Roald Dahl

1916〜1990


1916年サウスウェールズ,ランダフで,ノルウェーからイギリスに移住した父ハラルドと,父が故国から探してきた妻である母ソフィーとの間に生まれる。このため血統的には身長193cmのスカンジナビアの大男,名前もロアールと発音するのが本当らしい(日本では最初ロアルドで紹介されて以来そちらが通っている)。
子供に英国の教育という父の遺志を継いだ母により,イギリスで育てられる。女性に冷淡そうな後生も母親に対するコンプレックスが強かったのではないかと思わせるところあり。ランダフの小学校の後セント・ピーターズ(プレップ・スクール)からレプトン(パブリック・スクール)へ進むが,父の願い母の努力(進学に合わせてウェールズからイングランドに引っ越している,孟母である)にもかかわらず,"少年(Boy)"を読む限りでは英国の学校には合っていなかったようである。英国といわず学校が向いていなかった,あるいは学校といわず組織が向いていなかった気もする。
レプトン卒業後大学に進まず,遠い異国の勤務に憧れてロイヤルダッチシェルに就職。望み通り東アフリカ担当になり現在のタンザニアに派遣されるも,ほどなく第2次世界大戦が始まる。イギリス空軍(Royal Air Force)のパイロットになるが,墜落事故の負傷がもとで除隊。同盟国アメリカの戦意を高揚させるための英国側空軍アタッシェとして渡米。経験を生かした"Shot Down Over Libya"がサタデー・イブニング・ポストに載り,文筆家業のスタートとなる。この作品は後に,"簡単な任務(A Piece of Cake)"として短編集"飛行士たちの話(Over to You)"の中にまとめられる(ただし,飛行機の墜落経緯が2バージョンある)。一旦英国に戻った後,再度渡米し永住権を取得,ハリウッド女優パトリシア・ニールと1953年に結婚。
作品集"あなたに似た人(Someone Like You)"などで,ひねりの効いた短編の名手として知られる。映画脚本も手掛け,有名なところで"007は2度死ぬ"と"チキチキバンバン"がある(変な組み合わせだが,原作者フレミングつながりらしい)。TVでは,"予期せぬ出来事"の前振りに自ら出ていたのを見た人もいるはず。後年は"チョコレート工場の秘密(Charlie and the Chocolate Factory)","マチルダは小さな大天才(Matilda)"など児童向けの作品が多い。ニールとの間の5人の子供が児童書創作のもとになったと書いているが,ニールとは1983年離婚(その後離婚前から付き合っていたと言われる女性と再婚)。1990年,英国オックスフォードで没。学校嫌いの終住まいが大学町というのも皮肉である。

4歳で父が病没,その前に姉が病没,さらにその前に父が前妻を亡くしているのは,20世紀初頭のヨーロッパでは珍しいことではない。麻酔と抗生物質以前の厳しい時代だったのだと再認識するばかり。本人の負傷も戦時のことだから,むしろ危ういところで一生を得た方なのだろう。それでもその後も,娘の夭折,息子の障害と夭折,ニールの3回に渡る重篤な心臓発作,さらに本人の何回もの手術など,華やかな作家ダールの実生活周辺には暗い隈がにじんでいる。明るい表面の陰に何が潜んでいるか分からないのだよと言いたげに。また,彼自身が,作品に登場するどうしようもない心の闇をたたえた人物たちのごとく,周囲の人々に驚異と恐怖を与えるダークフォースと化したことも時にあったようである。なにせ,頭が良くて孤立するのも平気な人だから,意地悪モードになると手が付けられなかったらしい。

最初に知った作品集が"キス・キス(Kiss Kiss)"であったため,筆者にとっては今でも推理/SF/怪奇小説の外周にいる奇妙な味の作家という印象が強い。しかし,最近は児童書の筆者として出て来ることが多い。英米のダールに関するサイトもほとんどこっちがメインである。
この辺りクェンテイン・ブレークの挿し絵の力も多分にあると思われる。ミルンとシェパードみたいな話であるけれど,ご本人はどう思っていたのでしょうね。
それはともかく,ダールの魅力は想像力の逞しさとテクニックのうまさ。まさかこんなとか,まさかここまでというような思い付きと展開をスルスルと書いてしまう。もちろん刻苦して練り上げているのだろうが,スルスル書いてあると読めるように実にうまーく作られている。児童書でも,前半主人公を世にも悲惨な境遇に置いた悪党が(これがまた信じられないくらい邪悪残酷愚昧なのだ),最後はまさかこんな目に合わせないよなぁというようなところまで逆襲される(これがまた信じられないくらい徹底強硬痛烈なのだ)。その思いっきりの良さは近来珍しく元祖グリム童話並みで,子供は多分ついついスッカリすかっとうれしくなってしまうはずである。こんなん読ませて良いのかなぁという気もしないではないが。

ちなみにここにあるような経緯は,"少年","単独飛行(Going Solo)","My Year(1年中ワクワクしてた)"にもっと面白く上手に書いてある(いずれも一流の語り口で,ときには多分に一方的な主観までスルスルと読めてしまう。文に注意大いに注意)。


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