「ゆとり教育」見直し論について
都道府県教育長協議会文部事務次官行政説明メモ(平成13年1月24日)



「ゆとり教育」見直し論について

平成13年1月

○ことのおこり

  平成13年1月5日、文部省による「ゆとり教育」見直しの見解(4日発表)が読売新聞に、翌1月6日には、それを否定するかのように、文部大臣による「ゆとり教育」見直しはしない旨の会見(5日実施)発言が朝日新聞に載った。続く1月13日には文部科学次官による見直し発言が、インタビュー(12日実施)内容として読売新聞に載り、5日付け同紙報道を後押しした形となっている。
  発言者による見解のちがいなのか、新聞社によるとらえ方・報道のしかたのちがいなのか、いずれにしても教育関係者にとっては混乱を招くような新聞報道である。文部科学省内部には、「ゆとり教育」推進派と否定派がいるともきくが、これまでの経過から、ゆとり教育を、学力低下問題について、総合的な学習の時間のとらえ方について、どうおさえておけばよいか。私は基本的に文部科学省の考えは変化していないと考えている。一方的あるいは一部強調されすぎたとらえ方を正していると考える。私見を述べる。

(1)「ゆとり」とは何か

  まさかとは思うが、誰にとっての「ゆとり」かというと、教師ではない。子どもにとってである。こんなところでとらえ方を誤ると、先生は手抜きをしてしまう。むしろ教師は多忙化するであろうと予測できる。
  次に何に対する「ゆとり」かというと、学校生活に対するゆとりである。一つのことにじっくり取り組むための時間的ゆとりといえるだろう。そのため週2時間削減され(完全週5日制になり)、学習内容も3割削減されている。ただ、まちがってならないのは、このあと述べるが、基礎基本とかかわって、ゆっくりだけが求められているのではなく、学習内容の着実な定着が求められている点である。ゆとりをもって100%習得させなさい、なのである。

(2)「学習指導要領」とは何か

  「学習指導要領」は、教育課程の基準として文部大臣が公示したものであり、教育課程編成にあたって法的拘束力をもつものである。したがって、そこに示された内容は必ず守らなければならない。
  今回の改訂で、基礎基本の徹底がいわれた。では、基礎基本とは何かと問われて、「それは学習指導要領だ」と回答されている。このことは今までと変わらないことだろう。学習指導要領が絶対なのは、その内容を必ず取り扱い定着させなければならない点で、その先を絶対するなではない。
  そこで改めて、学習指導要領に示されている内容を本当に完全に定着させてきたか、問い返さなければならない。そのことをしないで、その先をしてこなかっただろうか、である。これまでだって、学習指導要領にない中身を指導してきた先生はたくさんいらっしゃるはずだ。例えば、国語科で群読など取り扱う必要はないのだが、その先生の考え方で取り入れてきたはずだし、教えるべきことをきちんと指導していれば、問題視されなかった。むしろ先生方の創意工夫は、学習指導要領の範囲を越えたところで発揮されてはいなかったか。
  たしかに時数が減らされているので学習指導要領の範囲の先まで扱うのは大変かもしれないが、不可能ではないのである。

(3)「総合的な学習の時間」では何をすべきか。

  学習指導要領に示されたねらいや学習活動例のとらえ方の問題ではないか。
  特に、「学習指導要領解説 総則編」では、学習指導要領に示された学習活動例を3つの例示〈1〉例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・相互的な課題〈2〉生徒の興味・関心に基づく課題〈3〉地域や学校の特色に応じた課題、として解説している。が〈1〉の課題を扱ってほしいのだろう。それは現行の学習指導要領に盛り込まれながらあまり取り扱われてこなかったものだからである。〈2〉と〈3〉はそのほかに、ということで考えるべきではないだろうか。また、教科との関連は必ず考えるべきで、それと全く遊離したものではないことは当然ではないか。

○まとめ

  繰り返すが、文部科学省の見解は以前と変わるものではない。ただし、その結果として予想されることは別である。と同時に、今後の教育のあり方として、教育の機会は平等だが、結果の平等はある部分までで、そこから先は選択という方向性が見え隠れしている点に注意を払うべきだろう。教科ごとの20人学級指導は、初期には着実な定着をめざすが、その先はまさに習熟度別学習を推進するものである。それを是としてもらわなければならない。学力低下については、一律のゴールが前になるのだから、今までの到達点と比べて低下するというのはいわれなきことである。みな同じゴールインをした先であげていかなければならない。

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都道府県教育長協議会
事務次官行政説明メモ

平成13年1月24日(水)
文 部 科 学 省



1 はじめに

 グローバル化の進展で、我が国を取り巻く社会、経済の環境が大きく変化する中で、我が国の今後の進むべき方向が曖昧になり、社会全体に閉塞感や目標の喪失観が漂っていると言われております。このような時代を迎える中で、教育を振興し、時代を担う子供たちの能力を最大限に伸ばすことが、豊かで活力ある国家を作るための最重要課題となってきていると存じます。また、一昨年のケルンサミットにおいて、伝統的な工業化社会から顕在化しつつある知識社会への変容の中で、教育の重要性が論じられたように、教育の問題は、21世紀の国際的な課題となってきております。
 今こそ、知識社会に向けて基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り、その上に立って、創造性など、新しいフロンティアを切り拓いてゆくために必要な力を育む教育の実現が求められていると思います。
 また、先日、新しい学習指導要領の基本的な考え方を見直すとの誤解を与えかねない報道が一部にありました。そこで、本日は、都道府県における教育行政の責任者である皆様方に、あらためて新しい学習指導要領のねらいを中心にお話をさせていただきたいと存じます。

2 新しい学習指導要領の基本的なねらいについて
 
新しい学習指導要領は、平成14年度から実施される完全学校週5日制の下、各学校がゆとりの中で特色ある教育を展開し、児童生徒に学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせることはもとより、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、問題を解決する力などの「生きる力」を育成することを基本的なねらいとしています。
 こうした新しい学習指導要領の考え方は、国際的な教育の方向性とも合致するものです。例えば、国際教育到達度評価学会(IEA)が行う国際数学教育調査においては、「問題解決力」や「関心・意欲・態度」をより重視した学力調査を行うようになっています。また、OECDの行う「生徒の学習到達度調査(PISA)」では、各教科で扱われるある一定範囲の知識の習得を超え、生徒が持っている知識や経験を下に、それらを積極的に考え活用し、自ら将来の生活に関係する課題に適用する能力があるかどうかを見ようとしています。

3 新しい学習指導要領が目指す学力について
 新しい学習指導要領においては、教育内容を厳選し、学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせることはもとより、それにとどまることなく、自ら学び自ら考える力などの「生きる力」をはぐくむことをねらいとしております。自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育成する上で、基礎・基本の確実な定着は欠くことの出来ない要素であります。
 しかしながら、「ゆとり」や子どもたちの自主性を強調するあまり、基礎的な学習が軽視されたり、「総合的な学習の時間」が学習活動ではなく、「遊びの時間」として受け取られているなど、新しい学習指導要領の考え方を誤解した取扱いが一部になされているのではないか等の指摘もなされております。
 昭和52年の学習指導要領の改訂において、児童生徒の学習負担を考慮し、また、各教科等の基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせる観点から、「ゆとりのあるしかも充実した学校生活」が送れるよう教育内容を精選しました。今回の学習指導要領においても、「ゆとり」の中で充実した指導が行われ、児童生徒に学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせることとしております。しかしながら、この「ゆとり」が過度に強調されるあまり、結果として、「ゆるみ」とも言えるような状況が一部に見受けられます。
 「ゆとり」は「ゆるみ」ではありません。教育内容を厳選することにより、教える側にも、学ぶ児童生徒の側にも、時間的・精神的なゆとりが生まれます。これを用いて、個別指導やグループ別指導、ティームティーチングなど個に応じたきめ細かな指導を十分に行うことができます。これにより、学習指導要領に示す基礎・基本の確実な定着が図られます。また、観察・実験、調査・研究、発表・討論など、時間を要する体験的・問題解決的な学習に積極的に取り組むことができ、これらを通じて、思考力や判断力、表現力が育成されます。
 このように、新しい学習指導要領は、知識や技能だけでなく、自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力などまで含めて学力ととらえ、こうした学力を児童生徒にしっかりと身に付けさせ、その向上を図るものとして構成されていることについて、あらためて申し上げておきたいと存じます。

4 総合的な学習の時間について
 次に、総合的な学習の時間についてであります。「総合的な学習の時間」は、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、問題を解決する力などを身に付けさせること、また、情報の集め方、調べ方、まとめ方、報告や発表・討論の仕方などの資質や能力、態度等は、各教科等の学習を通じても育成されるものですが、学校で学ぶ知識等を実感をもって理解する機会が減少している現状において、そのような機会を意図的・計画的に設けることにより、各教科等で学ぶ知識や技能を体験的な活動の中で実感をもって理解し、実生活において生かされ総合的に働くようにすることが「総合的な時間」を設けるねらいであります。
 したがって、「総合的な学習の時間」については、「遊びの時間」とするのは論外としても、ただ単に何らかの体験をするだけでは不十分であり、学習の中で自ら課題を見つける力、問題を解決する力を身に付けさせることが必要です。このため、昨年12月の教育課程審議会答申でも、総合的な学習の時間においても、児童生徒の評価を行うことについて提言しております。
 次に、「総合的な学習の時間」に関連してもう1点申し上げます。小・中・高等学校を通じて、教科の枠を超えて横断的・総合的な学習を行う「総合的な学習の時間」について、重点的な取組がなされる反面、その土台となるべき各教科等についての取組が軽視される面も見受けられるとも指摘されております。しかしながら、総合的な学習の時間は各教科等の時間と切り離して考えるものではなく、各教科等で学んだ知識や技能を自らのものとし、その後の各教科等の学習を深める観点からも重要な意義を有するものであります。総合的な学習の時間と各教科等の指導の有機的な連携にさらに意を用いていただきたいと考えております。

5 発展的な学習への取組等について
 次に、発展的な学習への取組についてであります。
 新しい学習指導要領においては、子供の発達段階に応じて、中・高等学校においては、選択学習の幅を拡大し、生徒の能力等に応じ、発展的な学習を一層行えるようにしております。学習指導要領においては、従来から、各教科等の内容は、「特に示す場合を除き、いずれの学校においても取り扱わなければならない」とされており、この意味において、学習指導要領は、各学校が教育課程を編成・実施する際の、国が定める最低の基準としての性格を有しているものであります。
 また、学習指導要領においては、「学校において特に必要がある場合には、(学習指導要領に示していない)内容を加えて指導することもできる」とされており、具体的な取扱いに当たっては、各学校における弾力的な取扱いを可能としております。
 新しい学習指導要領においては、小・中学校において教育内容を厳選するとともに、中学校において選択の幅を拡大し、発展的な学習など生徒の特性等に応じた学習を一層行うことができるようにしており、教育課程の編成・実施における最低基準としての性格が一層明確になっているものと言えます。
 したがって、学習指導要領に示す内容を十分理解した児童生徒については、その興味・関心等に応じて、学習の過重負担に留意しながら、より広く、より深く発展的な内容を指導することも可能であります。それとともに、理解の不十分な子供に対する補充的な指導の充実についても努めていただくことが必要であります。

6 終わりに
 文部科学省としては、平成14年度からの新しい学習指導要領の円滑な実施を目指して引き続き取り組んでいくことといたしております。このため、学校における教育が一層充実したものとなるよう、少人数指導を可能にするなどの教職員定数の改善や、学校施設の質的充実などの条件整備にも全力で取り組んでまいる所存であり、新しい学習指導要領の実現を通して、学力低下を懸念される方々の声に応えてまいりたいと考えます。各教育長におかれても、新しい学習指導要領の趣旨を十分にご理解いただき、新しい学習指導要領がねらいとする児童生徒の学力の向上に努めていただくようお願いいたします。

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