納  豆
(01/08/05)

こう暑さが続くと、だんだん食欲がなくなってきます。最初は天ぷらなど油モノがダメになり、肉にも食指が伸びず、そうなると最後の頼りは塩じゃけや納豆だけということになってきます。

納豆は関東以北だけで、関西などでは食べないと聞きますが、よくよく考えてみると実に不思議な食べ物です。先日、仲間と納豆をどうやって食べるかという話になり、一人が、とろろと一緒に食べるとうまいと言ったので、一同唖然としました。「絶対にうまいから・・・味は保証する」と言うのです。

その時はどうかなと疑いをもちましたが、よくよく考えてみると、私も時々オクラを入れて食べますから、ネバネバ同士ミスマッチではないのかも知れません。今度試してみようかと思っています。


「ネバネバ」といえば、むかし読んだ中尾佐助さんの「食の起源」や照葉樹林文化関係の本を思い浮かべます。日本はかつての照葉樹文化の分布する地域に属していて、今でこそイネが主な穀物になっていますが、それ以前はアワやキビが主な作物だったそうです。しかもサバンナ農耕文化から取り入れたそれらの穀物からモチアワやモチキビをつくり出した。それだけでなくモチゴメやモチトウモロコシなどのモチ種もしきりにつくり出したと言うのです。

どうしてかというと、照葉樹林文化の農耕以前の段階では、モチのようなネバネバした感触を好む味覚体系、例えばドングリやワラビ、クズ、マムシグサなどから抽出したデンプン質の食物が定着していて、その味覚に合うように改良したからではないかという説でした。

トウモロコシは南米が原産地で、そこではモチ種はたまたま紛れ込んだ亜流種で、それをみつけると抜き取って捨ててしまうのに、わざわざモチ種だけ集めて、モチトウモロコシとして栽培するようになったのではないでしょうか。ようするにこの照葉樹林文化圏に住む民族は「ネバネバ」した食べ物をこよなく愛したということになるわけです。なかなか説得力のある説だと関心した覚えがあります。


では納豆はどうなんでしょうか。あのネバネバぶりは、完全に他の食物を圧倒しています。中尾さんによると、日本のように塩の入らない豆の加工品、いわゆるナットウといわれるものが完全に残っているのは、ジャワのテンペ、ヒマラヤのキネマ、そして日本だけだそうです。偶然3つの地域で発生したとは考えられないので、どこかから伝搬したとすれば、その3か所を結ぶ大三角形の中心地、中国の雲南省あたりが発祥地ではないかと言うのです。まさに照葉樹林文化の中心地というわけです。

だとすれば中国にもナットウがあっても良さそうですが、いまのところナットウ状のものは塩を加えた加塩発酵のものしか判っていないそうです。塩を加えた大豆の発酵品は中国でも日本でも古くから存在しており、味噌、醤油、タマリとして進化していくわけです。この他にコンニャクやスシによる保存食などの分布状況を調べてみると、いずれもナットウの大三角形内におさまっており、雲南省あたりに中心をもつ照葉樹林文化の文化的要素が、それぞれの地域に伝播したのではないかというのが中尾さんの説です。


照葉樹林文化と言われるのは、日本では縄文時代あたりだそうですが、その頃の祖先がしきりに食べていた粘性の味覚感触が、私にも納豆のネバネバを愛する遺伝子として今だに引き継がれているのでしょうか。そうだとすれば、人間の生理的な記憶というのは驚くほど長い期間にわたって子孫に伝えられことになり、少し安心しました。なぜなら今の時代、あまりにも変化が激しくて、人間の本質まで全く変わってしまうのではないかと心配していたからです。


ところで納豆の料理法のことですが、我が家では必ずきざんだ白菜漬けを入れて食べます。これは私の田舎(福島)の食べ方で、なつかしく思って一度つくってみたら、家中がその虜になってしまいました。それに梅干しか桃やの梅好みを適当に入れ、洋ガラしとタレは少々、鰹節、最後に醤油で味を調えて完成です。これがベースになりますが、その時の気分や季節によってオクラやミョウガ、ちりめんじゃこ、ワラビなどを入れることもあります。

どんなに食欲がないときでも、これさえあればおいしくご飯が食べれられますから不思議な食べ物です。ただし、娘たちは朝出かける前には絶対に食べません。


ようこそ
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