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17/04/29


(2017/4/29) 『うつヌケ』田中圭一著 を向精神薬ライターが読む。

 『うつヌケ』を読む。実は第一話あたりのweb連載の時読んで、うーん・・・なんつーか・・・危ない領域に踏み込んじまったなぁ著者・・・と正直思った。で、本になり、2017年3月、東武東上線のドア横にシール広告を見かけるまでに至ったところで、買って読んでみたのであるが・・・うん、読み物としてはすげー面白いね。いっきに読んだ。でも大丈夫か著者…っていうか、これ役立つ本なのか?ってのが正直な感想。

 まず、わからんのが、自分がうつ病を克服?したからといって、他人を救いたいという動機付け・・・それ自体が俺には病理に思えるが(・_*)\ペチ いや、俺のようなドス黒いココロの濁りきった人間は、”他人を救わずにはいられない”など考えだにしないんだが(・_*)\ペチ、仮に俺が皆を救おう!などと白クッヒーになっちゃったとしても・・・出来るわけないわな。ちょっとこの方面の本を漁ればわかる。著者が底本にした『 自分の「うつ」を治した精神科医の方法 薬に頼らず、心身ともに元気を取り戻すために』宮島賢也著にしても、まぁ主として認知療法っぽい本なんだけど、今まで出ていた多くの、うつ系本の一つでして、かつ、認知療法も、幾つかの手法のうちの一つなのよね。車輪の再発明じゃないけど、「こうすればいいよ」の方法はもう語り尽くされているんだ、本屋のうつ病コーナー行けばたーんとある。新味あるのは、有名人とか精神科医のケースくらい。ただし、どの方法が合うのかは人それぞれ違いすぎるので、決定的な定本は無い(良著はあるよ)。今の精神科医が直面している”うつ病”という現象は複雑怪奇なものなんだ。

 なんで複雑怪奇かというと、今の”うつ病”と呼ばれている病気って、原因はなんであれ、DSMのチェックシートで一定数当てはまれば、うつ病一丁上がりでしてね・・・。原因がわからん…内因性だ外因性だ心因性だ、それら複合だ、ぜんぶごっちゃで、精神医療が対応しているんだけど、かなり無理があるんすよ。本書でもあったけど、仕事でヘタうってウツになって、認められて回復って・・・それ医療の範疇じゃないよね。薬が効くわけない。それは個人のライフスタイルだ哲学の問題なんだ。そして、その個々の哲学の世界、複雑怪奇なココロの中に踏み込むってことは・・・テクニカルな医療以上にヤバいもんだと俺は思う。人はそれぞれ尊厳があるからねぇ…。この本は巻末読むとわかるけど、この領域に足を踏み入れちゃっている。医療の問題として語られているのは第7話深海昇の場合(バイポーラーの人)と、第13話ゆうきゆうの話、あとは・・・第19話一色伸幸の場合くらいです。

 ちょっとこの世界に踏み込んでいれば、精神医学には語られない裏面史があることに気付くだろう。フロイトが手こずった境界例、70年代であればパチー、90年代以降はボーダーに代表される、うすうす精神科医は気付いている、こいつ病気じゃねえなっていう患者との攻防戦…。文化果てる千葉県銚子あたりの公立病院なら、「忙しいから帰れ」って追い返されるビョーニンとの攻防は、90年代は柴田二郎・頼藤和寛、00年代は春日武彦・デス見沢(個人的には計見一雄さんイチオシ)という何か吹っ切れたのか正直にバンバン書くアルファ精神科医の存在が、どこか、この業界の安全弁になっていた感があるが、10年代は面白い精神科医が現れませんねぇ。最近はナンとも優しさに満ち溢れた理想の精神医学の話ばかりで、俺はコレをポリコレ精神医学ってたった今名付けたけど、本書は実にポリコレな読み物なのよね。巻末で語られる対処方法など典型的です。自己肯定とポジティブシンキング、達成感、毎朝の催眠、自己暗示・・・なぁ、これ、なんのセミナーになっちまってんだ? というか、とりえず精神科医んトコ行けっていう王道を語るのは第7話だけで、あとは代替医療の話しばかり・・・時折挟まれる薬ディスり・・・(俺は薬系ライターだが、向精神薬はあくまで対処療法っつースタンスだかんな、必要なら飲め!)。なぁ・・・この本の半分以上は、実は古典的なうつ病とは違う病気の話しなんじゃないか???(年に3回、ウツになるとか、朝起きたらウツが来たとか、ラピッドサイクラーっつーかスーパーラピッドサイクラは別の診断名になるケースが多いぞ…あるいわ寒暖差アレルギーっつー自律神経の病気とか。)

 著者は多くの例を示せばとアラカルトにしたけど、うつ病って基本的に自然治癒する病気だし・・・プロセスは後付けでさ、いろいろ治癒に至る感動のストーリーは作れるよ。(ちなみに回復の自己ストーリーを作るってこと自体がセラピーじゃないのか?っつー穿った見方もある。この本もまた…)手法は様々、プロセスも様々。当然、本書で救われる人も必ずいる。でもね・・・この本のうつヌケした人ってのは、殆どがクリエイターで自己承認欲求を満たして、うつヌケっていうパターンだよ。1960年代に精神分析療法家がYAVISと名付けた"Young, Attractive, Verbal, Intelligent, and Successful.”=”若くて魅力的で言葉がうまく使えて成功している人”に当てはまるトコロの多い人たちばかりなんだ。頭良いから自己洞察で回復したり、認知の歪みにもセルフで気付く。でも、読者の大半は普通の頭でクリエイターで無くて充実した仕事についているわけでも成功しているわけでもない。本書を読んで絶望的になる人も結構いるだろう。

 おそらく、編集部には、本が出来るくらい読者の「私のうつヌケ体験談」がわんさか寄せられていると思うが・・・いくら事例をまとめても、服薬体験談並に役に立たないものになると思う。休んでりゃ自然治癒するような病気の回復のプロセスなんぞ、何でもありだからだ。(第19話一色伸幸の場合が良例)

 巻末のまとめで、著者なりの「うつ」という怪物の真の姿と対処方法が語られているけども、これがまた某セミナーめいて危なっかしくてなぁ・・・特に”アフォーメーション(肯定的自己暗示)”とか・・・(-_-;)。この本のいいところは、いろんなプロセスがあるんですよって示すことなのに、なんで最後に著者がまとめちゃっているのか・・・メンターなの?コーチングなの?これ?。

 読み物として面白いし、ちょっとウツの入り口にいるような人にとっては、良著たりえるが・・・マジでずーっと長いうつのトンネルにいる人、うつヌケしたい人にとっては、中途半端すぎて役に立ちそうにない、むしろ有害かもしれんな…って思います。

2017年4月29日記 相田くひを


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