冬枯れの庭では、木々が春の準備を精いっぱい見せており、なかなか趣があります。そんな庭を眺めていたら、タカタカタカという聞き慣れない音がしました。オヤっと思ってその方向を見るとコゲラが木の割れ目の虫を啄んでいたのです。しばらくお目にかからなかったけど、またやって来るようになったのだろうか・・・・数年前のコゲラ事件を思い出して、ちょっとうれしくなりました。
コゲラは、雑木林ではよく見かけますが、人家の密集した庭にまで下りてくることはめったにありません。それなのに、どういうわけかその年は家の樫の木に巣をつくったのです。見かけない野鳥がちょろちょろしているなァと目で追っていると、樫の木の中段あたりに真ん丸い穴が空いていて、そこに入っていくではありませんか。それでやっとコゲラだと気づきました。
それからは家族全員がすっかりバードウオッチャーになって、ずっと観察を続けていました。すでに巣穴には卵があるらしく、餌を捕って帰ってくると近くの枝を何度か行き来し、ジローっとあたりを見渡してから巣穴に入っていきます。激しい雨の日、巣穴に水が流れ込まないんだろうかと心配になって覗いてみると、なんとコゲラは自分のお腹でしっかりと巣穴を塞いでいるではありませんか。お椀状にニョキッと巣穴から突き出したふさふさしたお腹はとても愛くるしく、そっと撫でてやろうかと思ったほどです。
ある日勤めから帰ると、母が次のようなコゲラ事件の一部始終を一気に話してくれました。よほどショックだったようです。
けたたましい鳴き声がするのでコゲラの巣を見ると青大将が身体半分ぐらいまでを巣穴に突っ込んでいた。コゲラは狂ったようにその回りをバタバタと飛び回り、奇声をあげている。たまたまその日、庭の手入に来ていたSさんを呼ぶと、母のただならぬ声にびっくりして飛んできたSさんは、すぐに梯子をかけて素手で青大将のしっぽを掴み引き出そうとした。でもなかなか引き出せない。悪戦苦闘のすえ、何とか引き出した時には、さすがの青大将もげんなりしていたようだった。それをSさんは、2度3度と地面にたたきつけ、道路の反対側の小川に捨ててきてしまった。
その日以来コゲラの姿は見られなくなってしまいましたが、実はこれには後日談があって、しばらくたってから、今度は道路のすぐ側の樫の木にまたコゲラが巣をつくったのです。立派な巣穴もできていました。「今度こそ守ってやるぞ!」・・・そう決意した私は物置からトタン板を探しだし、それを木の幹に合わせてドーナツ状に切り抜き、地面から1mぐらいのところに垂直に巻き付けてやりました。ヘビが上れないようにしたのです。今度は大丈夫だろうと安心して観察していたら、2〜3日してまたコゲラはいなくなってしまいました。その時はヘビのせいではなく、どうやら車の騒音があまりにもひどいので、とても子育てには向かないと引っ越してしまったようです。たぶんそうだろうというのが家族の一致した結論でした。
家の前の通りは旧の鎌倉街道で、もともとこの辺は農村地帯でしたから、その街道沿いには欅や樫などの大木がふんだんに見られました。それが近頃はどんどん切り倒されて、かつての街道の面影は大分失われてしまいました。隣の家の庭にも、ついこの間まで大木が密生していたのですが、今はアスファルトの駐車場になっています。そんなわけですから、小さな動物たちはけっこう我が家をたよって移り住んできているようです。
コゲラは特別の来訪者でしたが、ふだんはオナガ、ヤマバト、ヒヨドリ、シジュウカラ、メジロ、ムクドリ、アオジなどが朝夕、ほぼ同じ時間帯に群をつくってやってきます。秋は柿の実、今の時期はツバキの花の密がお目当てのようです。
野鳥だけでなくいろいろな小動物も棲みついています。嫌われ者のヘビだけはめったに見なくなりましたが、トカゲは岩の上でよく日向ぼっこをしています。あのギラギラしたトカゲでなかったのが幸いしたようです。ヤモリもよく見ます。ドアを開けたときにドサッと落ちてきてビックリさせられることもありますが、窓ガラスの向こう側に吸盤で張り付いている姿は、イモリと違ってなかなか愛嬌があります。ただ、時々家の中に入ってきて壁や天井に張り付いていることがあり、そんな姿を母に見つかると大騒ぎになりますので、「入ってきたらだめだろう!」と言い含めてそっと外に出してやります。
都会では、街路樹の落ち葉でさえ目の敵にされるのすから、そうした小動物たちにとってはなおさら棲みにくい環境になっていることでしょう。ですから、せめて我が家の庭を頼ってきた小動物や虫たちだけでも、あまり干渉せず、気ままに棲んでもらおうかと思っているのです。