[制作日誌]

ここでは、作品の制作過程を随時アップ致します。


<「オリタタミ式イコン」の場合>

02年7月に行われる「MONO-LOGUE展」用の作品を取り上げます。

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上はキュレーター宇野亜喜良さんに送ったラフスケッチ。 興奮していたのでいろいろクドクド書き込んである。今回はオブジェ展と言う事 なので、オリタタミ式のイコンを出す事にした。


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ちょうど三面鏡のように観音開き式にしたいので、額縁は念入りに1/1の図面を ひいてカッチリつくらねばならない。本体である絵はそれから。

小生はアクリル絵の具を使う。イラストレーションの世界では当たり前の画材だが 幻想絵画界ではかなり異端。商品価値的に下に見られるので、誰にも文句を言わせない 仕事をしなければ生きていかれない。銘柄は主にターナー色彩の「ゴールデン・ アクリリック」、色によっては「リキテックス」。ゴールデンは絵の具の透明度を8段階に わかりやすく表示してあってグレージングするのにも助かる。発色が良く、 そして何より安い。世界堂でも扱っているので、貧乏絵描きの強い味方である。 支持体は9mm厚のシナベニヤ。防腐防黴効果のある水系塗料を両面にぬって、 下地はジェッソ。今回はブラックジェッソ。 薄塗りを数回繰り替えしたのち、耐水ペーパーの目の細かいもの (1000番位)で水研ぎをする。この辺りは板金屋さんのやり口。

御存じの通り、アクリル絵の具は乾きが極めて早いので、画面上で絵の具を混ぜ合わせて ぼかす事が出来ない。そこで皆それぞれ独自の工夫を凝らす。小生はドライブラシとハッチング でぼかす。「肌」の部分を例に取ってみると、まず、肌にあたる部分全体を茶色で塗りつぶす。 「Paint it brown!」である。(下図)この最初のベタ塗を便宜上「ベース」と呼ぶ事にする。

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次に、暗めの肌色をドライブラシ(水を含まない筆に極く少量の絵の具をつけて、画面に 擦り込む技法)で擦り込む。この際、マスキングをすることもある。(下図)

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細かい部分はハッチング(細い線を網目のように重ねる描法)で描き込む。同様にに明るい肌色、 白、という風に徐々に明るい色をのせていく。更に暗部には暗い土色を差す。これらは全て 不透明色で行う。(下図)

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「白シャツ」部分。ベースに濃グレー、必要に応じてマスキングをしながら、その上に明グレー(下左図) さらに白(下右図)という風にドライブラシでざっとグラデーションをつける。

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白ハッチングで洗い晒した感じの細かい皺を描き入れる。(下左図) 更にリキテックスのローアンバーでグレージング (透明色を塗り重ねて色の変化を出す画法。グラシともいう。)し、今一度白でハイライト部分を描き込む 事で着古した感じが出る。(下右図)薄め液はゴールデンのグロスワニスを3〜40%程水でうすめたもの。 この製品は他社の物に比べて乾いた時の痩せが少ないような気がするがどうであろうか。透明度も高いし 若干のアンモニア臭がするようなので、カゼインが入っているのかも。 これだけ薄めると垂れるので、画面を水平にしてグレーズする。 リキテックスのローアンバーは不透明色として売られているが、実感としては半透明といったところ。他社 のローアンバーより緑っぽいところが好き。 黒ベタ面の上にはかけないほうが良い。汚くなってしまうので。(そういった効果を狙うのならば 話は別だが。)この手順は、「眼」を描く時にも使う。(上図参照)
かつて小生は着色写真のような絵をかきたくて、何から何迄グレージングで色を出していたが、印刷効果が 悪い気がすることもあって、最近は殆ど不透明色で描いている。グレージングを多用した絵を描きたいのなら、 テンペラ油の混合技法にするべし。

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ダークな色の部分(この場合、赤い服)はブラックをベースに同様にグラデーションを 付ける。

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兎を描く。下は我が家の人気モデル「Mappy」

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ベースは黒。獣のベースは、輪郭がくっきりしない様にタッピング(絵具を軽く叩き付ける画法)する。 その上にグレイをドライブラシ、ハッチング。(下左、下中)更に白でタッピング、ドライ、ハッチ。 (下右)

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この様な兎は色味が複雑なので、しつこくグレージングする。ローアンバーをひいた後、赤、茶等を 部分的にさす。(下左)眼を描き入れる。本来、ヒトをのぞく殆どのほ乳類はあまり白目が見えないが、 あえて白目を入れる事で擬人化され、異様な感じになる。そして白を入れる。(下中) 更にローアンバーをグレーズ して、もう一度白を入れる。(下右)

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髪の毛はデザイン上、黒ベタのままにする事もあるが、今回は光りを入れる事にする。黒ベースの上に 紫茶灰色といった感じの色を暗から明まで3段階程、これまでと同様に暗い色から順に細い筋で描き居れる。 (下図)この段階では少々違和感のある色だが、最後のグレージングで変わって来るので御安心。

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話が前後するが、小生はフォルムについては最初何も見ずに描く。(小物は別)初めからモデルや 資料を見て描くとリアルになり過ぎるから。形が出来た後、陰の付き方、皺の具合等を見る為にのみ、 スケッチに合わせて撮影した資料写真を見る。この時、天性のデッサン力の無さが功をそうして、 一寸ギクシャクしたフォルムが出来るのだと思っている。逆に言えば、デッサン力がつくのが恐い。
勿論ある意味に於いては意識的にデッサンを狂わせる。例えば「手」を描く時、常に意識しているのは、 稚拙ななルネサンス絵画や仏像、仏教絵画。「関節ってこんな風に曲がらないだろう」 といった感じが良い。(下図)

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機械等の小物を描くコツは「一生懸命描く!」。暗色から明色へと重ねていくのはこれまでと同様。 資料を見乍らなるべく忠実に。特にハイライトを意識して描く。 かつてイラストレーターの北見隆さんが言っていた「大きなウソは良いけれど小さなウソは良く無い」 の精神が頭から離れない。また、絵の一部にこういった描き込んだ部分があると全体が 引き締まる様な気がする。万年筆、時計、カメラは、小生の絵の記号的点景。

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7月の展覧会迄全体像をお見せ出来ないが、絵はもう終盤に差し掛かっている。ここで全面にグレージングする。 使うのはゴールデンの「トランスペアレントレッドオキサイド」。アンバー系の色で、写真でいえば色温度が 低い感じの色味。非常に透明度が高くダークな面にも安心してグレージング出来る。そしてハイライト部分 にもう一度白を入れる。

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仕上げの作業。この段階ではパート・パートで艶にばらつきがあって、作品として見られた物では無い。 部分的にグレージングをした所はその回数が多ければ多い程テカッテいるし、ドライブラシむきだしの 部分はカサカサである。またアクリル絵具は色ごとに艶が違うのもばらつきの原因になる。そこで あみ出した方法が「エアーブラシ」。上述のグロスワニスを同量の水で丁寧に薄めたもの(優しく混ぜないと 白濁して取り返しのつかないことになる)か、リキテックスやヌーベルから「ペインティングメディウム」 の商品名で出ているもの(要は、アクリルポリマーつまりグロスワニスをプロの技で薄めたもの)をコンプレッサー (下図)で全体に吹き付ける。しつこく吹き付けていくと全面が一度均一なマット調になる。そうした上で、好みのワニス をかけると均一な艶が得られる。小生の場合は上述のグロスワニス3〜40%水割りを薄く数回、好みの艶が 出る迄かける。この、一度全体をマットにする遣り口は、混合技法の下地をアクリルで描く場合にも 使えるかも知れない。

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絵の中心に小さな電球を埋め込もうと思うので、ドリルで穴をあける。(下図左・中)描き上がった作品に穴を開けるのは 勇気がいる。現代美術紛いの事をしていた頃はこんな事何でも無かったのだが・・・。埋め込むのは「自動点滅 LED」という製品で(下図右)、直流(電池)1〜3Vの電圧を与えるだけで自動的に点滅し続けるスグレモノ。消えている 間は電力を喰わないのでボタン電池1個で1ケ月以上もつという省エネ設計。これは舞台関係を手掛ける君島幸一氏に教わった。 舞台では、暗転してもバミり位置が分かるようにこいつを置く事があるそうだ。

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自動点滅開始!

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事前に拵えた枠に砥の粉を塗り、300番程度のサンドペーパーをかけて、※着色ニスを塗る。乾燥を待って 600番程度の細かいサンドペーパーを掛ける。※印以降の作業を数回くり返す。
携帯用イコンなので上部に把手を付ける。(下図左)この真鍮のしょぼい把手が大好きなのだ。我が家のあちらこちらに コイツが付いている。そして三面を真鍮の蝶番で連結。(下図右)乾いた枠に絵をセットして終わり。

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これで完成!「MONO-LOGUE展」でお目にかかりましょう。

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