魚の影
           川中子義勝
 
 
  額から汗をしたたらせ
  手作りの銛を携えて
  子どもは川から帰ってくる
  目にしたばかりの出来事に
  心を捉えられ 俯いて
 
  対岸の中州を塞きとめ
  半日がかりで作りあげた
  緩やかな澱みに
  鱗のかがやきを認め
  心躍らせ浅瀬を渡るそのとき
 
  視野を外(はず)れた高みから
  いきなり降下して
  水面を打つ激しい勢いとともに
  羽ばたく翼の陰に
  抗わぬいのちが光った
 
  ときの深淵と
  記憶の流れをさかのぼり
  浮かびあがる悔恨は
  水面を真下から仰ぎ見るように
  いきいきと揺れている
 
  刻々と移りゆく水面の
  しかし揺るがぬ隔たりを
  無いものとして越えさせるのは
  熱く咽に食いこむ針か
  襲うものの鋭い鉤爪か
 
  漸く芽生えた新芽の間に
  木に掛けられた
  昨冬の犠牲(にえ)の姿を認めて
  朝を歩み出す子どもは
  尾鰭を翻し 夏を跳ねあがる