地にては旅人
            川中子義勝
 
 
  船着場を鴎が舞っている
  河の流れをさかのぼり
  大陸の奥深くまでやってくる
  気がつけば彼らはいつも
  逐ってくる惨事の記憶のように
  風景の中空(なかぞら)をただよい
  泊りを顧みることもない
 
  おさだまりの挨拶と記帳ののち
  導かれた最上階の天窓からは
  連なる赤屋根のうえ
  くろぐろと陽の影が覗く
  家々は互いに肩を寄せ
  怯えた羊の群れのように
  中心に集まろうと犇めいている
 
  道に薄い翳を曳くように
  いつも自身の精神(こころ)を
  二三歩遅れて引きずってきた
  行きついた宿りもまた鳥の領分
  しばらくは宙(そら)の余熱のもと
  鳩の一族と起き臥しを
  共にすることになるのだろう
 
  あるいは冬の蜜蜂のように
  巣箱の奥で堪えしのび
  世界の甦る日を待つのだろう
  子供の仕草で陽に手を翳すと
  真昼なのに空いちめんが暗くなり
  世界の芯が透けて見える
  時間の隙間から光が漏れてくる