jaco pastrious

「TWINS T&U」(WARNER MUSIC JAPA MWPCR−1060910)
JACO PASTORIUS BIG BAND LIVE IN JAPAN 1982

 なにしろこのライヴの現場にいたわけで、なかなか冷静には評価できないが、正直なところを書くと、絶頂期のウェザーであれだけの演奏をしていたジャコがどんなビッグバンドを率いているのか、と興味津々だった私だが、一曲目を聴いてみて、意外と「普通」なのでちょっと肩すかしにあったような気分であった。そして、ホールのPAのせいか、オセロ・モリノウのスティールドラムがめちゃめちゃキンキンして聞こえ、もううるさくてうるさくて、どうしてこんなやつをメンバーにするんだ、鑑賞の妨げやないか、と腹を立てていた。そして、せっかくきら星のようなメンバーがいるのに、どうしてハーモニカばっかりなんだ、とか、ほとんどのソロをランディとミンツァーがすることも腑に落ちなかったし、終わったときは頭のうえに???????と?マークが点滅しまくっていた。いっしょに行った先輩たちは、すごかった、興奮した、みたいなことを言い合っていたが、私は、ジャコのこの新しい試みが自分によくわからなかった、つまり、ついていけなかったことが情けなかった(もちろん、おお、すごいと思った瞬間も多々あったわけですが)。ところが、ベストテイクを二枚に編集したライヴアルバムがでて、それを友だちに借りて聴いたり、そこに収録されている曲を演奏したりするようになって、だんだんその良さ、凄さ、深さ……がわかってきて、とくに近年は、当時のジャコの考えていたビッグバンドのコンセプトのすごさと、それを実際にやってしまった彼のバイタリティに、ほとほと感服しまくっているのである。例のバースデイコンサートのほうが、マイケル・ブレッカーのソロが爆発しているので、ファンが多いのではないか、と思うが(私も一時はそうだった)、今は、じつはハーモニカの入ったこちらのほうが、ブレッカーのソロに頼らず、バンド全体での表現になっているせいか、コンセプトとしては過激なのではないか、という気がしている。いずれにしても、この圧倒的な美のまえには言葉を失い、ただただ聴くしかない。

「THE BIRTHDAY CONCERT」(WARNER BROS.RECORDS WPCR412)
JACO PASTORIUS

 ジャコは天才だとかいやそうじゃないとかいう議論があるようだが、しょうもない限りだ。「ジャコ・パストリアスの肖像」と「ワード・オブ・マウス」を聴けば、このえげつないほどの才能あふれんばかりのニイちゃんのことはわかりすぎるほどわかるはずだ。あまりに才能がありあまりすぎて、それをもてあましていたのかもしれないが、とにかくウェザーでの諸作やなんやらかんやら、かずかずの傑作を残しているのだから、我々は黙ってそれを聴けばよいし、聴くしかない。奇行とか晩年のぼろぼろさ加減がこのひとの凄まじい功績を覆い隠しているように思うが、それは躁鬱病のせいであって、ミュージシャンに限らずの話で、そんなことでジャコをダメな変人だったと決め付けることはない。ただ、研ぎ澄まされたようなびりびりするような作品群はやはりそうしょっちゅうは聴けない。私が一番よく聴くのはこのアルバムです。このアルバムはとにかくすばらしすぎて、なにを言っていいのかわからんぐらい聴き所満載である。しかし、私のようなリスナーにとっては、この作品はほとんど「ブレッカーとミンツァーのバトル」をとことんまで味わいつくすためのアルバムなのである。ジャコのすばらしいトータルサウンドをそのような俗な視点で聴くなどというのは犯罪だ、それではこのアルバムの良さをわかっているとはいえない、という意見があるのはもちろん先刻承知のうえで、やはり毎回聞くたびに、私はこのアルバムでのふたりの競演のすさまじさに震え上がるのである。圧倒的な音楽性とテクニックが上限をぶち破ってほぼ兇器の状態にまで達しているブレッカーとそれに対するミンツァー。ほかにも競演作はけっこうあるが、ここまで存分に吹きまくり、それが異常なまでの音楽的成果を生んでいる作品はない。もちろんジャコやピーター・アースキン、・アライアスらの躍動するリズムセクションの支えやあおりがあってのことなのだろうが、とくにブレッカーはベストに近いプレイを全編にわたって展開している。このバンドにブレッカーが参加したのはこのときだけらしいが、それにしては曲のリードを吹いたり、ソロもばんばんフィーチュアされているし、特別扱いといっていい状態だ。曲ごとに簡単に見ていくと、1曲目「ソウル・イントロ〜ザ・チキン」はいきなりブレッカーのすさまじいブロウで開幕する。この時点で私はめろめろになってしまう。音色といい、フレージングといい、いうことなし。テーマの途中でちらちらとバトル的なものが始まっているが、先発ソロはミンツァーで、この録音時は、ミンツァーのほうが音がやや濁りぎみで、ラフな感じ。ブレッカーのほうがシャープでエッジが立っている。ミンツァーのソロは先発らしくファンキーでかっこいいが、つづくブレッカーのソロはもちろんファンキーさもあるがスケールアウトやオルタネイトフィンガリングなども交えた超ハイテクなソロ。ジャコもミンツァーのバックではちゃんと弾いていたのにブレッカーのバックではむちゃくちゃやっていて、マイケルもそれに応えている。2曲目は「コンティニウム」でジャコのベースのショウケース的な短い演奏。3曲目の「インヴィテイション」……これがすごいっす。テーマ自体がブレッカーとミンツァーの掛け合いなのだが、これだけ聴いていても興奮するのだが、そのあとのブレッカーのソロのえげつなさよ! テナーサックスにおけるありとあらゆるテクニックを駆使しながら、そういうことを感じさせない異常なスピード感とハイテンションのソロをぶっ飛ばしていく。ジャコのベースも、なにをやっとるのかわからないラインで弾きまくっているが、ブレッカーは 独走状態でひたすらおのれのソロをぶっちぎる。ドン・アライアスのコンガも効果的だ。いやあ、これは凄すぎる。そのあとミンツァーのソロになるが、これもかなりいいソロでどんどん加速感が増し、最後にはかなりの高みに達する。最初から飛ばすブレッカーのソロと好対照であります。ジャコのベースソロもそうとう凄い(もうこのアルバムぐらいになると、ほとんどのソロについて「凄い」ぐらいしか書けない)。コンガとベースのデュオから、突然アースキンの速いレガートでテーマに戻るが、そこからパーカッションだけをバックにしたものすごいブレッカーのソロが始まる。いや、もう、目が点。なんやねんこれは。ふたたびテーマに戻るが、ここでもブレッカーとミンツァーの吹きあいがフィーチュアされる。あー、もう腹いっぱいですー。4曲目はあの名曲「スリー・ビュウズ・オブ・ア・シークレット」。ブレッカーがリードを取るテーマのあまりのかっこよさに全身痙攣状態になって聴く。ソロとかなくてもこのテーマを聴いてるだけでもう胸いっぱいなのです(事実、ブレッカーのソロはほぼテーマを崩しているだけなのだ)。5曲目もおなじみの曲「リバティ・シティ」。すっかり耳なじんだテーマあとのオセロ・モリノーのスティールパンが(ライヴで観たはときはあんなにキンキンして耳障りだったのに)心地よく聞こえる。ブレッカーのソロは比較的ストレートだが、全編フィーチュアされている。とにかく最高のアレンジなのです。ええわあ。6曲目は「パンクジャズ」。あんまりパンクな感じはなくて、ビッグバンド!という感じの曲だが、これもまたブレッカーがフィーチュアされる。ものすごく勉強になるソロです。もちろんいい意味で言ってます。7曲目はなんだかすごいアレンジの「ハッピーバースデイ」。これも十分かっこいいのだ。8曲目は「レーザ」。低音の利いたアレンジがすばらしい。スティールドラムとボーカル(?)がフィーチュアされてわけのわからないサウンドに。ビッグバンドらしからぬ演奏だが、大げさでおもしろいです。9曲目は「ドミンゴ」。一転してビッグバンド的なオーケストレイションの曲。小気味よいリフとゴージャスなブラス。オールドスタイルだが、こういうのもいいじゃん。ブレッカーがここぞとばかりに吹いて吹いて吹いて吹いて吹きまくる。あー、爽快!ひたすらブレッカーのすごさを味わう曲。メンバー紹介のあと10曲目は「アメリカ」。ベースのソロによる演奏で幕を閉じる。

「THEN & NOW」(WARNER MUSIC JAPAN WPCR−17102/3)
JACO PASTORIUS BIG BAND

 あのバースデイコンサートの残りテープでまるまる1枚、そして、ジャコ亡きあとの現行ワード・オブ・マウス・バンドによる演奏で1枚、という二枚組である。正直、聴くまえは、バースデイコンサートというパーフェクトな内容のアルバムに、没になったテイクを今更発表する意味があるのか、よほどのマニア向けではないか……とも思ったのだが、まあ、やっぱり気になるもんでっさかいに、聴いてみたのです。二枚組のうち、まず気になったのはやはりあの凄まじいバースデイコンサートのほうだが、はたして演奏はどうなのか、そして録音状態はいいのか……ということだが、これがまあびっくりでございますですよ。1曲目の「インビテーション」はバースデイコンサートにおいても白眉ともいえる出来の演奏で、ピーター・アースキンによるライナーによると「ふたつのバージョンのうち、よいほうが収録された」とあるが、本作に収録されたバージョンはどう聴いても、ミンツァーとブレッカーのソロが本テイクよりも凄い。とくにブレッカーの完璧にぶちぎれた、えげつないソロを延々展開していて、こっちのほうがすごいやないか! と叫んだひと多数であろう。おそらく、それに続くジャコとアースキンのけっこうフリーなデュオパートとか、全体のバランスでこちらがおくらになったのだろうが、いやー、今回日の目を見て本当によかったと思う。とにかくブレッカーファンは必聴です。2曲目は「ソウルイントロ〜チキン」だが、ブレッカーのイントロの絶叫だけでもかっこいい。ジャコのベースが暴れまくっていて、ほんとに気持ちいい。インテンポになってテーマにからんでいるテナーがミンツァーなのか? 最初のソロは(ライナーによると)ニール・ボンサンティというテナーのひとらしい。音が太くてかっこいいが、非常にオーソドックスなプレイである。そのあとの高音を駆使したトランペットソロはなぜかライナーでは無視されているのでよくわからんが、超うまい。3曲目で、ようやくビッグバンド的なアレンジが出てきて、なんとサドメルの「クワイエチュード」で、ほぼ初見での演奏だそうである。ウワウワいってるのはミンツァーのエコーをかけたバスクラ。やっぱりサドのアレンジはいいなあ。ジャコのベースソロも大きくフィーチュアされる。4曲目では「ドナ・リー」で、チューバのデイブ・バージェロンが活躍する。イントロの無伴奏ソロではマルチフォニックスを駆使して異様な雰囲気を生み出しており、そこに突然割り込むような形でミンツァーのバスクラがテーマを吹き、そのままバージェロンのチューバの驚異的なバップソロがはじまる。ランニングしながら茶々を入れまくるジャコのベースも凄いし、それにからむミンツァーのバスクラもベースラインになったりして、三つの低音楽器がからみつくような演奏なのである。そしてミンツァーのバスクラソロはギターのような音色で奏でられる。まあ、かなりぶっ飛んだ「ドナ・リー」であるが、底にあるのはバップ精神であることはまちがいない。そのあとベースソロになり、ここはもうジャコの独壇場である。かっこええなあ。5曲目はおなじみ「リヴァティ・シティ」。オケロ・モリノウのスティールドラムがええ感じにアレンジやソロにからむ。サックスソロのあいだもずっとスケィールドラムはソロ的な感じで弾いているが、こういうアレンジはなかなか大胆ではないだろうか。ブレッカーのソロのあとは、珍しくミンツァーのソプラノソロ。6曲目は、冒頭で銅鑼が鳴り、ドン・アライアスのパーカッションソロが延々フィーチュアされる。そのあと、スティールドラム、チューバ、ピッコロによくわからんアフリカンヴォイス……というパートがあって、テーマに入る。いやー、かっこいいなあ。ドタバタドタバタ……というリズムに乗って吹きまくるブレッカー。ジャコ〜ドラム〜スティールドラムのトリオ部分もすばらしい。突然、「ジャイアントステップス」がはじまり、ミンツァー→ブレッカーとソロがリレーされる。ベースは弾いたり消えたりする。ブレッカーのソロのあと、象の咆哮のような音が聞こえるのはホルンだろうか。そこから混沌としてテーマ。かっこいい! 7曲目はミンツァーの曲でバラード。朗々としたテナーの音色はすばらしい。アレンジもいい。カデンツァもさすが。8曲目はこれもおなじみの「スリー・ヴュウズ・オブ・ア・シークレット」。何度聴いても名曲としかいいようがない。どの部分をとっても完璧だ。ソロなんかあってもなくてもいいぐらい(暴論)曲として優れている。やっぱりジャコはすげーなー。9曲目は、これもジャコらしい明るくハッピーなブルース。ミンツァーのアンプリファイアド・バスクラを筆頭にソロが続くが、超絶技巧のボントロソロの途中でフェイドアウト。いやー、よくこの録音が残っていたなあと感激しまくる全9曲でした。「バースデイ・コンサート」を聞き込んでいるひとはもちろん、そうでないひともこちらを先に聞いたって全然かまわんと思えるぐらいハイクオリティな内容のアルバム。もちろん最終的には両方聞かないとね。
 2枚目は「今」のワード・オブ・マウス・ビッグバンドによる演奏で、1曲目と10曲目以外は日本でのライヴ。メンバーはよく知らないひとたちばかりなのだが(ドラムはアースキンで、ベースは1曲目がウィル・リー、あとはリチャード・ボナなど)、これがなかなかすごいのです。1枚目との大きなちがいはギターとキーボードが入っている点で、そのせいでサウンドはまるでちがう。1曲目はボーカルをフィーチュアしたキャッチーな曲で、歌っているのはウィル・リー。ビッグバンドというより、ホーンセクション的な雰囲気で、これが1曲目というのもなかなか愉快。あとは駆け足で紹介すると、だいたいはバースデイ・コンサートでやってる曲とかワード・オブ・マウス・ビッグバンドのレパートリーだが、「ブラック・マーケット」とか「お前のしるし」などウェザーの曲もやってる。ベースは贅沢にも曲ごとに替わる(まあ、3人いないとジャコの代わりにならんということか)。アンサンブルはタイトで、ジャコのバンドのようにみんながそれぞれに遊んだり、勝手にからんだりするようなラフでぐじゃぐじゃな部分は皆無。アンサンブルはビシッと合わせてくるプロの仕事。しかもソロは全員あきれるほど上手い。とくにテナーのエド・ケール(と読むのか? コール?)というひとがめちゃくちゃ上手い。マイケル・ブレッカーのようなカリスマ性やバケモノぶりは感じさせないが、音よし、フレーズよし、リズムよしで、いやー、すばらしいです(ランディも、ブレッカー・ブラザーズ・リユニオンはこのひとを起用すればよかったのにと思ったぐらい)。ライヴでのテナーソロは全部このひとが取っていて、もうひとりのゲイリー・ケラーというひとの出番はゼロ(このひとも、1曲目のスタジオ録音の曲ではソロを吹いていてすごく上手いのに……)。「リバティ・シティ」では3人のベースの共演があったりして聞きどころも十分。1枚目がなかったら(つまり2枚目だけ単独で発売されていたら)愛聴盤になっていただろうが、申し訳ないが、やはり1枚目を聴いてしまうのだよなー。でも、どう考えても超ハイクオリティな演奏ばかりで傑作と言っていいと思う(9曲目の日本語の歌はさすがにどうかと思ったけどね)。二枚組にしたのは正解かどうか……。なお、ラストの11曲目はなんとマヌ・ディバンゴの「ソウル・マコッサ」で、ピーター・グレイブスのバンドでジャコが弾いている音源に、現在のワード・オブ・マウス・バンドのメンバーがダビング(というレベルではないが)してビッグバンドサウンドにしたもの。まったく違和感なくてびっくり。というわけで、ジャコファン、ブレッカーファンはもちろんだが、ビッグバンド好きもかならず聴くべき二枚組。傑作です。