早池峰山
早池峰山(1,917m)は岩手県第二位の高さの山で、早池峰信仰としても有名な山です。 早池峰山は塩基性の強い蛇紋岩の巨岩で全山が覆われ、この特異な環境から独自の進化を遂げた植物が多い山です。 ハヤチネウスユキソウ、ヒメコザクラ、ナンブトラノオなど早池峰山のみにしか生育しない固有種が沢山あります。 又、サマニヨモギやトチナイソウなどのように早池峰山を南限とする北方系の高山植物も多く見られます。 この為、早池峰山の高山植物は国の特別天然記念物に指定されております。
早池峰山の南には、遠野に至る道を挟んで薬師岳が対峙しています。僅か道路1本隔てているだけですが、早池峰山が塩基性の蛇紋岩の山であるのに対して、こちらは酸性の花崗岩の山です。ここでは、ヒカリゴケやオサバグサの群落を見ることが出来ます。
早池峰山がある花巻市のWebサイトには、高山植物監視員の方々が撮影された早池峰山の高山植物の美しい写真が掲載されておりますので、是非ご覧下さい。

作品の追加、変更は随時行う予定ですので、ご了解下さい。
小田越付近より見た早池峰山
最終更新日;2010年10月19日


ハヤチネウスユキソウ (キク科)
Leontopodium hayachinense

早池峰山の高山帯のみに生育する固有種です。 日本産のウスユキソウの仲間では最も大型で、ヨーロッパアルプスのエーデルワイスにいちばん似ている花です。 ハヤチネウスユキソウの白いフランネルのような部分は花ではありません。 苞葉と呼ばれる葉っぱです。 この苞葉の厚みや綿毛の量には個体差が結構あります。 因みに花は、中央の黄色い部分です。
属の学名のLeontopodiumは、ライオンの足という意味で、白く展開する苞葉を爪を広げたライオンの足にたとえているのです。
見頃は、年によって差がありますが7月20日前後です。 この頃ですと、まだ梅雨が明けきっていない場合が多く、右の写真のように雨に打たれたハヤチネウスユキソウも風情があります。
本種の変種がオオヒラウスユキソウです。 又、近縁種には、ミヤマウスユキソウホソバヒナウスユキソウエゾウスユキソウヒメウスユキソウ及びミネウスユキソウがあります。

ミヤマアズマギク (キク科)
Erigeron thunbergii ssp. glabratus

高山でピンク色の代表みたいな花で、どこの高山でも普通に見られます。 北日本に広く分布するアズマギクの高山型変種です。
このピンク色の花にも最近異変が起きているようです。 左の写真は1997年に撮影した写真ですが、最近は右の写真(2006年撮影)のように青色が目立つようになりました。 これは早池峰山ばかりでなく他の山でも同様です。酸性雨の影響なのでしょうか。
稀に白花があります。右の写真の左上隅に嵌め込んであります。
ミヤマアズマギクには地方変異が多く、ジョウシュウアズマギクアポイアズマギクなどがあります。

ハクサンシャジン (キキョウ科)
Adenophora triphylla var. hakusanensis

中部以北の高山ならば、どこの山でも見られます。花色は変化に富み、通常は淡紫色ですが、中には左の写真のように濃い紫色の個体もあります。 早池峰山に咲いているものは、濃い色の個体が多いような気がします。 山野に生えるツリガネニンジンの高山型です。近縁のヒメシャジンとの区別は、葉が3〜5枚輪生することと、花も数個ずつ輪生するので、花茎を数段の花輪が飾っているような形になることです。

ミヤマシオガマ (ゴマノハグサ科)
Pedicularis apodochila

高山のお花畑の代表選手みたいな花です。 近縁のタカネシオガマと棲み分けているのでしょうか。 タカネシオガマが咲いている山では本種をみかけないし、本種が生育しているところではタカネシオガマを見かけたような記憶はありません。
タカネシオガマをご覧になりたい人はこちらへ。

ミヤマアケボノソウ (リンドウ科)
Swertia perennis ssp. cuspidata

早池峰山、南北アルプス、八ヶ岳及び北海道(夕張山系・日高山脈など)のみに分布します。北海道に分布するものはエゾミヤマアケボノソウ( var. stenopetala)として変種として扱われることがあります。
こんな花の形をしていますが、リンドウ科の植物です。離弁花のように見えますが花冠が深く5裂した合弁花です。紫に黒がかかった独特の花色で、花冠の裂片に散らばる斑点が印象的です。各裂片の基部にある2個のイボ状のものは密腺です。
湿った場所を好む為、早池峰山だとコメガモリ沢を登るコースの上部に多く見られます。

ヒメコザクラ (サクラソウ科)
Primula macrocarpa

近年になって北上山地の別の場所でも本種が生育していることが発見されたので、早池峰山固有種ではなくなっていますが、実質的に早池峰山固有種といっても良い花です。
花期が早く、6月初旬から中旬に咲きます。年によっては5月に咲いてしまうこともあります。
この花には、なかなか巡り会えず、早池峰山4度目の挑戦でようやく出会うことが出来ました。 花径は1cm程度、草丈も4〜8cm程度で、日本産のサクラソウの仲間ではいちばん小さいです。
早池峰山と岩木山以外の東北の高山には、ヒナザクラという同じ様な白いサクラソウが咲きますが、これはエゾコザクラ節の植物で、根生葉が内側にカールします。 これに対して、本種はユキワリソウ節に分類される白花のサクラソウで、根生葉が外側にカールする特徴を持っています。
ユキワリソウ節のサクラソウには、ユキワリソウレブンコザクラサマニユキワリユウパリコザクラ等があります。

キバナノコマノツメ (スミレ科)
Viola biflora

近縁のタカネスミレが岩場や砂礫地帯に生育して、いかにも高山植物という感があるのに対して、キバナノコマノツメは亜高山を主な棲み家とし弱々しい感じがします。
葉の形を馬の蹄に見立ててこの名前があります。 日本のスミレで高山に咲くのは、この2種以外にも幾つかありますが、何れも花色は黄色です。精々葉の形で区別するだけですから、日本の高山スミレは色の点では寂しいです。 但し、どのスミレも産地による差違があり区別は容易ではありません。 キバナノコマノツメにはアカイシキバナノコマノツメ(南ア)やジョウエツキバナノコマノツメ(至仏山)といった変種があります。

ナンブトウウチソウ (バラ科)
Sanguisorba obtusa

早池峰山に特産する固有種です。 早池峰山の固有種は登山シーズンの始めの頃に咲くものが多いのですが、この花は遅咲きです。 この写真は8月上旬に撮影したのですが、この頃でもまだ花期には早く、花穂が少なくて写真になるような株は少ないです。お盆の頃が良いのかもしれません。
ワレモコウ属の植物で、近縁のタカネトウウチソウやエゾトウウチソウが花穂の下の方から咲き上がる(無限花序)のに対して、本種は花穂の先端から咲き下がり(有限花序)ます。
名前の由来は、花穂を中国の打紐に見立てています。

ミヤマヤマブキショウマ (バラ科)
Aruncus dioicus var. astilboides

普通の山に見られるヤマブキショウマの変種で早池峰山固有種です。 植物図鑑によれば、
全体に小型で、葉に厚みがあり、袋果は熟しても上向きのまま.......
ははは。何のことだか良くわかりませんネ。 私だって、早池峰山で撮ったから、そう思っているだけですから。
早池峰山の岩場では、結構多く見掛けますが、ハヤチネウスユキソウと違って有名ではありませんので、この花に注目している人は少ないです。 早池峰山の固有種なんだから、"ハヤチネヤマブキショウマ"とか"ナンブヤマブキショウマ"とでも名付ければ、もう少し注目されるのかもしれません。

ホソバイワベンケイ (ベンケイソウ科)
Rhodiola ishidae

東北と北海道の高山に分布します。以前ヒメコザクラに逢う為に登った時に山頂の早池峰神社の土台に本種の見事な株が生えているのを見かけたことがあります。花期には早かったので写真には撮りませんでしたが見事な株でした。今回、期待して登ったのですが、影も形もありませんでした。雌雄異株の植物で雌株は受粉後に子房が紅くなります。
中部地方の高山には近縁種のイワベンケイが生育します。

ナンブイヌナズナ (アブラナ科)
Draba japonica

早池峰山以外では北海道の夕張岳と戸蔦別岳のみで見られる蛇紋岩植物です。 日本産のアブラナ科の高山植物は、ほとんどが白い花ですが、本種とミヤマカラシのみが黄色い花です。
良く分枝して大株になり、先端に鮮やかな黄金色の花を沢山つけます。 花期が早く、6月が見頃です。この花が咲く頃には、まだ他の高山植物が少ないので、蛇紋岩の崩壊地で非常に目立ちます。

オサバグサ (ケシ科)
Pteridophyllum racemosum

植物図鑑などには、中部以北の山に分布と書かれていますが、この花が見られる山は限られます。
写真の花は、厳密に言えば早池峰山のものではありません。早池峰山の南側の薬師岳で撮影しました。 花期も結構早いです。6月に早池峰に登り、小田越に降りてきたら、道を挟んだ薬師岳の登山道にも是非入って下さい。5分もしないうちにアオモリトドマツの林床で、この花の群落に出会うことができます。
1属1種の植物です。シダのような根生葉を機織りの筬(オサ)に見立てて、この名前があります。

ミヤマオダマキ (キンポウゲ科)
Aquilegia flabellata var. pumila

キンポウゲ科の花には変わった構造のものが多いのですが、この花も変わった方に属するでしょう。 どこの高山でも見られますが、早池峰山では個体数が結構多いです。 しかし、写真を撮るとなると絵になる株は意外と少ないのです。

ミヤマカラマツ (キンポウゲ科)
Thalictrum filamentosum var. tenerum

どこの高山でも見られることになっていますが、あまり見かけません。 早池峰山では個体数が結構多いです。 花弁はありません。 通常花びらのように見える萼片も開花時には散ってしまうので、蕊の束だけになって咲いています。 実際の蕊の長さは、1cm程度ですからサムネイルの写真よりもずっと小さい花です。

カトウハコベ (ナデシコ科)
Arenaria katoana

本州の早池峰山と至仏山、北海道の夕張岳と戸蔦別岳のみに稀産する蛇紋岩植物です。 和名も学名も発見者の加藤泰行氏の名前に由来します。
早池峰山の固有種や稀生種には、ハヤチネウスユキソウのように目立つ花もありますが地味なものが多いです。 早池峰山で見られる小型のハコベの仲間は、次のホソバツメクサと本種くらいです。花は似ていますが葉が異なるので見分けは容易です。 葉の形が判り易いようにアップの写真を載せていますが、花径は6mm程度の小さな花です。 本種も激減しています。早池峰山には6回位登っていますが、まだ2株しか見かけていません。

ホソバツメクサ (ナデシコ科)
Arenaria verna var. japonica

中部以北と北海道に分布しますが、東北地方では早池峰山のみで見られます。 細い茎が分枝して株状に広がります。 小さな白い花を沢山つけ、印象が深い花です。
コメガモリ沢ではあまり見かけませんが、小田越ルートの下部に多いようです。

ナンブトラノオ (ダデ科)
Bistorta hayachinensis

早池峰山の固有種です。 本州から北海道までの普通の高山には近縁種のイブキトラノオが生育し、高山草原に大群落を形成しているのを見かけます。 早池峰山にはイブキトラノオは生育せず、本種がぽつん,ぽつんと咲いています。 イブキトラノオよりも花穂が短く、根葉は長楕円形で光沢があります。
まあ美しいというより、珍しい花ということで......

コバイケイソウ (ユリ科)
Veratrum stamineum

早池峰山頂直下の一面のコバイケイソウの群落です。 高山湿原などの比較的湿った草地に群落を作ります。 この場所は早池峰山では比較的遅くまで雪田が残る処です。 撮影時の天気が悪く開放に近い絞りの為、被写界深度が浅くなって手前の花がボケてしまいました。 16年前に登った時は小さな群落だったような気がするのですが、16年間に勢力分布を広げたのでしょうか。 それとも年による差なのでしょうか。
漢字では小梅蕙草と書きます。"けい"は拡張文字です。 unicodeに対応しているブラウザでは表示されていると思います。unicode非対応ブラウザをご利用の方の為に画像で示すととなります。

チシマアマナ (ユリ科)
Lloydia serotina

春先の高山の乾いた草地や岩場に生える小さな花です。 咲き始めの頃はカップ状の花を下向けにつけますが、開花すると横からやや上向きになります。
中部以北の高山では普通に見られますが、花期が早いので、登山シーズン中はあまり見かけません。 早池峰山では、6月にヒメコザクラと一緒に咲いています。

尚、当ページに掲載した写真の著作権は中村和人にあります。 無断転載しないで下さい。
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