sonny stitt

「SUPER STITT」(PHOENIX JAZZ RECORDS LP15)
SONNY STITT

 スーパーマンの格好をしてテナーを持ったスティットが空を飛んでいる絵が、白黒で描かれているというめちゃめちゃ安っぽいジャケットだが、中身は最高。ライヴだと思うが拍手が聴こえない(声は聴こえる)。よくわからない音源だ。このころのスティットは、まだまだアルトがちゃんとしていたようで、一曲目のアルトでの「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」はすごくいい。イマジネイティヴなロングフレーズがわき出てくる様は圧巻。でもなぜか途中でテナーに持ち替える(テナーソロもいいが)。「ペニーズ・フロム・ヘブン」もめちゃめちゃすごい。B面一曲目のおなじみ「エヴリタブ」も、よどみないフレーズのオンパレードで、しかも勢いが止まらない感じでかっこいい。海賊盤らしく、途中で明らかに無音になる部分があるがすごい。54年のライヴ。サイドは無名。バリトーンを吹いている曲もあるが、あまり電気的にゆがめていないので、さほど効果はあがっていない。「ブルー・アンド・センチメンタル」も泣かせます。

「SONNY STITT WITH THE NEW YORKERS」(ROOST LP226)
SONNY STITT

 このアルバム、死ぬほど聴いた。基本的にルーストのスティットはどれもいいのだが、本作はスタンダードの選曲が渋い。「ザ・ベスト・シングス・イン・ライフ・アー・フリー」とか「アイ・ディドント・ノウ・ファット・タイム・イット・ワズ」とか「ピープル・ウィル・セイ・ウィー・アー・イン・ラヴ」とか(リチャード・ロジャースの曲が多い)。後年はよれよれになるスティットのアルトも、このころは音色も太くて輝かしく、音程もしっかりしているし、フレーズも最高。ライナーの記載にアルトだけしか載ってなくても、たいがいテナーを何曲か吹いている場合が多いが、ほんまにこのアルバムではテナーを吹いておらず、アルトに徹している。でも、スティットのアルトといわれると首を傾げてしまう私でも満足できる出来ばえ。どの曲もよくて、アルバム全体の水準がものすごく高い。「チェロキー」は凄まじい反面、安定感もあり、完璧。バラードも文句なし。ひとりだけ浮いてるかなあ、と思っていたシャドウ・ウィルソンのドラムも案外古くさくなく、ちゃんと合ってる。ハンク・ジョーンズ、ウェンデル・マーシャルと、サイドもばっちり。アルトを持つジャケットもかっこいい。名盤ですなあ。こういうアルバムを完コピしたら、さぞうまくなるだろうな。

「MY MOTHER’S EYES」(PACIFIC JAZZ PJ−71)
SONNY STITT

 黒いバックにスティットの黒い顔がドーンと大写しになっているジャケットがよい。こういう盤を見ると、CDのジャケがしょぼく思えてくる。このころのオルガン+スティットだと、たいがいバラードとかを二曲ほどアルトに持ち替えているのが普通だが、本作はテナーのみ。チャールズ・カイナード(なんとこのアルバムが初レコーディング)のオルガントリオがバック。スティットとしてはめずらしいパシフィック原盤だ。二曲のバラードと、スタンダード一曲(「マイ・ブルー・スカイ」……このテーマの吹き方がかっこいいのだ)をのぞき、一曲めの「サマー・スペシャル」からブルースと循環ばかりが並ぶ(タイトルチューンの「マイ・マザーズ・アイズ」はバラードだが、オルガンのせいか、まるでゴスペルのように敬虔な雰囲気の演奏である)。どの曲も、おいしいフレーズばかりで、二曲ほど丸コピーした。適度に熱く、適度に冷静な、落ち着きはらった演奏で、本人としては軽い感じの録音だったのかもしれないが、コピーさせてもらったということで私には忘れがたいアルバム。でも、日本語ライナーの岩波洋三が書いているような「ぼくは躊躇することなく、スティットの代表作にあげる」ようなことはしないけど。

「SONNY STITT SONNY STITT SONNY STITT SONNY STITT SONNY STITT」(ROOST LP2208)
SONNY STITT

 タイトルは裏ジャケにある「SONNY STITT PLAYS」だと思っているひとも多いようだが、たぶんそうではない。ジャケットの表には「SONNY STITT」という言葉が5つ並べて印刷してあるだけだ。5つ目がミュージシャン名ということで、4つ目までがタイトルなのかもしれないが、とりあえずここでは5つ並んだ状態がタイトルということにしておく。紫煙のなか、横を向いてアルトを吹くスティットの雄姿は、髪の毛を短く刈っているし、デコが出ているせいか、坂田明そっくりである。「ウィズ・ザ・ニューヨーカーズ」とは別の日の録音だが、メンバーはほぼいっしょで、なぜかフレディ・グリーンのリズムギターが加わっている。なぜこのメンバーにフレディ・グリーン? もちろんソロをとるわけでもないのに、よくわからん人選である。A面1曲目の「アナザー・ユー」やB面1曲目の「アフターアワーズ」など、聴いているだけでわくわくするような、スティットの輝かしいアルトはこのあたりの時代がいちばん凄かったと思う。バラードも感情豊かだが、決して過多にならず、音の艶やかさといい、なにもいうことはない。後年のスティットのアルトは、高音がフラットし、音もしょぼくなっていくが(その分、テナーがすごくなる)、この時代のテナーは線が細く、アルトのほうがずっといい。でも、岩波洋三の日本語ライナーの「得意の連音譜を用いてパーカースタイルに根ざしたアドリブを展開している」という文章の意味はまったくわからん。連音譜ってなんやねん。

「SONNY STITT」(CADET LP629)
SONNY STITT

 デコがぎらりと光るスティットの顔の大写しが印象的なジャケット(オットーリンクのメタルマウスピースをくわえている)。こういうのはCDサイズにしてしまったらまったく迫力が失せる。1曲目、いきなりどスローブルースではじまる。アルトでの演奏だが、この頃のアルトはよい。自由自在で、飛翔感があり、聴いていると胸がすっとするようなすがすがしさがある。こういう感じは、同じパーカーフォロワーのなかでも、ルー・ドナルドソンやチャールズ・マクファーソン……といった連中では味わえないもので、スティットはひたすらがんがんサックスを吹きまくっているだけなのだが、その結果として、安定性とチャレンジ精神のじつにバランスがとれた、完璧なジャズにしあがっている。これは、この時期のスティットが持っていた「時分の花」であり、本人が自覚してそうしていたというわけではなく、たぶんサックスをくわえて吹くだけで、それだけのものが勝手に沸き上がってくる、という感じだったのだと思う。テナーを吹いている曲もあるが、この時期のスティットのテナーは、あまりテナーっぽくはない(悪くはない。というか、すごくいいんだけど、比べてみるとやはりアルトのほうがいい)。60年代以降になると、アルトの輝きが失せる一方、テナーがどんどん太く、ソウルフルになっていく。バリー・ハリストリオがバックだが、とにかく吹きまくるスティットが凄すぎて、ピアノなんか聴いてません、私。同時期のものとしては、熱狂的なソロが聴けるルースト盤のほうが好きだが、本作も非常に充実している。でも、8曲中4曲がブルースってどうよ。

「THE BUBBA’S SESSIONS」(ATLAS RECORDS AE27−7001)
SONNY STITT

 死ぬ一年前のライヴだが非常に充実している。とくにA面1曲目の「ソニーズ・ブルース」はB♭のミディアムテンポの曲だが、ふつうのソロ部分はもちろん最後にテーマ後に逆循になって、「パーディド」や「スプランキー」のテーマを引用するあたりも含めてフレーズが全部おいしくて、学生のころ、完コピして、あるセッションで演ったら、そこにいたひとのほとんどがこのレコードを聴いていて、えらい恥をかいたことがある。でも、とにかくめちゃめちゃ聴きまくった一枚で、思い出ぶかい。アルトでバラードを2曲吹いているが、やはりテナーに比べると音程がうわずるし、音も全盛期とは比べようがない。でも、しみじみ心にひびく。2曲で、ロックジョウとハリー・スイーツ・エディソンがゲスト参加していて、その2曲はJATP的な大味な、荒いセッションになっているが、これはこれでよい。フロントの3人とも今は個人だと思うと感慨深いなあ。なんとドラムがダフィー・ジャクソンで、こういうコンボもやるんやなあ(あたりまえか)。

「GOOD LIFE」(TRIO PAP25015)
SONNY STITT WITH HANK JONES TRIO

 ハンク・ジョーンズ・トリオを従えたソニー・スティットの作品。じつはかつてハンク・ジョーンズ・トリオが来日したとき、ソニー・スティットがゲストで、私は高校3年のときにそのコンサートの模様をラジオで聴いた。解説のいそのてるお(だったっけ?)が、コルトレーンよりもすごいサックスの神様、という紹介をしたので、高校生の私はムカッとして、コルトレーンよりすごい? そんなやつおるんか、とけんか腰でラジオを聴き、なるほど、スタイルはぜんぜんちがうが、ある意味すごいなあ、と感心した。以来、そのときのエアチェックは私の宝物だが、正規のアルバムにおいては、ハンク・ジョーンズとスティットという組み合わせは、なかなかあのときのような白熱の演奏にならず、どちらかというと洒脱な大人のジャズになってしまう。本作もそうで、まあ、そこそこ面白いが、それ以上のものではない。あのときのコンサートのライブ盤が出れば、ぜったいすごいのに。

「SONNY’S BACK」(MUSE RECORDS MR5204)
SONNY STITT

 バリー・ハリストリオをバックにしたミューズのスティットである。死去の2年前とは思えない元気さだが、内容はかつてのあの凄味はなく、リラックスしまくった内容。リッキー・フォードが3曲ほど客演しているが、いわゆるテナーバトルではなく、単に順番にソロをするだけで、なんのためにいるのかはいまいちよくわからない。プロデューサーはボステナーズの再現を意図したのかもしれないが、あまりに貫祿がちがいすぎるもんね。スティットのテナーは快調で、リッキー・フォードもそれなりにがんばっているが、スティットのほうが全編歌になっており、頭ひとつ勝っている感じ。でも、どうしてこのアルバムが好きなのかというと、B面1曲目の「ダッジ・シティ」というブルースを完コピしたからで、まさにスティットフレーズオンパレードのすばらしい演奏なのだ。まあ、そういう個人的な思い入れは別として、やはり、晩年、のんびり吹いたというような雰囲気のアルバムではありますね。

「SONNY STITT SITS IN WITH THE OSCAR PETERSON TRIO」(VERVE 18MJ9014)
SONNY STITT WITH OSCAR PETERSON TRIO

 スティットとピーターソン。どちらも手数の多い超弩級のテクニシャンでブルースに根ざした理屈抜きにスウィングしまくる演奏で定評があるが、どちらかというとあまりにうますぎて深みがないと一般には考えられているようだ。そんな両者の、ありそうでなかったがっぷり4つの共演盤。リラックスしつつも、迫真性がある。めちゃめちゃ好きなアルバムで、かつて完コピしたA面一曲目の「オウ・プリバーブ」や5曲目の「スクラップル〜」はテーマの吹き方から、ソロから、なにからなにまで好きだし、バラードやスタンダードでの、畳みかけるような16分音符の吹きかたの圧倒的な凄さなど、目が眩むようだ。このころのスティットは、テナーはそこそこだが、アルトが爆発しており、ドライブしまくるフレーズのオンパレードには、普段フリーしか聴かない私でも目を剥く。選曲もよく、深みってなに? 重みってなに? これだけやったら文句あるまい……と言いたくなるような、本物だけが持つ輝かしさにあふれまくった名盤。アルトが快調なA面にくらべ、ベイシーに捧げたというB面はテナーでの演奏が多く、ふだんはあまり聴かないが、たまに聴いてみるとこっちもいい。ちょっとアルトからテナーへの過渡期の演奏といえるかもしれない。

「’NUTHER FU’THER」(PRESTIGE 7452)
SONNY STITT WITH BROTHER JACK MCDUFF

 サングラスをかけたスティットの強面ジャケットがかっこいい。アモンズも強面だが、相棒のスティットもなかなかのもんである。オルガントリオをバックにしたテナー作品を彼は60年代に腐るほど残しており、私もいっぱい持っているが、これはその典型(ただし、レイ・バレットのコンガが入ってる)。このあたりの時期になると、完全にアルト吹きというよりテナー吹きで、テナーを太い音でうねらせ、昔はむりやり鳴らしている感じのあった高音部も自在である。かっこええ! スティットはアルトだ、というやつはこういう時期のオルガン+スティットを聴いて、目からうろこを落としてほしい。まあ、どの曲がどう、ということもないし、ある意味、気楽な吹き込みなのだが、そこがええやんか! 私がもっとも愛する時代のスティットの雄姿がここにある。

「SONNY STITT−BUD POWELL−J.J.JOHNSON」(PRESTIGE LP7024)
SONNY STITT

「スティット、パウエル・アンド・JJジョンソン」と記載されることが多いようだが、正式なアルバムタイトルは上記のとおり。ジャケットのどこにも、略された表記などないのである。これはほんまに死ぬほど聴いたアルバムだが、今回あらためて聞き返してみて、ちがった感想を持つかと思ったりもしたのだが、いやーやっぱり傑作ですわ。49年、50年という、スティットがテナーを吹いたアルバムとしては最も初期のものなのだが、この時点ですでにテナー吹奏が完璧であることに驚かされる。おかしいなあ……もうちょっとあとのアルバムだと、アルトは凄いけどテナーはまだまだ「アルト吹きのテナーだなあ」という感じなのだが、本作はなぜかテナー奏者としてパーフェクトなスティットが聴ける。これは、理由はよくわからん。そのときのコンディションや、マウスピース、リードなどの相性のせいか……まあ、とにかく、スティットは圧倒的に快調なのだが、共演者がパウエルやマックス・ローチという点も本作のテンションを高めている。リラックスしたセッションというより、くつろぎつつもぴりぴりした雰囲気のなか、傑作をつくろう、という気合いがぴーんと感じられるのだ。とにかく主役と同じぐらいに御大パウエルが快調なので、たとえばオスカー・ピーターソンなどと作ったアルバムとはちがったレベルというかステージの作品に仕上がっている。一曲目の「オール・ガッズ・チレン・ガット・リズム」(神の子はみな踊る)は、私がかつて、長編のタイトルに使った曲だが、これがいいんですよねー。でも、ほかの曲も全部好き。スティットのテナーはなあ……とかいうやつは、このアルバムを聴いてみろ、といいたくなるような傑作。JJジョンソン参加の5曲もなかなかよいが、張りつめた雰囲気という点でパウエル参加の9曲に一歩譲るか? でも、どちらにしても名演ぞろいの宝物である。選曲もよく、スティットの「ストライク・アップ・ザ・バンド」とか「アイ・ウァント・トゥ・ビー・ハッピー」とか、ここでしか聴けんやろ。B面2曲目の「テイキン・ア・チャンス・オブ・ラヴ」は私の大好きな曲で、このスティットのバージョンも昔コピーした。聞き返すと、あまりの懐かしさに滂沱の涙。でも、ワーデル・グレイのライヴバージョンもすごくよくて、そっちもコピーしました。というような、個人的感情でも忘れがたいアルバム。

「SONNY STITT AT THE D.J.ROUNGE」(ARGO LPS683)
SONNY STITT

 いかにもアーゴ風な、シカゴ録音でオルガン入りのライヴだが、テナーのジョン・ボードという、よく知らないひとが加わっている点が、ほかのオルガン+スティットとちょっとちがう点だ。ギターは入っておらず、オルガンとドラムのみをバックに、ふたりのサックスが吹きあう。この、いいかげんな、なんのデータもジャケットには書いていないアルバム(うちにある盤は、裏ジャケットは表ジャケットと同じというめちゃくちゃさ)が、めっちゃすばらしいのである。モダンジャズってこれだよね、ライヴのジャズってこんな感じだようね、という、リアルで、ある意味ええかげんで、テンションがちょっと高いこの雰囲気は、なにものにもかえがたいジャズの現場のエアである。さて、このアルバム、スティットはアルトもテナーも絶好調なのだが、このジョン・ボードというテナーサックスがめちゃめちゃよくて、びっくりする。ほとんどスティットとためをはっている。どうやらR&Bやソウル系で活躍していたひとで、純ジャズの吹き込みはあまりないようなのだが、このアルバムを聴くと、そのことが惜しく感じられるほどにうまい。めっちゃうまい。たしかに、ソウルフルなフレーズも顔をのぞかせるが、基本的にはバップで、歌いまくるし、音もいい。いやー、こんなひとがいるんですね。というわけで、このアルバム、スティットはもちろん、ジョン・ボードもすばらしくて、一枚で二度おいしい傑作なのである。最近では評価も高くなっているようだが、かつては誰も知らなかった名盤であった。

「SOUL IN THE NIGHT」(CADET CA770)
SONNY STITT/BUNKY GREEN

 この時期のスティットがアルトだけで演奏している、というのはじつはあまり食指が動かなかったが、オルガンも入っているのでなんとなく購入してみると、これが大当たり。ふえーっ、めちゃめちゃええやん。スティットは根性入りまくりのソロだし、相手役としてはかなり格落ちのバンキー・グリーンがものすごくがんばり、肩を並べるほどのすごい演奏をしている。これは、買って大正解だったなあ、と大喜びし、ひそかに愛聴していたら、コテコテデラックスなどで喧伝され、すっかりメジャーなアルバムになってしまった。うー、残念。でも、そういう希少性とか関係なく、いい作品だ。ファンキーな曲、バラード、哀愁漂うマイナー曲など選曲もバラエティ豊かだし、とにかく主役のふたりのアルトがうますぎる。スティットには、こいつめ、という気持ちがあっただろうし、バンキー・グリーンにはなにくそ、という張り合う気持ちがあったであろうことは容易に想像できるし、スタジオ録音にもかかわらず、演奏は非常に熱い。これこそバトルです。4バース、8バースで盛り上がるだけがバトルではない。精神的なサックスバトルなのだ。でも、やっぱりバンキー・グリーンのアルトの音やアーティキュレイションは、個人的にはやや苦手なので、スティットがいたからこそ私が面白がれたというところはあるな。カデットというチェスの傍系レーベルなので、当然シカゴ録音。オルガンはあのオーデル・ブラウン、ドラムはモーリス・ホワイトと、サイドもすごいメンツ。A面もB面も楽しいので、あっというまに両面聴きとおしてしまいます。傑作。

「MY MAIN MAN」(CADET LP−744)
SONNY STITT AND BENNIE GREEN

 パッと聴きには、オルガン入りの気楽なセッションかよ、と思われるかもしれないが、聴いてみると、じつにすみずみにまで神経のいきわたった好演奏である。なかでもベニー・グリーンが全曲にわたって、レイドバックした、すばらしいとしかいいようがないソロを展開する。ブルースの塊であり、少し割れたような音色の圧倒的な存在感は、彼がJJジョンソンやカーティス・フラーではなく、偉大なビッグバンドトロンボーン奏者の末裔であり、ゲイリー・バレンテやレイ・アンダーソン、ジョー・ボウイ、大原裕へと連なる系譜の人間であることを示している。これをおとぼけジャズとなどとぬかすやつは……あ、もういいですか。相棒のスティットも最高の演奏でベニーに応えているし、マジでいいアルバムである。ギターのジョー・ディオリオとかいうひとも、すごい後ノリでいい感じ。ときどき、ふっと思い出したように聴くアルバム。ええやんええやん。

「SONNY STITT PLAYS JIMMY GIUFFRE ARRANGEMENT」(AMERICAN JAZZ CLASSICS 99007)
SONNY STITT

ジミー・ジュフリーのアレンジによる小編成バンドをバックにスティットが吹きまくるアルバム「プレイズ・ジミー・ジュフリー・アレンジメント」におまけ(?)として「ア・リトル・ビット・オブ・スティット」がまるごと入っているという超お買い得アルバム。ようするに、カップリングといってしまえばいいのでは? いやいや、あくまで「ア・リトル・ビット・オブ……」のほうは「ボーナストラック」扱いなのです。ようわからん。「ア・リトル・ビット……」のほうはLPでもよく見かけた、アルトサックスを吹いているところが写っているジャケットのやつだが、このジュフリーのアレンジをバックに吹いてるほうは聴いたことがなかったので購入してみた。スティットとオケというと、例のペン・オブ・クインシーが有名だが、あれはたしかにいいけど、スティットという自由奔放なソロイストをきっちり枠にはめてしまったところが名盤なわけで、それはスティット本来の勝手気ままにバックがだれだろうと関係なくひとりで吹きまくるみたいな荒馬的な良さとはちがう。本作はどうなのか。結論からいうと、あれほどかっちりとはしていないが、やはりスティット自身は「バックなんかいらん。もっと勝手に吹かせろ」といってるような気がする。小編成だし、アレンジャーのジュフリーがスティットとバトルをしたりして、そういったあたりがおもしろいといえばおもしろいし、ぐだぐだといえばぐだぐだで、スティットとジュフリーという水と油ぐらいちがう個性をもったサックス奏者が妙な因果でバトルをしているのが笑える。肝心の内容だが、もちろん悪いはずはありません。スティットは、まだまだアルトもすごかった時代の吹き込みで、テナーもアルトも両方すばらしい。「ア・リトル・ビット……」のほうは、よくも悪くもいつものスティットで、個人的にはこういう普段着のスティットのほうがしっくりくる。普段着といってもそうとうすごいんですが。

「37 MINUTES AND 48 SECONDS」(TOSHIBA−EMI LIMITED TOJC−6298)
SONNY STITT

 スティットは大好きで、しかもこのころ(56年)のルーレット期なんだから悪いはずがないと思ってたけど、聴いてみると、なぜかいまいち入り込めなかった。私が、こういう音楽をあまり聴かなくなっていることもあるのかもしれないが、なんかこう空虚に響く。60年代に入るとよれよれになっていくスティットのアルトだが(入れかわるようにテナーがめっちゃよくなっていく)、このころのアルトは音の艶やかさといい音程といいリズムといい輝かしい時代なので、なんの問題もない。1曲目のソロとかおいしいフレーズ連発で、まるごとコピーしたらさぞかしいろいろ勉強になるだろうとは思ったが、それ以上の興味がわかない。これはたぶん、音を聴くよりまえに、ライナーを読んでしまったせいもあるかもしれない。CDの盤面に大きく監修者の名まえの千社札みたいなのがでかでかと書いてあるのも、どうかしてほしいと真剣に思うが(スティットの名前よりもずっとでかいんですよ。どうかしてるぜ)、ライナーノートはそれよりもひどくて、なにを考えてこんな長い尺を使ってなにをだらだらとどうでもいいことを書いているのかと思う。推論の部分も、はあ? と思うようなことで、あまりに鬱陶しいので捨てようかと思ったが、今のCDは、ライナーを捨てるとジャケットがなくなってしまうのでそれもできない。昔のLPはよかったなあ。ライナーとレコードは(たいがい)別になっていたので、腹立たしい日本語ライナーは全部捨ててしまうことができた。そういう話はさておき、このアルバムの演奏はどれも本当に見事としかいいようがない。歌心というのはこういうものですよ、とスティットが「お勉強」させてくれているような錯覚に陥る。なんでこんなにうまいのか。しかも、嫌味ではない。フィル・ウッズとかになると、信じられないようなアップテンポで「どうです、このテンポでここまでできるなんてすごいでしょう」感がちょっと……と思うこともあるが、スティットについてはそういうことはあんまり思わんなあ。なんぼほど「フレーズ」を知っているのだろう。怖いぐらいだ。文字通りの意味で、バップフレーズの百科事典だと思う。16分音符での「速吹き」ではなく「歌」になっている感じはちょっとほかのひとではないレベルですよねー。どの曲でも、ちょっとした箇所のフレーズで、「はあ……うまい」とため息をつくような瞬間がいくらでもある。ひたすらスティットを聴くべきアルバムではあるが、ドロ・コーカーのピアノもエドガー・ウィリスというひとのベースも悪くない。でも、あまり愛聴盤にはありそうにないのです。スタンダードからバップナンバー、スローブルースまで入ってて、どの曲がどう、という感想が無意味なぐらい、どの演奏も同じぐらいのハイレベルで安定しているのだが、唯一、「ハーレム・ノクターン」が入っていて(アルトですが)、それがいい意味で本作の「重石」のようになっている。これがないと、たぶん、ちゃんと聴いているつもりでも、途中でこちらの集中力が切れて、ざーっと聞き流してしまっているような聴き方になって、あれ? もう終わってたの? みたいになる可能性があるが、この曲のおかげで、一種の異物感ができてアルバムとしての個性ができたと思う。嫌なら、CDなので飛ばして聴けばいいけど、笑って聴けますよ。

「BROTHERS−4」(PRESTIGE RECORDS PRCD−24261−2)
SONNY STITT & DON PATTERSON

 スティットといえばいまだに「パーカー存命中は比較されるのを嫌がってテナーを吹いていたこともある」とか書いてる評論家がいたりして、アホちゃうかと思うわけだが、スティットといえばテナーなのである。そして、スティットといえばオルガンなのである。なので、60〜70年代に山ほど出されたこの手のアルバムは全部おもろいのである。こういう「一丁上がり」的な録音なればこそ、超リラックスしたスティットのアドリブプレイヤーとしての凄みや奔放さや楽しさがドーンと前面に出てきてめちゃくちゃ美味しいのである。しかも、ギターはグラント・グリーンなのでもう言うことはありません。どの曲もスティットがひたすら歌いまくり、パターソンとグリーンがノリノリで弾きまくる。スティットというひとはどんなキーでも歌心あふれるフレーズをいくらでも吹けるひとで、おなじバップフレーズでもパーカーのようなエキセントリックな音の飛び方はせず、耳なじみのいいソロを吹いて吹いて吹き倒す。ある評論家が(随分前のことです)、70年代のスティットは不調で、気楽に吹いているだけ、とか書いていたが、リラックスしているのと気楽に吹いているのは全然違う。気楽に吹いているというのはたとえばルー・ドナルドソンみたいなやつのことでは?(それが悪いとは言わん)。本作では、とくにグラント・グリーンが絶好調のようで、主役を食うようなすばらしいプレイを連発する(バッキングもすごいよ)。あと、スティットが「セント・トーマス」をやるというのはかなり珍しいのではないかと思うが、