「とらぶる☆鼠狂想曲」

 
   

「はあはあはあ・・・・」 彼は走っていた。それも必死の形相で。 時々後ろを振り返りながら疾走する。 どうやら、彼は何者からから逃げているらしい。 「ハアハア、ぜいぜい・・・・・」 息も絶え絶えになってきたが、止まるわけにはいかない。 もう、追っ手はすぐ近くまできているかもしれないのだ。 彼は走った、ただひたすら追っ手から逃れることを望んで。 だが、その望みも虚しく、逃亡劇は突然の終わりを告げた。 「ハアハア・・・し、しま・・・った・・ぜいぜい・・・」 そう、彼の前には遙か天へと続く絶壁がそびえ立っていた。 どうやら行き止まりのようだ。 「ハアハア・・・ど、どうする・・・ぜいぜい・・・早くしないと・・・・が・・・来てしまう。」 彼が悩んでいたとき、 「がたっ」 彼の後ろの方で物音がした。 「ま、まさか・・もう・・・・?」 彼が恐る恐る後ろを見ると、そこには巨大な人影が・・・・ 「う、うわ〜!!!」 「ふっふっふ・・みぃ〜つけたぁ〜。」 「なんで俺がこんな目に〜!!」                ♪♪♪ 話はしばらく前にさかのぼる。 ジョートショップでは、アリサさんと黒いフードをかぶった老人が話をしていた。 「はい、お引き受けしますわ、そのお仕事。」 「それはありがたい、では、よろしくお願いします。」 そういって老人はジョートショップをあとにした。 話の内容からすると、どうやら仕事の依頼らしい。 ここジョートショップは、このエンフィールドでも有名な「何でも屋」なのである。 と、その時、黒服の男と入れ替わりにザード達が帰ってきた。 ザードは、ここ、ジョートショップに住み込みで働いてる青年である。 「ただいま〜。あれ、アリサさん、今のいかにも怪しげなじいさんはいったい?」 「お帰りなさいザード君。ダメよ、そんなこと言っては。」 アリサさんは優しく諭した。この人はいつでも笑顔を絶やさない。 「すいません。で、誰なんです?」 「マリアも知りた〜い。」 「めろでぃも〜。」 ザードと一緒にジョートショップで働いているマリア、メロディも口をそろえて言う。 どうやら、みんな気になっているようだ。 「あの方は『魔術師組合』の導師さまよ。お仕事を頼みに来たの。」 「もしかしてこれからですか・・・」 もう時間は遅い、日は落ちて夜の帳が降りようとしている。しかも、彼らは一仕事してきたあとなのだ。 「ごめんなさいね、でも、夜の方がやりやすいんですって。」 「なんの仕事ですか?」 「最近ねずみが増えたんで退治して欲しいんですって。」 『ねずみ退治』ときいて、マリアが口を尖らせた。 「ぶ〜、マリアねずみ嫌い〜。」 「めろでぃもうつかれたですぅ〜。」 メロディもあまり乗り気ではないようだ。 「ほらほら、2人とも、アリサさんを困らせないの。」 もう1人、ザードの仕事仲間であるリサが2人をなだめた。 「あそこにはいつも世話になってるし・・・しょうがないな。 じゃあ行ってきますアリサさん。」 こういったものの、実はザードもあまり乗り気ではなかった。 疲れてるせいもあったが、何か嫌な予感がしたからである。 「行ってらっしゃい。特製のピザを作って待ってるわね。」 こうして、アリサさんの笑顔に見送られて4人は「魔術師組合」へと足を運ぶことになった。 その後、しばらくして、ザードの嫌な予感は現実のものとなるのだった。           ♪♪♪ 魔術師組合に着いた4人、早速仕事に取りかかることになった。 導師の話によると、最近なぜかねずみが増え、ねずみによって魔道書が食いちぎられたり、部屋の中がめちゃくちゃにされてるらしい。 何度追っ払ってもきりがないので、原因を突き止めてもらおうというわけだ。 「じゃあ、俺はマリアと一緒にこっちから調べるから、メロディとリサはあっちの方から調べていってくれ。」 「わかったよ、ぼうや。」 「わかったです〜」 こうして、2手に分かれて調査をすることになった。 「ねえねえ、最初はどこから調べるの?」 「そうだなぁ・・・片っ端から調べてくか。」 そういって2人が入ったのは薬の保管庫だった。 「わ〜、魔法の薬がたくさんある。」 「当たり前だろ、保管庫なんだから。そうそう、絶対にどれか持って帰ろうとするなよ。」 「えっ・・・・や、やだなぁ・・わたしがそんなことするわけ・・」 ザードは黙ってマリアの服ポケットを見つめる。そこは不自然に膨らんでいた。 「あ、あははは・・・」 「ほら、とっとと仕事仕事、早く帰りたいんだから。」 「ぶ〜、1個ぐらいいいじゃない。」 「だ〜め。」 2人はその部屋を調べてみたが、原因らしきものは発見できず、また、ねずみの姿すら発見できなかった。 「この部屋にはなんもないようだな。そろそろ他の部屋を・・」 2人がこの部屋を出ようとしたとき、マリアの頭に何かが降ってきた。 「やだ〜、何か降ってきた〜。なにかなぁ?」 マリアは頭にのっかってるものを取って・・・ 「¢&@§☆★◆●♯♪」 声にならない悲鳴を上げた。 「ね、ねずみ〜。やだ〜!!」 マリアはそっこうでねずみを投げ捨て、魔法を唱えた。 「どっか行っちゃえ〜! カーマイン・」 「ば、ばか、こんな所で魔法を使うなー!」 ザードの制止も聞こえてはいないようだ、ただ、目の前の嫌いなものしか見えてないらしい。 「カーマイン・スプレッド!!」 マリアの前に、いくつかの火球が集まり、ねずみめがけて飛んでいく。 どっか〜ん!!! 「げ、げほげほ・・・こんなところで魔法使えばこうなるに決まってるだろ・・」 部屋の中は黒い煙が黙々と漂っていた。どうやら、マリアの出した火によって、薬品のいくつかが爆発したらしい。 部屋が吹き飛ばなかったのは奇跡的であると言えよう。 「マリア〜、大丈夫か〜。」 返事はない、ザードはマリアを捜すことにした。 部屋の中を歩き回ってみたのだが、マリアの姿は見つからない。 「変だなあ、マリアのやつどこに行ったんだ?それに・・この部屋こんなに広くなかったような・・・痛てっ、なんだこの壁?」 どこか違和感を感じながら、ザードはマリアを捜した。 なにか体の感覚もおかしくなってるようだ。 しばらく歩いていると、ようやく煙りも晴れてきて、周りの様子も分かるようになってきた。 「なんだこりゃ〜!!」 壁においてあった姿見に映った自分の姿を見て、ザードはやっと異変に気が付いた。 なんと、自分がねずみになっているのだ。先の爆発によるものであろうか? ちなみに、さっき当たった壁はマリアの足であった。 「くそ〜、なんで俺だけこんなめに・・・とにかくマリアを起こさなくっちゃ。よいしょっと。」 ザードはマリアの体によじ登り、顔の所まで行くことにした。 「マリアのやつ、結構胸あるなぁ・・・」 不謹慎なことを考えながらもマリアの顔に到着した。 「お〜い、マリア〜、大丈夫か〜?」 頬を小さな手でぺしぺしと叩きながらマリアに呼びかける。 「う、う〜ん・・・・」 「おっ、マリア、起きたか?」 「う〜ん、だれぇ・・ザード?」 マリアが目を覚ます、そしてザードの姿を見たとたん、また気絶した。 「きゃぁ〜、ねずみ〜!!  ばたっ。」 「おいこら、マリア、どうした?   あっ、しまった、マリアはねずみが苦手だったっけ・・。」 もう一度マリアを見てみる。すっかり気絶してるようだ。まあ無理もないが。 「困ったなぁ、マリアはこんなんだし、これからどうしたもんかなぁ?」 ザードが悩んでいると・・・・・ 「こっちへ来い来い、こっちへ来い来い・・・・」 謎の声が聞こえてきた。        ♪♪♪♪           「こっちへ来い来い、こっちへ来い来い・・・・」 ザードには確かにそう聞こえたような気がした。 一体何が彼を呼んでいるのだろう? ザードは気になってしょうがなかった。 本来なら、元の姿に戻る方法を探すのが先決なのだが、なぜかその声にはあがらいがたく、 ザードはその声のする方にテケテケと歩いていった。 「こんなところに通り道があったのか・・」 壁には、小さな穴が空いていた。ねずみがやっと通れる様な穴である。 「ここは一体どこに続いてるんだ・・・?」 「こっちへ来い来い、こっちへ来い来い・・・・」 謎の声はどんどん強くなってくる。 その方向に進んでいくと、大きな部屋にでた。しかもそこには・・・・・ 「ふ〜、やっと部屋にでたみたいだ、それにしてもここは・・・・うわぁ!」 ザードが驚いたのも無理はない、その部屋には山のようにねずみが群がっていたのだから。 「こ、これは一体・・・?」 もう少しよく見てみると、ねずみ達は中央にある何かに群がっているらしい。 どうやら、かなり長い棒のようだ。ねずみの身なので、それが何かまでは確認できないが。 「こっちへ来い来い、こっちへ来い来い・・・・」 謎の声もその辺りから出ているようだ。 「もしかして、これが原因か?」 ザードはその声の誘惑に耐えながら、仲間を呼びに向かった。 しかし、それがさらなる悪夢の始まりであった。          ♪♪♪♪ 「みんなどこにいるんだ?マリアはまだ気絶してるし・・・まあ、起きててもあれじゃ役に立たないけど・・」 ザードはしょうがなく他の部屋も探すことにした。 「おーい、メロディ〜、リサ〜。」 いつもならなんでもない距離がかなり長く感じる。 ザードは疲れながらも2人を探し回った。 「あっ、メロディ。」 やっとこさメロディを発見することが出来た。 「お〜い、メロディ〜。」 叫びつつ、ぴょんぴょん跳ぶことによって自分の存在をアピールする。 「はにゃ、ねずみさんです〜。」 どうやら気が付いてくれたようだ。 「メロディ、ねずみ騒動の原因を見つけ・・・」 「ねずみさん、なにがいいたいんですか〜?めろでぃ、わかんないです〜」 (げげっ、言葉が通じないのか、しょうがない、こうなったらジェスチャーで。) ザードは、身振り手振りも混ぜながら必死に伝えようとした。その様子はかなり滑稽で、 「ははは、ねずみさん、おもしろいです〜」 メロディは喜んでねずみのダンス(?)を見ていた。 「はあはあ、ち、ちっとも伝わらない・・ぜえぜえ・・」 ザードはかなり疲れてきたが、それでもなんとか伝えようとジェスチャーを続けた。 そうこうしていると・・・・ 「ばんっっ!!」 「うわっ!」 突然メロディの手が振り下ろされた。危ういところでそれを避ける。 「危ないじゃないか、どうしたんだよメロディ?」 ザードが身振りをやめてメロディの方を見ると・・・ 「ふっふっふ・・・・よくかわしましたね〜・・・でも〜・・・にがしませんよ〜。」 「あの〜、何を言ってるのかな〜メロディ?」 「ふっふっふ・・えもの・・めろでぃの〜・・」 「も、もしかして・・・・・」 ザードがそーっとメロディの目をうかがう。 その目は獲物を狙う猫の目であった。 どうやら、目の前でねずみがぴょんぴょん跳んでいる光景に刺激されたらしい。 「ふみゃあ、おとなしくめろでぃにたおされるです〜。」 「ま、待てメロディ、話せばわか・・・・」 ばし〜ん!! 「・・・・りそうにないぃぃ!!」 ザードはこれ以上ないというスピードできびすを返し、一目散に逃げ出した。 「あっ、まつです〜、めろでぃのえもの〜」 「待てるかぁぁ!!」 今のメロディにはねずみとなったザードしか見えてないようで、辺りの物など気にせず一直線に追ってくる。 メロディが通ったあとはもうめちゃくちゃであった。 「ガシャ〜ン!!、バリーン!」 (ああ・・・後始末が・・もし、弁償なんて事になったら・・・) 後ろの様子が気になるザードではあったが、今は振り返るわけには行かない。 捕まったら一巻の終わりなのである。 ザードは、ただ、必死に走るのみだった。 こうして、現在に至るのである。            ♪♪♪ 「もうにげられないです〜。」 ザードは壁際に追いつめられていた。 「ふみゃ〜!!」 「おわぁ!」 飛びかかってきたメロディをすんでの所でかわす。 どし〜ん!! 「どうしたんだ?」 ザードがさっきまでいたところを見てみると、メロディが豪快に壁に頭をぶつけていた。 「ふみゃ〜、せかいがぐるぐるまわってるです〜。」 「よしっ、今のうちに。」 ザードはメロディの横をすり抜けていった。 (メロディはこんなんだし・・・後はリサを頼るしかないか・・) メロディがこの辺りにいたということは、リサもきっと近くにいるだろう。 ザードはとりあえずとなりの部屋を探すことにした。 そしてとなりの部屋に入ったとき・・・ 「ざくっ!!!!」 「ひぃっ!!」 ザードの目の前に突然ナイフが突き刺さった。 「ちいっ、はずしたか。」 再びナイフが飛んでくる、一度に何本も。 「うわぁ!」 ザードは何とかナイフをかわす。全部かわせたのはほとんど偶然であった。 「こ、こいつ・・・・できる!」 「リ、リサ〜! 俺だよ、ザードだよ。攻撃はやめてくれ〜!」 ザードは懲りずにジェスチャーで説得を試みた。だいたい、これしか方法がないのだから仕方がない。 「むっ?」 今度は通じたらしい。 (こ、こいつ・・・ねずみのくせに、あたしをバカにするとは・・・・許さん!) 全く別の解釈であったが。 「そこのねずみ!お前はあたしが絶対倒す!」 「何でそういう解釈になるんだ〜!!」 反論するまもなく、雨のようにナイフが飛んでくる。 「助けてくれ〜!!」 ザードは来た道を脱兎のごとく走っていった。 どうやら、彼の鬼ごっこはまだ続くらしい。        ♪♪♪♪ 「待て〜、逃がすか〜!!」 ザードとリサのおいかけっこはまだ続いていた。 「ハアハア・・・もう・・走り詰めで・・・体力が・・・」 しかし気を抜けばナイフの餌食である、休むわけにはいかない。 その時、前に大きな人影が現れた。 「ま、まさか・・・・」 「よくもやてくれたですね〜、もうにがさないです〜。」 「やっぱりぃぃぃ!!しかもまだ直ってないぃぃ!!」 前門のメロディ、後門のリサ、ザードの退路は完全に断たれてしまった。 「もう逃がさないよ、おとなしくナイフの錆になりな!」 リサも追いついてきたらしい。 ザードは壁に追いつめられ・・・・ 「ふっふっふ・・・えものえもの・・・・」 「クックック・・・年貢の納め時だね。」 メロディは爪を、リサはナイフを舌で一舐めする。 ザードは後に語る、その時の2人の顔はまさに悪魔のようであったと。 「ふにゃ〜!」 「死ねぇ!」 リサのナイフとメロディが同時にザードに襲いかかる。 「うぎゃあ〜!!!」 ザードの目の前は真っ白になった。            ♪♪♪ 「で、そのあとどうなったっスか?」 「ああ、憶えてないんだけど、どうやら気絶したときに効果が切れたらしくて、命は助かったよ。」 「それでこのありさまっスか。」 「そうそう・・・痛てっ、テディ、もっと優しくしてくれよ。」 そういうザードの顔には大きなひっかき傷が、腕にはナイフで刺された傷があった。 「ザードちゃん、ごめんなさいです〜。」 「坊や、悪かったよ。」 メロディ、リサはばつの悪そうな顔をしている。 「まあ、あの状態じゃ仕方なかったから。もういいよ。それにしても・・・ふぁ〜あ・・」 ザードは眠そうな目をこすって言った。 あの後、3人はザードが見たという部屋へ行って、ねずみを追い払い、さらに部屋の後始末までさせられて、 帰ってきたのは日もそろそろ昇るかというときであった。 「で、結局何が原因だったの?」 1人元気なマリアが尋ねる。 「ったく、マリアのせいでこっちはひどい目にあったってのに・・・ずっと気絶してるし。」 「ははは・・・でも、マリアのおかげで原因が分かったんだからいいじゃない。それより原因は?」 「それもそうだしな。原因は・・たしか『ハーメルンの笛』とかいうアイテムだったかな。」 『笛』という言葉にマリアがぴくっと反応した。 「『ハーメルンの笛』っスか?」 「そうそう、なんかねずみを自由に操れる笛らしくてさ。それを誰かが変にいじったらしくて、ねずみを呼び寄せてたんだと。 後その笛がさ、面白い形してるんだよ。」 「もしかして・・・その笛って、変な顔が彫ってあって、角笛みたいな形をしてるんじゃ・・・?」 マリアが恐る恐るといった感じでザードに尋ねた。 「そうそう、よく知ってるな・・・・・・・って、ま〜さ〜か・・・・」 ザードの額に血管が浮き出てきた。 「こ、この前ね・・・組合の中で変な形してる笛を見かけて・・・ 「どんな音がするのかなぁ?」って試しに吹いてみたんだけど、何も鳴らなかったんで、そのままぽいっと・・・・・ははは・・・」 「『ははは』じゃな〜い。全部お前のせいか〜!!」 「ごめんなさ〜い!!」 マリアは一目散に外へと逃げ出した。 「今日ばっかりは、もう我慢できね〜!!」 ザードもすかさず追いかけていく。 「みんな〜、ピザが出来たわよ〜。あら、ザード君とマリアちゃんは?」 「あの2人なら今飛び出していったっス。」 「元気だね〜。あ、アリサさん、いただきます。」 リサは早速ピザをほうばり始めた。 メロディは・・・・「すうすう・・・ざーどちゃ〜ん・・・・」、どうやらもう寝てしまっているらしい。 「あの2人はいつも仲がいいわね。」 「そうっスか?」 「ええ。さあ、2人のためにまたピザを作らなくちゃ。」 「あっ、ご主人様、ボクも手伝うっス。」 今日もエンフィールドはいい天気である。太陽の光は街で暮らす人々を温かく照らしていた。 もちろん、この2人のことも・・・・ 「ごめんなさ〜い!!!」 「待て〜、今日ばっかりは許さないぞ〜!!」

お・し・ま・い♪


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