早速いただくよ。」 予想通りチョコレートを手に入れ、カイトは包みを開けた。 (げげっ・・) 包みの中にはパステルカラーの奇妙な固まりが入っていた。 (こ、これは・・・チョコなのか?) 思わず冷や汗が流れる。 マリアはというと、先からドキドキしながらカイトが食べるのを待っている。 (こ、これは食べないわけにはいかない・・・それに案外味はいけるかも・・・) カイトは意を決して、チョコを一口食べた。 (♭♯♪ʼn▽◇●◎#★☆@!!) 「どう?」 その声にカイトは気を取り戻した。どうやらあっちの世界に行っていたらしい。 「う・・うまかったよ・・・・・・・」 実際はとてつもない味だったのだが、そんなことを口にするほどカイトは無神経ではなかった。 「それだけ?何か、こうグーッと来ない?」 「いや、ぜんぜん。なんで?」 「な、何でもないの。 おかしいなぁ・・・」 カイトは気になったが、これ以上ここにいて、また食べてくれと言われるのもいやだったので、早めに退散することにした。 「じゃあ、俺はこれで、残りは後で食べさせてもらうよ。ありがとな。」 そういってカイトはマリアの家を後にした。 「おかしいなぁ・・・・本の通りに作ったのに・・・・」 ♪♪♪ 「それにしても、凄い味だったなぁ、あのチョコ。いったい何入れたんだ?」 カイトはむかむかする胸を押さえながら、ジョートショップへの帰路を歩いていた。 「まだ早いし・・・どっか寄ってから帰るか。」 このまま帰るのもなんなんで、カイトはさくら亭に寄っていくことにした。 もちろんそこには、「誰か他の人からもチョコを・・・・」という思いがあったりするのだが・・ カランカラン・・・ 「あっ、いらっしゃ〜い。・・・なんだ、カイトか。」 店にはいると、この店の看板娘であるパティが出迎えてくれる。 「なんだ、はないだろ、客にむかって・・・」 カイトとパティ、お互い嫌いではないのだが、なぜかいつも喧嘩腰になってしまうという関係の二人である。 (なんか俺にはきつく当たるんだよなぁ・・・ったく。) 「はいはい、お客さんなら注文は?」 そういったパティと目が合う。 ドキッ! その時、カイトの心臓が跳ね上がった。 (あれ、今のは一体・・・そ、それにしても今日はなんかパティが可愛く見える・・・はっ、な、何を考えているんだ俺は。) カイトはこの感覚にすっかり混乱していた。 心臓は、早鐘のごとく鳴り、頬が染まっていくのが分かる。 「どうしたのよ、人の顔じーっと見て、さっさと注文言ってよね。」 気がつくと、パティがカイトの顔をのぞき込んでいた。 ドキドキドキ・・・ カイトの体温が3度ほど上昇した。 (お、俺は一体どうしちまったんだ・・・パティの顔がまともに見られないなんて・・も、もしかして俺はパティのことが・・・) カイトは、もう何がなんだか分からなくなっていた。 「パティ。」 「えっ?」 「好きだ。」 「はぁ、何言ってるのカイト?」 「突然こんなこと言って、信じてもらえないかもしれない。でも、どうやらお前のことが好きみたいなんだ。」 「ちょ、ちょっと。冗談はやめてよね。」 そういうパティの顔も真っ赤に染まっている。 「確かに、俺は君に嫌われてるのかもしれない。いつも喧嘩ばかりしてたから・・でも、この気持ちは本当なんだ。」 カイトには普段言えないような言葉が、すらすらと出てくる。 なぜこんな台詞が言えるのか? カイトにもすっかりわからなかった。 一方、突然愛の告白をされたパティは、耳まで真っ赤にしていた。 カイトのことは嫌いではない、どちらかといえば好きな方である。 そんなカイトから告白されたものだから、どう対処していいかわからないのである。 「あ、あのね・・・・私も・・・あ、あんたのこと嫌いじゃ・・・」 カランカラン・・・ パティが意を決して、そう言おうとして顔を上げたとき・・・ 目に映ったのは、さくら亭に入ってきたエルを口説いているカイトの姿であった。 「エル、結婚しよう!!!」 「はぁ?カイト、おまえ熱あるんじゃないか?」 「えっ?」 一瞬、何がなんだかわからなくなる。 その後に湧いてきたのは猛烈な怒りだった。 「カイト、あんた〜!!」 ♪♪♪ 「うう・・痛てて・・」 左の頬に大きな手形をつけながらカイトは歩いていた。 あの後、パティに平手打ちをくらい、さらにエルに投げ飛ばされたのである。 まあ、当然の結果といえば当然の結果であるが・・・ カイトはジョートショップへと続く道を歩いていた。 と、そこに、マリアがぶつぶつと呟きながら歩いてきた。 「ぶつぶつ・・・おかしいなぁ・・・効果がまだ出てないのかなぁ・・・・・・あっ、カイト。」 「よっ、マリアじゃないか。」 マリアはじーっとカイトの顔を見つめている。 「その顔・・・どうしたの?」 「えっ、これは・・・・・あははは・・・まあ、何でもいいだろ。」 「ふ〜ん、それよりさ、まだ、なんかこう変わったことない?」 「またそれか。一体チョコに何を入れたのかなぁ?」 カイトはそういいながらマリアの頭をぐりぐりした。 「痛たた・・・な、何も入れてないよぉ。」 「ホントかぁ?」 「ホントホント・・・だからぐりぐりするのやめてよ。」 カイトはマリアの頭から手を離した。 マリアは頭をさすっていた。 「あれ〜、カイトさん。 それにマリアも。 頭さすってどうしたの?」 向こうの方からトリーシャがやってきた。 「やあトリーシャ。」 「カイトが人のこといじめるんだよぉ。」 「ダメだよカイトさん、女の子いじめちゃ。」 「そんなんじゃないってば。そんなことより、散歩か?」 「ううん、今ジョートショップに行こうと思ってたんだ。そうだ、ちょうどよかった。」 そういってトリーシャは持っていた鞄からごそごそと何かを取り出した。 「はい、今日はバレンタインデーだし、チョコレート。一応ボクの手作りなんだよ。」 そういって、やや照れながらチョコレートを差し出した。 それを見ていたマリアは面白くないようで、ず〜っと、「ぶ〜」っとした顔をしている。 カイトが、チョコレートを受け取ろうとして手を伸ばしたとき、偶然二人の手が触れ合ってしまった。 ドキン!! またカイトの心臓が跳ね上がった。 (ま、またか・・・この胸の高鳴りは・・・・・・) ドキドキドキ・・・ 心臓は、まるで100メートル全力疾走したあとみたいに鼓動している。 (も、もう押さえられない。) 気がつくと、カイトはトリーシャを抱きしめていた。 「えっ、カ、カイトさん!?」 トリーシャはパニック状態である。 突然のことに顔を真っ赤にして、ただおろおろしている。 「ありがとうトリーシャ、俺嬉しいよ。それに、なんかお前を見てるとドキドキして・・・・突然こんなことして驚いたかもしれないけど・・」 そう言いながらカイトはトリーシャの顎を片手で持ち上げる。 「好きなんだ・・・お前が・・・」 (だ、だめだよカイトさん、ま、まだ早いって・・マリアちゃんも見てるし・・・も、もう少しムードを・・・な、何考えてるんだボク・・) トリーシャはもう完全に混乱状態だった。 そのまま、カイトの唇とトリーシャの唇が・・・・・ 「がつん!!!」 ・ ・ ・ 「う、う〜ん、ここは・・・痛てて・・・」 カイトが気がついたとき、すでに2人の姿はなく、代わりに頭に大きなたんこぶが出来ていた。 ♪♪♪ 「お嬢さん、愛してます。どうか海よりも深い貴方への思い、受け取ってください。」 「ごめんねおにいちゃん、ミルク、好きな人いるの。今日チョコレート渡すんだ。」 気絶したあともカイトの奇行は続いた。 さらに悪化したと言ってもいいだろう。 なぜなら、出会う女の子に片っ端からときめき、愛の告白をし続けているのである。 今も、エレイン橋の端で出会ったミルクちゃん(8才)に、熱烈なラブコールを送っていた。 「おい、カイト、なにやってんだ?」 「お嬢さん・・・その麗しい瞳が俺を・・・」 「人の話を聞けー!!」 「なんだ、アルベルトか。」 「貴様、とうとうそこまで堕ちたか。貴様のようなヤツとアリサさんが一緒に住んでるなんて、やっぱり許せん。」 アルベルト、アリサさんにチョコをもらえるかと期待してジョートショップに立ち寄ったら、 ちょうどアリサさんのチョコレートがなくなってしまっていたので、かなり機嫌が悪かった。 「幼女暴行で逮捕してやる!!」 「ただ口説いてただけじゃねーか!」 「それでも一緒だー!」 アルベルトはすっかり切れていた。チョコの恨みとはげに恐ろしきものである。 「なんだと、職権乱用で訴えて・・・・・」 そう言いながらアルベルトの必死(?)な顔を見たとき、 ドキッ!! (な、なんだ今のは・・・・ア、アルベルトは男だぞ・・お、俺には・・・断じてそんな趣味は・・) そうはいっても、心臓はドキドキしっぱなしである。 もう、カイトにも何がなんだか解らなくなってきた。 「なんだ、急に黙ったりして?」 「なあ、アルベルト・・・男同士で恋愛関係って成立すると思うか?」 突然、カイトが奇妙な質問をしてくる。 その後ろにはなぜかバラの花が満開で咲いていた。 「はあ?なんでそんなことを・・・・・ま、まさか・・・・」 「俺、どうやらお前のことが好きになったみたいだ。思えば、最初に捕まったときから、もう俺の心はお前に捕まっていたのかも・・」 「ぎゃあ〜!!お、俺にはアリサさんという心に決めた人が。」 「それでも構わない!アルベルト、俺の愛を受け取ってくれ〜!!」 そう言ってカイトはアルベルトにずずっとせまる。 「た、助けてくれ〜!!」 アルベルトは一目散に逃げ出した。 「待ってくれ、マイダーリン!!」 「死んでも待てるかぁ!!」 アルベルトとカイトの、世にも奇妙な鬼ごっこがはじまった。 ♪♪♪ 「ぜえぜえ・・・どうして俺の愛を受け取ってくれないんだー!!」 「はあはあ・・・どうしてもだー!!」 2人の愛(?)の鬼ごっこはまだ続いていた。 かれこれ、エンフィールドを2周ぐらいしただろうか。 なんにしても、2人とも凄い体力である。 「ぜえぜえ・・観念して俺と愛のメモリアルを・・・」 「ハアハア・・・いい加減に諦めろ・・・」 2人の鬼ごっこが3周目にさしかかろうとしたとき、 「ぶつぶつ・・・・何よ・・カイトのやつ・・・・ちゃんと効いてるはずなのに・・」 どかん!! 「きゃっ。」 「うわっ。」 カイトは、わき道から出てきたマリアとぶつかってしまった。 「痛った〜、あっ、カイト。」 「痛ててて、なんだ、マリアか・・・」 「ぶ〜、なんだとはなによ。」 「あっ、そうだ俺、こんなことしてる暇なかったんだ。」 そう言って、カイトは周りをきょろきょろ見渡す。 マリアの肩越しに、エレイン橋をわたって逃げているアルベルトが見えた。 「あっ、待ってくれ、アルー!!」 思わず叫んでしまう。その目はすっかり恋するものの目だった。 (むっ、よりによってアルベルトなんかを・・・・) マリアは爆発寸前だった。 「じゃ、俺行かなくちゃ。アルが俺を待ってるんだ。」 ぷちっ 「カイトの馬鹿ー!!!」 マリアの魔法がカイトに炸裂した。 「ぎゃ〜!!」 どっぽ〜ん!! どうやらカイトは川に落ちたらしい。 「ふんっ!」 マリアはすたすたと、その場を去っていった。 「はっ、はっくしょん!! なんで俺はこんなところにいるんだ?」 ♪♪♪ 「ただいま〜。」 「おかえりなさいっス。どうしたっすか、ずぶ濡れで?」 「気がついたら寒中水泳してたんだよ。う〜、寒〜。」 「ようカイト、見ろよ、今日は大漁だったぜ。」 声の方を振り向くと、テーブルいっぱいのチョコレートを見て、満足そうなアレフがいた。 「あいかわらずもてるな、アレフは。」 「カイトはどうだったんだよ?俺ほどじゃないにしても結構いっただろ。」 「それが・・・まだ3つだけ。アリサさんにマリアだろ、それと・・知らないうちにトリーシャからのチョコをもらってた。」 「『知らないうちに』って?」 「なんか、マリアにチョコをもらった辺りから記憶がないんだよ。気がついたら川の中だったし。」 「ふ〜ん。じゃあこれから貰ってこいよ。パティやシェリル辺りはくれるんじゃないかと思うよ、俺は。」 「そうかなぁ・・・ちょっと行って来るわ。」 そう言って、僅かばかりの期待を胸にさくら亭へと向かったのだが・・・・ 「あんた、最低ー。」 「カイトさん、酷い・・・」 「女の敵だね。」 チョコの代わりにたっぷりと身に覚えのない非難を浴びせられたのだった。 もちろん、チョコなど貰えるはずもない。 しかも、町中に、「カイトはロリコンらしいぞ。」、「いや、俺はホモだって聞いたが・・」などという噂まで流れていた。 アルベルトはなぜかカイトの顔を見たとたんに逃げ出すし・・・ 「俺が何をしたっていうんだ〜!!」 ♪♪♪ 「え〜!!チョコに魔法を〜!!」 「う、うん、偶然古本屋で魔導書みつけて・・・つい。」 日は変わって、翌日、魔法学園の中庭でトリーシャとマリアが昼御飯片手に話をしていた。 「で、なんの魔法をかけたの?」 「そ、それは・・・・そ、そう、げ、元気が出る魔法っ。」 マリアははしどろもどろになりながら答えた。 まさか、「『惚れ薬』を入れた」とは口が裂けても言えない。 「じゃあ、あの日のカイトさんの変な行動は・・・」 「ははは・・マリアのチョコのせい・・・かなぁ。」 「カイトさん、相当落ち込んでたよ。」 「だから・・・どうしたらいいかと思って相談してるんじゃない。」 「やっぱり素直に謝るしか・・・・」 「だめっ、そんなことしたらあいつに・・」 マリアは顔を真っ赤にしながら反対した。 「??、じゃあ、それとなくみんなの誤解を解いておくとか。」 「それが一番かなぁ・・・」 (それにしても・・・・成功したと思ったのになぁ・・・・マリアにだけ効果無しなんて失礼しちゃう・・・) マリアは空を見ながらそんなことを考えていた。 もちろん、答えがでるわけもなかったが。 「やっぱりチョコに変なもの入れるのはよしたほうがいいんじゃない?」 「そうかなぁ・・・・来年は普通のにしようっと。」 二月とはいえ、晴れ渡った空は、温かい光を燦々と降らしていた。 次の日、なぜかみんなからチョコが貰えて、カイトがご機嫌だったのはまた別の話。 ♪♪♪ 「『これで彼のハートをがっちりキャッチ』の魔法」 もてない魔法使いによって作られた、効果覿面の惚れ薬を作る魔法。 ただし、魔法を込めた本人に対しては惚れてくれないという致命的欠陥を持つ(笑)。
お・し・ま・い♪
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