【天狗と山伏】2


 山伏とは、山岳に拠点に置き、岩場の多い「天狗岩」など危険な箇所を行場とし、荒行苦行の過酷な修行を行う山岳宗教者である。山伏の異類異形の姿や山中での異様な修行は、庶民に畏怖感を与え、天狗として思われたのは当然の帰結であった。


庶民間に天狗を具体的に位置付けたのは、山伏の並はずれた宗教活動による所が大きい。山の神同様、曖昧な存在であった天狗が、鬼や怨霊の類いから抜きんでるのは、[山の神=天狗=山伏]と言う一連の観念が成立したからに他ならない。


つまり、庶民にとって最も身近な恐ろしい山の神を祀ってくれる山伏の超人間的な行動を天狗として崇め、その自然を司る呪術性にあやかろうと信仰を集めた。


 天狗は山の神の一化身として、修験道の宗教活動の一端に取込まれ、信仰の対象となった。それ故、山伏と共に天狗は、文学・芸術・芸能・医薬のあらゆる分野に登場し盛んに活躍する。


中世の修験道隆盛期には、[天狗=山伏]の観念が定着し、庶民は専ら山伏に帰依し、天狗は守護仏・守護神としての霊験を極める。

著名な八天狗
愛宕山太郎坊 山城(京都)
鞍馬山僧正坊 山城(京都)
比良山次郎坊 近江(滋賀)
飯綱三郎    信濃(長野)
大山伯耆坊  伯耆(鳥取)&相模(神奈川)
彦山豊前坊  豊前(福岡)
大峯前鬼坊  大和(奈良)
白峰相模坊  讃岐(香川)
を始め、修験の霊山は天狗の坊名を競って連ねるようになる。

 しかし近世ともなると山伏があまりにも世俗化し、山伏自体の畏怖観念が薄れ始めると、それと共に天狗は、学者によって妖怪として扱われたり、滑稽な天狗話が生まれる原因となった。


その反面、秋葉信仰や金毘羅信仰などの天狗信仰が大流行する。信仰の根底には、天狗の持つ山の神の宗教性を庶民が頑なに守り伝えてきたことにある。

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