おばけ石とおかめ
(2000/10/13)
都内稲城市をフィールドにして、タウンウオッチングを楽しんでいる「エコ・ミューゼ」というグループがあります。私もそのグループの一員で、10月8日には多摩ニュータウンのウオッチングを行いました。ここには向陽台、長峰、若葉台と3つの住区があり、全地区を約5時間かけて歩きました。
新しい街ですから、すべて計算の上でつくられた街ですが、以前から多摩ニュータウンの中でも稲城地区はよくできている街だと思っていました。土地利用だけでなく、建物の配置や意匠、道路や路地や公共空間の処理、緑地の配置など、とてもよく考えられているなと、今回歩いてみて改めて感じました。
ふだんは、大きな道路にそって、街の表面だけを見ているだけでしたが、中に入り込んでみると細部にまでいろいろ配慮されていて、それを発見して歩くだけでもとてもおもしろいウオッチングでした。特に、パブリックアートの宝庫だということを再認識しました。
例えばいくつかの小径が集まってくる広場には、道祖神や道標を思わせる石のベンチが巧みに置かれています。街区の案内板はどれも動物を連想させるオブジェになっており、公園から街区道路への歩道の排水溝は、それ自体がモニュメントとしてつくられています。雑木林の入口の木のアーチの上には、かわいいにわとりの彫刻が置かれ、時を刻んでいるようです。
こんなふうに、あげていくときりがありません。しかもどれも控えめに、さりげなく場の雰囲気にとけ込んでいます。
なかでも私が一番印象に残ったのは、地元の子どもたちが「おばけ石」「おかめ」と呼んでいる2つの石の彫刻です。そんなふうに地元の子どもたちから愛称で呼ばれるだけでも、パブリックアートとしては大成功のような気がします。作者の銘板がありませんでしたから、おそらくこの街を計画したプランナーのアイデアだったのかも知れません。
向陽台地区の小学校と中学校の校門は小径のロータリー広場に面して隣り合っていますが、「おばけ石」はその校門から飛び出して来る子どもたちを出迎えるように置かれています。出てきた子どもたちがどんな反応を示すか、先刻承知というような顔をして・・・・。
もう一方の「おかめ」はそれとは正反対で、よほど注意していないと、見過ごしてしまいそうな場所にありました。場所だけではなく、そのしつらえもとても不思議で、独特の雰囲気を醸し出しています。たぶん作者はそれを狙ったに違いありません。
向陽台地区の一番奥まって道路の、ちょっと階段を上ったところにそれはあり、まず太いポールが2本たっているのが目につきます。それは古い洋館の門柱のようでもあり、この奧に何かあるなと暗示させます。でも、奥には石段や広場があるわけではなく、クズの繁茂した雑木の山があるだけです。
次の瞬間そのポールの狭い隙間から、その「おかめ」が突然見えてギョッとさせられます。
作者はどんな意図でこの不思議な空間をつくろうと思ったのでしょうか。私にはこの2つの彫刻が対になっていて、「おばけ石」が陽を、「おかめ」は陰の世界を象徴しているように思えてしまいます。とかく均質になりがちな新しい街に、厚みと奥行きをもたせるために仕込んだプランナーの意図がそこに感じられるのですが、本当のところはどうなのでしょうか。