その瞬間
(01/09/19)

「同時多発テロ」という見出しが連日新聞のトップを飾っています。その第一報が流された時間帯、ふだんはNHKのニュースを見る習慣がなかったのに、あの日に限って見ていました。9時からの「プロジェクトX」を見たあと、台風情報が気になりチャンネルをそのままにしておいたからです。

ニュースがはじまってすぐに緊急ニュースが飛び込みました。大変な航空機事故と思って見ていると、1機の飛行機が右側からスウッと画面に入ってきました。ビルの向こう側だろうと思ったその瞬間、炎の塊が激しく四方に飛び散るのが見え、2つ目のビルが燃え出したのです。テロだ!そう確信したとき身体中に悪寒が走りました。

すぐにペンタゴンのニュースが流れ、今度は突然目の前で、ビルが砂上の楼閣のように崩れ落ちていきました。その凄まじい光景を目にしていながら、その時はどう想像力を働かせても、それが現実だといういう実感が湧きませんでした。いつも通り居間にいて、このとてつもない出来事をリアルタイムで見ているという事実に、妙に居心地の悪さを感じたものです。


初めの映像は、かなり離れた場所から撮ったもで、炎上する超高層ビルと煙しか見えず、現場でどんな修羅場が繰り広げられているのか想像すらできませんでした。淡々と映し出される映像と、それをリアルタイムで世界の隅々まで送っているであろうハイテク技術だけが、唯一現実の世界であるかのような錯覚さえ覚えました。

翌日の夕刊の紙面いっぱいに、何人もの人がビルの窓から身を乗り出しいる写真が載っていました。それを見たときにこの事件の残酷さを改めて実感しました。貿易センタービルにいつもどおり出勤し、普段と変わりなく仕事に就いた人たち、西海岸へ行くために偶然その飛行機に乗り合わせた人たち、そうした人たちの個々の生活にまで思いが及んだとき、何の決意ももたない人たちの生命と日常生活を、同じ人間が少しのためらいものなく奪い去ることができるという残酷さに、言い知れない恐怖を覚えました。

この出来事があってからしばらくは、こんなふうに部屋の片隅でシコシコと文章を書くことに空しさを感じ、すっかり気分が落ち込んでしまいました。数年前神戸の大地震で沢山の犠牲者を出しましたが、でもそれと今回の事件とは悲惨さの「質」が全く違うように思います。あんな大変な震災にもめげず復興に向けて頑張れたのは、人間の可能性を信じられるからだろうと思います。それに対し今回の事件には、何とも後味の悪い絶望感だけが残りました。あの事件の直前に見ていた「プロジェクトX」で、人間の力ってホントにすごいなと感激していただけに、その落差があまりにもひどすぎ気持の修正がなかなかできませんでした。


それは白鷺城(姫路城)の解体修理の話でした。すでに約300年が経つという城は痛みが激しく、このまま放置しておくと倒壊してしまう。そこで、昭和31年に解体修理が始まります。その責任者に文部省で瓦の研究をしていた加藤得二さんが任命されます。全くの素人だった加藤さんは初めはイヤでしょうがなかったそうですが、修理を請け負った播州一の宮大工和田通夫棟梁に「城は地元の宝だ、みんなあんたに期待している。」と言われ、何としてもやり遂げようと決意を固めたそうです。

城を解体してみると、2本の真(心)柱が推定で5700トンはあるという建物全体を支えてることが分かります。ところがそのうちの1本が、内部で腐っており、取り替えなければなりません。真柱の部材は700〜800年経った長さが25メートルのヒノキで、それに代わる部材を探さなければなりません。それからの加藤さんは、ヒノキ探しで全国を行脚します。

情報をもらって現地に飛ぶがわずかに反りがあって使えないなど、何度も断念し時間だけが過ぎていきます。いよいよ探す場所がなくなり、昭和33年暮れからは裏木曽(岐阜県)の国有林を探すことになります。100人近い人たちが厳寒の中をローラー作戦で探し回ったそうです。伐採してみたら、中が空洞だったりと何度かの失敗の末についに30メートルを越す大ヒノキを発見します。ところが、伐採はうまくいったのに、16キロメートルの山道をトロッコに積んで下ろしてきて、あと1キロというところで転げ落ち、途中から折れてしまいます。


結局、和田棟梁の提案で昔からの継ぎ木の技法を用いることにし、裏木曽の折れたヒノキと、地元兵庫県市川町笠形神社の御神木をつないで真柱にしたのです。6週間かけて柱を完成させ、昭和39年6月に、8年をかけた白鷺城の大解体修理工事は終わります。

ニューヨークでは、残念ながら人間の悪意から、一瞬にしてビルが倒壊してしまいました。しかし37年前には、職人さんや真柱探に奔走した沢山の人の熱意と善意によって、300年の城を倒壊から守ったという事実もあるのです。そのことを心に銘記し、元気を出さなければと思っています。


ようこそ
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