「ノーザン・ライトの下の語り手達」

古屋和子(ふるやかずこ)

 ノーザン・ストーリー・テリング・フェスティバルは、白夜のホワイト・ホースで催される。カナダ放浪中の私に、出演しないかと連絡が入った。一昨年三月の事だ。勿論!と私は叫んだ。多民族の語り手達と知り合う絶好の機会だ。だが、詳細は追って、と言ったまま、連絡先となっている友人宅には、何の連絡も入って来なかった。七月、とにかく面白そうだし、ユーコンに向かった。

 初日、開演一時間前に着いてフラフラ歩いていると
「カズコー!」ストーリー・テラーの友人が手を振っている。
「カズコ、琵琶は?」
「?宿に置いて来たワ」
「だって今日語るんでしよ?」
「誰が?」
「貴女がョ」
「!?」
オープニング・プログラムで一時間語る事になっている、という。ノー天気な私も、この時は絶句した。オープニング・プログラムの出演者は、外国からの特別ゲスト達だ。その一人と、当日まで連絡をとらずにたいして心配もしていない主催者…。幸い、数日前にクィーン・シャーロット島の博物館で一時間のプログラムで語ったばかりだ。…イイカ、ナントカナルワ。構える隙も緊張する際もあらばこそ…。で、思い掛けない程、ノッた。

 二日目、食卓で向かい合った女性が、夕刻から語るという。
「来てネ」
「エエ」。
約束の時間になると、別人が語っている。場所も間違えて……ない。
「彼女どうしたの?」
「ナーバスになり過ぎて気分が悪くなってネ」
「……」
「帰っちゃった」
「!?」
「無理にやっても良い事ないものね」
「……(納得)…」

 『北方』と銘うつ以上、勿論沢山の北方ネイティヴの語り手が参加している。シベリアからはチュクチ、オロッコ、ナナイ。ユーコンからはユーピック。アラスカからはクリンケット、アスバスカン。スカンジナビアからは……。といった具合。汎パセフィックのネイティヴはモンゴリアン系といわれるが、殊にユーピックの人達は日本人そっくりで、顔が会うと思わず双方でニヤリとしてしまう。隣の爺様婆様、姉サに兄サといった顔がズラリと並ぶ。音楽は大漁節、踊りは盆踊りそっくり、とくる。おまけに底抜けに陽気で楽しくて、北米のネイティヴにみられがちな重苦しさが全くない。会場は湧きに湧いた。メイン・ダンサーの婆様の愛敬溢れる滑稽さもあって、割れる様な拍手、アンコール!満面笑みを浮べた一同、又同じ曲を繰り返す。前よりノッている。拍手、拍手、アンコール!更に幸せな笑顔となった一同又々、同じ曲を繰り返す。更にノリが良くなっている。拍手、拍手、アンコール!アンコール!更に更に幸せな一同、又々々、同じ曲を……それはもう、ノリマクッたのでありました。

 衒いも、構えも、気取りもない。分ち合いたい喜びや悲しみを山程持っている人達。

 真夜中過ぎても明るいユーコンの空の下を、時はノンビリと流れて行く。

:この文章は 国立劇場ニュース 1994年9月号No.314 に掲載されたものです。
「国立劇場ニュース」表紙

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