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旅や遺跡をテーマにした本を、木っ端微塵に書評するページです

閻魔帳ミシュランの意味

★★★★★ 十分に面白く、内容も充実している。万人にお勧め
★★★★   面白いが、好き嫌いはあるかもしれない
★★★    読ませる水準に達している。あとは興味の問題
★★      読み物としては水準に達していないが、興味があれば読むのもいい
       つまらない。読み物の体をなしていない
なし      論外。こんなの本ともいえない。紙の無駄



注 採点の基準について

本の採点は、基本的に「その本が読み物として、面白いか。読者を最後まで読ませる力があるか」を基準に行いました。と、いうのも、旅本は自己満足的なものがきわめて多く、読者に読んでもらう、という意識の本がとても少ないからです。これは、遺跡本、歴史本も似たり寄ったりで、わかっているのは自分だけ、という本がなんと多いことか。

したがって、最後まで読ませる水準に達している、と採点者が判断すれば3つ星は確定します。その上で、情報量や、おもしろさ、新鮮さを加味して、4つ星、5つ星を決めました。読ませる水準に達していないと判断された本は、「辛抱すれば読める」「読みにくいが、内容は充実している」といった判断があれば、2つ星にしています。もっとも、あまりに読んでいられないような本は、1つ星です。また、読み物としてもつまらなく、内容も貧困であれば、やはり1つ星です。星なしは、どうしようもない本ですが、こういう本は、あまり採点者も手に取らないので、このコーナーでの数は少ないです。しかし、世の中には、星なしの本が、一番多いと思います。

最後に、いうまでもありませんが、これは本の採点者の主観です。この採点者(要するにホームページ作成している私です)は、歴史小説好き、やわらか旅本好き、といった特色があります。本の好きずきは、人それぞれですから、異論もあるでしょう。それは、採点者も承知しておりますし、みなさまもご承知おきください。



INDEX  
新着図書   地域を限定しないもの
アジア   東アジア    東南アジア   南アジア   西アジア
ヨーロッパ   アフリカ  南北アメリカ  オセアニア・その他



新着図書

将軍様の鉄道 北朝鮮鉄道事情(国分隼人著 新潮社)★★★
外国の鉄道について調べる、というのは簡単なことではありません。日本のように、路線や車両の情報が公開されていない国も多いからです。発展途上国となればなおさらで、鉄道が軍事的な意味を持つ場合などは、実態は闇の中、なんてこともあります。北朝鮮など、まさにその典型例でしょう。自由に旅行すらできない国ですから、鉄道を調べるどころではありません。そのなかで、この本は、まさに出色の出来、といえます。北朝鮮の鉄道路線図から始まり、急行・準急の運行形態、機関車の全リスト、地下鉄の状況などが詳細に紹介されています。はっきりいって「どこで調べてきたの?」というような内容ばかりです。付属のDVDには、SLの運転室の映像まであります。鉄道趣味のない国で、いったいどういう経緯で蒸気機関車の運転室でVTRを回し、それが国外流出したのか、想像もできません。構成もよくできており、北朝鮮の鉄道の知識ない人でも(ある人なんているのか?)、十分楽しく読むことができます。

シベリア鉄道9400キロ (宮脇俊三著 角川文庫)★★★
この本が出版されたのは1983年のことだ。あらためて読んでみると、宮脇氏の執筆への気合いというか、心意気の感じられる作品である。作家デビューしてまだ間もないころだろうか。風景や出来事の描写に力があり、引き込まれてしまう。本来、シベリア鉄道の旅というのは、何も書くことがない。ひたすら鉄道に乗っているだけで、しかも景色は単調だからだ。ロシア語ができるのならともかく、できないのなら、ロシア人の話もそうは書けない。僕もシベリア鉄道について語れと言われても、ちょっと困る。それを本1冊分書ききっているのだから、まあすごい。そして執筆から四半世紀が経った、という目線で見るとまたおもしろい。昔は、外国人はナホトカからしか乗れなかったし、列車にも外国人専用レストランがあった。しかし、今はウラジオストックから乗れるし、外国人レストランも廃止されただろう。何より、社会主義ソ連という国が崩壊し、いまは資本主義国家ロシアである。時を経て、この本は、鉄道から見た文明の記録にもなっている。古い本だし、誰にでもオススメするわけではないが、読んでみて損はない一冊。

地域を限定しないもの


歩き人ふみの徒歩世界旅行(児玉文暁著・文芸社)
リンクさせてもらっている、歩き人ふみさんが出された本。歩いて世界を回るなんて、なんて無謀な、なんて思っていたけれど、その内容がこの本を読むとわかります。もし、歩いて世界を回りたい、と思っている人がいれば、参考になるでしょう。読み物としては・・・。うーん。リンク仲間とはいえ、公明正大に主観で評価する管理人としては、厳しくいうほかありません。もっと読者のことを考えてあげましょう、もっとを自分をさらけだしましょう、とだけいっておきます。


ウはウミウシのウ(宮田珠己著・小学館)★★

紀行文界の「奇才」宮田氏の第3作。得意の宮田節炸裂! かと思いきや、残念ながらちょっとパワー不足。世界の海をシュノーケリングして歩いた旅行記で、もちろんそれなりに笑わせるのだけれど、宮田節の鋭さからいえばイマイチ。とくに前半がちょっとだるいです。しかし、「海のへんな生物が好き」という、宮田氏の趣味はよくわかりました。


科学が明かす古代文明の謎(金子史郎著・中央公論社)

アンコールワットのことが出ているので買ってみたけれど、1900円丸損である。いったい、何をテーマに書いているか、本人がわかっていないのではないか。タイトルはおもしろそうだし、装丁も悪くないのだが、中身は最低。言うべき言葉もない。


各駅停車で行こう(蔵前仁一著・旅行人)★★★

蔵前氏が、旅行人から出した、久しぶりのエッセイ集。「西日本新聞」にかつて連載していたショート・エッセイに、旅行人のコラム「沈没日記」などを加えたものだ。正直言って、蔵前氏の愛読者には、どこかで読んだか聞いた話ばかりに感じるんじゃないかと思う。。まあ、書き下ろしじゃないんだから、しかたないんだけど。というわけで、旅エッセイのレベルとしては高いけれど、熱烈な蔵前ファン以外にはとくにおすすめしません。


神々の指紋(グラハム・ハンコック著・翔泳社)★★

大ベストセラーになったが、その後「ウソが多い」「盗作だらけ」と話題になった本。たしかに、内容的には、これまでにも「ムー」系の雑誌でとっくに取り上げられていたことの焼き直しなどが多かったらしい。そうしたことを全て無視、容認したとすると、まあまあおもしろい。特に、冒頭の「紀元前に南極大陸の地図が存在していた」ことの立証は、思わず「えっ」となってしまう(まあ、これも異議が多いらしいが)。とはいえ、途中からは、どうもダレてくる。ま、特にこの方面に興味のある人以外には、おすすめするほどではない。


この地球を受け継ぐ者へ(石川直樹著・講談社)

人力地球横断プロジェクト「P2P」、というのがあり、そこに参加した著者の日記。早稲田の現役学生で、20歳そこそこの著者は、いろんな意味でたいした青年だとは思う。けれど、どこまで読んでも「P2P」の意義がよくわからなかった。極点のあたりはかなり大変そうだったが、あとはチャリンコを、数人で交代で漕いで「地球横断」って、何なのだろう。別におもしろい本でもないし、これならメスナーや植村直巳の本でも読んだほうがいいでしょう。


沈まぬ太陽(山崎豊子著・新潮社)★★★★★


旅本、といえるかどうかは自信がないが、旅行者の航空会社に対する関心度は、一般の人より高いと思う。そういう意味で取り上げた。これは、日本航空で実際に起きた事件をもとにした小説。1巻と2巻のアフリカ編では、同社の吐き気がするような労組関係が赤裸々に描かれているし、3巻の御巣鷹山編では、ジャンボ機墜落事故の補償交渉の汚さをあぶり出している。4,5巻は、会社経営陣の醜悪。はっきりいってとてもおもしろい。久々に出会った「徹夜本」でした。ま、フィクションではあるにせよ、こんな会社の飛行機には乗りたくないね。


深夜特急(沢木耕太郎著・新潮文庫)★★★★

若き青年が、インドからロンドンまでバス旅行を思い立った、という旅行記。いちおう、若き日の沢木氏の体験談に基づいているそうだが、ノンフィクションの実話とは、とても思えない。沢木氏はノンフィクション作家だけれど、この本にはたぶんに演出が含まれていると思った方がいい。ですから、読む人は、そこを割り引くこと。自分も海外に旅に出れば、こんなわくわくどきどきのスリリングが待っているんだ! なんて思うとエライ目に遭うことでしょう。普通のヒトは、マカオの博打で大逆転、なんてありえません。本自体は、さすが沢木氏だけあって、読ませる文章でぐいぐい引っ張っていく。ただ、途中から少しづつ、話がダレてくる気がするのは、あなただけではありません。「最後まで読むぞ」という気力がないと、たぶん終点までだどりつかないでしょう。


旅ときどき沈没(蔵前仁一著・講談社文庫)★★★

本の雑誌社からのハードカバーが、講談社文庫で再刊。蔵前氏のエッセイ集である。いつもながら勢いのある文章で、楽しませてくれる。まあ、どうしても「ゴーゴー」シリーズよりは落ちるけど。


旅人たちのピーコート(蔵前仁一著・講談社)★★★

蔵前氏の最新刊。20年前のアメリカ旅行などが収録されている。「20年も前の旅行を書くようじゃ、いよいよネタも尽きたのね、なんて言われそうだが、いいのだ」と、蔵前氏は述べているが、そのアメリカ旅行記はおもしろい。蔵前氏自身が、自分の過去の話で食っていけるレベルの作家になりつつある、ということもあるだろうし、単純に古い旅行のさまが、興味深い、という点もある。逆に、最新の「幸福のアラビアを求めて」というイエメン紀行は、いまひとつ。短い旅をだらだらと書いてしまっていて、蔵前流の切り口は冴えない。トータルすると、蔵前本としては上位にランクされるものではないですね。


旅はお肌の曲がり角(岸本葉子著・講談社文庫)★★★

「よい旅を、アジア」が中編のエッセイを集めているのに対し、こちらは短編が多い。しかも、こちらのほうが後から出ているので、岸本さんの前作を呼んだ人には、同じエピソードが出てきたりして、「あら、ネタの使い回し」と思うことも。ただ、やっぱり読みやすい文章で楽しめる本には違いありません。岸本さんの本を読むなら、違うのからにしたほうがいいかな、とだけ言っておきましょう。


墜落の背景(山本善明著・講談社)★★★

「沈まぬ太陽」を紹介したので、その関連本としてあげておく。これは、羽田沖墜落事故を中心に、日本航空で事故処理と安全対策に携わった著者の経験をまとめたものだ。元日本航空の健康管理室副室長という著者の肩書きから伺えるように、外部からではなかなか知ることのできないエピソードが多く含まれているのが読みどころ。ただ、著者は労組にやや批判的で、経営サイドに近い考えで「安全の論理」を構築してきており、そのあたりが「沈まぬ太陽と」と視点が違ってきておもしろい。とはいえ、ここでも浮かび上がってくるのは、この会社のあまりに不健全な労使対立と経営体質で、やっぱりこんな会社の飛行機には乗りたくないと思うのでありました。


添乗員騒動記
(岡崎大五著・旅行人)★★★

旅行会社に属さないプロの添乗員、通称「プロテン」の著者が、世界各地に添乗したときの騒動を書く。添乗員といえば、バックパッカーなら一度はなってもいいかな、と考える職業。でも、すごい大変な仕事、というのも知られている。どこがどう大変なのか、具体的な体験で、著者は語っている。添乗員としての旅行記だから、別段堅苦しくもなく、変な自負や押しつけがましさもない、好感のもてる本である。あまり知られていない添乗員の実態も描き出されているからか、最後まで興味深く読むこともできる。でも、これを読んで、添乗員になりたい、と思う人はほとんどおらんだろうなあ。


添乗員奮戦記
(岡崎大五著・旅行人)★★★

添乗員騒動記に次ぐ、岡崎氏の第2作。内容的には前作と同様で、添乗のエピソードを面白く語っている。どうしても前作との比較になってしまうけれど、今回は文章を作りこんでいる、という印象を受けた。文章に「仕掛け」を入れるのが上手になっているんですね。それはそれで悪いことじゃないんだけど、ちょっと「作りすぎよ」と思うこともしばしばでした。岡崎氏の著作を読んだことがない人には「騒動記」を先に読むことを勧めます。こっちも、おもしろいことはおもしろいんだけどね。


八十日間世界一周 (ジュール・ヴェルヌ著 江口清訳 角川文庫)★★★★
1872年、ロンドンの資産家フォッグ氏は、「80日間で世界一周できるか」という賭を友人としてしまい、自ら実行する、というストーリー。同年フランス紙に連載され、大評判となった作品で、日本でも明治初期に翻訳出版された名作である。僕は最近になって初めて読んだが、シンプルな登場人物設定に、予定調和ながらメリハリのあるストーリー、当時の世界観を窺わせる情景描写と、非常によくできた作品である。世界を旅する現代のツーリストにもおすすめできる。
ところで、「ロンドンまでバスで行けるか友人と話をしたのがきっかけで旅に出た」というストーリー設定の物語をご存じですよね。そう、『深夜特急』です。両作品は物語の基本構成が似ています。沢木耕太郎は、『80日間世界一周』をモチーフにしたのかも知れませんね。

バックパッカーパラダイス(さいとう夫婦著・旅行人)★★★★★

マンガ家夫婦が、マンガを書きながら世界一周をした。そのマンガ旅行記である。うーむ、こういう手もあったか、と思わず膝をたたいてしまうおもしろさ。バックパッカーの生活、生態、考え方などが、実によく表現されている。こういうことを、文章の旅行記にすると、たいてい失敗するのだが、ギャグを交えてのマンガでは大成功。バックパッカー初心者の人は、是非この本を読んでから旅に出るといいし、ベテランパッカーは、この本で、旅に出た気分になれる。なんだか褒めてばっかりでシャクだけど、しかたないのであった。ただし「バックパッカーパラダイス2」はやや落ちる。


船にみる日本人移民史(山田迪生著・中公新書)★★

日本人の海外移民史を、移民船の変遷を中心に語る。というより、ほとんど南米移民船の変遷の概説です。例えば、移民船というのは、窓もない貨物室に蚕棚のようなベッドを並べて運んでいたこと。途中で病気が流行り、何十人もの死者を出したことがあること。船内ではとにかく水が不足し、洗濯もままならなかったこと。風呂は海水だったこと。トイレは50人に1個くらいだったこと・・・。私は個人的にはそこそこおもしろかったけれど、概説であって読み物とはいえない本なので、興味のない人にはまったくつまらないでしょう。


辺境・近境(村上春樹著・新潮社)★★★

ただの旅行を、おもしろく書くというのは、本当に難しい。ところが、さすがは当代随一の文章家の村上春樹である。読ませてしまう技術には、舌を巻くほかない。ちまたの書評では「ノモンハンの鉄の墓場」と「神戸まで歩く」が評価されているようだけれど、「神戸」は、書評しやすいテーマではあるが、実際の出来はいまいち。バックパッカー的には、「メキシコ大旅行」がおもしろいのではないかと思う。遺跡ファンとしては、「ノモンハン」も気になるし、行ってみたくなる。ただ、「ノモンハン」はカネを使っての手配旅行なので(それが悪いというつもりはないが)、参考にはならないなあ。


ラインホルト・メスナー自伝(メスナー著・松浦雅之訳・TBSブリタニカ)★★★

登山に興味のある人なら、メスナーの名前くらいは知っていると思う。世界初のエベレスト無酸素登頂や単独登頂、8000メートル峰完全征服などを成し遂げた人物だ。まさしく登山界の超人と言っていい。そのメスナー自身による自伝がこれ。若い頃からの登山歴を語っていく文章は、淡々としているが、思わず読み進んでしまう。メスナーがさりげなく書いていることが、あまりに凄いことばかりだからだろう。400ページを越える大作だけど、登山に興味があれば、最後まで読めるでしょう。


りっぱなバックパッカーになる方法(シミズヒロシ著・情報センター出版局)★★

何気なく手にしてみたら、なんと僕のことが書かれているではないか! とびっくりしたので取り上げます。うーむ、シミズヒロシシミズヒロシ・・・、あ、10年前にアマディオ(安宿)で会った清水さんか、そうかそうか。うーむ。いまだにパッカーしているのね。というきわめて個人的な理由で取り上げました。基本的には半マンガのお遊びの本で、とても書評がしにくいのですが、とくに人に勧める内容でもないので、二つ星くらいにしておきます。あ、僕が登場するのは・・・・。内緒


アジア関係


アジア定住(野村進著・めこん)★★★

日本を離れ、アジアの各地に定住した人たちの物語。それぞれが、一人語りで自分の境遇や、思いなどを語っていくさまは、切々としながら読者に訴えかけてくる。タイのボクシングチャンピオンに嫁いだ元女優。マレーシアで蘭の栽培に命を賭ける元日航マン。フィリピンで大ヒット曲を飛ばした元モルモン教徒。ああ、日本人って、すごい。俺にも、こんなことできるんだろか、なんて思いを馳せてしまう。


アジアの旅の五十音
(前川健一著・講談社文庫)★★

ご存じ、タイの達人前川氏の最新刊。といいつつ、この書評では初登場ですね。この本は、五十音順に並べたテーマごとに、海外旅行にかんする超ショート・エッセイを並べていく、というもの。正直な話、全巻を通じて読み切るようなものではありません。使い方としては、@鞄に入れて暇を見つけて読む。A会社において暇を見つけて読むBトイレにおいて読む といった感じ。要は、ほんの2〜3分の時間に読みきりで楽しむもの、ということです。こういう本が悪いとは言わないが、カネを出して買うほどのものかどうかは「?」。前川氏の本を読むなら、他のにしましょう。


アジアのディープな歩き方
(堀田あきお著・旅行人)★★★★★

東南アジアを旅行しているバックパッカーを主人公としたマンガ。パッカーと等身大のストーリー展開は、なかなか読ませる。とくに、タイのリス族を訪れるあたりのくだりは、秀逸といっていい。物語自体はフィクションだが、ノンフィクションが多い「パッカー物語もの」のなかでは、逆にフィクションということで成功しているのではないか。ディープかどうかは別として、万人向けのコミックとして楽しめる。ただ、上下巻合わせて2900円というのは、マンガを買うにはちょっと高いですね。立ち読みなら2時間かかりませんが・・・。これ以上は申しません。


アジアの友人
(下川裕治著・講談社文庫)★★

前作「アジアの誘惑」(下欄)はどうしようもない本だったけれど、こっちも第1章を読んでいる途中で、捨てちゃおうかと思った。くだらない「体験的アジア論」が延々と続くからだ。しかし、第2章に入り、日本で暮らすタイ人不法滞在者のルポは、なかなかおもしろかった。が、第3章に入るとまたまた失速。「近頃のバックパッカーは・・・」論になってしまい、何が言いたいかはわかるけど、そんな話をわざわざ書くなつまらん、という感じです。全体的に、前作同様「バックパッカーじゃない人」向けに書かれた本じゃないので、パッカーは買う必要ないでしょう。


アジアの誘惑
(下川裕治著・講談社文庫)

「元祖バックパッカー」ともいえる下川氏のアジア旅行エッセイ。しかし、元祖だからか、海外貧乏旅行に気負いすぎじゃないかなあ、と思われる文章です。そんなに頑張るなよ、と思ってしまう。ま、これは時流でしょうが。「旅のポイントはゆっくり歩くこと」「今日は何をしようか」「貧乏旅行実践講座」などといった表現は、「何を今更、そんなことを本に書くかね」と思ってしまう。バックパック未経験者向けの本。われわれパッカーは、買う必要なし。


アジアン・ジャパニーズ
(小林紀晴著・情報センター出版局)★★★★★

新聞社の社員カメラマンを辞した著者が、アジアを旅するバックパッカーにインタビューして歩く。「バックパッカーの素性、本心」というのは、案外バックパッカー同士でもわからないもの。ドミトリーで同室になったって、面と向かって真剣に、自分が何を考えて旅をしているかなんて、意外と話さないものね。そういう意味で、バックパッカーが読んでも興味深く読み切れる。文章もキレがいい。ミソは、帰国後に、旅先で出会った人を再取材していることだ。「バックパッカーが帰国後どうしているか」。これは、相当、みんな知りたいテーマだと思う。再取材まで手を抜かなかったことを、評価したい。


ゴーゴー・アジア
(蔵前仁一著・凱風社)★★★★★

ご存じ、「旅行人」編集長・蔵前仁一氏の「ゴーゴー」シリーズ第2弾。バックパッカーにとって、いわば当たり前のことしか書いていないんだけど、おもしろい。手軽に読み進めます。また、発刊当初は感じなかったけれど、いま読み返してみると、たった10年ほどで、アジアの旅行事情がだいぶん変わったことに驚かされる。蔵前氏が旅行していた80年代半ばは、中国では「没有」の嵐が吹いていたし、コーラなんて街で売ってなかった。それが、いまや、「没有」と言われることは稀になったものね。「没有の嵐」の意味が分からない人、一回読んでみてください。「旅本」の中でも屈指の名著です。


旅の理不尽
(宮田珠己・新風舎)★★★★

これは、著者が大枚百数十万円をかけて自費出版したものである。しかし、これを自費出版させた新風舎のセンスを、僕は疑う。こんなにおもしろい本ならば、自費なんかにしないで、きちんと出してもいいんじゃないか。初版1万部でもいいんじゃないか!と思わせるおもしろさである。基本的には、アジアの旅行記で、文章のおもしろさで読ませる本である。したがって、とくに新しい情報があるわけでないが、バックパッカーが遭遇する事件を独特の視点で描いているのが、じつに共感できたりする。ま、理屈はどうでもいい。読んでいるうちに笑い転げるのは間違いないだろう。最近、小学館文庫からも刊行された。


沈黙
(遠藤周作著・新潮文庫)★★★★

いまさら書評するような本でもないと思うけど、旅本という観点から取り上げた。なぜなら、今年はマカオ返還の年。「沈黙」は、マカオの宣教師が禁教下の日本に潜入、布教する宣教師の話だからだ。旅本的観点から見ると、マカオ第一の名所である「天主堂」などの教会を見る前に、読んでおけばいい本だと思う。「天主堂」には、日本人で殉教した信者たちの骨が残されていたりするが、この本を読んでいけば、少しは感慨が生まれるのではないか。内容的にもしっかりした、読ませる小説です。


夢街道アジア
(日比野宏著・講談社文庫)★★

「切なくハードな旅」なんてオビに書いてあるけど、バックパッカーにすれば、別にハードでもなんでもない旅行記である。バックパッカーが、ガイドやシクロの運転手を通じて知り合った、その国の人の話が多い。そういう意味では、ありがちな旅行記ではある。ただ、おもしろい経験だけを、切り取って作ってあるので、わりと興味深く最後まで読むことはできます。でも、なにも得るモノはないでしょう。


よい旅を、アジア
(岸本葉子著・講談社文庫)★★★★

ちょっとした暇つぶしのために買った本だったけど、意外と面白かった。著者は、東大出の才媛?で、北京での留学経験や、アジア各地を旅したときのエッセイをまとめている。読みやすくて嫌みのない文章は好感が持てる。男性の読者としてなるほどと思ったのは、女性は海外ひとり旅をするとき、こんなに用心しているんだな、ということ。夜に後ろから後を付けられたくらいで、「生きて帰れないかも」なんて、なかなか男は思わない。逆に、女性ならではの、現地男性から受ける歓待、淡い恋など、うらやましい点もある。バックパッカーともツアーとも違う旅の視点が面白い本です。


東アジア関係


永楽帝
(寺田隆信著・中公文庫)★★★

長城を越えて漠北に遠征すること7回。鄭和をして南海に大艦隊を派遣し、西域への進出も果たし、遠く樺太にも兵を送った。東西南北へ中華帝国の勢威を広げた永楽帝は、漢民族が誇る大英雄のひとりなんだけど、日本人には、あんまりなじみがない。その永楽帝の評伝がこれ。「ライバル」チムールや、通商相手の足利義満との関係なども書かれている。内容はそれほど深くないが、素人には十分。平明な文章で、無用な学術引用もなく読みやすい。掘り出し物の一冊、という感想を持ちました。


韓の国紀行
(司馬遼太郎著・朝日文庫)★★★

「街道をゆく」シリーズの第2巻。司馬氏の韓国紀行をエッセイだ。ただ、内容的には、正直言って不満が残る。司馬遼太郎大先生に僕ごときがものを言うのもおこがましいですが、まあ、「韓国与太話紀行」ですね。加羅、新羅、百済の故地を順番にまわっていく旅なのだけれど、日本との関わりの話ばかりになってしまい、韓国の古代史に切り込む迫力はありません。旅行中の韓国人との出会いなど、そんな話が分量の多くを占めています。もちろん、日本を代表する作家の作品ですから、読み物としては、十分に面白いですが・・・。韓国史を知るために読む本としては、不適切でしょう。


キジル大紀行
(NHK「キジル」プロジェクト著・NHK出版)★★

NHKのBSスペシャル番組のスタッフが取材した内容を一冊にまとめた本。従来、キジル石窟をコンパクトにまとめた本はなかったから、その意味で貴重な一冊である。文章は、複数の取材スタッフが分担して書いているので、正直読みやすいとはいえないし、上手とも言いづらい。ただ、キジルのポイントは押さえているので、クチャに行こうとしている人ならば、読んで損はないでしょう。


コリアン世界の旅
(野村進著・講談社文庫)★★★

力作である。「韓国・朝鮮」という、一種タブーにも近いテーマを、手抜きのない取材で開いていく。その力量に目を見張る。鋭い視点と、綿密な描写力も卓越している。長編ノンフィクションは、えてして読みづらいものだが、この本に限っては、当てはまらない。在日韓国・朝鮮人を中心に、取材対象に何日も同行取材。その心理を聞いていく。旅本でも遺跡本でもないが、韓国という異国を知るために、不可欠な本かも知れない。ちなみに、いわゆる「旅行記」ではないので、注意。


玄奘三蔵
(慧立/彦宗・長澤和俊訳・講談社学術文庫)

玄奘の西域、インド紀行の原書。正確には「大慈恩寺三蔵法師伝」の前半部分の現代語訳である。玄奘三蔵が、苦難の末にインドにたどり着き、求道する姿を弟子が記したものだ。史料ととしては第一級で、シルクロードからインドにかけての、おなじみの遺跡が次々登場するから、興味深いといえば興味深い。しかし、なにせ唐代に書かれた原書なので、はっきり言って相当の興味のある人でないと、読むのは大変。しかも、途中からは、玄奘が旅先のあちこちで奇跡を起こすような話ばかりになって、「なんじゃこりゃ」と思ってしまう。気合いの入った人しか読んじゃいけません。


西域をゆく
(井上靖 司馬遼太郎著・文春文庫)★★★

いまは亡き両氏が、1970年代に中国政府の招きで初めてシルクロードを訪れた。そのときの対談集。対談とはいえ、両氏の歴史に関する知識はものすごく、その博覧強記ぶりには驚かされる。また、文革が終わったころの中国に特権的に訪れたわけで、そのときの様子も興味深い。とはいえ、時代が時代だけに、「新中国」に対する親しみや、いまから思えば誤解としかいいようのない擁護論も出てくる。「新中国の少数民族に対する配慮は並々ならぬもの」といったあたりは、うーむ、丸め込まれているなあ、と感じてしまうのだ。いずれにしろ、読みやすい対談で、西域ファンにはおすすめできる。


西域物語
(井上靖著・朝日選書)★★★

ウズベク、アフガンといった中央アジアの遺跡を、著者が回った旅行記。遺跡ひとつひとつへの造詣の深さは、さすが井上氏である。とはいえ、旅行したのは昭和40年代半ばのこと。ソ連邦の最盛期であり、アフガンがとても平和だった時代だ。だから、ちょっと僕らからすると、感覚がずれるなあ。内容的には、「興味深いけど、この本だけ読んでもなあ」というのが正直な感想。中央アジアの歴史にある程度の知識がないと、楽しみも半減の一冊でしょう。


最新 旅順大連探訪(「旅順探訪」刊行会編著・近代消防社)★★★

いまだに外国人未開放とされているけど、実際に訪れている観光客はいっぱいいる。でも、未開放地区だから、地球の歩き方にも詳しくは載っていない・・・。それが旅順。その旅順のビジュアル・ガイドがこれ。旅順の歴史と、現代の観光ポイントをコンパクトにまとめてあり、使える一冊だ。歴史が好きなら、読み物としても十分おもしろいんじゃないかな?


坂の上の雲
(司馬遼太郎著・文春文庫)★★★★

児島襄の「日露戦争」に較べると、内容ははるかに薄く、戦史としては劣る。とはいえ、主人公を据えて、ストーリーを展開していく小説なので、こちらのほうがはるかに読みやすい。印象的なのは、戦争を舞台に明治日本の自由さと強さを描きながら、軍事官僚の勃興を指摘し、その後の日本帝国の崩壊を予感させている点。このあたり、さすがは戦後日本を代表する作家といえるのでしょう。残念なのは、日本海海戦で筆を置いている点。児島「日露戦争」はポーツマスが最後のクライマックスだったのに。


始皇帝の地下帝国
(鶴間和幸著・講談社)

いまだに発掘が続いている始皇帝陵と兵馬俑についての最新報告。掘れば掘るほど新発見のある兵馬俑について、詳説している。それなりに興味深いことも書かれているし、西安に行くときには持っていってもいいとは思う。でも、構成はぐちゃぐちゃで、文章は学者的。よほど興味がないと、最後まで読み切れないと思う。


図説 北京
(村松伸著・河出書房新社)★★

「ふくろうの本」シリーズ。北京の建築物をビジュアルで紹介する一冊だ。といっても、本文は歴史をなぞっているので、ガイドブックには向かない。ひとつひとつの建物の説明が甘いからだ。かといって、読み物としては、文量が足らないですね。もともとそういう目的の本ではないし。北京の主要な歴史的建築物が載っているので、旅の予習用としては適切かも。


セブン・イヤーズ・イン・チベット
(ハインリヒ・ハラー著・角川文庫ソフィア)★★★

第二次大戦中、インドで戦時捕虜になったオーストリア人が、収容所を脱出、チベットに潜入する。最後は、ラサで現ダライラマの教師まで努めた男の自伝。進むチベットも鎖国、インドに戻れば逮捕、という状況が、物語に緊張感を生んでいて、河口旅行記よりはスリリング。第二次大戦から、中国軍のチベット侵攻までの「チベット王国」の様子を知ることができる。映画化されたが、原作の方がよほどおもしろい。河口旅行記よりも読みやすい。


ソウル
(姜在彦著・文春文庫)★★

「世界の都市の物語」シリーズの一冊。ソウルに軸足を置きながら、韓国史全体を振り返る形になっている。おもしろいところとおもしろくないところ、読みやすいところと読みにくいところがまだらになっていて、少し評価はしにくいが、まあまあソウル概説としては優れているんじゃないかと思う。といっても、基本的に歴史の話なので、現代ソウルの細部を知りたい、という人には不向きです。まあ、最後まで一気に読めるようなおもしろさではないので、興味のあるところだけつまみ食いしたらいいんじゃないでしょうか。


ソウルの王宮めぐり
(武井一著・桐書房)★★★

ソウルには多くの王宮があるけれど、正直な話、遺跡探訪としてはあまりおもしろくない。だだっぴろいところに、建物が転々としているだけで、その建物も、内部はがらんどう、復原が多かったりするからだ。公園みたいな雰囲気で、歴史のドラマを感じにくい、という点もあるかもしれない。そこで、この一冊。ソウルのすべての王宮を詳しくガイド、ひとつひとつの建物の説明を載せている。こういう一冊があると、観光の楽しさがだいぶ違ってくるものです。基本的に読み物とはいえないので、この欄ではあまり評価を高くしづらいのですが、使えるガイド、ということで三ツ星にしておきます。


大清帝国(石橋崇雄著・講談社選書メチェ)

タイトルの通り、清について書いた本だけど、構成力も文章力もぼろぼろである。序章、第一章は抽象的な「清国=現代中国雛形論」をくどくど述べて、第二章以降の歴史叙述部分も、木を見て森を見ない局地的な話ばかり。全体の流れというものが、読んでいて全然つかめない。ま、清について多少の知識がある人にとっては、少しは得る内容もあるのだろうけれど、一般素人が読んでもつらいだけの一冊です。


チベット旅行記
(河口慧海著・講談社学術文庫)★★

明治時代に、日本の僧が、仏法を求めて単身チベットに渡った、その旅行記。鎖国下にあった当時のチベットの様子がよくわかり、チベット旅行者には必読の本、なんてされているけれど、実際は、読みづらい本です。口述筆記の形態で書かれているので、文体が妙な口語体。もちろん、おもしろく読ませよう、なんて工夫もない(当たり前だけど)。単身、国境を破ってラサに向かうくだりあたりはとてもおもしろいけれど、あとは結構読むのは苦痛です。ただ、チベットの風俗や文化、暮らしぶりは、じつによく描かれているので、たしかに旅の必読本、というのもわかる。旅行記としてより、民族誌としてよんだほうがいいかも。


中国鉄道大旅行
(ポール・セロー著・文芸春秋)

つまらない。アメリカ人ならではの、中国に対する視点は、たしかに興味深いものがあるが、なにしろ見たこと聞いたことを全部書いてあるので、読んでいくには相当な我慢強さが要る。それに、なんだか西欧人による中国悪口旅行記みたいな感じもする。列車のなかにひまわりの種が散乱していたくらいで、うだうだ言うな! と思ってしまう。西欧人って、ホント自分の国の価値観しか、わからないのね、という、暗い気分になってしまうのだ。


鄭成功 旋風に告げよ
(陳舜臣著・中公文庫)★★★

ご存じ、国姓爺合戦で知られる鄭成功の物語。明王朝の再興を夢見た日中混血児の鄭成功が、廈門を本拠に南京遠征を起こすが失敗、台湾に矛を向け征服するまでを語っている。中国史に通じた陳氏ならではの、綿密な歴史観に基づいた物語展開は一級品。ちなみに、現在の台南市に「安平古堡」という台湾でも数少ない城塞遺跡があるけれど、そこが鄭成功が征服した台湾の要塞。廈門や台南を訪れるなら、ぜひ読んでおきたい一冊だ。


天竺への道
(陳舜臣著・朝日文庫)★★

玄奘がたどったシルクロードの道を、著者がたどる紀行文。仏教についての細かい洞察や解説があり、そのへんはさすがに歴史作家。しかし、仏教については、少しマニアックというか、学問的すぎて、読むのがつらい部分も。興味のある部分だけを読んで、あとは流したほうがいいかもしれない。


日露戦争
(児島襄著・文春文庫)★★

菊池寛賞受賞作の、日露戦争全史とでもいえる力作。全8巻4000ページを越える大作なので、よほど興味のある人以外は勧めません。3巻あたりまではまあ面白いけど、奉天会戦や旅順口攻防戦のくだりは、あまりに詳述過ぎて読んでいられない。読み物と言うよりは、記録文書ですね。主人公がいないから、感情移入もしにくいし。というわけで、大連で203高地に行きたいと熱烈に考える人以外は読む必要はありません。あ〜疲れた・・・。


万里の興亡
(西野広祥著・徳間書店)★★

「万里の長城イコール無用の長物」論を打破する、というテーマの本。で、読んでみると、要は「長城は馬を食い止めるためのもので、敵の侵入を完璧に防ぐためのものではない。守備の拠点としては、十分効果があった」ということらしい。でも、それって、べつに新しくない話だよね。それだけの内容を、延々一冊に渡って書いている。だから、途中から飽きてきます。はっきりいえば、序章を読めば十分。文体は比較的読みやすいし、著者が一生懸命書いているのも伝わってきて、そういう意味では好感が持てる本なのだけれど、内容的にはいまいち。


秘伝 香港街歩き術
(藤木弘子著・草思社)

「秘伝」と称するほどの内容があるとは思えない。「私はこうして旅行してます。それを、ガイドしながら、旅行記にしました」みたいな本で、読んでいて不愉快になる。中途半端なんですね、きっと。ガイドなら、ガイドに徹して、あなたの好みでないことも、きちんと調べて書きなさい。私の好きな香港ガイド、にするなら、ヨタ話はいいから、もっと深く、事実を書きなさい。なんだか、著者の好みの話が全体の3割くらい、普通のガイドブックに書いている話が残りの6割でしめられていて、ほとんど役に立たない。もちろん、旅行記としては、まったくつまらない。


北京
(竹内実著・文春文庫)★★

「世界の都市の物語」のシリーズ。北京の歴史を一冊にまとめている。構成は悪くないし、視点もいい。でも、なんか読みにくいんですよね。まあ、簡単にいえば詰め込みすぎです。素人がいきなり読むにはつらい内容になっている。それなりに知識のある人が、知識の整理に読むにはいい、と言う程度の本です。


渤海国の謎
(上田雄著・講談社現代新書)★★★

渤海国って、いつごろ、どこにあった国? この問いに答えられる人はほとんどいないだろう。正解は、いわゆる満州東部に、唐の時代(日本の奈良、平安前期)にかけて栄えた国。でも、歴史資料が乏しく、この国の形は茫洋としてよくわかっていないそうだ。そこで、その「謎」の解明を試みたのが、この本。ということなんだけど、実際は、当時の日渤交渉記の叙述が主で、渤海がどういう国であったか、についてはあまり触れられていない。まあ、それでも面白く、好奇心をそそられる本ではあるけれど。


僕のチベット・レッスン(長田幸康著・社会評論社)★★★

チベットの歴史と文化をお手軽に学ぶ本。文章も平易で、イラストも豊富。タイトルの通り、初心者向けのチベット・レッスン講座だ。チベットに関する本はあまたあるが、意外とこういう易しく基本を学べる本は少ない。いきなりダライ・ラマの自伝なんて読めないし、いたずらに風景を褒めそやした本も意味がない。そういう意味で、これは貴重な本だと思う。著者自身がバックパッカーでもあるので、紀行部分は参考にもなる。ちなみに、著者は「旅行人ノート チベット」の筆者でもある。


ルコポーロは本当に中国に行ったのか
(フランシス・ウッド著・栗野真紀子訳・草思社)★★★

マルコ・ポーロの不思議は、「17年間も中国にいて、皇帝フビライの寵臣」であったはずなのに、彼の存在が中国の史書等に一切登場しないことである。東方見聞録の不思議は、中国各地の様子は書かれているのに、マルコポーロがどういう経験をしたかが、一切書かれていないことである。などなど、マルコ・ポーロと東方見聞録の奇妙な点に視点をおいて、「史実」とされているマルコの中国訪問が本当に行われたことなのかを検証している。結局、何が真実かはよくわからないのですが、筋の通った論説の興味深い一冊です。


李朝滅亡
(片野次雄著・新潮文庫)★★★

李氏朝鮮が揺れ動いた19世紀末から20世紀はじめの、朝鮮半島の物語。いわゆる「韓国併合」の知識は我々にはあるけれど、「李朝滅亡」という知識はあまりない。政権内部の権力闘争から、列強の侵食まで、朝鮮の歩んだ苦難の近代史を知ることができる一冊といえる。ソウルの徳寿宮あたりを訪れる前に読んでおくと、現地でイマジネーションも膨らむでしょう。ただ、僕は読んでいて、日本が一方的に悪者にされているなあ、当時の国際情勢と日本の事情っていうものが、まるで書かれていないな、という感想。ところが、著者は「歴史を公平に見る」ことをモットーにしてここの一冊を書いた、とあとがきで述べています。なるほど、これでは「日韓の歴史認識」が一致する日など、永遠に来ないんじゃないか、という気分になりました。


東南アジア関係


アンコール遺跡とカンボジアの遺跡
(フーオッ・タット著 今川幸雄編訳・めこん)★★
1957年に著された「アンコールの幾つかの遺跡」の日本語訳。アンコール遺跡のひとつひとつについて、写真入りで詳説している。アンコールにまつわる歴史の概説もついていて、現在手に入るアンコール関連の書籍の中では、もっとも具体的に遺跡を説明している一冊だ。事前に読んでもつまらない本だけれど、現地に持っていけば役に立つだろう。


アンコールの遺跡 カンボジアの文化と芸術
(今川幸雄 川瀬生郎 山田基久 共著・霞ヶ関出版)★★★
アンコール観光の手引き書としては、もっとも優れている本がこれ。歴史から始まり、アンコール・ワット、アンコール・トム、小まわりルート、大まわりルートなどと観光客の歩むルートに沿って、遺跡のひとつひとつを詳説している。初版が1969年というから、まだカンボジアが平和だった時代の書物だ。観光するにはとても優れた一冊なのだけれど、残念ながらすでに絶版。ただし、現地に行けば海賊版が手にはいるので、ぜひ買いましょう。


アンコールワット
(石澤良昭著・講談社現代新書)★★★

アンコールワットに関する本はいくつもあるが、この本の特徴は、細かい遺跡のひとつひとつを紹介したりはしていない、という点である。アンコール朝の歴史を概括で流しながら、アンコール遺跡がなぜできたかを解説していく。アンコール遺跡は、数百年にわたって順々にできてきたのだから、この解説手法は適切である。どうせ、細かい彫刻を紙上で説明されたってよくわかんないのだから、そうした説明を最小限に抑えたのもいい。文章も読みやすく、アンコールワットと周辺遺跡の歴史背景を学ぶには、好適の一冊。


インドネシア全27州の旅(小松邦康著・めこん)

「インドネシアの見所って、どんなところがあるんだろう」と思って買ってしまったが、しょうもない本である。27州へ「行った」「行った」式の旅行記で、メリハリもなんにもない。読者は、「あなたが何を見たか」なんて知りたくもないのだ。「あなたの見たものは、どれだけすごいのか、おもしろいのか、どんな意味があるのか」を知りたいのだ。これなら、ガイドブックを全部読んだ方がまし。


現代眞蝋風土記
(今川幸雄著・KDDクリエイティブ)★★
カンボジアとアンコールの歴史と現状をまとめた一冊。アンコールのガイドに加え、現代の政治状況や風俗なども加えているのが特徴。読み物としてはおもしろくないし、アンコールのガイドとしてもやや中途半端。ただ、古典の「眞蝋風土記」全文が載っているのはうれしいかも。


タイ怪人紀行(ゲッツ板谷著・スターツ出版)★★★

本の表紙とは、ホントに大事だと思う。そう痛感するのがこの一冊。西原理恵子の表紙はめったやたらとインパクトがあって、それだけで手に取ってしまう。内容は、ライターの著者がその仲間たちとタイを歩き回る、というもので、ある程度旅行記を読み慣れている者ならば、とくにインパクトはない。でも、軽く読みやすく、つい最後まで読んでしまうという魅力はある。それって、とても大事なことなんだけどね。


タイ鉄道旅行
(岡本和之著・めこん)

タイ国鉄の全線完乗記だけど、つまらない。路線別に乗った経験を延々と時系列で追っているという感じだ。本人が楽しかったのはわかるけど、そんな話を聞かされても、読者は楽しくないんだよなあ。ただ、タイ国鉄の全線の資料としては価値が高い。ガイドブックとみなし、自分の必要と思う部分だけ読めば使える。情報量には敬服。


東南アジア四次元日記
(宮田珠己著・旅行人)★★★★

「旅の理不尽」につづく宮田氏の第2作。「東南アジアの旅行記を満喫しよう」なんて考えで、この本を買ってはいけません。出てくるのは、妙な仏教施設のオンパレード。しかし、ハノイの盆景や、ビエンチャンの奇怪な仏寺などは、読んでいるうちに行きたくなるから不思議。ガイドブックではわからない、けったいな名所をしることのできる側面ももっているのだ。まあ、基本は宮田節爆笑旅行記ですが。


熱闘ジャングルアイランド
(岡崎大五著・青春出版社)

添乗員シリーズではなかなか読ませてくれた岡崎氏だが、この本はまあ、典型的な駄作ですね。世界のサーファーの憧れ、インドネシアのニアス島にグループで行った旅行記で、岡崎氏はなかなかの暴れん坊ぶりを見せてくれるのですが、はっきりいってダラダラ書いているだけのつまらない記録になっています。岡崎氏の自伝的要素も含まれているので、岡崎氏が大好き!熱烈ファン、と言う人ならば、まあ読めるかもしれませんが。


眞蝋風土記
(周達観著・和田久徳訳注・平凡社)★★
平凡社東洋文庫の一冊。ご存じの通り、「眞蝋風土記」は13世紀末に元朝の周達観がアンコールの都を訪れたときの紀行文だ。これはその原著の日本語訳で、原文も掲載されている。アンコールに行くのなら、眞蝋風土記の内容は知っていたほうがおもしろいし、たかだか1時間もあれば読める。ただし、今川幸雄の著作などで引用されまくっているので、とくにこの一冊を買う必要はないかもしれない。


ハノイの純情、サイゴンの夢
(神田憲行著・講談社文庫)★★★

これは、タイトルの付け方が間違っている。きっと、バカな編集者が、「こういう旅モノっぽいタイトルの方が売れますよ」なんてそそのかしたのだろう。タイトルと違い、中身は意外と骨太で、日本を離れてサイゴンで日本語学校の教師になった著者が、校長との対立で学校を去るまでの物語である。ベトナムの側面が見事に浮き出ていて、おもしろい。じつは、前半部分は、文庫本になる前は独立したルポルタージュで、「潮」という雑誌の賞ももらっているとのこと。後半はエッセイになっていて、「バックパッカーくそくらえ」なんて項目もある。著者のバックパッカー観は、少し偏っている気もするが、頷かざるを得ない部分があるのも事実。でも、「まったくのクズである」とまで言われるとねえ。


バリ島で遊ぶ
(トラベルジャーナル)★★

この手の「教科書サイズカルチャーガイド」は、相当くだらないのが多いけど、これは、目的がしっかりしていて、ましなほう。僕のようにバリ島に一人で行って、いったい何をしたらいいのか、と悩むタイプには、いいかも知れない。バリ島で、素人がどんな遊びができるかを書いた、完全ハウツー本である。結局、僕は、何もする気がしなくて、この本は役に立たなかったけれど。


風雲児
(白石一郎著・文春文庫)★★★

山田長政の歴史小説。東南アジアを舞台にした歴史小説はあんまりないので、この手の本は、実は貴重なのだ。山田長政の小説は、山岡荘八にもある。どっちもおもしろい。東南アジアにいくなら、長政のことは、少しは知らないとね。


ベトナムロード(石川文洋著・平凡社ライブラリー)

石川文洋の本を読むのは、これが初めてだったが、ものすごく失望した。この本は、「ベトナム社会主義共和国御用達・官製ベトナム旅行記」といっていい。ベトナム政府の広報官と一緒に全土を縦断しているのだが、書いていることは、政府の言い分そのままである。いわく「この工場では○万トンの生産能力がある」「アメリカや日本の経済封じ込めで、資材が不足している」「日本はもっと技術援助を」などなど。著者のベトナムに対する思い入れはわからないでもないが、あまりに無批判すぎないか。これが自称「ジャーナリスト」の手になる旅行記とは思えない、ひどい著作である。石川文洋も終わったな、と思わずにはいられない一冊だ。


ベトナムわんさか共和国
(ACG編集室・トラベルジャーナル)

「建前」の本。ベトナムの表層的なことを、見境なくザクザク斬っただけ。知ったかぶりのフリーライターが、何週間かで適当に作ったなあ、というのが見え見えで、いやになる。読み物というには、あまりにつまらないし、ガイドブックにしては情報量が完全に不足。「ベトナムに行くから、ちょっと読んでみよう」なんて思って買った人、きっと役に立たなかったことでしょう。行けばイヤでも目に入るシクロのしょうもない説明に2ページも費やしたり、見たこともないベトナム映画の監督のインタビューなんて、読んでもちっとも楽しくない。もうちょっと整理して絞り込んで、丁寧に作ってよ。


ボロブドール遺跡めぐり
(田枝幹宏・伊東照司著・新潮社)★★

「とんぼの本」という、写真図版シリーズの一冊。ボルブドールについては、これが一番詳細。彫刻のひとつひとつまで解説してある。ボルブドールに行く人は、是非持っていきたい。もっとも、「詳しすぎて見てらんない」と、私は放り投げてしまいましたが。


物語 ヴェトナムの歴史
(小倉貞男著・中公新書)

読みにくい文章を書く人の、東の横綱が大学教授なら、西の横綱は新聞記者だろう。この本の著者は、新聞記者出身の大学教授だから、終わっている。読者に対して、親切な文章とはとてもいえない。ぶつぶつ切りの文章で、乗りは悪いし、一度出てきた人物名を、二度紹介しないし。ヴェトナムの人物名なんて覚えにくいのだから、何度も説明してくれないと、わかんないだろ! 「物語」のかたちを為しているのは、最初だけで、もうあとは、出来損ないのヴェトナム通史概説書である。読みにくいけど、ヴェトナム通史を手軽に読める本も他にない。うーん、なんとかならんのか。


ラオスの歴史
(上東輝夫著・同文館)

ラオスの歴史って、ほとんどの人は知らないと思う。タイ、ベトナム、クメールの歴史に関する本はあるけど、ラオスって、教科書にも出てこなかったしね。たぶん、この本は、素人がラオス史を学べるほとんど唯一のものだと思う。決しておもしろいものでもないし、内容書き方は親切でもない。インドシナの歴史を多少は知らないと、難しい側面もある。でも、これしかないんだから、仕方ないよね。興味のある人向け。


南アジア関係


インド怪人紀行
(ゲッツ板谷著・スターツ出版)★★★

怪人紀行シリーズ第3弾。僕は第2弾のベトナム編は読んでいないが、タイ編よりはこちらのほうが面白い。それはそうだ。タイよりインドのほうが、へんてこ旅行には向いているものね。なんだかインドクスリやりまくり紀行みたいだけど。


インドの樹、ベンガルの大地
(西岡直樹著・講談社文庫)★★★

さわやかな、あまりにもさわやかなインド滞在記。著者は、インド人の家に招かれごちそうされたり、一緒にどこかに出かけたり、日本とも変わらない、普通の近所つき合い、友人つき合いをしている。それが、肩肘はらず、とても自然に描かれている。インドといえば、カルカッタの安宿と、汚い街、しつこい客引き、騙す商人と、ろくなイメージがないわれわれバックパッカーは、この本を読むと、びっくりしてしまう。詩を詠うような文体が流麗すぎるきらいはするし、ま、つまらないといえばつまらない滞在記なんだけど、そういうギャップを体験できる本です。


インド三国志
(陳舜臣著・講談社文庫)★★★

ムガール帝国の歴史って、どの程度しってますか? アウラングゼープ帝って聞いて、すぐに誰だかわかりますか?わかんないよね、ふつう。ムガールは、歴史上インド最大の国家だったし、アウラングゼープは、その最大版図を実現した人なんだけど、さっぱり僕らは知らない。それは、インドの歴史小説が、日本でほとんどなかったから。そのなかで、この本は貴重である。実は「愚帝」であったアウラングゼープの生涯を、雄大に描く歴史小説です。


印度放浪
(藤原新也・朝日文庫)★★★★

80年代のバックパッカーの「バイブル」的存在。いまは「深夜特急」に取って変わられたみたいだけど。かつて、若者はこの本に影響され、「おーし、おれもインドに行っちゃるで」なんて旅だったのであった。印象深い写真、突き放した文章など、たしかにあの時代に流行る要素はあったよなあ。いまでも、藤原新也本のなかでは、一番の名作でしょう。ただ、「深夜特急」と同様、インドに行けば、こんな衝撃的な光景に出会いまくれる、というわけではありません。


ガンジス河でバタフライ
(たかのてるこ著・幻冬舎)★★

「これを読んで、こんな旅をしてみたい!と思ったヒト あかん やめとき 絶対死ぬで!」とは、オビの島田紳助の推薦の言葉。読んでみると、ただのアジア旅行記で、べつに死ぬほどの内容じゃありません。東映に勤める著者が自ら作った旅番組がきっかけで生まれた本で、「一人旅をしてみたい!」と考えていた女の子が旅立ったエピソードをまとめたもの。すごく感受性豊かで繊細な著者像が伝わってきて、とても好感はもてる一冊。同じように「旅をしてみたい」と憧れている人にはいいかもね。


ゴーゴー・インド
(蔵前仁一・凱風社)★★★★★

「ゴーゴー」シリーズの第一作。これを読んだときは、「こんなにおもしろい旅行記があるんだ・・」とびっくりした記憶がある。藤原新也的インドのイメージを打破し、お気楽海外自由旅行の新風を吹き込んだ、画期的な作品だと思う。そう、しょせん、貧乏旅行なんていったって、僕たちただの凡人なんだから。そんな気持ちにもさせてくれました。


南アジアの歴史と文化
(辛島昇著・放送大学教育振興会)★★★

インドを中心にした南アジアの歴史というのは、じつにわかりにくい。いろーんな国があっちこっちに分裂して存在したからかもしれないが、とにかくよくわからん。それを、一本の糸でわかりやすく書いてくれたのが、この本である。そもそも、これは放送大学のテキストだけれど、案外このシリーズは、わかりやすく書かれたモノが多い。もう一度、大学の教養課程を学ぶつもりで、南アジア史を知りたい、という人に。


西アジア関係


意外体験!イスタンブール
(岡崎大五著・祥伝社黄金文庫)

トルコツアーに添乗したときのストーリーを一冊にまとめている本。添乗員シリーズ前2作と違い、1ツアーで一冊の本にしてしまっている点が特徴だ。でも、ちょっと無理があるねえ。まったくつまらないわけじゃないけれど、1冊にするほどの内容がある話ではないです。こういう「手抜き」をすると、もう読者はついてこなくなってしまうんじゃないかな。


イスタンブール
(陳舜臣著・文春文庫)★★★

もともと「世界の都市の物語」のシリーズの第4巻を文庫化したもの。イスタンブールという街を、主にオスマン時代に焦点を当てて、著者が歩いて回る。歴史小説家だけあって、さまざまな遺跡を見る目は確実で、解説も大衆向けで読みやすい。イスタンブール概括としては優れている。


ビザンツ 幻影の世界帝国
(根津由喜夫著・講談社選書メチェ)★★★

12世紀。最後の光彩を放った時代のビザンツ帝国を、主にマヌエル1世を中心に描く。西には西欧諸国が勃興し、東にはイスラム諸国が浸食している時代、すでに超大国の実力を失った「ローマ帝国」が、いかにして威信を保ち、「世界帝国」として君臨しようとしたかを述べる。同時に、当時の帝国の様子、コンスタンチノープルの街角の描写などもあり、この時期のビザンツを知るには好適の一冊。ただ、おもしろい部分とおもしろくない部分、読みやすい部分と読みにくい部分がまだらになっているので、自分にあわないところは読み飛ばした方が、最後までたどり着けるでしょう。


オスマン帝国
(鈴木薫著・講談社現代新書)★★

オスマン帝国についてを簡単にまとめた本。オスマンの歴史と組織の概括がわかる。興味のある人にはおもしろいけど、トルコに旅行しようという人が、はじめてこの本を読んでも、なんだかごちゃごちゃ書いてあって、よくわかんなかった、という結論にも至りかねない。と、いうのも、概括なので、広く浅く書いてあるからだ。少しは、トルコの歴史に知識があって、オスマンのことを総合的に知りたい、と思ったら、買うのもいい。入門よりは、初級者向けか。


オスマン帝国衰亡記
(アラン・パーマー著・中央公論社)★★

完全なオスマン帝国マニア向け本。そう割り切ってみれば、まあよく書けている。翻訳の歴史書にしては、読ませる内容、構成だし、オスマン好きなら、手にとっても損はないと思う。だって、日本で発行されているオスマン本は、大抵、詳しく書いてあるのはマホメット1世とスレイマン大帝くらいで、内容が浅すぎるものね。その点、これはオスマン後期の歴史は詳しいです。しかし、400ページぎっちり最後まで読むのは、ちょっと根性はいる。3300円も、ちょっと高いね


コンスタンチノープルの陥落
(塩野七生著・新潮文庫)★★★★★

1453年の歴史的大事件を、おもにビザンツ側に視点をおいて展開していく小説。読者を引きずりこませる物語展開は、さすがに一流のストーリーテラー。トルコの歴史背景を知らなくても、らくに読み進める。むしろ、途中で本を置いてしまうのは、悲しくて、先に進めなくなるから。イスタンブールに行くなら、是非読んでほしい一冊だ。遺跡を見る目が、まるで変わると思う。


図説 イスタンブル歴史散歩
(文/鈴木薫・写真/大村次郎・河出書房新社)★★★★

イスタンブールの名所を、写真付きでガイドする。街の歴史を、概括で説明しながら、名所旧跡を押さえているので、わかりやすいし、見やすい。イスタンブール観光に役立つ。


砂のクロニクル
(船戸与一著・新潮文庫)★★★★

ホメイニ体制下のイランで、武装蜂起を図るクルド人。彼らに依頼され、銃器の輸出を図る日本人武器商人の物語。完全フィクションの小説だが、イランを舞台にしながら、クルド問題を中心とした80年代の国際情勢がリアルに描き出されている。我々日本人にはなじみのない世界なので、こういうので知識を得るのもいいかもね。何も知らずにアジアを横断している旅人たちは、イランとトルコの国境をわたる前に、この小説を読んでおくといい。もちろん、船戸与一だから、脂の乗ったおもしろさは保証付きです。


マホメット
(井筒俊彦著・講談社学術文庫)

いわゆる「古典的名著」だそうなので、読んでみましたが、なんだか崇高な文章過ぎて、よくわかりません。マホメットを知りたいなら、別の本がいいと思う。


ロードス島攻防記
(塩野七生著・新潮文庫)★★★★

物語的には、「コンスタンチノープルの陥落」の続編的小説。ビザンツ帝国が滅んだ後、東地中海に残った最後のキリスト教徒の拠点がロードス島。ビザンツ亡き後も、オスマン・トルコの攻撃を何度も凌ぎ、生き残ってきた。しかし、1522年、オスマン最強の皇帝・スレイマン1世は、自ら大軍を率いて攻略に乗り出してくる。島を守る聖ヨハネ騎士団との壮絶な攻防戦を描いた歴史絵巻である。圧倒的な筆致に、歴史好きならすぐに読み終えてしまうでしょう。


ヨーロッパ関係


海の都の物語
(塩野七生著・中公文庫)★★★

ベネチア共和国の千年史を、小説にしたもの。扱いにくい歴史を、圧倒的な力量で読みやすい小説にするのは、さすがに塩野氏である。「水の都」くらいの認識しかなかった、ベネチアに対するイメージが変わることは間違いない。とても面白く読めるが、なにしろ1000ページを越える大作である。やっぱり歴史好きじゃないとつらいでしょう。


ヴェネチア
(陣内秀信著・講談社現代新書)★★

新書の体裁だけれど、基本的にはヴェネチアに在住していた著者のエッセイです。ヴェネチアの日常や、豆知識的なことを知るのには役に立つ。でも、ヴェネチア概括としては、不適。すでにヴェネチアについて多少の知識がある人が読んだ方が楽しめる。


古典古代史
(伊藤貞夫著・放送大学教育振興会)★★

ギリシャ・ローマ時代の地中海世界の歴史概論。放送大学のテキストだから、初心者向けには出来ているはずなのだけれど、この本の場合は少し先走っているかもしれない。「ヒッタイト帝国」「ポエニ戦争」と聞いて、「その程度のことなら改めて説明してくれなくてもいいよ」というレベルの人以上の本。民主制の仕組みとか、そういうギリシャ・ローマ史の詳論がテーマです。それほど読みやすくなく、放送大学テキストのなかではあんまり出来はよくない。


ジャガーになった男
(佐藤賢一著・集英社文庫)★★★★

「西洋歴史小説という未開の分野を切り開く」と宣言した佐藤賢一のデビュー作。いやはや、大言壮語を吐くだけのことはあり、読み応えのある小説だ。支倉常長の遣欧使節の一員だった伊達藩士が、現地で使節団と別れ、戦士としてイスパニアに残ることを決意。さらには新大陸ペルーに渡るが、そこでひょんなことからインディオに「ジャガー神の権化」と奉られる。最後には反イスパニアの戦いを起こすが・・・。 遣欧使節の中で現地にとどまった者がいるのは史実。それをもとに、中世ヨーロッパ、ペルーまで舞台を広げた伝奇小説の世界は、西洋史オタクには堪えられないだろう。


双頭の鷲
(佐藤賢一著・新潮文庫)★★★★
ベルトラン・デュ・ゲクランって知ってますか。知らないよね。僕も知らなかったです。百年戦争のときにフランスで活躍した戦争の天才で、貧乏騎士から大元帥まで成り上がったというから、日本でいえば豊臣秀吉みたいな感じかも知れない。その男を主人公にした、歴史小説。ふだん縁のない百年戦争なんて舞台設定だけど、読み始めたらとまりません。フランスに行きたくなること請け合いの大河ロマンです。


フィレンツェ
(高階秀爾著・中公新書)★★★

フィレンツェの入門書を1冊、ということであげるなら、この本になると思う。ルネッサンスの時期に軸足をおき、簡単に歴史を紹介しつつ、美術品に話を進めていく書き方は、オーソドックスながら読みやすい。ほとんど15世紀のことしか書いていないけれど、フィレンツェなんて15世紀がすべてみたいなものなのだから、それは構わないと思います。


フィレンツェ
(若桑みどり著・文春文庫)

フィレンツェという街を書くのは、とても難しいだろうと思う。この街を語るのには、豊富な美術品を説明しないわけにはいかないけれど、美術品を活版でおもしろく描くのは至難だ。しかも、美術の背景にある美術史に触れながら、その背景の政治史を語る必要もある。フィレンツェの場合、政治史もずいぶん特殊だ。こんな難題にチャレンジしたのが著者。で、見事に失敗した。あとがきで「(書くのは)難しかった」と述懐しているように、内容を詰め込みすぎて、消化不良を起こしています。「書くべきことを全部書くだけで手一杯」という感じ。おもしろく読ませよう、などと工夫する余裕もないようでした。同情はするけど、採点すれば最低ランク。もっと絞り込みを。


二人のガスコン
(佐藤賢一著・講談社)★★★

佐藤賢一の最新書き下ろし。上中下3巻、構想10年、という大風呂敷な触れ込みはいいとして、正直、佐藤ファンとしては物足りない出来でした。三銃士の生き残りダルタニャンと、有名作家シラノ・ドゥ・ベルジュラックを絡ませた冒険奇談は、登場人物も一流ばかりなら、ストーリーも雄大なんだけど、どこか気が抜けているんだよね。ま、佐藤賢一は他にいい本がいっぱいあるので、これは特におすすめはしません。


メディチ家
(森田義之著・講談社現代新書)

途中で読むのをやめてしまった。新書ていどの短い本を、最後まで読まないで評価するのはどうかと思うけど、とても読み切る気がしなかった。なにしろ、抽象的な話ばっかりで、登場人物の具体的なエピソードが出てこないので、全然つまらないのだ。やたらと人名がたくさん出てくるわりには、それがどんな性格の持ち主で、どんなことをしたのかさっぱりわからない。一般的な事実ばかりを詰め込んだ書き方は、高校の教科書より読みづらい。僕たちは、趣味で本を読むのだから、こんな読者に対する思いやりのない本は、買う必要ないと思う。


傭兵ピエール
(佐藤賢一著・集英社文庫)★★★★★

オルレアンの戦いでフランスを救ったジャンヌ・ダルクは、その後イギリス側に捕らえられる。そして魔女裁判の末、1431年5月30日、火あぶりの刑で処刑された。それが「史実」。この史実に挑んだ伝奇小説がこれだ。傭兵隊を率いる悪党ピエールが、密命を受けジャンヌを救い出すまでのストーリーである。物語は荒唐無稽ながら、ページを繰るのが惜しくなるくらいのおもしろさ。伝奇小説の楽しみをたっぷりと味わえる傑作です。


ヨーロッパ鉄道紀行
(宮脇俊三著・新潮文庫)

宮脇氏といえば、「時刻表2万キロ」の著者として知られる、鉄道紀行作家の第一人者。実際、「時刻表2万キロ」は現代紀行文のなかでも大傑作に入る作品だ。でも、残念ながら、最近の著書は精彩を欠く。この本も、ヨーロッパ各地を旅している紀行文なんだけど、正直な話つまらない。途中で退屈してしまう。ご本人があとがきで「齢とともに筆力衰え、思うようにならなかった」と書いているけれど、まったくその通りで、往年の傑作知る立場で読むと、痛々しさすら感じてしまいました。というわけで、宮脇氏を読むなら、もっと若い頃のをおすすめします。


ローマ人の物語
(塩野七生著・新潮社)★★★

塩野氏のライフワーク的シリーズ。古代ローマを扱った全15巻の小説だ。年1巻の刊行で、現在は9巻まで出ている。古代ローマ史というのは、西洋人にとっては誰でも知っている最低限の歴史知識だという。けど、日本人は実はあんまり知らないよね。だから、ローマの詳しい歴史が読みやすくわかる、という意味でこの本の意義は大きいと思う。とはいうものの、読者的にいえば、面白い巻と面白くない巻が入り乱れていて、しかも、1巻あたりの分量がものすごいので、読むのは大変だ。興味のある人には、とりあえず2巻「ハンニバル戦記」と、4,5巻「ユリウス・カエサル」だけでも読むことをオススメする。この3つの巻に関しては、圧倒的に面白い。


わが友マキアヴェッリ
(塩野七生著・中公文庫)★★★

なかなか採点しづらい本。読み物としてのレベルにはもちろん達しているけれど、小説としては、つまらないかもしれない。伝記と考えれば、これだけ読みやすくできている伝記もない。基本的には、マキアヴェッリを主人公に16世紀のフィレンツェの興廃を描いているもので、歴史が好きなら問題なく読み進める。マキアヴェッリという人物を知るのに、これより好適な本もないとは思う。フィレンツェの入門書としてもいいだろう。


アフリカ関係


アフリカ日和
(早川千晶著・旅行人)★★★

アフリカ人と結婚してケニアに住んでいた著者の体験記。本を読み始めたときの第一印象は、「表現力豊かな人だなあ・・・」ということ。本当はとても大変なナイロビ生活をなんだかとても楽しそうに書いている。著者の晴れやかな気持ちにひきづられるように、読み進めてしまいます。この本を読むと、僕たちケニアのことなんて、なーんも知らんかったんだな、と思い知らされます。アフリカに興味のある人にはおススメ。


ある夜、ピラミッドで
(田中真知著・旅行人)★★★

旅行人本誌に連載されていた「カイロ便り」に加筆した単行本。正直に書くと、連載中は、田中氏の文章はとても美しいのだが、美しすぎて読ませる力強さが欠けている、と思っていました。ところが、いざ単行本になって読んでみると、この文章はいいですね〜。すいすい読めるし、内容も面白くなったように感じる。連載中と単行本で、これほど差を感じた本もありませんでした。基本的には、カイロで田中氏の滞在記。興味深く読めるでしょう。


エジプト王国三千年
(吉成薫著・講談社新書メチェ)

エジプト学は日進月歩なので、新しい本ほど興味深い情報が載っていることがある。ということで、最近出た古代エジプト史の概説といえば、この本が挙げられるでしょう。とはいえ、笈川「古代エジプト」よりさらに文章が学者的で、読みづらい。それなりにエジプトの知識のある人が読めば苦でもないだろうが、一般素人にはつらい書き方だ。概容は網羅しているんだけどね。


グレートジンバブウェ
(吉國恒雄著・講談社現代新書)★★

アフリカ南部最大の遺跡・グレートジンバブウェを中心にした、東南アフリカ史の概説書。著者が「はしがき」などで述べているとおり、東南アフリカ史の概説書なるものは、これまで日本には存在しなかった。したがって、これが初めてということになる。東南アフリカの文明がどういうもので、どんな国々が興亡したのか? そんなこと、知っている人誰もいないよね。そういう意味で貴重な一冊なのだが、さすがに縁もゆかりもない地域のことでもあり、なかなか読み進むのには根気がいる。しかも、著者は概論を書くのはうまいが、詳論を書くのは苦手のようで、そのため話が込み入る部分に入ると、読み手は疲れてきてしまう。ということで、気軽には勧めないが、興味のある人には外せない一冊ということにしておきます。


ゴーゴー・アフリカ
(蔵前仁一著・凱風社)★★★★★

ゴーゴー・シリーズ第3弾。個人的には、蔵前氏の著作のなかでは一番いいと思う。文章や切り口は他のゴーゴーシリーズの方が、むしろ勝っているかもしれないが、なにしろアフリカである。苦闘が、はしばしに滲み出ている。それに、ブラック・アフリカの旅行記自体がいまだ珍重すべき部分があるのも事実。むろん、「アフリカのプロフェショナル度」では、たとえば田中真知氏などのほうが内容は上だが、バックパッカーとしての旅の楽しさを、遺憾なく発揮しているのは、本著だと思う。


古代エジプト
(笈川博一著・中公新書)★★

古代エジプト概説は世の中にあまたあるが、「この一冊」を選ぶのは難しい。僕が見た限り、この本は比較的読みやすくてわかりやすいが、ただ、読み物としての及第点を与えるにはちょっと、という内容。興味のある人には十分読み切れる内容ですけどね。手軽には入るし、定価も安いので、いちおうこれを推しておきます。


新書アフリカ史
(宮本正興・松田泰二編・講談社現代新書)★★
アフリカの本も、なかなか少ないですね。とくに、アフリカの歴史に取り組んだ本というのはとても少ない。そのなかで、概要を網羅したのがこれ。だから価値は高いのだけれど、守備範囲が広い割に歴史的事実が少なく、それをたどっているだけなので、読むのは相当に根性がいります。アフリカ史を知りたい、どうしても! という人の入門書として。


物語 古代エジプト人
(松本弥著・文春新書)★★

「物語」シリーズといえば、中公新書の十八番。そのタイトルを文春がパクったのはいいとしても、内容はいまひとつですね。古代エジプトの歴史と文化を簡潔にまとめてはいるものの、どこをどう読んでも「物語」ではないし、読みやすく工夫された文章・構成ともいえない。著者は古代エジプトを素人にいろいろ説明しようと努力はしているんだけど、内容は総花的で、とくにオススメする理由のない本となってしまっています。


南北アメリカ関係


イースター島の謎(A・コンドラトフ著・中山一郎訳・講談社現代新書)★★★

イースター島入門書の古典的一冊。日本ではイースター島関連の書籍が非常に少ないので、貴重な本といえる。内容的にも、イースター島に関する基礎知識や疑問点を要領よくまとめてある。それほど読みやすい本とは言えないけれど、イースター島関連で一冊読むとすれば、これになるでしょう。


イースター島の謎
(カテリーヌ・オルリアック/ミッシェル・オルリアック著・創元社)★★

「知の再発見草書」の一冊。カラー図版の豊富な、見ていて楽しいシリーズだ。けれど、中身はいまいち薄い。イースター島の概括は学べるけど、おもしろさはない。だって、そもそも概括というほどの歴史もない島なんだから、もっと謎に深く切り込んでほしかった。謎が謎のままで終わらせずに、謎解きしてよ。


インカ帝国
(カルメン・ベルナン著・創元社)

インカ帝国の概括本を探してみたけれど、意外なことにこの一冊しか見つからなかった。しかし、この本も、とても「インカ帝国」なんてタイトルをうてるような代物じゃない。「知の発見双書」シリーズの一冊だが、はっきりいって期待はずれもいいところである。「インカ帝国侵略記」であって、インカ帝国の成り立ち、文化、謎については、あまりふれられていないし、もちろん概括本とは、とても言えない。そもそもインカ帝国の実像自体が、歴史学的に解明されていない、という事情はわかるが、もう少しなんとかなるだろう、という内容だ。


午後の行商人
(船戸与一著・講談社文庫)★★★
メキシコ・チアバス州を舞台にした小説。チアパス州といえば、サン・クリストバル・デ・ラスカサスなんていう長い名前の州都に旅情を感じちゃった人も多いのでは? とはいえ、そこは船戸与一。サパティスタ民族解放戦線をバックグラウンドに、キケンな香りのするミステリーに仕上げています。チアバスに行きたい、と思っている冒険心旺盛な人には、一読を勧めます。


古代アステカ王国
(増田義郎著・中公新書)★★★★

新書のお手本のような本である。アステカ王国のことを語るのに、「アステカ王国とは・・・」と書き始めるのは、もっとも下手くそだと思うけど、著者はコロンブスが西インド諸島を発見する様子から物語的に書き起こしている。そして、コルテスがアステカを征服するまでを、小説のように語りながら、王国の様子を文中に散りばめていく。とても面白く最後まで読めるのだ。小説のような新書。見事だと思う。


図説 インカ帝国
(フランクリン・ピース 増田義郎著・小学館)★★★

インカ帝国について、きちんと書かれている本といえば、日本ではおそらくこの一冊だけじゃないだろうか。インカ帝国の歴史、社会、経済などを基礎からきちんと分析、説明した本です。増田氏の文章はわかりやすく、読みやすい。ちょっと高いのが欠点だけど(3300円)、マチュ・ピチュに行く前には読んでおきたい一冊です。


ナスカ 砂の王国
(楠田枝里子著・文春文庫)★★★

ナスカの地上絵の研究に生涯を捧げたドイツ人女性、マリア・ライ。ナスカを訪れたことのある人なら、誰でも知っている研究者だ。その、ライの生涯を描いたノンフィクション。ライは、数年前に他界したが、この本が書かれた当時はまだ存命中で、彼女からナマの話を聞いているだけあり、内容は精密だ。だが、この本のおもしろさは、ライの生涯よりも、むしろ、地上絵の研究史としての側面じゃないかと思う。いずれにしろ、読みやすい文章で、取材、構成もしっかりしており、よくまとまった本である。


マヤ文明
(石田英一郎著・中公新書)★★

マヤについて書かれた、草分け的な本。現在活躍する学者のなかでも、「この本を見てマヤを知った」という人がいるくらいの「古典的名著」だ。とはいえ、書かれたのが1967年と古い。マヤ研究は日進月歩なので、30年以上も前の話となると、相当に塗り変わっている事実も多いだろう。文章的にもとくに読みやすいわけでもないし、おすすめというほどのレベルじゃないと思う。


マヤ文明の謎
(青木晴夫著・講談社現代新書)★★★

いくつかあるマヤ本のなかで、一番入門に適しているのがこれだと思う。マヤ文明の基本的な歴史を押さえた上で、マヤ文字や暦、建築などに触れていく展開は、オーソドックスだけど読みやすい。とにかく、マヤという考古学分野は複雑なので、基本を理解するだけで大変なのだ。ティカル、パレンケなどの主要遺跡にも触れていて、遺跡ファンとしてはうれしいところ。


マヤ文明はなぜ滅んだか?
(中村誠一著・ニュートンプレス)★★

というタイトルだけど、基本的にはマヤの概括本です。ただ、まったくの入門者が読むにはつらい。学説を比較対比させる「学術本」的な要素が多いので、基礎知識がないとついていけません。逆に、じっくり腰を据えて読めば、結構内容はある。とくに、第4章の古典期王朝の項は、これまでのどの本より詳しいと思う。ただ、著者は中部マヤの南東部地域がフイールドワークらしく、チチェン・イツアのように西北部の遺跡については詳しくありません。なお、「なぜ滅んだか」という、とても知りたい部分の回答は、結局ありませんでした。


メキシコホテル
(大倉直著・旅行人)★★★

メキシコの有名な安宿、ペンション・アミーゴで働いていた著者が、宿泊客たちの人生を描く。形としては、「アジアン・ジャパニーズ」に似ている。著者に気負いがなく、また「取材」というかしこまった形になっていないのは好感がもてる。アジアより、メキシコの旅行者の方が、多少「意識が高い」と感じました。それだけです。


パタゴニア
(椎名誠著・集英社文庫)★★★★

椎名氏の場合、良かれ悪しかれ大名旅行であるから、バックパッカーの参考にはならない。しかし、それだけに、パッカーが普段行けないところを自由に回ってたりするから、読んでてわくわくする事も。そんな本がこれ。マゼラン海峡にチリ海軍の船で行ったりするんだけど、そんなの、普通の人はできないもんね。読み物としては、やっぱりすごい力量を発揮してくれる作家ではあります。


物語 ラテンアメリカの歴史
(増田義郎著・中公新書)★★★

「物語」になっているかどうかは別として、ラテンアメリカ史の概説書としては良くできているし、読みやすい。あんまり専門用語を使っていないし、歴史的事件をくどくどと説明する愚も避けている。ただ、国の数が多すぎるからか、各国の独立のいきさつなどが、いまひとつよくわからない。広大なスペインの植民地だった中南米が、なんであんなにいろんな国に別れてしまったのか? 紙幅の都合もあるんでしょうけど、歴史のディテイルは、やはり各国史を当たらないと、よくわかんないだろう。


その他の地域


天下太平洋物語
(おがわかずよし著・旅行人)★★★

ツバル、フィジー、西サモア、なんて聞いたって、名前は知っているけど、どこにあるかよくわかんないよね。そんなよくわかんない南太平洋の国々を回った旅行記。とぼけた語り口で、南洋の家庭にまで入り込んでいくさまは、読んでいて興味深い。考えてみれば、この地域は、バックパッカーにとって最後のフロンティアかも知れない。あまり情報がないだけに、ちょっとしたことでも、読んでいて驚いたりもできる。そういう意味で、貴重な本かもしれない。


パプア・ニューギニア探訪記
(川口築著・花伝社)

どっかのサラリーマンが書いた、素人旅行記。「旅に出るきっかけ」やら「香港経由で見たもの」まで、丁寧に書いてあるけど、べつに、書くほどおもしろいきっかけでもないし、香港の夜でもない。パプアに着いてからの話も、ようはただの自由旅行者なので、(バックパッカーではない)あんまり参考にもならない。ただ、パプアの旅行記はあまりないので、どんなところか知りたいのなら、立ち読みしてみるのもいい。

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