魚の眠り ――Aquarium
                 川中子義勝
 
 
 
 
 
  1
 
 
 空をちりぢりにひき裂いて
 寒気の隊列が通りすぎていった
 昨日の空が巻きとられたあとに
 暁が今日の陽を刻もうとしている
 
 なおもうねりの止まぬ海面に
 ひとすじ差しこむ光を目指して
 海溝の暗い谷間から
 魚の群れが一斉に昇りはじめ
 
 勢いよく跳ねあがる
 夥しい紡錘形の輝きは
 透きとおった巨きな境に遮られ
 忽然と別の世界に移される
 
 二つの世界がかさなって
 総てが置きかわってしまっても
 群れはその変貌に気づかず
 ひとしく微睡みの境を泳いでいる
 
 
 
 
 
 
  2
 
 
 通りすぎてゆく風の方位が
 世界をそのつど新しくする
 曙光や驟雨が一日を獲得する
 密かな手続きを繰りかえしながら
 
 自らに代わるもののおかげで
 贖われた命を生きている
 港に停泊する魚形の甲板には
 世界のこの仕組みが刻まれている
 
 街はまだ魚の眠りを眠っている
 僅かに朝の営みへ起き出した
 女たちの肩のあたりに
 世界が仄かに明るんでいる
 
 目覚めて魚のように跳ね回る
 児らを巧みに抱きあげる
 母たちの腰のあたりに
 世界が仄かに明るんでいる