【天狗の名を冠された自然景観】1


 我が国の山岳地帯には、特異な自然景観を持つ岩石や樹木などに、様々な名称が付けられている。天狗の名称を持つ山や岩や岳などが、現在全国各地に百二十箇所以上も点在しており、そこに因んだ民話や説話が伝承されていることが多い。


天狗が庶民間に深く浸透していることを如実に物語っている。その天狗の名称を持つ岩・山などを大雑把に分類してみると、
 @巨岩・巨石・山(天狗岩・天狗岳等)
 A草原・湿原(天狗平・天狗の庭等)
 B巨木・老木・神木(天狗杉・天狗松等)となる。


 特に巨岩・巨石・山などに天狗の名が付与されており、中でも「天狗岩」の名称が圧倒的に多い。「天狗岳」も、山峰の頂きにある空高く突き出た巨大な岩であり、「天狗山」は、他の山と比べゴツゴツとした巨石が多いのが大きな特徴と言える。


一見無関係と思われるような「天狗の滝」も、巨岩の狭間を清流が滑り落ちる滝である。「天狗平」などは、山の中腹に位置し、深緑の樹海からポッカリ開けた、背丈の低い草原や湿原が広がる箇所である。


 趣の異なる「天狗杉」などに関しては、背丈の高い巨木や樹齢を誇る老木か、或いは周囲に全く樹木がなく、天空から飛来するのに絶好の目標となる樹木である。


 岩であれ木であれ、そこに立てば素晴らしい絶景に恵まれるが、同時に人命を失いかねない危険な箇所でもある。天狗は、人を寄せ付けない場所に住み、自由自在に天空を飛来するという伝承は全国に広く流布している。巨岩に天狗の名称が多いのは、本来その山を支配する山の神が好んで飛来する聖地、つまり人間が立ち入れぬ山の神を祭祀する場であったと推測される。
 
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