bill laswell

「THE NOISE OF TROUBLE」(ENEMY RECORDS 88561−8178−1)
LAST EXIT

  このグループが結成されたという噂を耳にしたとき、ぜったいおもろいわけがない、と思った。というのは、私はブロッツマンを聴きたいのであるが、シャノン・ジャクソンやビル・ラズウェルが作り出すファンク的なグルーヴに対してブロッツマンがいくら仕掛けても、おそらくリズムを崩してフリーになるような展開はあるまい。ということは、ブロッツマンはただのノイズメーカーとして扱われるわけで、そういうのを延々聴くのはしんどいなあ、と思ったからである。だから、このグループを生で体験する機会があったにもかかわらず、足を運ばなかった。ということは、ソニー・シャーロックを生で体験する機会を逸したということであり、そのことはとても後悔している。本作を購入したのは、このライヴが東京での演奏であり、坂田明とハービー・ハンコックがゲストとして飛び入り(?)参加している点に興味をひかれたのだ。聴いてみると、やはり思っていたとおり、ブロッツマンはときどきギャオーッと吠えるが、それをリズムに乗せて吹くだけで、新しい展開はなにも起こらない。いわゆるフリー・ファンク的な演奏である。こういうタイプの演奏はあまり心に響かない。さすがに今ではこういうのもありだということはわかっているし、それなりに楽しみを見いだすこともできるが、このアルバムを聴いた当時(20年も前ですよね)は、けっこう頑なな音楽観をもっていて、非常に反発を覚えたことを思い出す。もちろん、ふつうのジャズバンドやロックバンドにくらべたら、どんどんバックの演奏も変化していくのだが、フリージャズやインプロヴィゼイションを聴きつづけていると、この程度の変化では物足りなく感じてしまうのだ。まあ、それもけっして良いことではないけれど……。唯一、すげえなー、こいつは……と思ったのはやはりソニー・シャーロックであって、バックがどうのとか変化がどうのとか反応がどうとか関係なく凄まじい音塊、いや、音というよりも炎だな、平成ガメラが吹くようなプラズマ火球みたいなものすごいボルテージの音をぶつけてきて、へへーっ、おそれいりました、と頭を下げるしかない。まあ、もともとソニー・シャーロックはこういうタイプの音楽に順応性があったわけだが、このひとを生で聴くためだけでもライヴを観ておけばよかったと後日はげしく後悔したがあとのまつり。やっぱりライヴというのは無理してでも行っとくべきですね。シャーロック以外でいちばんおもしろかったのは、坂田明とブロッツマンの吹きあいになる場面だが、これはべつにこのバンドで聴く必要はないのだ。ハンコックについては何度聴いても印象が薄いなあ。

「ARC OF THE TESTMENT」(ISLAND RECORDS/AXIOM 314−524−431−2)
ARCANA

 ときどき発作的に聴きたくなるが、どこにしまったのかなあと最近見かけなかった。やっと発見したので聴き直してみると、やはり凄かった。ビル・ラズウェルとトニー・ウィリアムスが、ファラオ・サンダース、バイアード・ランカスター……といったとんでもないメンバーを集めて作った異常なアルバム。ふたりの共同プロジェクトらしいが、このアルバムを録音してすぐにトニー・ウィリアムスは世を去った。ラズウェルによるライナーノートも全部トニーのことに終始している。そして、そんなトニーのここでの演奏だが、信じられないぐらい創造的なドラミングで、単なる超絶技巧だのなんだのを超越した、「ドラムが音楽を創る」とはこういうことなのだ、という状態である。1曲目の凄まじい空間的かつ先鋭的なドラム! グラハム・ヘインズのエレクトリックコルネットが幻想的な世界をたゆたうように形成し、ファラオ・サンダースが絶叫のかぎりを尽くす異常なスペースの土台を形成し、そのうえに楼閣を構築しているのはほかならぬトニーのドラムなのだ。この1曲だけでも、このアルバムを聴く価値があると思う。ファラオが参加しているのは8曲中2曲だけなのだが、それ以外の曲もめちゃめちゃおもしろいし、かっこいい。2曲目(めっちゃ好き)でフィーチュアされる激走するバケットヘッド(ジャイアントロボが好きなんだよね)のギターは、たしかにファラオ同様にスクリームしシャウトしているし、3曲目のバイアード・ランカスターのあまりうまくないがパッションあふれるアルトも素敵だし、4曲目のバケットヘッドのギターも2曲目と同じく炸裂しまくっているし、5曲目のエフェクターをかけたバスクラもいい味を出しているし、6曲目のぐちゃぐちゃのファラオの愛すべきソロも微笑ましいし、7曲目の不穏な空気のなかでなにか毒めいたものが浸透していくようなじわじわ感も好きだし、8曲目の狂乱のギターソロもいい。しかし、どの曲も耳はトニーのとてつもなくすばらしいドラムに引き寄せられてしまうのだ。最高のテクニックが最高のインプロヴィゼイションと最高の音楽に奉仕している状態で、あまりの凄さに言葉を失う。トニー・ウィリアムスを聴くべきアルバムだし、トニーを聴いていると、勝手にほかのメンバーの凄さもわかり、彼らの凄さに瞠目していると、勝手にトニーの凄さがわかるというアルバムでもある。