○月×日PM8:03 真人は跳んだ。 トップスピードに乗った勢いそのままに。 ごす!!! 堅い地面とは違う感触、たが『それ』は十分に真人の体重を支えてくれる。 『それ』を蹴ってさらに跳躍。 着地した後も速度をそのままに駆けていく。 まるで障害物などなかったかのような自然な動きで。 真人は一度も後ろを振り返らずに駆けていった。 (・・・なんだったんだ?今のは。) その場には、真人に踏みつけられた「障害物」、 顔にくっきりと靴跡をつけられたカイルが倒れているのみであった。 ○月×日AM7:30 「あ、あのさ、その・・・う、うまいって評判の店があるって聞いたんだけど、 今晩一緒に行かないか?」 ここは城塞都市ジン、その中にある宿屋のひとつである。 いま、そこで一人の青年が勇気を振り絞っている最中であった。 やっとのことで声を絞り出した真人。 たったこれだけのことを言うのに、胸がドキドキするのは、 彼女への気持ちに気がついたからだろうか。 「ええ、いいですよ。じゃあカレンさんやリラさんにも・・」 「そ、そうじゃなくて、2人だけで・・」 さらにドキドキが高まる。 「えっ、そ、それって・・・・・」 彼女も真人の言わんとしている事に気づいたのだろう。頬がわずかに染まる。 気まずい沈黙。 「だ、だめかな・・・」 恐る恐る沈黙を破ったその声に、 「あ、あの・・・・よろこんで。」 彼女、ティナ・ハーヴェルは照れながら返事を返した。 「ふぁーぁ、おはよー。」 ちょうどそのとき、2階からリラが降りてきた。 話を聞かれていたわけではない、と思う。 でも何か恥ずかしくなってお互いに逆の方向を向いてしまう2人。 「・・・・2人ともどうかしたの?」 そんな2人の様子に気づいたのだろう、リラが尋ねてくる。 「い、いや何でもないよ。」 「そ、そうです、何でもありませんよ。」 「なによ、気になるわね。教えなさいよ。」 「だから何でもないんだって。」 どう見ても「何でもない」ようには見えなかったのだが、 「ほんとに?まあいいわ。それよりも朝御飯は、と。」 リラは何故かあっさり引き下がってくれた。 「(ほっ、じゃあ6時に街の中央の噴水の前で。)」 「(はい。楽しみにしてますね。)」 ○月×日PM2:00 「ふ〜ん、ティナちゃんにねぇ。 やっと真人君も告白する気になったか。お姉さん嬉しいわ★」 昼も過ぎ、お客もまばらになった喫茶店。 午後のうららかな空気の中で、思い思いに談笑している恋人達が多い。 その中に、真人とカレンの姿があった。 周りと同じようにお茶を楽しみながらの談笑。 2人の間にあるテーブルの上では、紅茶がまだ暖かな湯気を立ちのぼらせている。 ただし、「恋人同士」というよりは「姉と弟」のような雰囲気の2人であったが。 「だ、だからそんなんじゃないって。ただもうそろそろこの旅も終わりそうだし、 今までの感謝を込めて・・・だから、その・・」 なんとか言い訳しようとする真人であったが、 「ティナちゃんだけに?私達には感謝してくれないのかしら?お姉さん悲しい・・くすん」 「うっ。」 カレンにはすっかりお見通しらしい。さらっと切り返されてしまう。 「ああ、どうせ私なんかどうでもいいのよね。真人君って冷たい。」 「・・・・・・・・まいったからやめて。」 ぐったりとうなだれる真人。 それを見てカレンは満足そうに微笑んだ。 「わかればよろしい。それで?私に用ってのは? だめよ、告白はきちんと自分の口でしなくちゃ。やっぱりそういうことは・・・」 「人の話を聞けぃ。俺が聞きたいのは、その、なんだ・・・ どんなプレゼントをあげたらいいのかな、と。」 「プレゼントと同時に告白?なかなか隅に置けないわね-。」 「だから違・・・・・わないんだけど。まあ。それで・・・」 恥ずかしいのか、どんどん声のトーンが落ちていく真人であった。 「わかったわかった。ここはひとつおねーさんに任せなさい。 ばっちりのプレゼントを選んであげるから。大船に乗った気持ちでいていいわよ。うふふ。」 (・・・・なんか泥舟に乗ったような気がするよ。) カレンに相談した事をちょと後悔した真人であった。 ○月×日PM2:15 「ね、ねえ聞いた?アイリス。真人のやつ、あの貧血娘にプレゼントだって。」 「ええ、微笑ましくていいですね。」 真人が喫茶店でカレンに相談しているころ、それを聞いていた2人の影があった。 レミットとアイリスである。 偶然、同じ喫茶店で絵お茶を飲んでいたら真人達の会話が聞こえてきたと言うわけである。 「決めたわアイリス。邪魔するわよっ!!」 「ひ、姫様、それはまずいですよ。いくら姫様が真人さんの事を好きだからって・・」 「ばばばばばば馬鹿なこと言わないでよねっ。 あたしはあんなやつの事な、なんとも思ってないんだから。 そ、そうティナをあいつの毒牙から救うためよ。全然そんなんじゃないんだからねっ。」 実にわかりやすい反応を示すレミットであった。 「とにかくやるわよ。」 「で、でも・・・」 「やるといったらやるの、いいわねっ。見てなさいよ・・・・・」 こうなったときにレミットは誰にも止められない。 (真人さんすいませんすいませんごめんなさいごめんさない・・・) アイリスは心の中でひたすら真人に謝るのだった。 ○月×日PM2:30 「で?これがぴったりのプレゼント?」 「そうよ。きっと喜ぶこと間違いなし。」 喫茶店を出た後、カレンが向かったのは、喫茶店からそう離れたところにない洋品店であった。 広い店内の中は、女の子であふれんばかり、 カレンが一緒じゃなかったら、とてもじゃないが入れなかった事はいうまでもない。 「指輪ねぇ・・・・・・0が1.2.3・・・げっ、20万G!? ちょ、ちょっとカレン、これは高すぎ・・・・・」 そのあまりにも高い価格にひるみ、カレンの方を振り向いた真人だったが、 「そう。告白と同時にそっと彼女の左手の薬指にはめるの。 いい、ちゃんと左手にはめるのよ。そしてプロポーズの言葉は・・・」 「おーい、カレンさ−ん。プロポーズって一体…」 「ティナちゃんどんな反応するかしらね−。楽しみだわ。うふふ。」 「・・・・・聞いちゃいねぇ。」 すっかり自分の世界に浸っているカレンを放っておいて、 真人は他の商品を見て回ることにした。 「いろいろあるんだなぁ・・・・・・・・・・んっ?」 所狭しと並べられた商品のなかで、それはあった。 真っ赤なルージュの口紅。 その吸込まれるような深い色はまるで・・・ (・・・・・あいつ・・・・) 「どうしたの?ボーっとしちゃって。」 「わぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 突然後ろからかけられた声に、思わず大きな声を出してしまう真人。 声の主はカレンだった。どうやら考え事をしていたので気づかなかったらしい。 「そんなにびっくりしなくてもいいじゃない。 あら?口紅?それも良いわね-。 でも、ティナちゃんにだったらもう少し明るい色が良いんじゃない? それともお姉さんにくれるのかしら?」 「違うってば。ただちょっと目にとまっただけだよ。」 「ふーん、じゃあ次は向こうの方を見に行きましょうか。いいウェディングドレスがあったのよ-。」 「されはなにか違うだろっ!!」 「いいからいいから。さあ、行くわよ真人君。」 叫びも虚しく、ウェディングドレスコーナーへずるずると引きずられていく真人だった。 ○月×日PM5:00 「ふう、何とかプレゼントも買えたな。」 やっとティナへのプレゼントを購入できた真人とカレンは、昼と同じ喫茶店で一服していた。 「真人君、プレゼントひとつ買うのに時間かかりすぎよ。」 カレンがあきれたように言う。 まあそれも仕方がない、 あの後真人は2時間以上もプレゼントを決めるのに悩んでいたのだ。 周りでは夕飯の買い物をしている沢山の人影がみえる。 「女の子にプレゼントなんかしたことないんだから、悩んだってしょうがないだろ。」 「だから私が色々と選んであげたんじゃない。それを全部無視するんだもの。」 「あのねー、カレンが選ぶのって指輪だのウェディングドレスだのってそんなんばっかりじゃないか。」 「ティナちゃん喜ぶと思うけどね-。」 さらっとそんなことを言うカレン。 「そうだったら嬉しいけどさぁ・・・・いきなりそれってなにか違うぞ。」 「で、結局イヤリングだっけ。まあ妥当な線だと思うわよ。」 真人の言葉など意に介さず、話を続けるカレン。 「自分で付けてあげるのがいいわね-。そうやってさり気なく2人の距離を縮めて・・・」 「いや、そういう展開は考えてくれなくていいから。」 「あら残念。ところで、さっき『ちょっと待ってて』とか言って売り場に戻ってたけどどうしたの?」 「べ、別に何でもないよ。さ、そろそろ俺行かなくちゃ・・・・」 まるで逃げるかように店を出る真人。 残されたカレンは・・・・・ 「さ〜て、ここからが面白いところよね-。ふっふっふ・・・・」 やたら怪しい笑いを浮かべるのであった。 ○月×日PM5:00 「ん、あの娘は・…」 カイルはそこに見知った影を見かけた。 確か真人の仲間の娘である、名前をティナとか言ったか。 ティナは噴水の前に立って雑踏を見つめている。誰かを待っているのだろうか。 「まあ、俺様には関係のない話だな。」 カイルはその場を後にし、雑踏の中へもぐりこんでいった。 ○月×日PM5:30 「確かあの角を右に曲がって次の角を左に・・・・・いや、右だったかなぁ?」 プレゼント片手に裏通路地を歩く真人。人通りが多かったので 人通りのない横道にそれたのがいけなかったのだろうか、 すっかり道に迷ってしまった。 「早くしないと間にあわな・・・」 ちゅっどーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 「どわぁぁぁ!!!!」 いきなりの爆発に豪快に吹き飛ばされる真人。 「なんだなんだ?過激派のテロか!?それとも不発弾か?」 手の中に残るプレゼントの感触にほっと安堵し、 それを抱く手にさらに力を込めた真人の耳に 「いいざまねっ、ばか真人。」 と、聞き慣れた声が聞こえてきた。 「その声はレミットだな。まったく、何処にいるんだ!?」 「あたしならここよっ。」 その声の方向を振り向くと、向かいの家の屋根の上に立つレミットと、 その横で申し訳なさそうにしているアイリスの姿があった。 「・・・・・・危ないから降りてこーい。」 「こ、子供扱いしないでよねっ。こんなところ、ぜ、全然平気なんだから。」 その割には声が震えているレミットであった。 「真人さん、姫様のせいですいません。」 「いや、アイリスさんが謝らないでくださいよ。」 「でも、私が姫様を止めていれば・・」 「アイリスさんのせいじゃないですよ。ところで、ここ何処だかわかります? 噴水前まで行きたいんですけど。」 「ああ、それでしたら・・・」 ちゅどーん!!!!!!!!!! レミットの手から放たれた光が真人を直撃する。 「・・・・ごほごほっ、なにするんだレミット。」 「ふん。あたしのことを無視するからよっ!!」 「俺、これから用があるんだ。また今度遊んでやるから、じゃぁな。」 時計に目をやり、先に進もうとする真人。 が、 「あっ、そこ・・・」 「えっ?」 かちっ ちゅどーん!!!!! 真人の足下で爆発が起こった。 「ごほごほ・・・・な、何なんだいったい?」 「言い忘れてたけど、ここから噴水の前まで罠がたくさん張ってあるから。」 さらっと物騒なことを言うレミット。 「張るなぁぁ!そんなに俺の邪魔をして楽しいか?」 「だっていつでも邪魔しに来いって言ったのは真人でしょ。ベーだ。」 「時と場合を考えろぉ!!!! それに、他の人が巻き添え食ったらどうするつもりだ。」 「真人にしか反応しないって言ってたから大丈夫よ。」 「誰が?」 「メイヤー。」 ちゅっどーん!!!!!!!!!!!!! 遥か遠くのほうで爆発音が・…ここからでも立ち上る煙が見える。 「・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・」 2人の間に気まずい沈黙が流れる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃ、じゃあせいぜいがんばってね。」 アイリスを連れて屋根の反対側へと消えていくレミット。 「ちょっと待て−!!!!!!」 その真人の叫びに答えるものは誰もいなかった ○月×日PM7:15 (まだ待っているのか?) カイルは再び噴水の見える場所に来ていた。 まあ、当ても無く街をぶらついていたら同じところに来てしまっただけなのだが。 時間が変われば景色も変わる。 ただ、吹き上げられる水と、その傍で人を待つティナの姿だけは先ほどと変わっていなかった。 「おい。さっきから誰を待っているんだ?」 その姿になにを感じたのかはわからないが、ついティナに声をかけてしまった。 「えっ???あ・・・・カイルさん。」 「さっき来たときにも見かけたんでな。一体どれだけ待っているんだ?」 「くすっ、私のこと心配してくれてるんですか?」 「た、ただ気になっただけだ。(ちっ、俺様らしくない)」 「真人さんと待ち合わせしてるんです。食事に行こうって。」 とても嬉しそうに話すティナ。 「でも・・・6時に待ち合わせだったんですけど・・さっきからなにか爆発音が響いてるし、 なにかあったんでしょうか?」 先ほどとはかわって心配そうなティナの顔を見ながら、 カイルはしばらく前に見た光景の事を思い出していた。 (確か真人は・・・・カレンとか言う女と喫茶店で談笑していたような・… はっ!!!!!ま、まさかあいつ・・・・二股!? なんて羨ま・…もとい許せんやつだ。) 「カイルさん?どうかしたんですか??」 黙って拳を振るわせるカイルに、ティナが疑問の声を投げかける。 「おのれぇぇぇぇぇ!!!真人めぇぇぇ!!!」 その疑問には答えず、カイルは叫びながらいずこかへと走り去っていった。 「か、カイルさん・…・・・・・?」 ティナはただ呆然と立ち尽くすのだった。 ○月×日PM7:30 ちゅどーん!!! 「うわぁ!!!また地雷かぁ!!」 ずぼっ!! 「うぐっ、今度は落とし穴。」 どっかーん!!! 「またかぁぁ!!一体幾つ仕掛けたんだぁ!!」 真人はここまで、律儀にも全ての罠に引っ掛かりながらきていた。 とことん運のない男である。 でも、それでいてプレゼントの包みが無事なのは、 よっぽど運がいいということなのだろうか。 ただ、もうすっかり日は落ちてしまっていたが。 ○月×日PM8:01 「ティナのやつ、怒ってるだろうなぁ。まさかもう帰ってたりして…とほほ。」 がっくりと肩を落とす真人。 ただ、どうやら彼の苦難も一区切りついたようである。 「おっ?ここは・・・」 真人の目の前が大きく開けた。どうやら路地を出たらしい。 しかも、ここは真人が知っている大通り、噴水前まではもう目と鼻の先である。 「よしっ!やっとここまで来たぞ。後はただ急ぐのみっ!!」 最後のラストスパートをかけるべく、走り出した真人の耳に、 またもよく聞きなれた声が聞こえてきた。 「待っていたぞ!!!真人、貴様のようなやつにはこの俺様が引導を渡してくれるわ!!」 ○月×日PM8:02 「真人。貴様ティナだけではあきたらず、他の女にまで手を出すとは言語道断っ!! 我がライバルとして恥を知れ!!」 突然真人の進行方向に現れた影はカイルだった。 何か言っているようだが、真人の耳には入っていないようである。 このとき彼の頭の中には、「噴水前に行く」ことしかなかった。 「ちょ、ちょっと待て、お、俺様の話をだな・・」 猛然と走って来る真人の様子に、思わずたじろぐカイル。 何とか止めようと話しかけるのだが、 真人の勢いはまったく止まらない。 そして・・・・・ ごすっ。 真人の蹴りを見事に顔面にくらい、 カイルの意識は遠のいていくのだった。合掌。 ○月×日PM8:10 「真人さん、遅いなぁ。・・・」 ティナは噴水の傍にある時計を見て呟いた。 もう8時を回っている。約束の時間を2時間も過ぎていた。 周りの人影も、もうまばらになっている。 「もしかしてなにかったんじゃ…探しに行ってみようかしら…でもその間に来たら…」 さっきからずっと同じことを考えて、結局その場から動けないでいた。 「もう・・・・・・早くこないと帰っちゃいますよ。」 「それは・・はあはあ・・ちょっと困る・・・ぜえぜえ・・」 「えっ?」 自分の独り言に返事があるとは思わなかったのだろう。 驚いてその声の方を振りかえると、肩で息をしている真人がいた。 ところどころ服もぼろぼろになっている。 「ご、ごめん・・・・ぜえぜえ・・・待たせた…もしかして怒ってる??」 黙って真人の方をじっと見つめるティナの様子に、恐る恐る尋ねる真人。 「当然です。ずっと待ってたんですから。」 「や、やっぱり。・・・・・・ほ、ほんとにごめん。」 「でも・・・・・・・・ちゃんと来てくれたから許してあげます。 それに、ここまで来るのにとっても一生懸命だったみたいですし。」 「ティナ・…そ、そうだ。これ。」 そう言って真人は今まで大切に守ってきた包みを差し出した。 「今までの旅での感謝の気持ち、って言うか・・その・・」 「『感謝の気持ち』なんですか?」 「い、いや、ほんとは告白するのに手ぶらじゃ・…あ、と、とにかくティナに受け取って欲しくて…」 「真人さん…嬉しいです。開けてみてもいいですか?」 「う、うん。」 綺麗にラッピングされた包みの中から出てきたのは、可愛らしいイヤリング、 そしてルージュの口紅という、対照的な組み合わせの2品だった。 「2つとも私に・・ですか?」 「その・・・口紅はもう一人のティナへのプレゼント・・なのかな。 でももう一人のティナもティナだからこれは2つともティナへのプレゼント… 良く考えたら彼女もティナで、その、どっちかを否定するんじゃなくて・・・俺は全部ひっくるめてティナの事が好きなわけだし・・・とか考えてたら・・・もう彼女はいないかもしれないけど・・・ ああ、なに言ってんだ俺は。」 思っていたことが伝えられずしどろもどろになってしまう真人。 そんな様子を見てティナはくすっと笑った。 「とにかく、両方とも私への、ですよね。」 「あ、ああ。」 「せっかくだから今つけてみていいですか?」 「も、もちろん。」 ティナは満足そうに頷くと、口紅のキャップを開け、口紅を塗った。 そして・・・・ 「!!!」 気づいたときには真人の唇はティナの唇によってふさがれていた。 長く長く感じる時間が過ぎ… 2人の唇が離れるその瞬間。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがと」 ぶっきらぼうで、また照れたような声でそう聞こえたような気がした。 「えっ?」 「どうかしました?真人さん。」 ティナは何事も無かったような顔で聞いてくる。 「い、いや・・・・・・ティ、ティナも結構大胆なことをするなぁ…と」 「えっ・・・・・・・・ま、真人さんの馬鹿。」 急に恥ずかしくなって黙ってしまう2人。 「・・・・ちょっと、押さないでよ・・・・・」 「だってこっちじゃよく見えな・…」 沈黙のせいか、どこからとなく別の話し声が聞こえる。 「・・・なに話してるのか聞きたいわね-…」 「・・・・・・だから押さないでって・・あ、やばっ。」 どさどさっ。 そんな音と共に噴水の影から出てきたのは・・ 「か、カレン!?」 「それにリラさんまで・・・・・」 「き、奇遇ね、こんなところで会うなんて。」 「そ、そう、ほんと凄い偶然よね。ははは。」 気まずさのせいか、リラとカレンの声はどこか上ずっていた。 よく見れば額に一筋の汗が・…。 「2人とも・・・・もしかして覗いてたな?」 「いや、だってほら、お姉さんとしてはあの後どうなったか気になるじゃない。」 「あ、あたしはあんた達の朝の様子がおかしかったから…」 「それでずっと覗いてたんですね。」 ティナが2人をきっと睨む。 肩が震えているのは、相当怒ってるということなのだろうか。 「うっ、ティナちゃん怖い…」 「ず、ずっとじゃないわよ。真人が来たあたりからしか見てな…やばっ。」 「ば、ばかっ!・・・ははは・・・・ゆ、夕飯あたし達がおごるってことで許して、ねっ。」 「許せませんっ!」 「リ、リラちゃん、逃げるわよっ!!」 「わかったわ!!」 ティナの怒鳴り声を合図に、脱兎のごとく逃げ出す2人。 「待ちなさーい!!!今日は許しませんからね!!」 そしてそれを追いかけるティナ。夜の鬼ごっこの始まりである。 「・・・・・は〜、これじゃまともに告白できるのはいつになることやら。」 1人取り残された真人は、深くため息をつくのだった。 ちなみに、この後カレンとリラが、 ティナにこっぴどく叱られたことはいうまでもない。 お・し・ま・い♪
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