時はその岸辺を知らない

                    川中子義勝




 くろぐろと地に整列した屋根に
 不釣り合いに高いテレビのアンテナが
 等しく西の彼方に向いている

 時はその岸辺を知らない
 群雲はひとつひとつ鈍い光をまとい
 黙々と東の彼方へ流れてゆく

 夜の方角から風が吹きよせると
 書物の頁が繰られ次々と
 舞い上がりまた速やかに重なってゆく

 まだ書かれていない頁がどれも
 すでに古びて黄ばんでいる
 記されたはずの声が畳み込まれてゆく

 ついに灯されることのない沈黙が
 驚きに開かれた口唇の形で
 暮れゆく名残の空に懸かっている

 虚ろな訴えのみ対岸に漂着するとき
 言葉は雫となって滴り落ち
 砂のなかに密かな物語を記してゆく

 時はその岸辺を知らない
 ただ今の刻を惜しむかのように
 繰られる頁の縁に次々とふれてゆく

 少年が願いをこめて抛った飛礫(つぶて)が
 水面を切ってゆくように
 時が夜の水面を次々と切ってゆく