♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

詩集『廻るときを』
    an Albrecht Dürer


●騎士と死と悪魔
                 Ritter, Tod und Teufel
 

   束縛なき身の気楽などと誰が羨むか
   賽の目ひとつに血眼となる輩と
   信義を争わねばならなかったこともある
   斯かる一生をなお収得と尊ぶか

   戦禍の過ぎ去ったあとには
   蝗に食い尽くされた耕地のように
   どこまでも褐色の景色ばかりがつづく
   村から村への道は残煙にかすれ

   そらそらあれがお目当ての分かれ道
   今度こそは抜け目なくおやりなさいと
   傍らをゆく道連れのひとりが
   またしても諂うように囁く

   わが悪しき伴侶のうちのひとりだ
   油断すればきっと足下をすくわれる
   一旦地に倒れれば容赦はしない
   その魂胆が見え透いている

   漸くたどりついた世の果ての都
   錆びついた町の門をくぐると
   時は収穫を祝う祭りの頃合いだが
   大路は生業の声も凍てついて

   右左にのぞいた冥い路地の奥から
   幽かに嘆きのことばが聞こえ
   そこに誰か居るのかと問い質すなり
   しいっ と応える密かな声

   何かを喰らっているのか
   骨の砕けるような音さえする
   辺りに立ちこめる恐れと
   浸みだした腐れを嗅ぎつけたか

   寡黙な仕草で付いてきた
   いまひとりのおぞましき伴侶も
   欣欣として周囲を踊りはじめ
   狂い犬さながらに唾液を垂らす

   媚びる敵の策略をきっぱりと斥け
   阿りをしらぬ残忍な供と親しむ
   積年の務めを二つながら果たすべく
   久しくわが遍歴は定められた

   両者に道連れと馴染んだいまは
   いかなる処であれ赴く備えはできた
   途の果てに辿りついた都の有様が
   心躍らせぬとてなんの悔いが残ろう

   悪しき道連れを上手く誑かして
   彼方に甦る望みに心惹かれる者もあるが
   裡に根拠を欠く願いに賭けるのは
   これもまた自らを欺く迷妄のひとつ

   かりにわが分を超えて報いられるか
   それこそは予期せぬ恩寵に帰すべきこと
   義の立たぬ世にひとり巧みに
   己を救ったとてなんの益となろう



「詩と素描の部屋」へ

表紙に戻る