illinois jacquet

「JUMPIN’AT APOLLO」(P−VINE PCD−24121)
ILLINOIS JACQUET

 要するに、ジャケーのアポロセッションである。「ファビュラス・アポロ・セッション」という名前で昔、ヴォーグだかどこだかから出ていたLPと同じ内容。CDの原盤はデルマークである。アーネット・コブのアポロセッションと並ぶ名高い内容であるが、ヴォーグ盤はとにかく音が悪くてあまり聴く気になれなかった。CDでは格段に改善されている、というか、たぶんLPはSP起こしなのだろう。ジャケーは相変わらずで、短いソロスペースでぶりぶり吹いて盛り上げてくれるが、さすがにこれだけ(23曲)続くと飽きる。そんなときに「メモリーズ・オブ・ユー」とかのバラードを、サブトーンでうまく吹きこなしているナンバーが挟まるとほっとする。スクリームしているジャケーは「凄いなあ」という印象だが、バラードは「うまいなあ」といつも思う。ジャケー以外に、いいソロをしているのは、ジョー・ニューマン。元気のいいバリサクソロはレオ・パーカー。リズムは、古い4ビートで、ずーっと「どん・どん・どん・どん……」と地に足がついており、フレディ・グリーンが加わった曲などもあり、私がいくらジャケーが好きだといっても聴き通すのはけっこうしんどい。たしかに名演奏が目白押しだが、一曲が短いし、誰にでも必聴……とまではすすめ切れない。ジャケーにはLP時代になってからの鼻血吹きだしものの快演がいくらもあるからなあ。

「THE FABULOUS APOLLO SESSIONS」(VOGUE VG402 CLDAP858)
ILLINOIS JACQUET

上記と同内容のLPで、はじめて入手したときは興奮した。フランスのヴォーグ盤で高かったのだが、はじめて有名なジャケーのアポロセッションを聞けるという喜びで大学生の私は打ち震えたのである。聞きなおすと、やはりぶっとい音色での凄まじいブロウが聞けるし、歌ものでの歌心と男気あふれるスムースなフレージングやバラードのうまさなど、ジャケーひとりが光り輝く設定。ただし、上記CDにくらべると音質も劣るし、曲数も14曲と少ないので、CDを買うほうがよい……というか今ではそれしかないか。

「ILLINOIS JACQUET WITH WILD BILL DAVIS」(CLASSIS JAZZ 112)
ILLINOIS JACQUET WITH WILD BILL DAVIS

名盤というしかない。ジャケーの代表作として、アホみたいなアルバムを挙げている評論家は、本作(と第一集)を聴いたことがないのか、それとも聴いてもなーんにも感じなかったのか。よくわからん。私は、本作を学生時代から死ぬほど愛聴しまくってます。たった3人で、ビッグバンドのようなサウンドを作りあげている。うちにあるのは、じつは下手くそな絵のジャケットでおなじみのクラシックジャズ盤(つまりアメリカ盤)でしょぼいのだが、内容には関係ない。悪いか! A−1の「パメラブルース」、死ぬほどかっこいい。これがジャケーの本領である。この咆哮に燃えないテナー好きがいるだろうか。たとえ、コルトレーンのファンでもロリンズのファンでもアイラーのファンでもマイケル・ブレッカーのファンでもジョシュア・レッドマンのファンでも、このジャケーの渾身のブロウを聴いたら、ああ、めっちゃかっこええ! と叫ぶのではなかろうか。この演奏は、テナーサックスというものに内在する本質的な「心地よさ」が全開になっていると思う。ソプラノ吹き、アルト吹き、バリトン吹きはこの演奏を聴けば、テナーが吹きたくなるのではないか。少なくとも、本作を最初に耳にしたときの私はそうでした。下手くそなアルト吹きだったんだよねえ……(遠い目)。2曲目は、ドッドッドッドッ……というバスドラの速いビートを基調にジャケーがテーマを吹く「ザ・マン・アイ・ラヴ」。これはすばらしい! ジャケーの、ジャズプレイヤー、アドリブプレイヤーとしての才能がほとばしっている。かっこよすぎるやろ! 俺がすごいんや、俺がいちばんかっこいいんや、という気持ちがスピーカーを突き破らんばかりに伝わってくる。わかるぜ、ジャケー! 3曲目はあまりにあまりな「ミスティ」で、この演奏にはどんなヤクザも殺人鬼も心折れて、涙を流すだろう。サム・テイラーもシル・オースティンも真っ青の、感情が滝のようにこぼれおちるムードテナー。しかも、ジャズとして立派な出来ばえである。実際にはテーマを、ちょこっと崩しながら吹いているにすぎないのだが……。この演奏は、テナープレイにおいて音色やダイナミクスというものがいかに重要かを教えてくれるのだ。A面の3曲で、ああ、これはすごい、すばらしい、名盤だ、わしゃ一生ついていきまっせ……と思っているところに、B面が追い打ちをかける。じつはB−1の「コットンテイル」のテーマの吹きかたがめちゃめちゃツボなのだ。これはもちろんベン・ウエブスターの曲で、軽い循環のリフ曲でもあるのだが、ジャケーは、ワイルド・ビルのオルガンを従えて(というか、うまく使って)、ゴージャスかつ歯切れのいい軽さをうまく表現している。こんな単純きわまりないリフでも、こういう風に吹けばめっさかっこえーっ! ということがわかる。わかるよねえ、皆さん。この曲のジャケーのプレイは、ブローテナーの教科書のようである。これを丸コピーすればあなたも今日からホンカーだ。2曲目はこれもそこそこ有名なスタンダードでいろんなひとが演ってる「ファット・アム・アイ・ヒア・フォー」。私も学生時代に演奏してました。ジャケーはかなりゆったり目のテンポで歌いあげる。テキサステナーというのは、こういう演奏に使うべき言葉であって、テキサス出身だからといってだれでもかれでもテキサステナーというのはどうかと思う。3曲目はこれもありきたりのスタンダード「オール・オブ・ミー」だが、この3人はこの手垢のついた曲をゴージャス極まりないビッグバンド(風)サウンドに変身させる。もちろん迫力はあるが、どちからというと洒脱な感じやアドリブの妙、軽さ……などが前面に出る、スウィングジャズとして一級のものになっている点が、いわゆる有象無象のホンカーとはまったくちがうところなのである。テナーサックスを知り尽くしたプレイヤーだけができる、ブラックで、ブルージーで、メリハリのしっかりした、しかも軽快なテキサススウィングだ。

「JUST A SETTIN’ AND A ROCKIN’」(BLACK AND BLUE 33.044)
ILLINOIS JACQUET WITH WILD BILL DAVIS

第二集があまりによかったので第一集も探していたのだがなかなか入手できず、何年かしてやっと見つけた。当時はブラック・アンド・ブルー盤のLPはめちゃめちゃ高く、あのころで3000円ぐらいしたと記憶しているが、清水の舞台からバンジージャンプする思いで購入。聴いてみると、わっははははは、3000円どころか1万円でもいいぐらいの最高の内容ではないですか! というわけで、以来、1も2も愛聴しまくっておるのです。今ならきっとCD化されていて安く手に入るんだろうなあ。まずA−1だが、エリントンナンバーをミディアムテンポのこってりした感じで演奏。テーマの吹きかたからアドリブからなにからなにまでめちゃめちゃいやらしい。ジャケーの至芸ここに極まれりといった感じの最高のプレイであります。もう、こんな風にテーマが吹けたらアドリブなんかいらんよなあ、と思ってしまうほど、テナーサックスの一方の極致を完全に究めた演奏だと思う。2曲目はワイルド・ビル・デイビスの曲でコミカルな感じのリフ曲。というか、単純すぎるにもほどがあるシンプルなナンバー。ジャケーの典型的なソロ、という感じの演奏。気合いと濁った音色と「おなじみのフレーズ」だけでもたせてしまう。ある意味すごい。3曲目は、2曲目とうってかわって、テーマもスタン・ゲッツのように(言い過ぎか?)力を抜いたクールトーンで軽く吹き、アドリブも、ブロウというよりもコードを縫っていくような歌心あふれるもので、「こんなのもできるんだよ」というジャケーのニヤニヤ顔が浮かぶ。B面はもっとすごいぞ。1曲目はドのつくスローブルースで、こういうのをやらせたら天下一品である。サブトーンでいやらしく、ねばっこく、ブルージーに、ソウルフルに歌いあげる。まさにブルースの塊である。いやー、これだけゆっくりのテンポで倍テンにも3倍テンにもせずに八分音符で歌っていくのはよほどの実力である。最後、カデンツァになって、無伴奏で、しかもインテンポでブロウしていくあたりの、(いい意味で)鳥肌がたつような感動はいったいなんだろう。中音域のドスのきいたダーティートーンが主体だが、ときおりみせる高音部がめちゃめちゃかっこいい。そして2曲目はアップテンポの「スウィングしなきゃ意味ないよ」。テナー〜オルガン〜ドラムのトリオでこの曲を吹きまくるジャケーの姿は、ほんと「雄姿」という感じである。彼の持つあらゆるテクニック、フレーズ、音楽体験がこの一曲にぶちこまれている気がする。そしてそしてそして……ジャケーのすべてのレコーディング中最高の名演のひとつと私が勝手に思っているのが3曲目、このアルバムのしめくくりの曲である「ブルー・アンド・センチメンタル」である。これは凄いよ!ハーシャル・エヴァンスがベイシー楽団で演奏したオリジナルを含め、この曲の演奏、名演は数々あると思うが、そのなかでの白眉といっていい出来ばえ。ジャケーのもっともかっこいい面がズドーンと出た演奏。アーネット・コブの同曲もいいんだけどね。もう、この演奏を聴くと、ああーっ、ジャケーっ、おまえはすごいっ、と絶叫してしまう。私には逆立ちしてもこんな風には吹けん。テーマの吹きかたが、まずかっこいい。アドリブは、ほとんどしていないに等しく、この「曲」のなかから導かれる、一番フツーのことをフツーにしているだけなのだ(フェイクに近い)。しかし……それが死ぬほどかっこいいんだからしかたがない。とにかく1集、2集どちらもほんとにすばらしいので、ぜひ多くのかたに聴いてほしいです。CDとしてはどういう形で出ているのかしらないけど。ジャケーって聴いたことないんですけど、というひとにも自信をもっておすすめできるアルバム。

「JAQUET’S STREET」(BLACK AND BLUE 33 112)
ILLINOIS JACQUET

これもブラック・アンド・ブルー。3管編成で、あとのふたりはフランス人だと思う。リズムは豪華で、ピアノがミルト・バックナー(オルガンは弾いていない)、ベースがデュビビエ、ドラムがオリバー・ジャクソン。ジャケーのソロはどれもかなりいいし、全体の雰囲気もいいけど、やはりトロンボーンとトランペットのソロになると緊張感が失せてしまうのはもったいない。どちらもけっして悪くはないのだが、ジャケーとタメを張る、というわけにはいきません。よくも悪くもセッション風の演奏。ブラック・アンド・ブルーのジャケーがすべて良いというわけではないのだった。もちろん、ジャケー自体は立派ですよ。ミルト・バックナーもピアノとはいえいい味をだしているが、なかなかそれだけではむずかしい。聞きどころはあちこちにあるものの、ソリストとしてはジャケー(とバックナー)の孤軍奮闘の感があるアルバム。

「GENIUS AT WORK!」(BLACK LION BL−146)
ILLINOIS JACQUET

 こういうテナー〜オルガン〜ドラムのトリオによるライヴとしては「ゴー・パワー」が名高いが(ドラムがあちらはアラン・ドウソンで、こちらはトニー・クロンビーというひと。それだけのちがい)、本作もじつは勝るとも劣らない出来なのだ。ジャケーが吹きまくり吹き倒し、歌い、叫び、ブラックエンターテインメントとしての「ブロウテナー」のその芸のすべてを見せてくれる。興奮をあおりまくるオルガン、そしてドラム。あー、めちゃめちゃかっこええ! 一曲目のおなじみ「ザ・キング」から興奮のるつぼだが、二曲目の「イージー・リビング」は私の大好きな曲で、これをジャケーがどう演奏するのかというだけで興味深いが、いつ聞いてもこの解釈はドストレートです。あとはセッション風の曲で「A列車」なども盛り上げまくる。あの「アイ・ワナ・ブロウ・ナウ」も入っている。「ゴー・パワー」の裏名盤というか姉妹編とでもいうべきでしょうか。ジャケー好きならぜひ聞いてほしいアルバム。めちゃめちゃいいですよ。ちなみに、うちにあるFABBERI EDITORIというレーベルのイタリア盤も同内容だが、ブックレットが豪華で、(なぜか)ジェイムズ・ムーディやデクスター・ゴードンのカラー写真も大きく載っており、譜面も載っていたりしておもしろい。「ザ・カムバック」というアルバムも同内容。

「GO POWER!」(CADET LP773)
ILLINOIS JACQUET

 これまで長いあいだジャズを聴いてきているが、レコードにその定価以上の大金を支払ったのは3回しかない。一度は、忘れもしない、梅田の東通り商店街にあったLPコーナーで大学1回生のときにバイト代をつぎこんで買った、坂田明「カウンター・クロックワイズ・トリップ」で、二回目が本作である。本作を買ったのは、もう社会人になっていたときだと思うが、金がなくて、このアルバムが麗々しく飾ってある中古屋に何度も何度も通っても決心がつかず、半年ぐらい考えに考えて、やっと購入した。そして、聴いてみて狂喜した。大正解。これは凄い。凄まじい。ああ、買ってよかったーっ! こういう喜びがあるからレコードとかCDを買うのはやめられんのだーっ、と心底そう思った。3者一体というか、ビル・エバンス・トリオのように、とくにインタープレイがどうのこうのといわなくても、この3人のコラボレイションが完璧だというのは一聴すればわかる。しかも、ライヴで客もノリノリなのだ。私は、このアルバムの録音時に、奇跡的に客がすごくよくて、結果としてノリノリになったのかと思っていたが、上記「ジニアス・アット・ワーク」を聴くと、なるほど、こういう盛り上げかたが当時のジャケートリオの定番だったのだ。本作はそのなかでも、かなり上質の演奏をパッケージしました、ということで、けっして「奇跡的」なわけでもなんでもない。当時のジャケーが持っていた圧倒的なテナー奏者としての充実とエンターテインメントとしての充実が、ここにかいま見られるという程度なのだ。どの曲もよいが、ほとんど「フライング・ホーム」と異名同曲の「イリノイ・ジャケー・フライ・アゲイン」、おなじみの「ロビンズ・ネスト」、そしてハンコックのジャズロックナンバーを「どブルース」と化した阿鼻叫喚の「ウォーターメロン・マン」などなど圧倒的な演奏がずらりと並ぶ。今では、コテコテデラックスのおかげでCD化され、日本盤も出てしまって、だれでも簡単に聞けるようになり、それはすごくいいことだとは思うが、清水の舞台から飛び降りるつもりで大枚をはたき、「ああ、俺だけのジャケー!」と思っていた、あの所有感が希薄になってしまったのは個人的には哀しすぎる。でもしかたないよね。みんなに、「ジャケーの『ゴー・パワー』すごいよね」と言ったら、打てば響くように「すごいすごい」と応えが返ってくる世の中になったわけだから(そうか?)。そして、そういう末節なこととはかんけいなく、本作の価値はどんな状況でもゆるぎない。ジャケーをはじめて聴くひとにこれを聴かせればまちがいなく鼻血を吹いてくれるはず。そんな凄まじい演奏である。グレイト! なお、チェスの「ILLINOIS JACQUET FLIES AGAIN」(CHESS75)というCDは、本作と「THE MESSAGE」をカップリングしたお得盤。

「KING JACQUET」(RCA PM42042)
ILLINOIS JACQUET

ブラック・ベルベット・バンドとしてCD化されている音源(というタイトルの曲が入っている)でアラディンセッションと同時期のオールスターズによる演奏。めちゃめちゃすばらしい。つまり、47年のジャケーの録音はすべてすばらしいということだ。ノリまくっていたのだろうが、アポロ、アラディン、ビクターと立て続けにかなりの曲を録音しているということ自体が、「ジャケーの人気が絶頂」であることを示している。まあ、聴いてみてくれればわかるのだが、メンバーがすごくて、ラッセル・ジャケーはともかく、盟友ジョー・ニューマン、JJジョンソン、ヘンリー・コーカー、レオ・パーカー、サー・チャールス・トンプソン、ジョン・ルイス、シャドウ・ウィルソン、ジョー・ジョーンズらが入ったオールスターリトルビッグバンドだ(メンバーはコレクティヴ)。この時期のジャケーの恒常バンドともいえるのではないか。どの曲もすばらしく、1曲は短いが、そこにすべてが詰まっている。ブロウ、歌心、バラード……ああ、ジャズって、テナーサックスってこんなにいいんだなあと聴き手に言わしめるだけの「芸」が充満している。フランスのRCA盤はジャケットもよく、内側にテナーにキスしているジャケーのポートレイトも入っていて、ゴージャスな作りである。個人的にはめちゃめちゃ好きなアルバム。

「THE BLACK VELVET BAND」(BMG 6571−2−RB)
ILLINOIS JACQUET

上記「キング・ジャケー」と同じ音源(47年〜50年)だが、ボブ・ポーターがリイッシューをプロデュースしていて、「ステイ・アウェイ」」「マイ・オールド・ギャル」「スロウ・ダウン・ベイビー」の3曲が同じセッションから追加され、しかも、(なぜか)67年のニューポートジャズフェスのライオネル・ハンプトン・ビッグバンドに加わったジャケーの「フライング・ホーム」もおまけで入っているという、お得、なのか、バラバラなのかよくわからないCD。内容については上記に書いたとおりだが、やはり古めかしさを感じるのは、ドラムがシャドウ・ウィルソン、ジョー・ジョーンズというスウィングのひとだからか。もちろんおまけの3曲も、「フライング・ホーム」もすばらしいですよ。

「ILLINOIS JACQUET IN SWINGING EUROPE」(SWEDISK RECORDS SJ25−9014)
ILLINOIS JACQUET

 この時期の演奏としては、ジャケーはたいしたもの。選曲もよい。「ジターバッグ・ワルツ」などは珍しいレパートリーだなあ、と思っていると、これはジミー・ロウルズ・トリオによる演奏。でも、ほかの曲もなかなか。一曲目の「サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」は斑尾の「テキサステナーズ」でもやっていた。ほかは「ボトムズ・アップ」とか「ロビンズ・ネスト」などのヒット曲もあって、楽しめる。ただ、ジョー・ニューマンがちょっと邪魔か。いえ、邪魔といっては申し訳ない。ジョー・ニューマン自身の演奏は立派だし、めちゃめちゃ古くからのつきあいの盟友だから、ジャケー的にはいちばんやりやすい相方なのだろうが、やはりジャケーはワンホーン(もしくはリトルビッグバンドみたいなやつ。とにかく目立つのはジャケーのみ、というセッティングがいいのだ)のほうがいい。ジャケーやコブは、たしかにスウィングジャズのカテゴリーに属するのかもしれないが、いわゆる「スウィング」というのとはちがって、もっとブラックでブルースでファンキーな、ようするに「ブロウテナー」なので、ジョー・ニューマンのような、もろスウィングのひとを持ってくると、演奏に微妙に温度差があるのだ(ジョー・ニューマン自身は、ベイシーのソリストとしてはモダンなほうだとは思うが)。ジャケーのようなスタイルのテナーは、時代を越えて、オルガンジャズやファンキージャズ、ジャズロックなどにも対応できる。その意味で、本作はちょっと回顧的か。何度も書くように、ジャケーはすごくいいのです。

「ILLINOIS JACQUET BIRTHDAY PARTY」(RUSSELL JACQUET PRODUCTION JRC−11434)
ILLINOIS JACQUET

 なんだかよくわからないアルバム。75年の日本のライヴだというから、ニューポートジャズフェス・イン・ジャパンのオールスターズかなにかのときの録音だろうか。うちにあるのは再発LP。アート・ファーマー、ジョー・ニューマンとトランペットがふたりいて、いまいち散漫な印象を受けるのはこのふたりのせいかなあ、と思って聞き返したが、いや、ふたりともちゃんとしたソロをしている。「スウィンギン・ヨーロッパ」のときも思ったが、ジャケーの音楽って、ワンホーンが表現として一番いいらしい。本作もジャケーが吹いているときは音世界が黒一色、ジャケー色一色に塗りつぶされている感じだが、たとえばアート・ファーマーが吹き始めると突然、ふっ、と空気が変わってしまう。つまり、ジャケーが吹いているときは我々はジャケーの魔術にかかっているわけで、それが解けてしまうらしいのだ。ジャケットもダサいし、あまり人気のあるアルバムとは思えないが、ジャケーだけを聴く分には十分楽しいアルバム。ケニー・バレル、ジェリー・マリガン、ジェイムズ・ムーディーなども参加しており、モダンジャズのファンにはそのあたりが楽しめるのだろうが、まあ、ちょっとミスマッチでごちゃごちゃな感じはある。ドラムはなんとロイ・ヘインズ。でも、そのあたりのでたらめなメンツも、成立事情を考えれば納得。

「THE SOUL EXPROSION」(PRESTIGE PR7629)
ILLINOIS JACQUET

 はじめて聴いたときは度肝を抜かれ、どわーっ、これこそジャケーの最高傑作! と叫んだものだ。ジョー・ニューマン、アーニー・ロイヤル、ラッセル・ジャケー、マシュー・ギー、フランク・フォスター、セシル・ペイン、ミルト・バックナー、アル・フォスター……などを含むオールスタービッグバンド(しかもオルガン入り)を従えて、ジャケーが吹いて吹いて吹いて吹いて吹きまくる。豪華絢爛な企画だが、これが見事に当たっている。ジャケーひとりに焦点を当てて、ビッグバンドといいつつも、ほぼ完全にジャケーの独奏体勢というのもいい。こういう形だと、ワンホーンでなくとも、ジャケーの音楽が十分に表現できるのだ(事実上のワンホーンというべきか)。とにかくスピーカーの前に巨大なジャケーが仁王立ちしてギャオオウ! とテナーで獅子吼しているさまがまざまざと浮かぶほどの凄まじいブロウぶりで、しかも、アレンジがよくて、それがいやがうえにもジャケーをあおり立て、引き締めるところは引き締めて、最高のプレイを引きだしている。ジャケットも、「いかにも」という感じで凄い! ジャケーなんてスウィング時代の遺物だろ、と思ってるひとは本作を聴いて、ひれ伏してください。傑作!

「THE MESSAGE」(CHESS RECORDS CH9163)
ILLINOIS JACQUET WITH KENNY BURRELL

ケニー・バレルとの共演はこのほか一枚あるが、これが決してうまくいってない。ジャケーのソロはすばらしいし、バレルのソロもすばらしいが、ふたりがそれぞれにいくら良くても、溶け合っていないので、そこがちょっとどうかなあとは思うが、ジャケーの魅力的なソロはたっぷり聴けるし、バレルもバップに徹してジャケーに合わせようという気はほとんどないようだし、頭のなかでパートを分けて聴けば非常にクオリティが高い内容だとは思う。しかし、正直、バレルは邪魔です。やはりジャケーに配するギターは、彼の豪快なテナーを支え、盛り上げ、一緒に爆発してくれるようなひとがのぞましい。とはいうものの、選曲もよく、ジャケーもブルースにバラードにとパワー全開で、しかも、「バスーン・ブルース」という曲ではバスーンを吹いていて(そのままかい!)これが決して悪くないのである。バスーンを吹くテナー奏者というと、ユーゼフ・ラティーフが思い浮かぶが、ああいう中近東風のサウンドではなく、ジャケーのバスーンは下手なブルースハープのようなチープな味わいがあってなかなかだ。

「BOTTOMS UP」(PRESTIGE 7575)
ILLINOIS JACQUET ON PRESTIGE!

プレスティッジに何枚かあるジャケーのアルバムのなかで、ピアノがバリー・ハリス、ベースがベン・タッカー、ドラムがアラン・ドウソンで、ビバップかい! というようなリズムであって、このリズム隊がジャケーとあうとはとうてい考えられず、プレスティッジもアホやなあ、なに考えとんねん、と思わぬでもないわけだが、実際の演奏は、正直言って、プレスティッジのアルバムのなかでも白眉というような内容なのだから不思議だ。バップ〜ハードバップ時代にジャケーはじつは完璧に対応しているのである。そして、おそらく頑固なジャケーファンは、バリー・ハリスがバックかよ、と本作を毛嫌いするような気もする(レッド・ガーランドがバックのこぶの「シズリン」もプレスティッジのなーんにも考えていないアルバム制作のたまものだからなあ)が、先入観を捨てて聴いてみると、悪くないのである。バリー・ハリスはじめリズムセクションがでしゃばらずにジャケーを盛り立てる、というか、こういうスウィングのひとはこういうやりかたなのね、だったらこういう感じで……と「心得た」バッキングをしているからかもしれないが、実際、タッド・ダメロンの「アワ・デライト」では、ジャケーが倍テンポで吹きまくる箇所があり、そういうあたりは、たしかにバップそのもの、しかもかなりうまい……のである。もちろんタイトルの「ボトムズ・アップ」をはじめ、ジャケーのブロウは全編を通して、太く、男らしいトーンで絶好調。この時代でこのリズム隊にしては、ジャケーが、かなりジャケーらしさを発揮しているアルバム。結局、古くささを感じるのって、リズムがバスドラをずっと踏んでるようなタイプだといかにも古いスウィングっていう風に聞こえるけど、こういうリズムだとジャケーが時代に合わせるとかそういうことをしなくても、十分モダンに聞こえるのだ。

「PORT OF RICO」(VERVE RECORDS 23MJ3154)
ILLINOIS JACQUET AND HIS ORCHESTRA FEATURING COUNT BASIE

一曲目はジャケーとも思えないクールトーン。まるでスタン・ゲッツみたい。こういう洒落た吹き方もできるひとなのだ。二曲目以降は本来の姿ですばらしい。ベイシーのオルガンもいい。ライナーには「フレディ・グリーンが参加しているとなっているが残念ながらギターの音はよく聞こえない」としてパーソネルにギターは載っていないが、うちのボロいスピーカーでもギターはめちゃめちゃよく聞こえる。この解説を書いたのは油井正一である。正直、全体的に録音がもこもこしていて、ジャケーのテナーサウンドの魅力をストレートに伝えているとはいいがたいし、リズムもいまいちちゃんと聞こえないのだが、ギターはアホほどよく聞こえるけどなあ。この解説にはいろいろ難癖をつけたい箇所満載なのだが、まあ、ギターのことにとどめておこう。「JATAPコンガ」というわけのわからないタイトルの曲が入っているが、もっとわけがわからないのは冒頭に出てくる、頬っぺたをパコパコ叩く音で、これがコンガということなのか……。ハンク・ジョーンズのオルガンもいかにもな雰囲気をかもしだしていて、いなたくて良いが、全体に古いタイプのリズムなので、ちょっとタルい瞬間あり。でも、そこがええねん、という意見もあるだろう。さっきも書いたが、全体に録音が悪い。だから、聴くのにちょっと集中力が必要かも。しかし、そこに目をつぶれば、ジャケーの男性的な音色はある程度伝わります。曲もバラエティ豊かで、なかなかおもしろい作品。録音がなあ……。もしかするとCDではまるっきり改善されているかもしれない(そういう例はよくある)。

「ILLINOIS JACQUET AND HIS TENOR−SAX」(ALADIN RECORDS 803)
ILLINOIS JACQUET

 ジャケー超絶好調の録音である。うちにあるLPのもこもこした音でもジャケーの凄さはひしひしと伝わってくる。アレンジのちがう2パターン入っているフライング・ホームもすばらしく、例のソロも、コブやグリフィンやベニー・グリーンやハンプトン楽団でのサックスソリや、いろいろと使われているわけだが、オリジナルのジャケーがやっぱりハマる。細部まで気持ちが行き届き、しかもうねるような豪快さがあってすばらしい。いいソロは何度聴いてもいい。ほかの曲も全部見事で、バラードも太い音色で豪放かつ表現力豊かに演奏され、しかも、ホーキンス流というよりはどことなくブルースの香りがする、ようするにテキサスマナーなのだ。1曲1曲は短いがジャケーの持っている芸および芸術のすべてがあますところなく詰め込んであって、感激ものである。超豪華メンバーのビッグバンド(ファッツ・ナバロ・マイルス・デイビス、ジョー・ニューマン、テッド・ケリー、ディッキー・ウェルズ、ジミー・パウエル、ビッグ・ニック・ニコラス、レオ・パーカー、ビル・ドゲット、シャドウ・ウィルソンらを含む)と、このころ多いリトルビッグバンド編成(ラッセル・ジャケー、ジョー・ニューマン、レオ・パーカー、サー・チャールズ・トンプソン、フレディ・グリーン、シャドウ・ウィルソンらを含む)の2セッション入っているが、どちらも最高である。ほとんどがジャケーが吹き倒す構成であるが、たまーにラッパやバリトンなどにソロがまわる曲もあって、そういうのもすばらしい。ジャケーの手の演奏としてはアポロセッションがもっとも名高いが、このアラジンセッションはその上をいく、といったら言い過ぎかもしれないが、少なくとも肩を並べるぐらいのすばらしい内容である。4ビートのリズムがいい意味で古くさいのも時代を感じさせて味わい深い。これは、シャドウ・ウィルソンのドラムとフレディ・グリーンの名人芸的な四つ切りギターの効果だろう。アンサンブルも曲もいいが、やはりジャケーのソロはどの曲もよくて、太い音色でビバップにも通じる激しい八分音符を完璧なリズムとアーティキュレイションで吹きまくった直後ハイノートをヒットする、というこの場面転換というか大胆なソロ構成にはぶっ飛ぶ。小編成のほうでは、ピアノのサー・チャールズ・トンプソンのバッキングがめちゃめちゃかっこいい。名盤としか言いようがないアルバム。

「JACQUET’S GOT IT!」(ATRANTIC RECORDING CORPORATION ATRANTIC JAZZ 7 81816−2)
ILLINOIS JACQUET & HIS BIG BAND

1987年の録音だから、このときジャケーは65歳。何度か来日しているステージを観ているものとしては、本作もたぶんヨレヨレだろうと思ってLPを買ったら、なんのなんの、めちゃめちゃすごいではないか。うわあ、おそれいりました、と私にしては珍しくCDを買い直した。というのも、CDはボーナストラックが2曲あり、しかもそれが「フライング・ホーム」と「ポート・オブ・リコ」だというんだからしかたないではないか。とにかく、このアルバムにおけるジャケーはすばらしい。音色もフレーズもリズムも、全然衰えを感じさせない。たとえばジーン・アモンズなどが晩年(といっていい年齢ではないにもかかわらず)の録音はよれよれであることを考えると、このジャケーの吹きっぷりはすごいとしか言いようがない。アップテンポもバラードもブロウナンバーも、最盛期となんら変わりがない、圧倒的な「スターぶり」である。しかも、このビッグバンド自体のサウンドがすごいのである。ハンプトンというよりベイシーマナー(ビッグバンドの王道を行く感じのアレンジで、ハンプトンのように単純なリフだけで押しまくるというより、モダンベイシーのようにいろいろバンドとしての聞かせ所もある。サックスソリやラッパソリなどは見事)で、メンバーもトランペットにジョン・ファディス、トロンボーンにフランク・レイシー、リード・アルトに(なんと)マーシャル・ロイヤル、テナーに(なんとなんと)エディ・ベアフィールド、バリトンにルディ・ラザフォード、そしてベースに(なんとなんとなんと)ミルト・ヒントン……というオールスターぶりで、なおかつほかのメンバーには若手を器用して、しっかりしたビッグバンドとしての土台を築きあげているわけだが、なんといっても肝心要のドラムにダフィー・ジャクソン、というのがいちばん大きいだろう。ダフィーは本作ではあまり暴れているわけではないが(サボイでストンプとかは派手に叩きまくっていてスカッとするけどね)、さすがにしっかりしたビッグバンドドラマーとしての役割を果たしており、もう言うことありません。選曲もいいし、ジャケー以外のソロもどれもすばらしい。しかし、やはりジャケーが吹きはじめるとすべてをさらってしまう……という構成になっているのだなあ。大スター! グレイト! かっこいい! 87年のジャケーなんか……と聴くのをためらっているかたはぜひぜひ、だまされたと思って聞いてみるべし。

「SWING’S THE THING」(VERVE RECORDS MV2660)
ILLINOIS JACQUET

その昔、オーレックスジャズフェスティバルの第一回が日本で開催されたとき、高校生だった私は万博会場におもむき、そこでイリノイ・ジャケー、ロックジョウ・デイヴィス、ハロルド・ランドという豪華3テナーを目撃した。正直、名前を知っていたのはハロルド・ランドだけで、ジャケーもロックジョウも知らなかった。パンフレットにはイリノイ・ジャケーのことを「フリージャズ以前にフリークトーンを吹いた男」みたいなキャッチが書かれており、私は期待に胸を膨らませたが、実際にはフリークトーンらしきものを吹きまくることはなく、ほとんど記憶に残っていない。ハロルド・ランドも、当時は中途半端なコルトレーン的なフレーズを吹いていて、ブラウン・ローチでの流麗なバップフレーズはほとんど聴かれなかった。唯一、おおっ、これはすごい、と思ったのはロックジョウで、ジャケーよりもロックジョウのほうがフリークトーンマスターにふさわしい、と思った。ジャケーにとっては、ディジー・ガレスピーがリーダー格で、しかもリズムセクションもモダンジャズど真ん中というグループでは本領発揮というわけにはいかなかったのだろう。しかし、その「フリージャズ以前にフリークトーンを吹いた男」というキャッチは私の耳にこびりついており、「きっと絶頂期は凄まじかったにちがいない」と思った私はジャケーのレコードを探した。そして、見つけたのが本作で、じつはあの当時、ジャケーのリーダー作は国内ではこれしか発売されていなかったのだからしかたがない。いソノてルヲのライナーノートを読むと、本作がとんでもないブロウにつぐブロウが収録されているように書かれているが、実際には非常におとなしいもので、どちらかというとジャケーの歌心あふれるスウィングテナーとしての側面をクローズアップする内容になっている。1曲目の「ラスベガス・ブルース」は、ブロウにつぐブロウという期待を打ち砕くような、いきなり呑気な感じのテンポ・曲調ではじまり、ジャケーのソロも力を抜いた軽〜い感じ。リズムセクションがジミー・ジョーンズ、ハーブ・エリス、レイ・ブラウン、ジョー・ジョーンズという「名手」「名人」たちであることもその軽いノリに拍車をかけている。2曲目はなんと「ハーレム・ノクターン」で、これはなかなか手ごわい演奏である。ずずずず……というサブトーンで情感をあふれさせながらも、ムードテナーになる一歩手前でとめており(つまり抑揚のつけかたが、それほどあざとくない。どちらかというとクールな感じ)、腐る寸前のリンゴのようなバラードである。ジャケーによるテーマ提示後に出るロイ・エルドリッジはテーマをほとんどなぞるようなソロ(?)で、ジャケーはサビから登場し、そのままテーマを吹く。つまり、ほとんどアドリブらしいアドリブはないに等しいわけだが(いソノてルヲの解説にあるような「豪快にすすり泣くように歌っている」というよりも、たんにテーマを吹いているだけ)、じつにすばらしい。3曲目はこれまたかなりゆっくり目の歌もので、ピアノのあと、ロイ・エルドリッジとハーブ・エリスの小粋なソロがつづき、なんやねん、これ、と思っていると、ジャケーが登場して悠揚迫らぬおおらかなソロが展開する。これも正直、悪くはないが熱血ブロウには程遠い。こうしてA面が終わってしまい、おい、マジかよ、と思っているなかでB面である。B−1は、やっときました、アップテンポのマイナー系循環曲。ジャケーは、フリークトーンとかオーバーブロウとまではいかないが、かなり豪快にブロウする。2曲目はこれもゆっくりしたスタンダードで、なんでこんな曲ばっかりなのかよくわからないが、とにかくジャケーはこのアルバムはこういうスロー〜ミディアムで歌心をきかせようと思ったらしい。あるいはプロデューサーの意向かなあ。B面ラスト「木の葉の子守歌」に至って、本作一番の吹きまくりが聴けるといえば聴けるが、いソノてルヲが書いているような「おなじみのフレーズでブロー」「高音をヒットさせ、エキサイティングなプレイを展開」みたいなことはあまりない。57年の円熟したジャケーを聴くにはふさわしいセッティングだなあ、と(今ならば)思えるのだが、なにしろこちらは高校生で、鼻血ドバーッみたいな高血圧ブロウを期待していたので、完全に肩すかしだった。共演のロイ・エルドリッジも全体に意外によくて、邪魔になっていない。今なら声を大にしていえる名盤。しかし、その後フリップ・フィリップスとの伝説的な大バトルを繰り広げているという「パーディド」の入ったJATPの箱物も買ったが、これもさほど感心できず、結局ジャケーの「フリークトーン云々」というのを心ゆくまで味わうのは、数年後、アポロセッションのフランス盤を入手するまで待たねばならなかったのである。

「THE ILLINOIS JACQUET STORY」(PROPER RECORDS PROPERBOX49)
ILLINOIS JACQUET

4枚組の超お買い得ボックス。タイトルが示すように、初期のジャケーの歩みがクロノジカルに味わえる。まず1枚目の1〜4はJATPの演奏で、例によってかなり荒いし(JJジョンソンまでもがときどき雑な演奏をしていて、なんだか親近感がわく)、録音もよくないが、臨場感はたっぷり。ナット・キング・コール〜レス・ポールらのリズムセクションが快演。ジャケーはさすがに他を圧倒するブロウにつぐブロウで観客が昂揚しまくっているのがわかる。これですよこれこれ。ジャック・マクヴィーと比べるとジャケーの「芸」がいかに安定しており、たしかに技術の裏付けがあるかがよくわかる(正直、唯一「荒くない」のがジャケーかもしれない)。とにかく圧倒的なブロウであり、これはだれが聴いても「ギャーッ」といいますよ。それほど聴衆を熱狂させたのである。コールマン・ホーキンスのソノリティを汽笛の分野まで広げた演奏でチンピラ聴衆を熱狂させたが、こういう演奏を音楽の本に記す価値はない、とまで当時酷評されたわけだが(ベーレントでしたっけ? うろおぼえで書いています)、受け入れ容量の少ない「評論家」がそう書かざるをえなかったほどの凄まじい演奏なのである。ジャケー、すごい!(じつはメンバー全員が、すなわちナット・キング・コールまでもが、それぞれに芸のかぎりをつくして、エキサイティングな流れの曲はとことんエキサイティングにエンターテインメントに徹して演奏しまくっているわけで、ジャケーだけを酷評するというのは土台とんちんかんでアホな話なのである)もちろんバラードも歌ものも最高で、44年という早い時期にジャケーがすでに円熟といっていい演奏をしていたことがわかる。そして、4曲目の「アイヴ・ファウンド・ア・ニュー・ベイビー」では信じがたいようなスクリームを展開して、貫祿を見せつける。かっこええーっ! 5〜13と二枚目の1〜2と13〜16、3枚目の1〜4はアポロセッションからなので、そちらのレビューにゆずる。二枚目の3、4曲目はARAというレーベルから出ているもので、トム・アーチアというテナーが加わっているが、たぶんソロはとっていないと思う(少なくともメインのテナーソロは全部ジャケーだ)。5〜12はサボイセッションで、エメット・ベリーとの2管による6重奏団。フレディ・グリーン、ビル・ドゲット、シャドウ・ウィルソンを擁したリズムセクションが強力。なお、そのうち9〜12は、もともとエメット・ベリーの名前で出ていたものだそうで、なるほど、たしかにベリーのトランペットが大きくフィーチュアされている。17〜23と3枚目の5〜11はアラジンセッションの項目を参照のこと。3枚目の12〜21、4枚目の1〜8は上記ブラックベルベットセッション。4枚目の9、11、12、16〜22はクレフセッションでCDとしては「ジャケー・アラカルト」というのと同一だと思うがよくわからん。そのうちの9〜15のメンバーはジャケーとラッセル・ジャケー、そしてカール・パーキンス、オスカー・ムーア、レッド・カレンダー、JCハードという豪華リズムセクション(思いっきりウエストコーストなメンツだと思ったら、珍しくロス録音だった)以外のホーンセクションはまるでわからないようだが、ジャケーはめちゃめちゃ好調で倍テンで吹きまくったり、ちょっと力を抜いて吹いたり、激しくブロウしたりと自由自在。そして、このボックスの最後を飾るのはニューヨーク録音のクインテットで、なんとハンク・ジョーンズ、ジョン・コリンズ、ジーン・ラメイ、アート・ブレイキーというたいへんなモダンジャズメンバーを従えての演奏だが、ジョン・コリンズの軽みのあるギターに乗って、飄々と洒落たプレイを聴かせたりするあたり、めちゃめちゃかっこよくて歌心あふれまくりでびっくり。というか、そういう洒脱な面がもともとジャケーのなかにあるのだ。もちろんリズムセクションの演奏も超一級で、いやはやすげーよなー。もちろん血反吐を吐くような絶叫ブロウもあって、見事としか言いようがない。かっこよすぎるぜジャケー! というわけで、どこを切ってもジャケーの良さ、凄さ、さまざまな芸があふれだすこの4枚組だが、ジャケーぐらいになると音源があちこちに飛んでめちゃくちゃになっているとは思うし、こうしてすっきりしたクロノジカルな収録をしてくれてたいへんありがたい(鑑賞のうえではクロノジカルであることがまるで気にならない)。手持ちの音源とかぶっているようなジャケーファンでも、このボックスは購入する価値があると思う。なにしろJATP、アポロ、アラディンという3大音源が俯瞰できるうえにほかの名演もたっぷり入っているのだから。

「TORONTO 1947」(UPTOWN RECORDS UPCD27.73)
ILLINOIS JACQUET/LEO PARKER

 RCAやアポロあたりのジャケーのリトルビッグバンドは、メンバーもよくて、ジャケーのテナーブロウをたっぷり味わえたうえ、ビッグバンドの雰囲気も(ちょっとだけ)楽しめる演奏だが、これはそのころのライヴ。スタジオだと、JJジョンソンが入った9人編成だが、このライヴは7人。バリトンのレオ・パーカーが副リーダーとしてクレジットされているが、そのとおりで、パーカーのソロは大きくフィーチュアされている。1947年のトロントでの録音で、ジャケーにとっては、ハンプトン→ベイシー→JATPと渡り歩いたあと、自分のバンドを結成してすぐの時期なので、まさに脂が乗りきっている。人気もおそらく頂点にあったころだろう。金ももうかっていたのか、メンバーもすごい。トランペットはジョー・ニューマンと弟のラッセル・ジャケー、ピアノはサー・チャールズ・トンプソン、ベースはアル・ルーカス、ドラムはシャドウ・ウィルソン……とレギュラーメンバーとしては驚くほど豪華である。どういう録音なのか(放送録音なのか、隠し録りなのか、など)はライナーを読んでもわからない(読み落としたのかもしれない)が、客席の熱狂がリアルに録音されていて臨場感は満載である。管楽器もときどきめちゃくちゃ大きく聞こえる楽器があったり、そのあとその楽器が逆に急に引っ込んだり、ピアノがやたら大きかったり……とばらつきがあるので、ワンポイントで録音しているだけかもしれない。1曲目はバリトンが先発でブイブイ言わせるが、そのあとのジャケーのソロは圧巻。若くして、貫禄ありすぎ。途中で異常なフラジオをビュービュー吹く場面があるが、そういう力技も、さすがライヴならでは。ジョー・ニューマンのソロもすばらしい。2曲目は3曲のメドレーで(意図したメドレーではないかもしれない)、最初の「オール・ザ・シングス・ユーアー」が終わって、ジャケーの長いカデンツァ(これは聞きもの)からつぎのテーマに移行して、自然に曲が始まる。軽いホンクも聴けるが、歌心のほうを聴くべき演奏だと思う。バリトンは低音を強調したトリッキーな演奏。ころころと転がるようなピアノソロが秀逸。そこからオリジナルの循環の曲に雪崩れ込み、お祭り騒ぎのような演奏になる。ラッパのあとのバリサクの途中でフェイドアウト。3曲目は、2曲目の最後の曲と同じ曲。バリサクが長いソロをガンガン吹いたあと、ピアノソロが見事の一言。名人や。ラッパはジョー・ニューマンだと思うが、ハイノートを存分に吹きまくる。最後にジャケーが登場するが、こういうジャンプ系の曲はお手の物。若干のホンクとスクリームあり。跳躍の激しいフレーズなども含め、とにかく完全にこの時点で完成されたスタイルということができる。エンディングをはじめ、全体のサウンドはベイシーの影響があるっぽいか。4曲目は「ボディ・アンド・ソウル」の見事な解釈。ムードテナーとドスの利いたブロウの両方の要素の入り混じった、ほれぼれするような演奏。カデンツァもすばらしいが、そこから倍テンの演奏が再び始まるという趣向。この部分のジャケーのソロもすごくて、ちゃんと音楽的なことがわかっているんだなあと思った。かなり豪快にブロウしていくのだが、きちんと「ボディ・アンド・ソウル」のチェンジを外さないし、最後にふたたびバラードに落とし込むところが、まったく不自然さがない。音色もすばらしいし、これは人気出るわなあ。ジャケーのことをののしった評論家は、ほんと耳が狂ってるよ。もう一度カデンツァがあるのだが、そこはかなり飛ばしまくってます。5曲目「ど」のつくほどのはスローブルースで、ラッセル・ジャケーのボーカルが聴ける。当時はなぜかトランペッターが歌うケースが多いような気がする(アルトもか)。ラッセル・ジャケーのボーカルはべつにうまくないが、それでいいのだ。ひとつのセットのなかでのチェンジ・オブ・ペースなのだから、そこそこで十分。でも、テナーやピアノのバッキングの良さで、なんだかすごくいい演奏になっている。6曲目は快速テンポの「レディ・ビー・グッド」で、サー・チャールス・トンプソンがストライドの妙技を見せる。ジョー・ニューマンのハイノートでのソロも盛り上がる。パーカーのバリトンソロはなぜかちょっとノリ遅れている感じだが、「芸」という言葉がぴったりのスウィング・スタイルのドラムソロ(長い)のあとリフで終了。あれ? ジャケーは? 7曲目はメドレーで、ジャケーが「メモリーズ・オブ・ユー」を切々と歌い上げる。ここぞというところでは音を濁らせて吹き上げる。ダイナミクスもばっちりで、くーっ、しびれる! これは名演ですよ。しかし、ジャケーのカデンツァから、なぜか「ソルト・ピーナッツ」に移行。裏ジャケットには「未確認の曲」というタイトルになっているが、もちろんガレスピーのあの曲。でも、最後は「フライング・ホーム」みたいにバックとの掛け合いでブロウしまくる。気が狂ったみたいにスクリームして終わるというなかなかの力任せな演奏で、おもしろい。8曲目はおなじみ「ロビンズ・ネスト」を、まさか! といいたくなるような超アップテンポで演奏。ジョー・ニューマンがそのテンポでもまったく崩れず、めちゃくちゃ見事なソロをする。つづくパーカーはさすがに苦戦するが、妥協せずに、最後までアグレッシヴに吹く。ジャケーはこのテンポでもOKで、自由自在に吹きまくる。ラストはあいかわらずのフリークトーンで盛り上げる。9曲目は古いベイシーナンバーらしいが、ミディアムでスウィングする、くつろいだ演奏。逆にこのテンポでソロをするのはなかなかむずかしい。ソロはラッパとピアノとテナーだが、ピアノソロの途中で「きゃあああっ」「きょえええっ」みたいな女性(複数)の悲鳴ともよがり声ともつかぬ声が聞こえるのはいったいなに? テナーソロは、ほんとうにうまい演奏だが、ここでも女がぎゃーぎゃー言うとるのはいったいなんなんだ。黙れ、ばか! 10曲目は、1曲目にも入ってる「ボトムズ・アップ」がテーマ的に演奏される。テーマ的といっても各人のソロはたっぷりあって、とくにジャケーは手慣れたブロウをみせる。ここでも、最後は「フライング・ホーム」的な掛け合いになる。循環の曲は、なんでも「フライング・ホーム」化してしまう。恐るべし、ハンプトン楽団の血! 最後の曲「ホーム・スウィート・ホーム」は全員が同時にソロをして終わる短い曲(アンコール?)。ブックレットも写真満載で充実しているし、音質もそんなに悪くないので、ジャケーのファンは買ってみてもいいのではないでしょうか。

「C JAM BLUES」(PASSPORT AUDIO)
ILLINOIS JACQUET

 ジャケーの未発表ものかと思って買ったら、ろくでもない海賊盤でした。CD番号もない。6曲入っているが、1曲目はミルト・バックナーとやってるブラックライオンの「ジニアス・アット・ワーク」からの曲、2曲目、3曲目はプレスティッジの「ザ・キング」からのもの。4曲目は「ブルース・ザッツ・ミー」からのもの。5、6曲目は「ソウル・エクスプロージョン」からのもの。こんなものは買ってはいけないがそもそも売ってはいけない。

「LIVE AT SCHAFFHAUSEN SWITZERLAND MARCH 18,1978」(STORYVILLE CDSOL−6950)
ILLINOIS JACQUET QUARTET

 78年という、脂の乗り切っているわりにはいまいちアメリカでの評価が低かった時期のイリノイ・ジャケーのライヴ。バックはハンク・ジョーンズトリオで、ある意味、ジャケー〜ジョーンズ双頭バンドといえる。というのはトリオだけ(もしくはソロピアノ)の演奏が約半分ぐらい入っていて、しかも、それがジャケーの入った演奏とほぼ交互に行われているからで、リーダーふたりがときには主役になり、つぎの曲は休み、伴奏にまわり……といったひとつのパッケージショーだと思う。ということは、ジャケーの熱血ブロウだけを求めている(私のような)ファンには物足りないわけだが、もちろんハンクトリオの演奏が悪いわけがなく、しかも、たとえばアーネット・コブとレッド・ガーランドのように水と油な状態でもなく、両者がうまく溶け合って、ええ雰囲気のライヴになっている(もちろんハンク・ジョーンズがジャケーに合わせているわけだが、いろいろ要求されてそれをこなしてはいても、それがハウスバンド的に「合わせてる」とか「仕事として割り切っている」という感じではなく、ちゃんと本人も楽しんでいる感じなのがいいですね)。1曲目はおなじみの「ザ・キング」で、ジャケーの循環の曲での典型的なルーティーンのブロウが聴ける。いやー、すばらしいですね。音よし、リズムよし、フレーズよし。どこを切っても、ただただジャケー印の演奏。しかもB♭なので、テナー吹きはみんなコピーしよう(ジャケーやコブは「フライング・ホーム」のせいでA♭の循環が多い)。こういうソロはいつどこでやってもほぼ組み立てが決まっていて、これをアドリブというのか、と怒るむきがあるかもしれないが、いいじゃないか、かっこよかったらなんだって。元気なころのジャケーのソロは、リズムがぽきぽきと四角いノリで、アーネット・コブ以上に六代目松鶴を連想させる(松鶴も、若いころはしゃべりかたが四角くてぽきぽきしていた。えーと、伝わってるかな?)。2曲目は、もういきなりジャケーはお休みでデュビビエをフィーチュアした曲。そして3曲目のスローブルースでまたまたジャケー節炸裂。凄い音だよなあ。ジャケーのブルース魂が煮えたぎる一曲だ。この曲がこのコンサートの白眉かもしれない。つづく「Cジャムブルース」もジャケーがおいしいフレーズ連発。「サテン・ドール」はエリントンに捧げたトリオ演奏で、ハンク・ジョーンズがエリントン風のピアノを弾いたりする。「アイ・キャント・ゲット・スターテッド」はジャケーの、ベン・ウエブスター直系の超いやらしいバラード。サブトーンの名手。ずずずず……という唾液の音ちょっと手前ぐらいの音でビブラートをきかせて歌いまくる。すばらしいとしか言いようがない。そして、ベイシーの「キュート」はJCハードのブラッシュソロのみをフィーチュア。ハンク・ジョーンズもちょっとベイシーっぽく弾く(ソロはしない)。「ベリー・ソウト・オブ・ユー」と「オー・ルック・アット・ミー・ナウ」という2曲続けてハンクのピアノソロナンバーがあって、いよいよ「ブルー・アンド・センチメンタル」。この曲、好きなんですわー。ハーシャル・エヴァンス以来のテキサステナーの伝統芸ともいえる曲で、ベイシー作曲の超名曲である。ほぼ、テーマをストレートに吹いているだけなのだが、それでもかっこいいのだ。「イン・ナ・センチメンタル・ムード」はこれもハンクのソロピアノ。「ジョーズ・ブルース」というのはデュビビエのベースソロだけをフィーチュアした曲で、前半はとくにまったくの無伴奏ソロである。つづく「昔はよかったね」でパッケージショーはクライマックスになる。こってりしたミディアムテンポのブルースにおけるジャケーの渾身のブロウが聴ける。凄まじいフラジオの音も圧倒的だ。油井正一がボロカスにけなしたのはこういう演奏なのだろうな。わかってないひとにはなにを言ってもしかたがないけど、それにしても……。そのあとはエンディングがわりという感じで、これもおなじみのベニー・グリーンの「アイ・ワナ・ブロウ」でジャケーのボーカルとスキャットが聞ける。歌い出すとダレるのもいつもの感じだが、メンバーも客もわかってるのだろう。そして、アンコールはこれもよくやる「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」。楽しいひとときでした。

「NICE JAZZ 1978」(BLACK & BLUE/SOCADISC BB1004)
ILLINOIS JACQUET

 78年のジャケーのライブ。ロックジョウとの共演が2曲入っているが、裏ジャケにはなぜかアーネット・コブが写っているというざっくばらんなCD。内容は、78年にかなり長期にわたって行われたらしいナイス・ジャズ・フェスティバルというイベントの音源をいくつものアルバムにばら売りするというよくあるシステム。本作には、ジャケーとロックジョウの共演(ピアノはローランド・ハナ、ベースはメジャー・ホリー、ドラムはアラン・ドウソン)のほか、ジャケーのワンホーンでピアノがハンク・ジョーンズ、ドラムがJCハードというセット、ジャケーとクラーク・テリーの2管にハンク・ジョーンズ、ジョージ・デュビビエ、JCハードという豪華なセット、そして、ジャケーにポール・バスコムの2テナーにピー・ウィー・アーウィンというトランペットが入ったセットなどが収録されている。たとえば、ロックジョウとの共演は同じく「ナイス・ジャズ・1978」というロックジョウのアルバムにも違う曲が収められていて商魂たくましい。ブラック・アンド・ブルーから出ていることでもわかるが、メンバー的にもブラック・アンド・ブルー・オールスターズ的な感じでまあ間違いはない。1曲目「コットン・テイル」はライナーではバトルをしているような書き方になっているが、実際はジャケーが先発して、あいだにピアノソロを挟み、つぎがロックジョウで、そのあとも4バースとかはないので、バトルとはいえない(オールド・ベイシー方式?)。ジャケーのソロも相当すばらしいが、ロックジョウがあまりに凄まじいブロウを繰り広げるのでちょっとジャケーはかすんだ感じかもしれない。そのあと、テーマに行くのかどうするのか……みたいなやりとりが2コーラスほどあって(たぶんロックジョウのソロがえげつなかったのでなんとなく入りそびれたのだろう)、どさくさな感じでドラムソロに雪崩れ込み、そしてシンプルなリフを繰り返して、テーマには入らずに終わる。2曲目のスローブルースは同じメンバーだがロックジョウは休みで、先発のピアノソロのあとジャケーがひとりでソロを吹くが、途中からブレイクがやたら長くなって、ほぼジャケーのテナーの無伴奏ソロみたいになる。ここをジャケーは、テクニックというより気合いで乗り切り、そういうところも百戦錬磨の猛者という雰囲気である。観客のウケもすごくいい。3曲目はまたロックジョウが戻ってきておなじみ「ロビンズ・ネスト」。先発ソロはロックジョウで、気合い+テクニックでテナーブロウの手本のような凄みのあるソロを聴かせる。ここでもまたピアノが入り、バトルにはならない。サー・ローランド・ハナの粘っこいノリでさすがに盛り上げるピアノのあと、ジャケーが登場。おのれの曲だけあって、悠揚迫らぬスウィングスタイルのテナーをじっくり聴かせる。音もすばらしいし、モダンなフレーズや高音・低音もまじえた名ソロを展開し、めちゃくちゃ盛り上がり、リズムセクションも高反応でボスを盛り立てる。ソロの締めくくりも見事。つづくメジャー・ホリーはあいかわらずのアルコとスキャットをユニゾンさせるスラム・スチュアートスタイル。そしてテーマ。4曲目はジャケーのワンホーンカルテットでハンク・ジョーンズとの共演によるゆったりしたテンポの循環っぽい曲。こういうテンポはむずかしいと思うのだが、さすがにスウィングのひとは達者で、歌心と気合いを混ぜて飽きさせない。モダンジャズのひとなら倍テンにするか、ダレてしまうか、というところだと思うが、ジャケーはほぼテンポどおり巨人が歩くようにのっしのっしとおのれのペースで進んでいく。つづくハンク・ジョーンズはすばらしいソロ。まるで自分のリーダーバンドのようなノリでその場を支配する。ベースとドラムを自由に操るというか、好き放題やり倒して長尺のソロを披露して客の喝采を浴びる。サビからふたたびジャケーが出てきて、テーマに戻って終了。5曲目はスローブルース。ハンク・ジョーンズのピアノソロのあと、ジャケーが登場。1曲目とほぼ骨子は同じようなソロを展開。正直、こうなるとアドリブがどうのとかその場の即興がどうとかいう問題ではなく、いかにブルースか、というところを聞けばいいのである。毎回同じでも、ジャケーというブルースマンがテナーに託したブルース魂を味わえばいいのだ。また、1曲目同様長いブレイクがあり、ほぼ無伴奏ソロのような気合いに満ちたソロのかっこよさに、客だかメンバーだかがえらく興奮している。クラーク・テリーが参加しているとパーソネルには書いてあるが、徹頭徹尾トランペットの音は一切聞こえません。6曲目は4管による演奏で、スタンダード。テーマもジャケーが吹き、あとのメンバーは後ろでちょっとリフを小さい音で一瞬吹く程度で、ジャムセッション風。ベン・ウエブスターのようなジャケーの歌い方に酔う。ソロにからむディック・ハイマンの饒舌なバッキングもかっこいい。つづくトランペットソロはライナーに「才能あるトランぺッターの驚くべき発見」と書かれているとおり、歌いまくりのええソロである。そのつぎは「バッド・バスコム」でおなじみ(?)のポール・バスコムのテナーソロ。硬質でやや細い音でけっこうへろへろな感じである。そのあとのトロンボーンソロ(クロード・グーセットと読むのか?)は安定していてすばらしい。「定番」といった感じのフレーズ弾きまくりの見事なピアノソロを経て、ニューオリンズっぽい感じのエンディング。7曲目はジャケーのワンホーンでバラード「ボディ・アンド・ソウル」。ジャケーのバラードとしてはおなじみで、テーマのサブトーンを駆使した嫌らしい歌い方も聞きなれたものだが、何度聴いてもいいものはいい。こういうのを聴くとほんとベン・ウエブスター的で、堂々たる感涙の演奏である。ジャケーにとファラオ・サンダース)をさんざん酷評した油井正一は、どんなにすばらしいジャズ史の本を書いたかしらんけど、まったくわかっていなかったと思う。ちゃんとした評論ならともかく、個人の好みを演奏の良しあしにすりかえてああいう風な書き方で貶すのはあかんでしょう。今の、ファラオ再評価、ホンカー人気を見たらどう思うだろうか。最後は同じメンバーで循環の曲。テンポが速くてジャケーもしゃかりきになって吹きまくっている。というわけで、78年のジャケーは絶品でした。

「BOTTOMS UP」(BLACK & BLUE BB893.2)
ILLINOIS JACQUET

 同題名のアルバムがプレスティッジにもあるが、こちらはフランスでの演奏。ミルト・バックナーがオルガン(ピアノを弾いてる曲もあり)で、ベーシストも入っている。そして、ドラムがなんとジョー・ジョーンズ! これはうれしい。1曲目の「ボトムズ・アップ」(ようするに「フライング・ホーム」)からジャケーはめちゃくちゃ好調で、何千回と演奏したであろうこの曲を瑞々しい感覚でいきいきとブロウしまくっている。ブラック・アンド・ブルーのジャケーはどれもすごいのだが、なかには「?」と思うような演奏もある。しかし、本作や、ワイルド・ビル・デイヴィスとやってるやつなどはほんとにすばらしい。「ワン・オクロック・ジャンプ」が2テイク、「サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」は3テイクも入っていて、ジャケーがブラック・アンド・ブルーでの吹き込みを「フランスでちょろっと小遣い稼ぎするか」的な感覚で吹き込んでいなかったことがわかる。渾身のレコーディングなのだ。「ワン・オクロック・ジャンプ」はどういうわけか、テイク2のほうは最初バックナーの洒脱な、ベイシーっぽいピアノソロがけっこう長くあるのだが(4コーラス)、ジャケーのソロを挟んで、そのあとオルガンで再登場するという構成。そして、オーケーテイクは、最初のイントロはオルガンである(3コーラス)。ジャケーのソロのあとにオルガンソロがあるが、これがまた変てこなソロでめっちゃ面白い。このテイクでのジャケーのテーマの吹き方は「くせが強い!」と千鳥ノブが叫びそうな感じです。「イフ・ユー・ニュー・ファット・イット・ダズ・トゥ・マイ・ハート」というマイナーのバラードは、ジャケーのテナーのあまりにどスケベな吹き方に感涙。めちゃくちゃかっこいいです。「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」はジャケーやコブといったテキサステナーたちの愛奏曲で、ジャケーは斑尾でもやっていた。テイク3のほうの演奏を聴くと、ほんと、テーマを吹くのを聴いてるだけで十分満足し、アドリブはいらん、という気にさえなる。それぐらいテーマの吹き方にドラマがある。バックナーはピアノ。そして、ジョー・ジョーンズの「いらんことはなにもしない」ひたすらシンプルなドラム(ほぼレガートだけ)もすごいっす。マスターテイクのほうは、テーマをバックナーのピアノにまかせ、ジャケーはいきなりアドリブという趣向。このジャケーのソロはなかなか凄い。「アフリカ・ナウ」という曲はバスーンによる演奏(ジャケーがバスーンを吹く雄姿がブックレットに載っている)。ジャケーはプレスティッジのアルバムでもバスーンを吹いている。この曲は「アフリカ・ナウ」というタイトルだが、どちらかというと擬似中東風のエキゾチックな雰囲気のマイナー曲。バスーンのことは私はなにも知らないが、ジャケーは延々アドリブをするし、16分音符での早吹きなどもかますので、この楽器に習熟していることがわかる。図太い低音も多用しており、バスーンを完全にジャケー流に吹きこなしている。8曲目のテーマはあってないようないいかげんなブギウギもそれなのにめちゃくちゃかっこいいのは、バックナーのブギウギピアノとジャケーの一直線の大ブローのせいである。9曲目は快調なテンポのブルースで、いわゆる「ごきげん」なやつ。10曲目はめちゃくちゃスローなブルースだが、後者は最初とても(ジャケーにしては)淡白な感じではじまるのだが、じわじわとマグマのように熱くなっていき、ついには大噴火する。バックナーのソロの途中でフェイドアウト。11曲目は完全未発表の「オール・ザ・シングス・ユー・アー」。なかなか充実した演奏だと思うが、なぜお蔵入りだったのか。ラストは本アルバム3回目の「サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」で、タイトルをこの曲にしてもよかったのではないか、と思うほど。充実した作品でありました。傑作。