第一の遺書
自分は、自分の心と、肉体との傾向が著しくデカダンスの色を帯びて居る事を十五、六歳から気付いて居ました。
私は落ちていく事がその命でありました。
是は恐ろしい血統の宿命です。
肺病は最後の段階です。
宿命的に、下へ下へと行く者を、引き上げよう、引き上げようとして下すつた小杉さん、鼎さん其の他の知人友人に私は感謝します。
たとへ此の生が、小生の罪でないにしろ、私は地獄へ陥ちるでせう。最低の地獄にまで。さらば。
一九一八年末
村上槐多
第二の遺書
「神さま、私はもうこのみにくさにつかれました。」
涙はかれました。私をこのみにくさから離して下さいまし。地獄の暗に私を投げ入れて下さいまし。死を心からお願いするのです。
神さま、ほんとです。いつまでも私をおめし下さいまし。愛のない生がいまの私のすべてです。私には愛の泉が涸れてしまひました、ああ私の心は愛の廃園です。何といふさびしさ。
こんなさびしい生がありませうか。私はこの血に根ざしたさびしさに殺されます。私はもう影です。生きた屍です。神よ、一刻も早く私をめして下さいまし。私を死の黒布でかくして下さいまし。そして地獄の暗の中に、かくして置て下さいまし。どんな苦も受けます。ただ愛のない血族の一人としての私を決してふたたび、ふたたびこの世へお出しにならない様に。
私はもう決心しました。明日から先はもう冥土の旅だと考へました。
神よ私は死を恐れません。恐れぬばかりか慕ふのです。ただ神さまのみ心を逆らつて自殺する事はいたしません。
神よ、み心のままに私を、このみにくき者を、この世の苦しい涙からすくひ玉はんことを。くらいくらい他界へ。」
第三の遺書
神よ、神よ
この夜を平安にすごさしたまへ
われをしてこのまま
この腕のままこの心のまま
この夜を越させてください
あす一日このままに置いて下さい
描きかけの画をあすもつづけることの出来ますやうに。
神よ
いましばらく私を生かしておいて下さい
私は一日の生の為めに女に生涯ふれるなと言はれればその言葉にもしたがひませう
いかなるクレオパトラにもまさります
生きて居れば空が見られ木がみられ
画が描ける
あすもあの写生をつづけられる。
村山槐多(1919/02/20)
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