詰草の盟約 ――蜜蜂のために
              川中子義勝
 
 
  いまを去る四十年のむかし
  わかれを詰草の契りになぞらえた
  二年の月日をともに学んだ
  太(エ)母(ファ)と司(ロラン)と蜜蜂(ビーネ)とヨシア
  ひとりは郷里で医者に嫁いだ
  ひとりは教師 ひとりは牧者となり
  ひとりは遥かアルタイを越えた
  はてしなく連なる大陸の起伏
  月皓皓と懸かる中(なか)空(ぞら)の道を
 
  異なる空と星座の下に暮らし
  齢のはてにいつしか道は近づく
  涙ぬぐわれる永劫のほとり
  傍らをあなたがしずかに歩んでいる
  再会は望外のよろこびとなろう
  だが日没を間近にひかえ
  能うならば懐かしい顔に見(まみ)え
  たがいの瞳に映る旅路をかさね
  時の光彩をいま暫く耀かせたいと――
 
  とおい海を薫らせる東風のように
  もの言わず頷く貴方の眼差し
  翼廊に迎えた旅のすがたに
  篤く思い起こしていました
  あなたは龍の血を受けた方と
  かつてわかれ際に手をさしのべ
  掌に託された太古の粗鉱(エルツ)を
  これからは貴方が灯してほしい
  苛む言葉が鍛えた炎のしずくです
 
  年月(としつき)の愁いが無いわけはない
  後姿の輪郭がすこ透けている
  翼ある者すら凍えた足を曳く
  旧い言葉は廃れ 沃土は軋んでいる
  星墜ちるさまはいずこも同じ
  叫びは時空を重ねて降りつもる
  黄昏に佇(た)つあなたの風景を心に刻む
  太(エ)母(ファ)も司(ロラン)もそれぞれに灯りを
  掲げているとあなたは物語った
 
  白く赤く黒くまた青白く
  鬣の色をたがえた四頭の馬が
  手綱を解かれて疾駆していく
  幻は若き日に夢みた詰草の誓い
  騎士は遂に地上の縁(えにし)を欠くだろう
  地の下にはしかし巨きな岩盤が廻(めぐ)り
  とおく彼らの足下まで通じている
  この日踏みゆく一歩一歩の足裏に
  あなたの応える足取りを感じて