第3章 患児、家族のための滞在施設       

 

  第1節 住居問題の解決に向けて 

 

 マクドナルドハウスはアメリカ、ヨーロッパを中心として世界で約200施設あり、日本国内には約35施設ある。

 

   第1項 マクドナルドハウスの歴史について

 

 マクドナルドハウスの始まりは米国のフィアデルフィアである。『病院近くのわが家』によると、「フィラデルフィアでアメリカンフットボール選手をしていたフレッド・ヒルの娘が白血病にかかりフィラデルフィアの病院に治療のため入院した。その時チームメイトが集めた病院への寄付がきっかけとなり、宿泊施設建設の運動に展開した。1974年にマクドナルド社が中心となって行った募金キャンペーンにより設立された。それはフィアデルフィア地区のマクドナルド全店での一週間分のシェイクの売上を寄付する替わりに、マクドナルドから名前を取り、マクドナルドハウスとして成立した。現在はマクドナルド社の創業者レイ・ロックを記念して1984年に作られたロナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズという財団を通して支援が行われている。個人からの寄付や企業からの支援、多くの地域ボランティアによって運営されているマクドナルドハウスは、現在アメリカでは180カ所以上にのぼる。またマクドナルドハウスは「病気の子どもの家族」が対象だが、他にも「病気の大人の家族」も対象になっているハウス、がんの患者対象のハウス、臓器移植を控えている患者・家族が対象のハウス、対象を限定せずに誰でも利用できるハウスなど様々である。」(5)

  日本では国立ガンセンター小児科「母の会」によって小児がん患児・家族滞在施設設立運動が始まった。1990年に国立ガンセンターに「6A母の会」が発足した。これは6A病棟の母親達が病院の談話室や面会時間後に喫茶店で、闘病生活の悩みを話し合っていたのがきっかけとなった家族会である。1991年に6A病棟にボランティアで来ていたアメリカ人修道女キャスリン・ライリー氏が、「6A母の会」にマクドナルドハウスが紹介して、母親達に滞在施設を作りたいという気持ちが生まれた。母の会は日本マクドナルド社、病院、新聞社などに働きかけていた。その後、「6A母の会」主催の『東京に宿泊施設を』と訴えるパネルディスカッションが聖フランシスカンチャペルセンターで開催される。新聞にも紹介されたため外部からの参加者も多く、パネルディスカッションを聴きに来ていた金田氏が、東京足立区にて部屋を提供して2年間マクドナルドハウスとして稼働した。パネルディスカッション後に「6A母の会」が中心となった「愛の家設立準備委員会」が発足し、1993年篤志家によって提供された家具店2階のベランダに滞在施設を建設し「かんがる〜の家」が完成した。1997年に「愛の家設立準備委員会」から「ファミリーハウス運営委員会」に改称し8施設19室に増えている。その他には2000年までにボランティアグループなどが設立した、対象者を小児白血病に限定しない難病患児・家族滞在施設は国内に約35施設となった。日本でも日本マクドナルド社からの出資金によりマクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン・デン・フジタ財団が設立された。そこではマクドナルドハウスの建設、ボランティア活動費助成事業、ボランティアの育成などの援助が行われている。  

 

 

    第2項 マクドナルドハウスの内容

 

 マクドナルドハウスは病院の近くにあり徒歩数分の所にあることが多い。交通費がかかることはなく、患児に何かあればすぐに駆けつけることができる。日本で多くのマクドナルドハウスはボランティアグループが運営している。形態はいくつかあるが間取りはペンションのように個室が何部屋かあり、共有スペースとしてのリビング、台所、浴室があるタイプ。アパート形式で1DK程の部屋に台所、トイレ、浴室があるタイプもある。また、元の使用法別には会社の寮の空き部屋を利用しているタイプや一軒家の空いている部屋や別棟の離れを使用しているタイプがある。また部屋数として一施設に一部屋の施設から一施設に二十部屋あるところまであり、形態は様々である。

マクドナルドハウスにはボランティアが集めた物や寄付によって日用雑貨、家電製品などの生活必需品はそろっている。宿泊費は光熱費を含め一泊大人一人で1000円前後で宿泊できる。家族は自分で食事作り、掃除、洗濯をすることになっている。施設を利用するには直接マクドナルドハウスに連絡して滞在することになる場合と、病院の医療ソーシャルワーカーが窓口となり施設を紹介する場合がある。多くの施設の運営にはボランティアが関わっている。彼らが患児の面会に行ってる間の患児の他の兄弟の世話をしていたり、家族の話を聞いたり、家族が疲労している時には食事を作ったりすることもある。マクドナルドハウスがアパート形式で家族間交流の場としての共有スペースがない場合には、家族は自室に閉じこもってしまい、一人で付き添って来ている親は孤独と不安で一杯になってしまう。家族同士が話し合うことのできる食堂やリビングなどの共有スペースがあることによって、家族は情報交換をすることができたり、お互いの悩みや不安を話し合うことができる。話し合うことによって親は一人ではないと思うことができ、ストレスの軽減にもなる。

 

2 マクドナルドハウスの形態と利点

        アパート型   ペンション型   一軒家の離れ    寮の空き部屋

部屋数    10部屋前後   320部屋    1部屋      110部屋  

家族同士話を  空き部屋     リビングや食堂  なし     リビングや食堂 できる場所

食堂     各部屋にあり  共有      有り      共有 

台所     各部屋に有り  共有      有り      共有

トイレ    各部屋にあり  共有       有り      各部屋にあり

浴室     各部屋にあり  共有      有り      各部屋にあり

 洗濯機    各部屋にあり  共有      有り      共有

 

 マクドナルドハウスの現状として施設の少なさも問題である。現在多くのマクドナルドハウスは宿泊対象者を小児がんだけには限定していない。小児であろうと成人であろうと難病患者の家族を対象としているマクドナルドハウスが多い。マクドナルドハウスについての情報が家族に伝わっていないため、全ての家族がマクドナルドハウスに申し込みをしているわけではない。マクドナルドハウスでは申し込みに対して空き部屋がないために断るケースもある。病院、疾病、どこからくるのかで宿泊の優先度を決めている。それによってマクドナルドハウスに滞在することができない家族もでてきてしまう。

 

第3項       マクドナルドハウスのセルフヘルプ

                         

私はマクドナルドハウスについての文献などを調べていく過程で、次の文章を見つけた。それはある母親の言葉であり、「滞在施設が出来たことによって安らげる場所を得ると共に、同じ病気と闘う子供を持つ親同士が、励まし合ったり相談し合いながら、『さあ、明日も頑張ろう』という気力を養い、毎日病院に通っています。」(6)であった。この文章にあるように単にマクドナルドハウスというのは付き添い家族に安価な滞在場所を提供して、経済負担を軽減するだけの場所ではない。宿泊するだけでなく患児の病状、将来の不安など、同じ悩みをかかえる家族同士が情報を交換したり、悩みを語り合える場所である。それにより心理・社会的な不安も軽減することのできる場所である。これは家族会におけるセルフヘルプと同じ機能を持っている。私はこのマクドナルドハウスのセルフヘルプ機能に着目したいと考えた。

 

 

  第2節 セルフヘルプについて

 

   第1項 セルフヘルプと家族会の定義

 

マクドナルドハウスのセルフヘルプ機能を述べる前に、セルフヘルプの定義をあげる必要がある。

久保紘章によるとセルフヘルプ(SELF-HELP)には、2つの意味がある。「1つは、個人による自助、独立の意味(自分のことは自分でする)があり、自立(自律)を指している。もう1つは、相互援助(MUTUAL AID)、共同の意味である。セルフは、自分()だけでなく、われわれ(We)を指すので、「仲間同士の共同による自助」の意味も含まれている。つまりセルフヘルプは「自分のことは自分でする」SELF-HELPと「相互に助け合う」MATUAL-HELPが組合わさって「仲間同士が支え合う」と考えることが出来る。」(7)

また『福祉社会事典』によると「他人に依存せず、自らの力で自分の向上や発展、生活や周囲の問題の解消、解決を果たしていくこと。セルフヘルプの担い手は単独の個人に限定されるわけではなく、家族や当事者グループなど、当該事象との関係でその範囲は変化しうる。」(8)や「共通の困難な生活状況にある人々が、その共通した体験に関連する情報および感情、考え方をわかちあうために自発的かつ継続的に行う活動。この活動の本質はわかちあい(sharing)である。困難な状況にある人々が、その状況の解決や緩和につながる情報や苦しさ(生きづらさ)や喜びの気持ち、さらに体験の意味づけや理解の仕方などの考えをわかちあう。(わかちあい)の目的は、個々人の(ひとりだち)である。」()とあるように、セルフヘルプとはグループの中でメンバー同士が互いに影響し合い、個人と集団が支え合い成長することである。

セルフヘルプ機能を持つ家族会とはどのようなものかを考えるため、セルフヘルプ同様に家族会の理念もあげる必要がある。『現代福祉学レキシコン』によると「同じ病気を持った患者同士が集まり、体験談などを話し自助、相助する。病気を持った患者が家族にいる人たちが集まったのが、家族会。疾病および障害児・者をもつ家族が、共通してかかえる悩みや困難などを共に克服するための自助活動を行う集団・組織をいう。家族会活動の共通の目的は、家族員の主体的な参加に基づくセルフケアの確立と社会的対策の拡充である。」(10) また『福祉社会事典』によると「集団活動によって、情報交換や各種の便宜を図るということにとどまらず、当事者であるがゆえに、社会的に孤立・疎外されがちなお互いの悩みをわかちあったり、相互に癒しあう効果が期待されるのでもある。」(11) とあるように家族会とは、病気を持った患者がいる家族が情報交換をする場所であり、共通してかかえる悩みや不安をお互いに話し合い、励まし分かち合うことである。

 

      第3項 マクドナルドハウスの患者・家族会的役割

 

 国立ガンセンター小児科母の会のアンケート(1991年)によると、患児の入院に母親が付き添った際の精神的支えとなったのは、父親と答えた人は11人、母親同士と答えた人は11人で同じ数値であった。面会時間には母親は患児に付きっきりであるが、面会時間終了後に母親同士が話をする場所は喫茶店やマクドナルドハウスである。マクドナルドハウスは安い住居の確保ということで、ボランティアが運営し家族が滞在し始めたが、その中で、家族同士が知り合うことによって、家族会と同じまたそれ以上に濃密に緊急性のある危機的状況の共有により、セルフヘルプ機能を持つようになった。共有スペースがあることによって、他の家族と話ができることにより不安、ストレスの解消や情報交換などができる。

マクドナルドハウスは病気を持った者のいる家族同士が話をすることができる場所である。

 

 

 

 

 

  第3節  仮説

 

医療ソーシャルワーカーが援助するのは病気に罹っている患児だけではなく、患児の家族も援助の対象である。そのため患児だけでなくその家族にも目を向けて援助していかなくてはならない。患児と家族のために安定した療養環境の確保、付き添い家族の滞在場所の確保も医療ソーシャルワーカーの役割である。

マクドナルドハウスには滞在家族同士によるセルフヘルプ機能があり、家族同士が情報交換をしたりゆっくり話し合うことのできる場所である。セルフヘルプ機能はマクドナルドハウスに安価に滞在できるのと同様に、マクドナルドハウスにおいて重要な機能である。

「マクドナルドハウスにはセルフヘルプ機能があり、医療ソーシャルワーカーがマクドナルドハウスと関わって援助活動を行っていく上で、マクドナルドハウスのセルフヘルプ機能を育成、発揮促進する事を目的として援助している」という仮説を事例分析により論証していく。