【天狗と山伏 】1

 自然的な怪奇現象には、山で怪火が灯ると言う「天狗火」がある。これは山中で火を焚くという人為的な行為を連想させ、天狗の持つ火に関する特異な宗教性〔火伏・鎮火〕と深く関与している。


天狗火」とは、山人や咒法を修した山林宗教者が焚いた火ではないかと推測している。これについては、筆者が一番興味を抱いてる研究課題の一つである。


 「天狗火」に限らず、山岳宗教者である山伏の行為に、天狗の名称が冠されたと考えられる顕著なものを列記してみると、

 天狗山伏 (山伏そのもの)
 天狗さらい (山伏の稚児誘拐)
 天狗火 (護摩修法・火祭)
 天狗調子・天狗太鼓 (山伏神楽・延年舞)
 天狗舞・天狗の田楽 (山伏神楽・田楽)
 天狗集会・天狗の酒盛り (山伏の集団性)
 天狗の兵法・天狗の書 (山伏の武装化)
 天狗飛び・天狗相撲 (山伏の験競べ)

などがある。これらは、いずれも鎌倉以降の文学に再三登場する。


 これは、[山伏=天狗]の観念から生じたもので、山の神として天狗を祭祀した山伏が、天狗と同一視されていた時代があった。


『沙石集』で知られる無住法師が著した『聖財集』には、「日本ノ天狗ハ山伏ノ如シ堅行也是レ鬼形ナルヘシ」と天狗が山伏であると示唆している。天狗の姿の多くが山伏姿で現されるのも、その歴史を物語っている。

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