久しぶりの新宿
(2000/8/25)

先日久しぶりで新宿に出かけました。電車で30分もかからないのに、最近では休みの日に新宿まで出るのはなかなか決断がいります。目的でもないと、ぶらっと行ってみようかという気にはまずなりません。今回はたまたま目的が2つあり、1つはデパートで開催していた寺山修司展、もう1つは映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を観ることでした。


寺山修司展は平日ということもあって観客はさほど多くはなく、その割には若い人が多かったのが意外でした。でも考えてみると、演劇にせよ、映画や写真にせよ、彼の作品は時代を先取りしたところがあって、遅れてきた今の若者世代からも同時代的な受け止め方をされているのかもしれません。

実を言うと、私は寺山修司の演劇を一度も見ていません。当時は彼が主宰する天井桟敷と唐十郎の状況劇場がアングラ劇団の人気を2分していた頃で、私はどちらかというと唐十郎派だったせいかも知れません。でも、本は良く読んでいました。

展覧会は、期待していたほどのものではありませんでした。会場には初期の俳句や短歌にはじまり時代を追う形で作品が展示されていましたが、そんなふうに並べて見せるだけという展示のしかたは、寺山修司には似合わないのかも知れません。

彼の芸術は、同時代的な、あるいは時代を先取りした共感の上に成り立っており、見ている側が突然見られる側に変質するといった、無防備ではいられない緊張を強いるところにその本質があったはずで、追憶としてこんな風に見るだけではそれが伝わらないのは当然なような気もします。もっとも、デパートの美術館にそれ以上を求める方が間違っていたのかも知れませんが・・・・。

会場のところどころで、詩や短歌を朗読する寺山修司の声が流れていました。あの独特の津軽訛の語り口はいまも新鮮で、そこだけに寺山ワールドがありました。いっそ、暗い部屋に彼の撮った写真や映画の断片を次々と脈絡もなく映し出しながら、彼の詩の朗読を延々と流し続けたらどうだったろうか・・・・・なんて勝手に思ったりしました。


寺山修司がいかに早熟な文学少年だったかということを今回の展示を見て再認識しました。高校時代にすでに全国の短歌の同好の士の間では、青森に寺山修司ありと広く知れわたっていたようです。大学時代に「短歌研究」の新人公募で特選に選ばれた頃から一般に広く知られるようになりましたが、すでに15、6歳の頃からみずみずしい作品を残していたのです。にもかかわらず、彼は30歳前後で短歌とは決別し、次々と新しい表現手段によって挑発をし続けます。溢れかえる才能が、彼を芸術の一ジャンルだけに止めておくことを許さなかったのだろうと思います。ただ展覧会を見終わって、寺山修司の根底に流れていた思想や叙情の本質は、幼少の頃から少しも変わっていなかったのではという印象をもちました。


その後食事をしてすぐに映画館へ行ってみると開演までにはまだ十分時間があり、何年かぶりで新宿末広亭の周辺をぶらついてみました。この辺もずいぶん様変わりしていましたが、それでも古い喫茶店や飲み屋がけっこう頑張っていて、昔の新宿を見るような懐かしさを覚えました。ここまで来ればかつての新宿がまだ残っているんだと嬉しくなってしまいました。

映画館はビルの5階にあって、座席が100席足らずのところでしたから、開場と同時にたちまち満席になってしまいました。なぜか、年輩の女性客が圧倒的に多かったです。


映画の筋は単純で、キューバ革命前のハバナで一世を風靡ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの演奏を再現し、レコーディングしようというだけの話です。その意味ではドキュメント映画と言った方がいいのかも知れません。ただし、すでにクラブは数十年前になくなっており、プレーヤーもかなり高齢になっていますから、はたしてうまく探し出せるのか、そして今でも当時のようなすばらしい演奏ができるのかどうかといった不安をもっての企画だったと思うのです。結果は大成功で、レコーディングもその後に行われたカーネギーホールでのコンサートもとてもすばらしいものでした。

ハバナと言えば、かつてはアメリカの金持が集まる世界でも有数の魅惑的な別荘地で、その丘の上の高級クラブで育まれたキューバ音楽はその後革命で封印され、長い間の隔絶を経て今に蘇ったわけです。

私自身初めて聞く音楽でしたが、ラテン音楽にしては哀愁のあるメロディーで、特にアンサンブルがとても見事でした。曲の大部分は1920年前後につくられたものですが、それにフォルクローレやチャ・チャ・チャ、マンボ、ゴスペルなどがミックスされ、彼ら独自の味付けによってソフィスティケートされ、育まれた音楽だそうです。

80歳前後のプレーヤー達なのにちょっとも年齢を感じさせず、むしろ年齢を重ねた分だけ味わい深い演奏に思われました。その演奏だけで十分堪能でき、実際見終わった後はライブにでも行ってきたような気分でした。

同名のCDが発売されていますが、夜中に少しボリュームを絞って聞いていると、とても幸せな気分になってきます。



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