【エピローグ―天狗信仰の原点】 2
山の神の一化身として想像されてきた天狗は、平安時代頃から、序々に具体的な姿が現わされ始めた。山の神の宗教観念を基調としつつ信仰の対象となり、様々な祭祀を通して継承されてきた。

天狗信仰を形成したのは山の神を祭祀してきた山岳宗教者であり、修験道における山伏の偉大な宗教活動の所産なのである。山岳宗教の修験道があった霊山に、天狗信仰のない山はない。


 今日でも、全国津々浦々に天狗信仰地があり、お祭には毎年決まって登場し、類い希な活躍を果たしている。天狗とは、古来日本人が抱いた大自然に対する畏敬の念から生じた自然崇拝の信仰であり、現在でも山の神という独特な宗教性を庶民の心に深く投影している。それは「山の天狗」という概念が、日本人の深層心理に脈々と息づいているからであろう。


 生命の大いなる源である大自然の中で生き抜いてきた我々の祖先は、恩恵を与えてくれる森羅万象への感謝と畏敬の念を決して忘れなかった。


大自然を恐れ崇めつつ、敬い奉って信仰し、仲良く共存して来た。生きる喜び、心の安らぎ、感情の豊かさの糧となる素朴な信仰心は、他の動物にはない人としての偉大な智恵である。山は日本人の精神文化と深く結びついている。 



ここでご紹介した「天狗信仰」は「天狗と山岳信仰」と題して、『大塚薬報』2001年7月10日発行(第566号)、発行所:株式会社 大塚製薬工場に掲載したものです。


【参考文献】
柳田国男著『山の人生』岩波書店
五来重著『宗教民俗集成』角川書店
和歌森太郎著『修験道史研究』平凡社
宮本袈裟雄著『天狗と修験者』人文書院
知切光歳著『天狗考』濤書房
『日本「霊地・巡礼」総覧』新人物往来社
【協力】 
尾山薬王院(東京都) 聖護院門跡(京都府) 求菩提資料館(福岡県) 鳥取県立博物館 大山寺(鳥取県) 三徳山三佛寺(鳥取県) 大聖院(広島県) 平田敏夫氏(小樽市在住)



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