satoko fujii

「WATERSHED」(LIBRA RECORDS 204−028)
SATOKO FUJII MIN−YOH ENSEMBLE

トランペット、トロンボーン、アコーディオン、ピアノという変則的な編成で日本の「民謡」を題材にした新バンドだが、かなり大胆なアレンジがなされていて、原曲がなんなのか、とか、原曲の良さ、味わいみたいなことは一旦捨てられているように思われる。いやー、こういう小編成でも、いや、小編成だからこそかもしれないが、アレンジャーとしての凄さがわかる。各メンバーのソロもすごくいいのだが、どれもアレンジのなかで発動することで完璧になるタイプのソロで(つまり好き勝手に自分を出しまくり、という感じではない)、アレンジとソロの一体感が半端ではない。そして、ソロは大暴れはしないが、じつに「フリー」な感じで、こういう素朴な演奏でも自由さを感じさせることができるのだなあとしみじみ感心。それは、そういう腕を持つメンバーを集めているということなのだが、アレンジャーの才能でもあるでしょう。では、単に民謡はただのモチーフで、それを解体・再構築したというフリージャズ初期のようなコンセプトなのかというと、それがまったくちがっていて、さっきも書いたようにそうとう思いきった編曲がなされているのに、その底の底にあるものは「日本の民謡」そのものなのである。これは傑作だと思いました。

「一期一会」(LIBRA RECORDS 212−037)
藤井郷子オーケストラベルリン

 傑作だと思う。1曲目から4曲目は組曲になっていて、そのあと5曲目として「ABCD」という曲が入っているのだが、この5曲目も含めて、アルバム全体が組曲のような印象。これまで、ニューヨーク、東京、名古屋、神戸……とオーケストラを組織し、それぞれ恒常的に活動してきた藤井郷子さんだが、ベルリンでのオケはちょっとそういうものとは違い、「一期一会」だという。つまり、この録音一回かぎりの出会いということだ。メンバーは正直、ほとんど知らないひとたちで、私が金管系の知識がないということもあるだろうが、テナーのふたりと内橋さん以外はなじみがない。しかし、聴いてみると、とにかく全員凄すぎるぐらい凄くて、いつも藤井オケを聴いて思うことだが、藤井さんの「人選」能力の高さに今回も驚かされた。ドイツの美味しいミュージシャンは全員入っているんじゃないか、と思ってしまうほど、めちゃくちゃ粒ぞろいだった。1曲目は、ツインドラムがいきなり炸裂し、そのあとビート感のないテーマが全員で奏でられ、かなり長いベースソロになる。ベースと、小刻みなタンギングのトロンボーン(MATTHIAS MULLERというひと。めちゃくちゃすごい)とのデュオになり、そこからツインドラムをバックにロングトーンを積み重ねていくようなアンサンブルになる。そして、混沌とした集団即興になっていく。2曲目は、血わき肉踊るようなリズミカルで重厚なテーマがびしびしと決まったあと、ミュートトランペットの無伴奏ソロになる。この落差! だれだろう。田村さん? すごくいい感じの素朴で味わい深い演奏。内橋さんのギターがからんでデュオになり、ギターの独壇場的な即興になる。ここ、めっちゃかっこいい。大音量のテュッティがあって、一瞬で消え、ひとり残されたテナーサックスがフラジオとハーモニクスで無伴奏ソロ。めっちゃええやん。ほかの楽器が入ってくるが、独特のスタイルのテナーソロは暴走気味にぶっとばす。これ、だれだろう。私の考えでは、マティアス・シューベルトなのだが(このひとはフラジオとかハーモニクスとかリードが軋む音みたいなノイズの使い手だし、ちゃんとしたフレージングもうまいが、変にジャンプするようなぎくしゃくしたフレーズも吹く。それに、音色がエッジがきいて、やや細身なので、そうではないかと推理)、もしかしたらウルマンかもなあ。そこからテーマに雪崩れ込むのだが、いやー、めちゃめちゃかっこいい。そのあと間髪を入れず3曲目がはじまる(ほぼ切れ目はない)。トランペットの無伴奏ソロ。ほとんどしゃべっているようなノイジーなソロで、これが田村さん? いやー、わからん。そういうエグいソロとは裏腹な、バラード的なテーマがかぶってきて、インテンポに。そこからビートが消えて、アルコベースやバリサク主体の集団即興になったあと、今度はストレートなトランペットがベース、ドラム、ギターなどとともにフリーな演奏。(たぶん)バリサクも鳴ってるなあ。そしてまた美しいテーマが奏でられる。不思議な曲だが、引きこまれる。4曲目は、トランペットのハイノートが朗々と鳴り響く、壮大でロマンチックなテーマのあと、ベースとテナーサックスの激しいデュオになる。このテナーはだれかなあ。私の想像ではこっちがウルマン。ウルマンはラーセンのラバーかなにかのマウスピースで、太くダークな音で、楽器が鳴りまくっていて、とくに低音を叩きつけるように吹くときの音に特徴があるのだが、うーん……これがそうじゃないかなあ。でも、とにかく2曲目のテナーソロもこの4曲目のテナーソロもめちゃくちゃ素晴らしいことに変わりはない。もし、まちがってたら(2曲目がウルマンで、こっちがシューベルトだったら)すいません。ドラムが大爆発して、しつこいぐらいのリフが煽りまくり、クライマックスへと突入する。これこそビッグバンドの快感だっせー。そして、最後の5曲目「ABCD」は、ほとんど聴き取れないぐらいの音量でのトランペットソロ(マウスピースをちゅぱちゅぱいわせるような。これが田村さん? いやー、もうわからん)ではじまり、そこにほかの楽器が少しずつかぶっていき、だんだん全体の音量が上がってくる。こういうシンプルでノイジーなソロも、上手くやればちゃとオーケストレーションできるというのがわかる。突然4ビートになり、バリサクとのデュオになる。そこにアンサンブルがかぶっていき、ふっと音が途切れると、フリーなピアノとトロンボーンなどによる即興パートに。そこから混沌とした集団即興になり、シンプルなテーマとテナーがすごい速さでスケールを上下するような部分のあと、ビートがなくなってギターとテナーとトランペットとドラム、ベースあたりが中心の即興になる(このテナーはたぶんシューベルト)。テナーはずっとスケールを上下するような表現をしていて、だんだん全体が盛り上がっていく。そして、ほろほろと崩れ落ちるようにして終演。というわけでこのアルバム、藤井オケの数ある作品のなかでも屈指の出来映えの一枚といえるのではないか。それぞれのソロもすばらしい。傑作です。