【 プロローグ】

 天狗は、赤い顔で鼻が高く、鳥のような翼があるのが最も一般的なイメージだが、山国日本に伝承されてる天狗には、多様な形態があり驚かされる。その容姿については、@山の神・山霊の天狗(姿・形を伴わず実体が不明)、A烏天狗(顔に鳥の様な嘴がある)、B人物相(鼻高天狗・山伏系・僧侶系・童子系)と、大きく三つに分類することができる。現在では、人物相の内、鼻高天狗を大天狗とし、烏天狗は大天狗に対して、小天狗とも称されている。


 天狗については、これまで様々な角度から研究されてきたが、説話・民話・伝承などを羅列的に取り扱ったものが多い。本来、山の支配者として人間から畏怖される対象である超自然的存在の天狗が、人間との交渉を重ねるにしたがって人間より劣った存在となってしまったとする説まで生じた。


天狗は、山の神の零落した姿ととらえられるものでもない。ましてや、世俗的な妖怪として扱うなど言語道断である。民俗学の立場から柳田国男氏は日本各地の伝承を通して、天狗は山の神であると記している。しかし天狗の持つ独自の宗教性や、様々な形態、歴史的な変遷過程については未だに明らかにされていない。


 天狗が保有する山の神としての宗教性を明らかにしなければ、その本質を理解できない。現在でも、老若男女を問わず広く人々に支持されているのは、「山の天狗」として親しみやすいが、どこか恐ろしい複雑な諸相にある。それ故に庶民に愛され営々と育まれてきた。その要因となったのは、本来実体のない山の神の宗教的な性格(飛行自在・恐るべき守護神などの特質)を天狗が継承してきたからである。

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