hideki tachibana

「LEBENSLAUFS」(STUDIO WEE/NOKTO SWN407)
AAS

 めちゃめちゃいい。めちゃめちゃ好き。もしこのアルバムが発売されたとき、私がジャズ界でなんらかの発言できる立場にあったら(そんなことありえないけど)、この作品を年間ベストに選んでいたにちがいない。それぐらいすばらしい。作曲よく、リズムよく、個々のソロよく……もう、私の好みにどんぴしゃりである。もともとは、ドラムの磯部さんが参加しているということで購入したのだが、アルトの立花秀輝というひと、すばらしいですね。私が20数年前、アルトを吹いていたころ、とにかく必死で練習し、なんとか自分の思うような演奏をしようと夢を見ていたが、そのころ頭に思い描いていた音というのは、たぶんこういう感じなのだ。こういう風にアルトを吹きたかったのだ。その後4年間アルトと格闘して、あきらめた私はテナーにチェンジし、アルトは売っぱらってしまって現在にいたるが、このひとを聴くと、しみじみ、ああ、ええなあ……と思う。音楽をアルトだテナーだと楽器で区別するのはとんでもないことではあるが、私はどうしてもテナー中心に音楽を聴いてしまう。テナーの入っていない音楽はほとんど聴かない。だが、このひとは完全に私の琴線をヒットしたと思う。ほんと、このアルバム、何べん聴いたかなあ。ここまでアルトに関して私の好みにずどーんと来るひとはいないです。アルトを吹いていたころの私のアイドルはドルフィー、坂田さん、梅津さん……などなどだったわけだが、もしあのころ、こういうひとがいたら完全に私淑していただろうと思う。じつは何回かライヴで聴いているのだが、大編成だったり、アンサンブルだったりして、こういった感じの演奏には接していない。いずれこういうバンドでたっぷりとソロを浴びたいと思っています。

「〇」(SINCERELY MUSIC SINM−005)
立花秀輝・不破大輔

 タイトルは「〇」、つまり「マル」と読むらしい。立花さんはアルトのみ、不破さんもベースのみによるデュオ。すばらしいコンポジション(ほんま、ええ曲ばっか)があり、そこにふたりのソロが続くわけだが、たったふたりなのでたがいに徹底的に、延々と自分を出せる。ということは、ダレたり、ネタがつきたり、なれあいになったりする瞬間がたくさんあってもいいはずだが、そんなことは(たぶん)一瞬もない。といって、ずーっと高いテンションが維持されて聴いていてへとへと、ということもなく、いやまったく、本当に、「ちょうど良い感じ」が全編続くのだ。深いからみあい、距離感のあるからみあい、伴奏とソロ、その逆……いろんな要素がエンターテインメントとして昇華し、この一枚になった。おたがいの無伴奏ソロの部分も、ふたりのリアルな実力がもろに出ていて聴き応え十分。ちょっとした音色の変化やリズムの変化で局面を変えていくあたりは鳥肌もの。傑作。これはマジ傑作。みんな聴いて! なお、内ジャケットのコメントは私が書いております。

「UNLIMITED STANDARD」(STUDIO WEE/NOKTO SWN503)
TACHIBANA HIDEAKI QUARTET

 先日、日本ジャズ史に残る(と私が勝手に思っている)不破大輔とのデュオ「マル」を発表したばかりの立花秀輝が、またまたすごいのを出したというのでさっそく買いに行った。タワーレコードの店頭でかなりプッシュされていて、どーんと面出しにしてあった。スタンダード集ということでかなり驚いた。ふつーのひとじゃないですからね。AAS、渋さ、SXQ、マル……そのひとがスタンダードですからね。しかもリズムセクションは板橋文夫、池田芳夫、小山彰太という、立花さんより二世代ぐらいうえの豪腕ばかり。マジかよ。でも、これ、うまくいけばうまくいくけどうまくいかんときはうまくいかんで(あたりまえ)と、大きなお世話的な心配をしながら聴いたが、もちろんそんな心配はまったく馬鹿げたことであって、めちゃめちゃよかった。1曲目の「オール・オブ・ミー」の冒頭から、おなじみのテーマをへしゃげさせたような演奏と、その雰囲気を保った4者によるフリーな感じのアドリブに突入するのだが、基本的には「オール・オブ・ミー」のコード進行はどこかにちゃんとキープされている。それが崩壊しても、全体としては「オール・オブ・ミー」を聴いた、という感覚はちゃんとある。そうでないと、テーマをやったらあとは全部一緒ということになりかねないが、フリーなやりかたでスタンダードをやる場合、テーマの空気感みたいなものが(やる側も聴く側も)頭のすみっこに残っていることが多いし、逆にいうと、それさえ残っていればあとはなにをやってもいい、ということだ。このアルバムで演奏されているスタンダードは、どれもそのあたりの綱渡りが見事に行われていて、リズムセクションは百戦錬磨だから当然としても、立花さんもそのへんの「行け殺し」は自在だ。4人が4人とも、大迫力で気合いが入りまくっているだけでなく、隅々まで気を配った演奏で、これがライヴというのも驚く。バラードも含め、どの曲も一聴、原曲を壊しているようだが、じつは軽くいじっているすぎない。本作の本質はそのあと(のインプロヴィゼイション)にあると思う。原曲のもつ空気感を壊さず、しかも好き放題に4人でやりたおして、これが「オール・オブ・ミー」ですよ、これが「サムデイ・マイ・プリンス……」ですよ、と言い切れるような離れ業を行っている(「オール・ザ・シングス・ユー・アー」は最後の最後にテーマが出てくる構成だが)。だからこそ(だと思うのだが)唯一のオリジナル曲(6曲目)が際立つ。この6曲目は、まさに本領発揮の大爆発で興奮また興奮の凄まじい演奏なのだが、だからといって、じつはこの曲にこそ本音がある、とか、これがじつは一番やりたいことなのだ、などといううがった見方はたぶん誤解だと思う。本作はあくまでスタンダードへの立花秀輝流のチャレンジであり、それは見事に成功しています。少なくとも、私は「ラッシュ・ライフ」を聴いていて目頭が熱くなりました。本作の成功の原因は、リーダーの技術・音楽感などは当然として、まずトリオの人選、選曲、そしてなによりリーダーの異常なまでの気迫がメンバーや客にも伝わったことではないか。立花さんはどんなに狂ったようにブロウしても、凛として崩れないからいいなあ。

「SONG 4 BEAST」(STUDIO WEE SW506)
AAS

 不動のメンバーによるAASの新作。ぜったい面白いだろうと思って聴いたのだが、こちらの予想よりもまだ上を行く傑作だったとは。とにかく、無伴奏アルトソロではじまる一曲目の冒頭でガツンとやられる。めちゃくちゃかっこいい。これはプレイヤーの感情とテクニックが一致した瞬間であって、こういう音楽を聴いていてもっとも高揚する瞬間なのだ。そのあとリズムが入ってくるところのかっこよさよ。完全に狙っているわけだが、それでも「きーっ!」となる。全曲オリジナルというのもすごいが、その曲がまたどれもよくできているというのもすごいことだ。アルトで吹くことを前提としているからなのか、このカルテットというフォーマットで、しかもアルトの音域で吹くとめちゃめちゃよく響く曲ばかりだ。ジャズロック風のもの、フリーな曲(5曲目とか)、リフで燃える曲などバラエティも豊か。コンポジションとソロがばっちり融合しているし、演奏全体に激情とクールネスが同居しており、(いろんな意味での)テクニックも存分に味わえる(6曲目のソロとか、むちゃくちゃのようでじつはサックス演奏上の技術が凄いことがわかる。8曲目のソロなどはもっと思い切ったフリーなもので、それもめちゃ凄い)。なめらかな指使いのフレージングと、ぎくしゃくしたフレーズをうまく組み合わせ、そこに音色の変化やダイナミクスなどを織り交ぜていくこのひとのアルトが、私の好みにぴったり……ということはあるかもしれないが、とにかく、あー、こういう演奏が一番好きなのだ。カルテットのサウンドとしては、もうこれ以上足したり引いたりするものが皆無なほど完璧で、とくに私の好きな磯部さんのドラムは今回も爆発している。まあ、この4人が全員、感情とテクニック、激情とクールネス、フリーと楽理……といった両方を持ち合わせているミュージシャンだということだと思うが、ピアノにしてもベースにしてもとにかくこのカルテットにぴったりとはまっていて、このアルバムのすべての音、すべての瞬間が好き、と言いたいほど気にいってます。大げさかどうかは自分の耳で聞いて確かめるようにね。一曲一曲の演奏時間はそれほど長くないのに、そのなかでちゃんと燃え尽きているところもいい。帯には「疾走感と重量感」とあるが、なるほどその通りだ。こうして私の「日本のジャズは、歴史的に現在が最強説」が裏付けられるアルバムがまたしても登場した。ぜったいにそうだと思うけどなあ。立花さん自身によるライナーノートもすごく面白いから読み逃したらダメっすよ。