日本政府には「思いやり予算」という理解しづらい在日米軍駐留経費の負担がある。在日米軍が日本に駐留するのにかかる維持経費のうち、日米安保条約・地位協定などで取り決めた範囲を超えて、日本政府が余分に負担している予算のこと。米軍では海外駐留経費の被駐留国政府の負担をホスト・ネーション・サポートと呼んでいる。
1978年に、当時の金丸信防衛庁長官が日本での物価高騰と円高ドル安という当時の経済状況が米軍駐留費を押し上げていることを背景に、「米国から要求されるのではなく、思いやりを持って対処する」などと国会答弁し支出が決まったことに由来する呼び方。
この負担を定めた日本の法律はなく、87●●年からは、日米間で締結する特別協定に基づく「特別協定予算」とされ、日本人基地従業員の労務費、光熱水料、訓練の移転費などを負担。
日米地位協定第24条(経費の負担)
1 日本国に合衆国軍隊を維持することに伴うすべての経費は、2に規定するところ により日本国が負担すべきものを除くほか、この協定の存続期間中日本国に負担をか けないで合衆国が負担することが合意される。
2 日本国は、第二条及び第三条に定めるすべての施設及び区域並びに路線権(飛行場及び港における施設及び区域のように共同に使用される施設及び区域を含む。)をこの協定の存続期間中合衆国に負担をかけないで提供し、かつ、相当の場合には、施設及び区域並びに路線権の所有者及び提供者に補償を行なうことが合意される。
3 この協定に基づいて生ずる資金上の取引に適用すべき経理のため、日本国政府と合衆国政府との間に取極を行なうことが合意される。
<思いやり予算の具体例>
□施設(兵舎、家族住宅、航空機用シェルター、格納庫、貯油施設、管理棟、消防署、食堂、車両整備工場、塗装工場、倉庫、郵便局、育児所、教育施設、販売所、ガソリンスタンド、ソフトボール場、テニスコート、プール、体育館など
)
□日本人基地従業員の労務費(日本人従業員の給料やユニホームなど)
□光熱費(ガス、電気、上下水道、暖房用の燃料などの費用)
□自動車税・高速道路通行料金の減免
□訓練移転に伴う追加経費
※1995年から、日本政府の要請で米側が代替施設を使って訓練する場合、必要となる車両、機材、兵員、整備士などの輸送費、燃料費、宿舎整備費などの追加経費の全額または一部を日本政府が負担すると特別協定で規定。厚木基地から硫黄島に移転した夜間発着訓練や沖縄での実弾砲撃訓練を大分県の日出生台演習場などに分散移転した例などに適用されている。在日米軍再編により米軍訓練の一部が更に自衛隊の基地や演習場に移転される傾向にあり、演習移転経費は増大することになる。
特別協定は5年ごとに締結され、負担対象となる経費や期限を明記。具体的な金額は毎年度ごとの防衛施設庁予算に計上する。01年度から05年度までの特別協定の後、06年度からは2年毎の協定となった。
他国の軍隊のための駐留経費負担は他にも事例があるが、「思いやり予算」ほどの大きな負担額は他に類例が無い。同じ第二次大戦の敗戦国で米軍の駐留が続くドイツと比較すると日本の「思いやり予算」の特異さがはっきりする
■駐留軍経費 ●●●● ●●●● 日本はドイツの19倍
■外国軍一人当たり経費 日本:1378万円 ドイツ:約20万円
■総経費 日本:6257億円 ドイツ:331億円
■前年伸び率 日本:4.4%増 ドイツ:62.2%減
となっている。
米国防総省発表に見る米軍の海外駐留経費
□同盟国全体での2002年度の米軍海外駐留経費負担合計額は約85億ドルで、米軍海外駐留経費総額の50%以上を占める。
□このうち、日本政府の負担額は44億1134万ドルで同盟国全体の50%以上を占める。すなわち、日本だけで米軍の海外駐留費用総額の約4分の1を負担している。
□日本は在日米軍駐留経費全体の74.5%を負担。駐留経費負担比率で見ても、同盟国中で最も高い割合となっている。
□在日米軍駐留経費の直接経費負担が約32億2800万ドル。
□税金の減免や高速道路通行料など各種手数料の減免などによる間接経費負担が約11億8300万ドル。
国防総省報告書「共通の防衛に対する同盟の貢献」
「思いやり予算」についての世論
インターネット上の「思いやり予算」についての意見表明には次のような賛否が見られる。
<賛成・容認>
○日本独自で自衛できる戦力を持っていないから仕方ない。
○米軍が駐留していることで北朝鮮や中国などからの攻撃を抑止している。
○防衛力不足補完するための外注経費・保険料と考えれば安いもの。
○米軍が確実に日本防衛に行動するよう米国議会・世論に訴える理由になる。
<反対>
○米軍は戦略上有利であるから駐留しているのであり、日本防衛のためだけに駐留しているわけではない。
○日米地位協定第24条は、米軍維持経費は「日本国に負担をかけないで合衆国が負担する」と定めており、「思いやり予算」はこの規定に反する。
○「思いやり予算」があるために基地の返還が進まない。
○「思いやり予算」分を日本の国防費にまわし、在日米軍を削減すべし。
○物価高騰と円高ドル安という当時の経済状況を背景もので、物価が安く円安になった今は、解消すべきもの。
○「思いやり」という感覚が米国に伝わっているのか疑問。
○「思いやり」とは、強者が弱者に対して抱く気持ちであり、行動であるが、力関係で米国は明らかに「強者」である。強国軍隊を思いやらねばならぬ理由はない。
○米軍に駐留してほしいとは思ってないので、 全く必要なし。
<その他>
○駐留経費の負担は良いが、「思いやり予算」という名前には反対。
○駐留費用の負担は良いが、地位協定の改定が前提。
理由の分類数だけを考えると<賛成>より<反対>が多いことは間違いない。
米政府の考え
日本では政治家もマスコミも(米軍への支出を)「思いやり予算」というが、我々は“思いやり”のために何千何万の兵士を派遣しているのではない。(米国人が認識しているように日本人も)日本の安定、国際的安定のために使われていることを知って欲しい。誰もが公平に分担する必要がある。
(ジョン・トーマス・シーファー駐日米国大使06.3.17アジア調査会月例講演会)
在日米軍駐留経費総額
SACO
思いやり基地周 民公有 その他 その他 国有地 関連経
予算(政 辺対策 地貸借 施設移 (防衛施 (他の省 等借上 費(含補
年度 府計上分) 費 料 転費 設庁) 庁) 料試算 小計 正分) 総計
1978 62 272 337 269 185 220 415 1759 1759
1979 280 346 352 296 191 225 400 2089 2089
1980 374 400 368 222 194 221 400 2179 2179
1981 435 459 399 152 185 207 449 2287 2287
1982 516 475 437 130 227 218 499 2502 2502
1983 608 455 412 120 218 219 536 2568 2568
1984 693 617 423 110 226 216 562 2847 2847
1985 807 632 442 63 234 219 587 2985 2985
1986 818 640 489 38 240 239 592 3057 3057
1987 1096 663 461 11 301 250 617 3400 3400
1988 1203 663 479 3 267 237 684 3536 3536
1989 1423 715 514 3 283 242 790 3970 3970
1990 1680 702 544 11 290 218 959 4405 4405
1991 1775 697 602 6 310 220 1159 4771 4771
1992 1982 694 643 9 323 224 1301 5177 5177
1993 2286 718 671 3 331 219 1384 5612 5612
1994 2504 727 694 7 342 225 1446 5944 5944
1995 2714 736 712 10 355 230 1500 6257 6257
1996 2735 738 775 3 380 212 1546 6389 72 6461
1997 2737 730 793 2 355 215 1583 6416 133 6549
1998 2538 658 818 18 360 357 1593 6342 197 6539
1999 2756 631 843 18 381 381 1625 6619 236 6855
2000 2755 610 865 41 381 361 1648 6659 257 6916
2001 2573 620 884 42 388 369 1658 6534 275 6809
2002 2500 587 901 5 370 363 1667 6392 295 6687
2003 2460 597 915 6 377 363 1669 6387 397 6784
2004 2441 557 906 7 351 371 1672 6304 379 6683
2005 2378 530 907 2 346
単位(億円)=四捨五入のため計数に符合しない場合がある
駐留経費・思いやり予算を考える視点
編集中