夕張山系
 夕張山系の南側に位置する夕張岳(1668m)も、超塩基性の蛇紋岩からなる山です。 夕張岳の蛇紋岩は地下深くから上昇する際に色々な岩石と混合した『メランジュ』と呼ばれる特殊な構造を形成し、国の天然記念物に指定されています。
又、超塩基性の蛇紋岩の山であることから、独自の進化を遂げた植物が多く、『ユウバリソウ』、『ユウパリコザクラ』、『ユウパリミセバヤ』、『ユウパリリンドウ』などユウバリやユウパリの名が付く固有種や稀産種が多いことでも知られています。 又、ミヤマアズマギク、チングルマ、ミヤマキンバイといったどの山でも一般的に見られる高山植物も多少独自の進化を遂げ、ユウバリの名を冠した変種扱いされることがあります。
 このページには夕張山系の崕山(キリギシヤマ;1066m)の植物も含みます。崕山は石灰岩からなる塩基性の山で、キリギシソウやオオヒラウスユキソウ、トチナイソウなどの貴重な種が分布します。

作品の追加、変更は随時行う予定ですので、ご了解下さい。
ガマ岩と夕張岳の稜線
左下の楕円内は崕山
最終更新日;2012年12月23日


オオヒラウスユキソウ (キク科)
Leontopodium hayachinense var. miyabeanum

崕山と大平山の石灰岩帯に特産するエーデルワイスの仲間です。ハヤチネウスユキソウの変種とされますが、亜種や独立した種として扱われることもあります。 母種のハヤチネウスユキソウよりも若干大柄で、茎葉が多いのが特徴です。おそらく日本で一番大柄なエーデルワイスです。
この写真は大平山で撮影したものですが、咲き始めの株で母種のハヤチネウスユキソウとの差異が良く判りません。全開すると白く展開する苞葉が少し後ろに反り返ります。 名前の由来は、この花が初めて発見された大平山に由来しますが、大平山の正しい名称は「おびらやま」です。
又、近縁種には、ミヤマウスユキソウホソバヒナウスユキソウエゾウスユキソウヒメウスユキソウ及びミネウスユキソウがあります。

ユキバヒゴタイ (キク科)
Saussurea chionophylla

夕張岳と戸蔦別岳のみに特産します。稀産種といってもヒゴタイの仲間ですから似たような花は各地の山で見かけることが出来ます。
夕張岳山頂付近の『吹き通し』と呼ばれる蛇紋岩の砂礫地には沢山咲いていましたが、花は既に盛りを過ぎて、実になり始めていました。その中でなんとか見つけた花をつけた株です。葉の裏に白い毛が密生して雪のように白いのが名前の由来です。次回はこの花の花期に登って、もう少し花をつけた株を写したいです。

タカネタンポポ (キク科)
Taraxacum yuparence

別名をユウバリタンポポといいます。夕張岳、糠平山、春別山、アポイ岳の蛇紋岩帯にのみ特産するタンポポです。
といってもタンポポですから、どこが珍しいのかと言われましてもねえ。 総苞片に突起が無いのと、葉が羽状に全裂するのが特徴です。 ヤツガタケタンポポのところでも記載しましたが、平地で普遍的に見られた在来種のタンポポは帰化植物のセイヨウタンポポに殆ど駆逐されてしまい、今では高山性に限らず在来種のタンポポ総てが稀産種になっているような気がします。

ユウバリソウ (ゴマノハグサ科)
Lagotis glauca ssp. takedana

シロバナウルップソウではありませんヨ。 ウルップソウの亜種で夕張岳のみに特産するユウバリソウです。 独立種とする説もあります。 夕張岳山頂付近の『吹き通し』と呼ばれる蛇紋岩の崩壊地で見ることが出来ます。 母種よりも小型で白い花をつけます。
花期が非常に早い花で、夕張岳の山開きの日に登っても思うような写真は撮れません。 その年の山開きの日と残雪量で、見られるか見られないかが左右されます。 春の夕張岳には3回登りましたが、今回は残雪が多く逆に開花には少し早かったようです。1週間位後が見頃だったようです。少しでも盛りを過ぎると円内の写真のように花穂の下から枯れ始めてしまいます。 3回のうち1回は大外れで、花は完全に枯れてしまっていました。
山開きの前にも夕張岳には登ることはできます。 でも山開きの前だと登山口までの林道が閉鎖されていますし、いざという時に泊まれる夕張岳ヒュッテも閉まっています。国道の分枝点から14kmも林道は歩きたくないし、テントまで持ち込む元気もありません。 そんな訳で、この花もなかなか美しい姿は見せてくれそうにありません。でも何回か登れば、そのうち一度くらいは美しい姿を見せてくれるのではないかと思っています。

エゾミヤマクワガタ (ゴマノハグサ科)
Veronica schmidtiana ver. yezo-alpina

キクバクワガタの変種で、夕張山地や日高山脈などの蛇紋岩崩壊地に生育します。超塩基性の蛇紋岩の影響で茎や葉は暗紫色になると言われていますが、私が見かけた株は結構青々とした葉をつけていました。
本州中部〜東北の高山では近縁種のミヤマクワガタが見られます。

ユウパリリンドウ (リンドウ科)
Gentianella amarella ssp. yuparensis

初秋の夕張岳の代表する花です。夕張山地や日高山脈などの塩基性の山に特産します。今回はこの花に逢うため登ったのですが、花期には少し早かったようです。しかも折からの悪天候で折角開いた花も閉じていました。 ユウパリリンドウが属するチシマリンドウ属は日本には3種分布します。花冠の裂片の内側に細かく糸状に裂けた内片があるのがチシマリンドウ属の特徴ですが、拡大写真の花に辛うじて見えています。 白花もあるらしいのですが、今回は見ることは出来ませんでした。

イワイチョウ (ミツガシワ科)
Fauria crista-galli ssp. japonica

別名はミズイチョウで、本州や北海道の高山帯や亜高山帯のやや湿った場所に群落を作ります。
夕張岳の湿地でも大きな群落を見ることが出来ます。
和名の由来は銀杏の葉に似ているということなんでしょうが、銀杏の葉といえば真ん中に切れ目があるのが特徴なので、ちょっと無理があると思っていました。ところが、最近一面に黄葉した秋のイワイチョウの群落の写真を書籍で見かけ、やっぱり銀杏としか喩えようがないと思った次第です。 植物の名前も花期だけの特徴で呼ばれている訳ではないのです。

ユウパリコザクラ (サクラソウ科)
Primula yuparensis

夕張岳固有種のサクラソウですが、盗掘等により絶滅の危機に瀕しています。 2004年に最初に夕張岳に登った時には、登山道から30m位下の蛇紋岩崩壊地にしか咲いていませんでした。 最近になって地元の『ユウパリコザクラの会』などが地道に保護活動を行って来た成果が出てきています。
2010年に『ユウパリコザクラの会』会員のブログに登山道整備の為に山開き直前に登った時の情報として、登山道脇に1株咲いていたという書き込みがあったので期待して登ったのですが、残念ながらもう枯れ花状態でした。
そこで2011年には山開きの日に登りました。今年は残雪が多く急傾斜の雪渓を何ヶ所か渡る羽目になったのですが、念願のユウパリコザクラに出会うことが出来ました。 登山道の山側の方に30株程度、登山道から直接写真が撮れる位置にも5株咲いていました。そのうちの3株を紹介します。 この3株は、おそらくこの年初めて花を咲かせた株のようでした。花数も2〜4輪と少ないのですが、夕張岳回復の象徴と喜んだものです。何年か先には20輪位花を付けた大きな株に成長することの期待したものです。ところが、もう翌年(2012年)には殆ど姿を見ることが出来ませんでした。貪欲な盗掘者どもに狙われたのでしょうか。
ユウパリコザクラはユキワリソウのように根生葉が外に巻くユキワリソウ節のサクラソウですが、セイヨウユキワリソウの亜種とする説もあります。

トチナイソウ (サクラソウ科)
Androsace chamaejasme ssp. lehmanniana

しょうもない写真で申し訳ありません。しかしながら私にとっては感慨深い1枚です。トチナイソウは私が山に登り始めた1981年の早池峰山から撮ってみたい花の一つでした。この花は日本国内では、礼文島、ポロヌプリ山、崕山と早池峰山の4箇所だけにしか分布していません。 しかしながら早池峰山には今まで6回登っていますが、見ることは出来ませんでした。高山植物監視員の方の話では登山道脇には咲いていないとのことでした。 礼文島でも絶滅状態です。ポロヌプリ山は登山道も整備されていない山ですが、僅かばかりの情報でもここでも見ることは困難なようです。
崕山でも絶滅状態だと聞いていましたが、幸運にも参加出来た2008年のモニター登山で崕山の山頂付近で見掛けた株です。遠すぎてズームレンズの望遠側でも点にしか写りませんでしたが、私にとってはお宝写真です。この花の美しい写真は、礼文町のWebサイトで見ることが出来ます。以前は花巻市のWebサイトにも掲載されていましたが、現在は削除されています。
和名は千島でこの花を初めて採取した栃内壬五郎氏への献名で、別名をチシマコザクラともいいます。国内では4箇所に分布と書きましたが、実は北方領土にも分布しているようです。しかし、ここは日本人が訪れるのが最も困難な地域です。

フギレキスミレ (スミレ科)
Viola brevistipulata ver. incisa

オオバキスミレの仲間も同定に苦しむ花のひとつです。尤も私の場合は夕張岳で撮ったという理由が一番なのですが........。
エゾキスミレの変種ですがが、エゾキスミレとの移行型かもしれません。葉の縁が不規則に切れ込むのが特徴のひとつですが、この写真で一番の不規則箇所は単なる虫食いによるものです。
本種は夕張山地と十勝の羽帯にのみ分布する珍しいスミレですが、折角夕張岳に登ったのですから、特産種の『シソバキスミレ』を写さなくてはいけませんね。今回は、若干花期がずれたのかシソバキスミレは見ることが出来ませんでした。

ミヤマダイコンソウ (バラ科)
Geum calthaefolium var. nipponicum

生命力が強いのか、どこの高山でも見られる高山植物界の雑草みたいな花です。 登山道にも進出し、多くの登山者に踏みつけられ、ボロボロの状態でも花をつけています。 しかし、この花の写真となると碌なものがありません。 原因はいくつかあります。
 (1)どこの高山でもあまりにも一般的に見られるので、被写体としての興味が湧かない。
 (2)長い茎の先に花をつけるので、風で揺れて撮り難い。
 (3)花期が長いので、開花直後の花と汚い花後の残骸がどうしても一緒に写ってしまう。
などです。
今回、夕張岳に早い季節に登ったので咲き始めの株を写すことが出来ました。花期の長い花は咲き始めが一番です。

コウメバチソウ (ユキノシタ科)
Parnassia palustris var. tenuis

ウメバチソウは高山植物と言うよりも山の湿地の花かもしれません。でも夕張岳では高山帯にも湿地が多いので、前岳湿原から山頂直下の神社付近までの高山帯の至る所に沢山咲いていました。 ウメバチソウにはウメバチソウ(var. palustri)とコウメバチソウ(var. tenuis)の2種があります。両者は非常に良く似ていますが写真の花はコウメバチソウです。 コウメバチソウは仮雄蘂の裂けかたが少ない、開花時に花弁の基部が重なるといった特徴があります。

タカネグンバイ (アブラナ科)
Thlaspi japonicum

夕張岳以外では、礼文島、利尻山、奥尻山、大平山、幌尻岳の北海道の6箇所のみで見られます。といっても所詮ぺんぺん草の仲間ですから、花が終わった後の果実が軍配のような形をすることが名前の由来です。 茎葉は卵形〜長楕円形でハート形に基部が張り出して茎を抱くのが特徴です。
余談ですが、平地に生育するナズナをぺんぺん草と呼ぶのは、果実の形を三味線の撥に見立て、三味線を弾く擬音の「ぺんぺん」の意味です。 同じような形の果実ですが、軍配に見立てられた分だけ良かったのかもしれません。

ミヤマハンショウヅル (キンポウゲ科)
Clematis alpina ssp. ochotensis

学名からもわかるようにクレマチスの仲間の蔓植物です。園芸植物のクレマチスの花は開花時には花弁(正しくは萼片)が全開するのに対して、満開時でも半開きの半鐘状態なのでこの名があります。
花色は普通は紅紫色というか茶色に近い色ですが、夕張岳のものは紫色をしていました。

エゾノリュウキンカ (キンポウゲ科)
Caltha palustris ssp. barthei

北海道と東北北部に分布します。本州で見られるリュウキンカに比べて全体に大柄で、葉に三角状の鋸歯があるのが特徴です。
夕張岳の山開きの頃は、まだ沢には残雪が結構残っており、そんな沢の中で金色に輝く花を開いています。雪渓と一緒に咲いているエゾノリュウキンカの写真を撮りたいのですが、そのような場所では泥を被っていることが多く、きれいな株はなかなか見つかりません。

シラネアオイ (シラネアオイ科)
Glaucidium palmatum

日光の白根山で発見されたのでこの名前がありますが、本州中西部以北の亜高山帯の湿った森林で見かける花です。夕張岳の森林帯の大群落は見事です。 1科1属1種の花として知られ、近縁種の無い花として有名です。
花弁のように見えるのは萼片です。白花をシロバナシラネアオイ(f. leucanthum)と言いますが、白から淡紅紫色まで花色は個体によって微妙に変化します。夕張岳には白に近い淡い色のものが多かったです。写真ではなかなか本物の色が再現出来ない花のひとつで、撮影した株の花色はもう少し紅がかかり淡い色でした。

ホテイアツモリソウ (ラン科)
Cypripedium macranthum var. hoteiatsumorianum

崕山で撮影したものです。高山植物の本などには本州の関東地方や中部地方の亜高山帯に生えるとありますが、本州では盗掘により激減し、まず見掛けることはありません。アツモリソウより花の色が濃くて唇弁がまるいのが特徴です。2008年の崕山モニター登山で登った時に唯一目立った花ですが、それでも15株程度でした。 礼文島には、淡いクリーム色のレブンアツモリソウが咲きます。名前の由来もレブンアツモリソウのページをご覧下さい。近縁種にはキバナノアツモリソウもあります。

シロウマアサツキ (ユリ科)
Allium maximowiczii

北アルプスの白馬岳で発見されたので、この名前があります。別名はシベリアラッキョウですが、中空の葉ですのでラッキョウというよりはネギそのものです。東シベリアから朝鮮にかけて分布しますが、国内ではこの花が見られる山はそれほど多くはありません。北海道では夕張岳と問寒別、本州でも北アルプス、雨飾山、飯盛山、朝日連峰だけです。夕張岳には『アサツキの原』と呼ばれる場所があり、かなり沢山咲いています。
ユウバリソウを見に訪れた時は花期には少し早かったようでまだ葱坊主状態でした。ユウパリリンドウを見に登った時は丁度花期でしたが、生憎の雨で良い写真は撮れずじまいでした。

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