paul dunmall

「ANCIENT AND FUTURE AIRS」(CLEAN FEED CF138CD)
PAUL DUNMALL SUN QUARTET

 ポール・ダンモールとトニー・マラビーの2テナーグループ「サン・カルテット」によるニューヨークでのライヴ。「古代の息吹」「未来の息吹」の2曲(両方ともたぶん即興)収録ということで、全体の雰囲気は、ふたりのテナーがひたすら吹いて吹いて吹き倒すというもの(1曲目は50分近くあり、LP時代だったら、これだけで一枚になっている。二曲目は7分ちょっとのアンコール演奏らしい)。しかし、リズムに乗って、クックする演奏というわけではなく、リズムはあったりなかったり、ハーモニーもどんどん変化し、テナーがベースになったりパーカッションになったり、もちろんフロントになったりして千変万化する。そこにベースとドラムが加わるのだが、あくまでも「加わる」という感じで、主役は2本のテナー。とにかく、ふたりともほとんどソロにならず、ずっとふたりとも吹いてる印象(実際には、ソロもあるのだが、印象としては、という意味)。かなりアブストラクトな演奏が続き、聞いているほうも緊張感を維持するのはけっこうしんどいが、それだけ密度が濃いのだ。がっつり聴くとへとへとになる。テナーのあらゆる演奏技法が教科書のように出てくるので、そのあたりもしんどい理由のひとつかも。だが、こういう聞き方は、あくまでテナー奏者やサックス好きの聞き方であって、一般の(という言い方も変だが)音楽ファンにとってはどのように聞こえるのだろうか。こういう演奏を、私は以前から、ギター弾きがギター弾きにしかわからない言語(音楽上の)で会話しあっているような演奏をギターミュージックと(これも私が勝手にそうよんでいるだけだが)いうのになぞらえて、サックスミュージックと呼んでいるのだが、この感じ、わかってもらえるかなあ。サックス吹きにはすごくよくわかって、そうそう、これこれ、と指をさしたくなるほどだが、興味のないひとにはなんら伝わってないのではないか、というような……。まあ、冷静に聞きなおすと、ちゃんと土台のしっかりとした即興としてのおもしろさも十分にあるので、心配のしすぎか。ポール・ダンモールがバグパイプを吹きまくるところはまるでフィドルの狂乱のようでかっこいいし、マラビーのソプラノもレーザー光線のように華やかですばらしいが、やっぱりテナーやな!

「OPUS DE LIFE」(PORTER RECORDS PRCD−4032)
PROFOUND SOUND TRIO

上記の2テナーによるコンサートの翌日の演奏。セシル・テイラーユニットの重鎮アンドリュー・シリルと復活したヘンリー・グライムズという重量級王道フリージャズ黒人リズムセクションを率いて、ポール・ダンモールのソロはますます熱い。気のせいか、音も太く、たくましく、リズムをはっきりと打ち出し、咆哮を重ねるような「ぶっとい」演奏になっているような気がする。ポール・ダンモール参加作をたてつづけに4作聴いたが、この作品がいちばん気に入った。本来このひとは、トニー・マラビー同様、モードジャズ的なブロウも得意としている「うまい」タイプなのかもしれないが、本作ではふたりのリズムにあおられて、情念のすべてを叩きこむような咆哮を聴かせてくれる。かっこええ! なお、ジャケットなどではアンドリュー・シリルがいちばん先に名前があるのでシリルのリーダー作とも考えられるが、上記作との関連から便宜上ダンモールの項にいれた。

「REPERCUSSIONS」(FMR RECORDS FMRCD−277−0708)
PAUL DUNMALL PAUL ROGERS

ベースのポール・ロジャーズとのデュオだが、なななななんと、ポール・ダンモールはソプラノ(とバグパイプ)オンリーでテナーを吹いていないではないか。だーまさーれたーっ! と怒ったが、聴いてもっとびっくり。めちゃめちゃええやん! ソプラノといっても、写真で見るかぎりではサクセロみたいな感じだが、どうなのか。とにかく、イマジネイションのかぎりを尽くすような圧倒的な演奏で、ソプラノとベースのデュエットなのに、まったくダレることなく、さまざまな局面がつぎつぎと現れては消え、高揚し、収縮する。これは高速で展開する風景映像を見ているようでもあり、超上質の即興漫才を聴いているようでもあり、何度聞き返しても面白い。こういうものを聴いていると、やっぱりフリーミュージックはええなあ、と至福の喜びにひたることができる。なにより、かっこいいのです。もっとポール・ダンモールを聴こうっと。

「HIT AND RUN」(FREE MUSIC PRODUCTION FMP CD116)
PAUL DUNMALL WITH JOHN EDWARDS WITH JOHN BUTCHER

 なんじゃとーっ。ポール・ダンモールとジョン・ブッチャーの共演だとーっ。これは聴かねば! と、にわかポール・ダンモールファンは焦って購入し、わくわくしながら聴いてみると、な、な、な、なんだこれは。3曲収録されているが、一曲目はポール・ダンモールとベースのジョン・エドワーズのデュオ(そういうアルバム、ありましたよね)、2曲目はジョン・ブッチャーとジョン・エドワーズのデュオ。どちらも長尺で、最後の最後にみじかい「3人の共演」があるのだ。うーん、だまされた。しかし、そのだまされかたはめちゃめちゃ心地よい。というのは、2本のデュオが非常にすばらしいのだ。どちらも私のもっとも好むタイプの演奏だといっていい。充実しまくりのデュオをふたつ聞きくらべることで、ポールとブッチャーの比較も簡単にできるというおまけもあり、また最後のみじかい3者共演によって、このアルバムの企画意図も明確に浮かび上がるという仕組みになっている。これはダンモールにとってもブッチャーにとっても代表作といってもいいぐらいの傑作アルバムだと思う。両者とも聴いたことがないというひとは、まず本作から聴いてみてはいかがでしょう。なお、だれのリーダー作ということもないようだが、最初に名前のでているダンモールの項に入れた。

「IDENTICAL SUNSETS」(ESP−DISK ESP4058)
PAUL DUNMALL−CHRIS CORSANO

 一曲目の圧倒的なバグパイプを聴いていると何かなんだかよくわからないような感動に包まれる。バグパイプってこんなに凄かったっけ。いや、バグパイプ本来の演奏とはもちろんちがうわけだが、息継ぎ不用であることを利用した、つまりある意味バグパイプならではの、細い、きらきら光るような蜘蛛の糸のような線を何千本もまき散らし、包み込むような演奏は、これまでもダンモールのアルバムで何度も聴いてきたけれど、本作の一曲目がいちばん凄いかも(ちがうかも)。2曲目以降はテナーとドラムのデュオなのだが、やっぱりこのひとのテナーを私は大好きだと声を大にして言いたくなるような演奏ばかり。いやー、すごいわ。テナーの音が輝いている。低音から高音までしっかりした太い音。フリーキーででたらめに聞こえるが、じつはアーティキュレイション、ダイナミクス、音色の変化などを含めたその表現力は圧倒的。パーカッションのクリス・コルサーノ(と読むのか?)も見事で、充実した内容のアルバム。いやー、まあ、好みの問題とか相性とかいろいろあるのだろうが、ポール・ダンモールの作品でこれまでいまいちだったものはないなあ。これからもどんどん聴こう。

「BEBOP STAR BURST」(CUNEIFORM RECORDS RUNE112)
PAUL DUNMALL OCTET

 告白します。最初聞いたときは、うーん、めちゃめちゃタイトなアンサンブルとそれに乗るモダンなソロ、曲もバップ的でもありそのパロディ的でもあり、ソロもけっこう過激だし、いろいろ見せ場もあるが、いかにもジョン・サーマンの昔の作品やマイク・ウエストブルックあたりの「ちょっと古めの過激なヨーロッパジャズ」って感じだけど、ポール・ダンモールはやっぱりワンホーンがええなあ、と思った。2回目聞いたときもそう思った。3回、4回と聞き返していくうちに、いや、これは、おお、なかなかええやん、となり、そのうちに「すごいやん」となっていった。だからアルバムというのは一回や2回聴いただけではわからんのだ。とくに私のようなアホ耳の持ち主にとっては、第一印象ほどあてにならぬものはない。本作は、ソロを中心に聴いても、アンサンブルとのからみを中心に聴いても、十分凄い。メンバーも、主役はもちろんテナーのポール・ダンモールだが、もうひとりのテナー、サイモン・ピカード(ダンモールに似たタイプか?)もめちゃかっこいい。どちらもしっかりした太い音で、自信にみちたフレーズをつむいでいく。トランペットのゲシン・リディングトンというひとは私は、すんません、全然知らんひとだが、これがめっさ凄いのだ。このひとがこのバンドの起爆剤になっていることはまちがいない。そして、トロンボーンはふたりいて、分厚いからみを聴かせると同時にバンドに「音量」と「パワー」を与えている。キース・ティペットが入っていることからもわかるが、アコースティック的プログレな要素もあり、聴けば聴くほどするめのように美味しくなってくる作品。ピアノ、ベース(ポール・ロジャース)、ドラム(トニー・レヴィン。かっこいい!)をフィーチュアした場面もぞくぞくするようなジャズ的スリルにあふれている。ポール・ダンモールの魅力はおそらくワンホーンでテナーとバグパイプを吹いてるような小編成の奔放な作品なのだろうが、本作はその原点ともいえる「かっちり」した構成のなかでどこまでいけるか、というチャレンジなのだと思う。キース・ティペットの近作がやはり同じようなアンサンブルで、ポール・ダンモールも参加しているが、あのへんのひとたちってこういう志向があるのかも。できるかぎりでかい音量で聴くことをおすすめします。

「THANK YOU TO JOHN COLTRANE」(SLAM SLAMCD290)
PAUL DUNMALL TONY BIANCO

 テナーとドラムのデュオで、コルトレーントリビュートということで、「インターステラー・スペース」を連想するかたもいるだろうが、全然違う。あれはラシッド・アリが雰囲気を設定して、そこでコルトレーンがひたすら好きなように吹く、という、ある意味コルトレーンのソロアルバムみたいなもんだが、本作はまさにガチンコのぶつかり合い。どっちかというとエルヴィンとコルトレーンが曲の途中でバトルになったときのような感じ。しかも、ポール・ダンモールは吹いて吹いて吹きまくっているものの、一方では徹頭徹尾クールさを保ち、フレーズをちゃんとつむぎ、歌心あふれ、音程、音色、アーティキュレイションなどすみずみまで気が配られているうえ、それをこえたパッションが全編にあふれまくっているというすばらしい演奏が詰まっている。そして、選曲がまたええんです。「ピース・オン・アース」「リヴィング・スペース」「エクスプレッション」といった後期の過激な曲も入っていて、それだったらフリーっぽくなるのか、と思いきや、きちんとしたデュオであるところが逆にかっこいいし、「ネイマ」「アラバマ」「ジャイアント・ステップス」などの中期の曲もデュオという形式によって新しい光が当たっていてかっこいいし、1曲だけ入ってるオリジナル「サンキュー・トゥ・ジョン・コルトレーン」もかっこいいし……要するにかっこいいということを声を大にして言いたい。2013年は元旦からしばらく毎日こればっかり聴いていたが、いやー、ポール・ダンモール、うますぎるやろ。添野さんがアラン・スキッドモアの後継者と言うのもすごくよくわかる。そして、ドラムのトニー・ビアンコがかなりやかましい演奏をしているのに、ダンモールがつり出されずにクールに燃える感じで対応しているあたりも、いや、もう参りますね(私はそういう演奏には無条件に感心してしまうのです)。傑作なので、広範囲に推薦いたします。

「PAUL DUNMALL 50 CD COLLECTION ON FMR RECORDS」

 添野知生さんからポール・ダンモールの50枚組ボックスを買うけど、一緒に注文しときましょうかと言われたが、さすがにそれは……とお断りした。でも、聴きたいので貸していただいた。以下は、その全レビューである。ただし、FMRというレーベルはけっこういいかげんで、まったく音が聴けないものが一枚、2曲目以降が聴けないものが一枚入っていた(詳細は各レビュー参照)。あと、FMRにおける全ダンモール作品のはずだが、添野さんによるとキース・ティペットとのものが一枚収録されていないらしい。それは未聴です。

「EAST WEST NORTH SOUTH」(FMRCD72−0900)
PAUL DUNMALL

 ギター2本、ドラムとのカルテット作。編成のせいもあってか、演奏の雰囲気はフリーインプロヴィゼイション風で、ギターがアブストラクトな世界を作り出すが、ダンモールのテナー演奏はあくまで具体的でリアル。太い音色でしっかりとフレーズを積み重ねていく。クラスター的になっても、アイデアは明確で、強固である。4人が一体となったときの疾走感は見事。2曲目のソプラノでの奔流のような凄まじいフレージングもすばらしい。コルトレーン的なフレージングとフリーインプロヴィゼイションがしっくりとひとつになったようなダンモールの演奏はいつもながらすごく私の好みにあうのです。ときおりハーモニクスを混ぜながらのメカニカルでパッション溢れるプレイは、テクニック的にも凄いです。3曲目はかなり激しいフリーキーなトーンでブロウする絶叫タイプの演奏で、それにからむギターふたりの演奏に注目。めちゃくちゃかっこいいです。4曲目はパーカッション主体の即興から、ビートの希薄なふんわりした演奏へと移っていく。茫洋としていた4本の糸がしだいに緊密にからみあい、ひとつになっていく過程が感動的。

「IYOU」(FMRCD87−0801)
PAUL DUNMALL/TONY BIANCO

 アグレッシッヴなサックスとドラムのデュオ。ひたすら躍動しておりひたすら楽しくひたすらかっこいい。デュオだとダンモールの音色のすばらしさが際立つ。ものすごーく「ジャズ」を感じる演奏。シンプルなだけに、ふたりのきわめてハイレベルの音楽性がよくわかって、興奮しまくる。聴いていると踊りたくなりますね。きわめてテクニカルなフレーズを延々と躊躇なく吹きまくるダンモールの姿も捕えられており(とくに3曲目半ば)、そういう部分の音楽的なものはリーブマンやグロスマンなどと変わらないと思うが(つまりモードジャズ)、その迫力や凄み、そしてテクニックはとんでもないものがある。ポール・ダンモールってフリーだよね、とか言ってるひとは、無心になって一度本作を聴いてみたらどうか。4曲目はソプラノだが、これに対するビアンコのドラムが神技としか言いようがない。いやー、めちゃめちゃかっこええやん。満足満足。

「OUT FROM THE CAGE」(FMRCD107−0602)
PAUL DUNMALL/TONY BIANCO/JOHN EDWARDS/JOHN ADAMS

 ギターとベースの入ったカルテットによる即興。手に汗握る白熱のインプロヴィゼイションが展開するが、そういうときでもダンモールはきっちりした太いトーン(リンクのメタル)で具体的なアイデアをしっかりと押し出すような演奏をする。クラスターっぽく吹いても、音のひとつひとつの粒立ちがはっきりしている。だから好きなのだ。フリージャズのサックスなんて、適当に指をこねくりまわして、ギャーッていってたらいいんでしょ的なものとは正反対の、フツーの音楽としてのフリージャズだ。フリー「ジャズ」と書いたが、そうそう、ここでの演奏はまったくもって「ジャズ」ですねー。4人のからみが、単純だったり複雑だったり、だれかが中心だったり、全員が対等だったり、場面によってまちまちだが、4人ぐらいだとそのコラボレーションが露骨にはっきりわかって、めちゃくちゃ面白いし、ものすごく興奮する。1曲目は30分近い演奏だが、まったくダレないし、どんどん高まっていくその高揚感は半端ない。いや、これはとんでもない演奏だ。集中力、パワー、インタープレイ……どれをとってもものすごいです。2曲目は(とくに前半)ソプラノがヴァイオリンのように聞こえる細やかで激しい演奏。3曲目は、ギターがカッティングによる即興→単音による即興と変化して、太くたくましいテナーとのからみが素敵。

「SOLO BAGPIPES」(FMRCD118−0603)
PAUL DUNMALL

 ダンモールはバグパイプをよく演奏するが、本作はそのバグパイプによるソロ。3種類のバグパイプが使用されているらしい。バグパイプというのは、息継ぎせずに演奏できるというのは知っていたが、通奏低音のようなものを鳴らしながら、そのうえで即興ができる構造らしい。とにかく息継ぎがないので、アルバム一枚まるまるずーっとローランド・カークがサーキュラーで吹きまくっているような感じだが、ハーモニクスも出せるので、曲によってはエヴァン・パーカーのソロみたいでもある。これがなかなか病み付きになる。ルーファス・ハーレイというひとがジャズでは知られていて、アルバムもけっこうあるのだが、あのひとはバグパイプでふつうのジャズを演奏しようとしたから一部で際物扱いされたわけで(ネットの某ホームページでは、「変なジャズ」と呼ばれ、鑑賞に堪えないとかテーマさえおぼつかないなどと嘲笑されてたりして、たいへん悲しい。誹謗中傷はしていない、愛しているから取り上げている、と書いて予防線を張るのはそういうひとの常套手段だが、鑑賞に堪えないという言葉が誹謗中傷でないとしたらなんなのか。わからないひとにはわからないのはしかたないが、ハーレイの音楽はなかなかどうしてたいへんなものなのである)、ダンモールのようにこういう風に吹けば、バグパイプの楽器としての底知れぬ力が発揮される。本作は、バグパイプの特性を見事に活かした、超ハイクオリティの現代バグパイプの演奏としてひとつの金字塔ではないでしょうか。さまざまなタイプの演奏が入っていて飽きないし(5曲目、6曲目はトラディショナルな部分もあるメロディックな演奏であるうえ、超絶技巧で凄まじい)。どの曲も、ピンと張りつめたテンションのうえに構築される美が、言葉を失うほどのすばらしさで、傑作というしかない。いやー、ダンモールは好きだけど、バグパイプソロはなあ……と思ってるひとはぜひ聴いてみたらどうでしょう。たぶん目からうろこが落ちまくりますよ。

「NOW」(FMRCD121−10703)
THE INTUITIVE ART ENSEMBLE

 インテューアティヴというのは直観的という意味だそうだが、直観的芸術アンサンブルというバンド名自体がなかなかおもしろそうではないか。ダンモールのほかに、トロンボーン、フルート、パーカッション、ギター、ピアノが入ったセクステットだが、リズムセクションと管楽器ということではなく、6人が対等な立場で即興をする。最初は手探りな感じもあるのだが、なにしろ「直観的」なのだからこれはそういうもんでしょう。パルス的に忍び込み、ここぞというところはびしびし合わせるパーカッションや、音量と音色の変化で刺激を与えるトロンボーン、合間をくぐるように軽やかに響きながら、絶妙の自己主張をするフルート、弾いてしまうとコードなどでの支配感が出てしまうからか、できるだけ音数を控え存在感を気迫にしようとしているかのようなピアノ、リズムとカッティングでコミュニケートしているような個性派ギター……などを相手に、ダンモールはあくまでいつもどおりのマイペースを保ちながら、いい感じで参加している。1曲目の途中で異常なピアニシモのパートがあり、延々と続くそのパートはだれが演奏しているのかわからないが(ダンモール、フルート、ピアノ、ギターではないので、パーカッションのひとかトロンボーンの人らしい。幽かな、か細い笛のような、金属のきしみのような音)、そこへほかの楽器が、壊れ物に触れるような繊細さで少しずつ加わっていくさまは見事。陳腐な表現だが、手製の音のタペストリーを織り上げていくさまが見られるような感じだ。2曲目は響きを大切にした現代音楽的なパーカッションソロからダンモールのソプラノソロへと移行、そこからインド的というかガムラン的というか……のリズムが現れるのを皮切りに、つぎつぎと場面が変わっていくので、もうジェットコースターに乗ったみたいだが、このジェットコースターがいい具合に遅いのである。即興によって作り出された音楽の襞のひとつひとつをじっくり手で触りながら、つぎに進めます。だんだん盛り上がっていくが、その自然な感じもいい。唐突ではなく、ちょっとした音の積み重なりがゆるやかな上昇を示していき、気が付いたらすごい高いところにいた、みたいな。あー、快感。全員が一斉に少しずつ、という場面だけでなく、ピックアップされたふたりによるさまざまな組み合わせのデュオ(トリオ)なども自然発生的に出現し、そこではやりたいようにやり倒すので、満腹感も味わえる。でも、ところどころ「直観」だけでなく、譜面もしくは指示があるようなパートもあるな。フリーインプロヴィゼイションといっても、ビート感がある部分やコード感があるメロディックな部分もあるので、だれでも聴けると思う。3曲目は電子音なども入る、いわゆるコレクティヴインプロヴィゼイション。4曲目はヴォイスっぽいものも入って、とても楽しい。

「SHOOTERS HILL」(FMRCD141−0104)
PAUL DUNMALL SEXTET

 リリースされたのは2004年だが、録音年は1998年だそうだ。ポール・ラザフォードなども入った、なかなかオールスター的なメンバーだが、そのせいかかなりフリージャズっぽい演奏だ。つまり、古いタイプの即興(パワーミュージック的であり、「熱さ」のある演奏であり、リズムをかなり重視した演奏……ぐらいの意味。つまり、私の好きなタイプの演奏ということ)ということだが、内容は最高で、全員冒頭から飛ばしまくり、それぞれが最上の演奏をしているうえ、それが組み合わさったときに何倍ものエネルギーとなる、つまりこういう即興演奏としてはもっとも理想的な状態が延々と続く。なかでも目立った活躍をしているのがダンモールとギターのジョン・アダムスで、このふたりの凄さ、熱さは圧倒的だ。ほかのメンバーもすばらしく、よく「心得てる」ひとたちによる、手垢のついていない、ナチュラルで新鮮で熱いプレイの応酬は、聴いていて拳を握ってしまうほど。しかも、情念だけでなく、テクニックもめちゃあるひとたちなので、「どこまでいくねん」的な上へ上への積み上がりかたがすごい。傑作だと思います。

「LOVE,WARMTH AND COMPASSION」(FMRCD155−0804)
PAUL DUNMALL

 ドラムがハミッド・ドレイクということで、聴くまえから楽しみでしかたがない。ポール・ロジャーズの6弦ベース、フィル・ギブスのギターというのはいつものメンバーだが、ダンモールはテナーは吹かず、ソプラノとバグパイプのみである。聴くまえの予想としては、なにしろドラムがハミッド・ドレイクなので、いつものダンモールの演奏よりもよりジャズっぽいというかアフロアメリカン的な要素の加わった躍動的で、過激で、激しい、やかましい演奏になるのでは……もしかしたら、ドレイク色がどーんと出るかも……という風に思っていたわけだが、聴いてみると、いい意味で予想を裏切られた。さすがドレイクだけあって、躍動感はもちろんなのだが、きっちりとダンモールたちの音楽性を理解し、4人のメンバーのひとりとして、4分の1の役割を担っている感じである。中央にどーんと座っているというより、このアンサンブルに溶け込み、出過ぎず引っ込み過ぎず役目を果たしている。どちらかというと主導権を握っているのはダンモールで、彼がいないとふつうの集団即興になるのだが、彼か吹き始めると俄然グループがいきいきしはじめる……というのは僻目じゃなくて僻耳だろうか。しかし、4人ともすばらしいと思う。やはり耳がいくのはドレイクで、ブラッシュ(とくにこのブラッシュのすばらしさよ!)にロールに民族楽器にと絶妙のプレイ(ドレイクのせいで、アフリカンなアプローチは多くなっていると思う)。ただ、なんとなくドラムの録音レベルが低いような気もするのだが。ダンモールはさっきも書いたけどソプラノとバグパイプのみだが、テナーを吹いていないことをまるで気づかないほど、そのふたつの楽器で大活躍している。フィル・ギブスは単音からカッティングからぷちぷちいうような音やノイズまで駆使していて、かっこよすぎる。ポール・ロジャースもダイナミックなアルコ中心で思い切りよくぶっとばしています。曲も、かなり長尺の大河ドラマ的な1曲目、冒頭から激しい演奏が展開する2曲目、アルコが唸り、ソプラノの特殊奏法が炸裂する3曲目、アフリカンリズムとバグパイプの融合がとんでもないことになっていく4曲目(10分過ぎたあたりからのリフによる展開はえぐい)などバラエティに富んでいる。とくに4曲目の高揚感はとんでもねーですね。

「DARTINGTON IMPROVISING TRIO LIVE AT THE PRIORY」(FMRCD161−0205)
KEITH TIPPETT/PAUL DUNMALL/JULIE TIPPETT

 最初はキース・ティペットとヴォイスのジュリー・ティペッツのデュオで始まる。かなりたってからダンモールのソプラノがからむ。とんでもない集中力と超絶技巧によるマッチョな演奏だと思うが、(これはあくまで個人的な印象だが)キース・ティペットのピアノがひたすら凄まじく、キース対ダンモール、キース対ジュリーというふたつのデュオが合わさった感じで、3人が一緒に音を出しているところでも、決して「トリオ」という風には聞こえない。それにしてもキース・ティペットはすばらしい。できればダンモールとのデュオで聴きたかった。ジュリー・ティペッツのアプローチは、どちらかというと一本調子で、引き出しが少なく、ダイナミクスの幅も狭いように思う。

「SOLO SOPRANO SAXOPHONE」(FMRCD167−0805)
PAUL DUNMALL

 ソプラノもテナーもめちゃ開きの広いマウスピースに硬いリードをつけていたダンモールだが、最近は柔らかいリードを試して、表現の幅を広げているらしい。これはまだ硬いリードをつけていたころの録音だそうだ。聴いてみると、ほかのアルバムでは多用している循環呼吸やハーモニクスなどを組み合わせた表現をあまり使わず、メロディアスなフレーズを積み重ねていくことでひとつの世界を作り上げている。たとえばエヴァン・パーカーなどの、息詰まるような緊張感に満ち、構成力も必要とされるソプラノソロとはちがい、もっと自由で、伸び伸びした演奏。それでいて、随所に「おおっ」と思わせるようなフレージングがあって耳を引くし、圧倒的なテクニックで吹きまくり聴いているものを別世界に連れて行くような場面も多い(6曲目とか)。なんとも「ええ具合」の演奏で、何度も繰り返し聴くことでどんどん良さがわかってくるだろうと予想されるアルバム。

「ILLUMINATIONS」(FMRCD171−0805)
PAUL DUNMALL/TREVOR TAYLOR

 ドラムとのデュオだが、トレヴァー・テイラーはドラマーというよりパーカッショニストで、リズムとかビートでコミュニケイトするタイプではないらしく、このアルバムはいつものダンモールよりずっと、いわゆるフリーインプロヴィゼイション的である。がっぷり四つに組んだデュオというより、テイラーが合わせている感じで(こういう合わせ方なら、どんな演奏にも合うと思うが)、いきおいダンモールの凄さばかりが目立つ。しかし、演奏全体としてはちゃんと成立しているのだから、たぶんテイラーというドラマーはかなり曲者なのだろう。エレクトロニクスやカラフルな音色を使ってダンモールの激しいソロを大きく包み込んでいる。3曲目のたぶんバグパイプによる過激な演奏が白眉だと思う(ブックレットには「サキソフォンズ」としかクレジットされていないけど)。

「COSMIC CRAFTSMEN」(FMRCD185−1105)
PAUL ROGERS/PAUL DUNMALL/TONY BIANCO

 1曲目はトニー・ビアンコによるドラムソロ。(たぶん)マレットでの途切れず地鳴りのように延々と続く演奏は聴いていて息詰まるような効果がある。これを一定のビートで15分以上にもわたってキープしながら、そのなかでダイナミクスや微妙なリズムの変化、アクセントなどでドラマを作っていくというのはたいへんな集中力と体力、そしてイマジネーションがいる作業だと思う。派手に盛り上げることもなく、クールな自己抑制が働いた、しかも熱い演奏。2曲目は、ふたりのポールによるデュオ。フリーインプロヴァイズを心得まくってるふたりなので、痒いところに手が届くようなきめ細やかで、鋭い応酬が繰り広げられ、興奮しまくる展開。8分過ぎたあたりからの激烈な、嘔吐するようなブロウは最高。だが、すぐにすーっと冷めるあたりもかっこいい。3曲目でようやく3人がそろい踏みするが、冒頭から激しいテナーによる演奏がはじまり、あとはブーン! と持っていかれてしまう。30分を超える長尺だが、場面がころころ変わるのでまったく飽きない。やっぱりこのトリオによる3曲目が一番かっこええなあ。フリーインプロヴァイズドな部分、フリージャズな部分、そして、もっとオールドスタイルなジャズを感じさせる部分などがあり、それらが目まぐるしくチェンジしていく。ダンモールはあくまでしっかりした音色と具体的なフレージングにこだわっており、あとのふたりも同様で、その3者のぶつかり合いはときどきハレーションのように輝く。すばらしい。演奏が進むにつれ、その密度はどんどん増していく。粘着質の爆発……そんな言葉が浮かぶような演奏でした。

「ZOOCHOSIS」(FMRCD189−0106)
PAUL DUNMALL/TREVOR TAYLOR/PAUL ROGERS

 5曲のいずれにも「ベアーズ」「バーズ」「モンキーズ」「ビッグ・キャッツ」「ホエールズ・アンド・エレファンツ」と動物の名前が冠されている。だから「ズー」なのだろうが、標題音楽のように聴かないほうがいいと思う。トレヴァー・テイラーはドラマーといっても、パーカッショニスト、それも、小物やおもちゃを並べたり、シンバルその他を正規ではない叩き方をしたりして空間を構築するタイプだと思われるので(そして本レーベルのオーナー)、本作も即興としての肝はダンモールのサックスとポール・ロジャーズのベースふたりのがっぷりした対決にある。そこにテイラーの「音響」がどう色を添えていくか、みたいな興味。野太いウッドベースのピチカートとダンモールの小刻みなテナーが対峙し、それをカラフルなパーカッションが彩る1曲目、ロジャーズがアルコに持ち替えてのガチンコ即興になる2曲目、ベースがモーダルなラインを弾きはじめ、ドラムもそれに合わせたリズムを叩いているのにアルコの即興も聞こえるという不思議な3曲目(オーバーダビングなのか?)、突然の4ビートジャズでうまいランニングとモダンなテナーのフレーズがクックする4曲目(これも途中で複数のサックスによるリフが入ったりする)、重厚なアルコに導かれてスペーシーなオーケストレーションが設置され、そこからピチカートベースとテナーのフリーフォームなデュオになっていく5曲目とバラエティに富んでいる。でも……やっぱり動物はあんまり関係ないような気はするなー(こじつけて考えればいくらでもできるんだけど)。

「OPEN FORM」(FMRCD192−0306)
TREVOR TAYLOR/ROBERTO FILOSETA/PAUL DUNMALL

 美術館のようなところでの収録らしい。フリーインプロヴィゼイションだが、ロベルト・フィロセタのピアノがいい味を出している。ダンモールはサクセロ(エルトン・ディーンから譲られたものらしい)のみに専念しているようだが、表現力がすごすぎて、まったく問題なし。トレヴァー・テイラーのパーカッションもいつになくアグレッシヴで、3人による微妙なトライアングルの均衡を絶妙に保っている。(場所柄もあるのか)テンション高く、しかも、かなり挑戦的な演奏で、3人ともすばらしい。ところが、この50枚組ボックス収録の盤だけのことか、それとも私が手にしたものだけのバグなのか、2曲入っているはずの2曲目がない。というわけで本作については半分しか聴けていないのであります。

「FAR」(FMRCD195−0206)
PAUL ROGERS/PAUL DUNMALL

「DISTANT」(FMRCD194−0206)
PAUL ROGERS/PAUL DUNMALL

 西イングランド大学でのライヴ。同じ顔合わせでのデュオなので、同日録音の姉妹アルバムかと思いきや、録音日は半年以上も開いている。そして、半年の差があるにもかかわらず、基本的に「FAR」も「DISTANT」もほぼ同一の演奏姿勢が貫かれている。つまり、非常に「音響」的な即興である。ロジャーズが7弦ベースをアルコで弾き、ダンモールが繊細で、注意の行き届いたロングトーンで応じる。微細なダイナミクスや音色、アタックの変化などが大きな意味を持つ。いつものような激しい、目まぐるしいフレージングはほとんど見られない。消え入りそうなぐらい小さな音、甲高い軋むような音などが霧のかかった空間を光る虫のように長い光輝の尾を引いて行き過ぎる。幽玄。無限。静寂。消滅。そんな言葉が頭に浮かぶ。その緊張感は半端ではないが、緊張のなかにもリラックスがあり、最高の演奏だと思う。こういうタイプの即興は、ダンモールとしては珍しいのではないか。本作では最後までそのやりかたは変わらない。そして、同じような感じでだらだら続くのではなく、ちゃんとじわじわ盛り上がり、幾度もすばらしい瞬間を与えてくれながらも高みへと昇りつめていく。しかも過度に盛り上がらぬようクールダウンされるので、その冷ややかな熱気(?)はたいへんなものである。いやあ、参りました。珍しいといえば、「FAR」では珍しくダンモールがクラリネットも吹いている。これがライヴだというのが信じられないほど、ハイクオリティな演奏。個人的には「FAR」のほうがより徹底している感じがして好きかも。ときどき挿入されるノイズっぽいものもいい。

「GENESIS」(FMRCD200−0606)
CIRCUIT:ELECTRO−ACOUSTIC ENSEMBLE

 ダンモール、ヒラリー・ジェファリーズ、ロベルト・フィロセタ、トレヴァー・テイラーの4人による集団即興だが、全員が自分の主奏楽器のほかにエレクトロニクスも使用している……ことになっているが、実際に「お、出た」と思うのは4曲目と6曲目ぐらいで、それまでの曲はどこに使われているのか正直わからないか、もしくは隠し味程度。しかし、演奏はすばらしく、とくにヒラリー・ジェファリーズというトロンボーン奏者はびっくりするぐらい上手く、ダンモールとのからみも最高に聴かせる。タンギングの正確さや美しさは際立っている。で、4曲目と6曲目はどうなのかというと、エレクトロニクスといってもほとんど生楽器と同じような扱いで、過激な使い方をしているわけではなく、非常に抑制的で限定的だ。やや古臭い感じもして、しかし愛すべき古臭さでもある。バンド名を見るかぎりでは、リスナーはもっとエレクトロニクスをふんだんに使った、どちらかというとエグいサウンドを期待するのではないかと思うが、そういうものとは正直真逆な、面白いしハイレベルだが、「いつもの」やつでした。なお5曲目は途中で切れる感じで終わる。

「DEEP WELL」(FMRCD207−0606)
PAUL DUNMALL/PETER BRANDT/TONY MARSH

 ジャズ的にみてもオーソドックスな編成だからなのか、なんとなくいつもよりジャズっぽい展開。トレヴァー・テイラーなどにくらべてトニー・マーシュのドラムがかなり真っ当(?)だからかもしれない。ということで、私好みの演奏です。ダンモールは本当に引き出しが多くて、ここでは後期コルトレーンを思わせるフレーズをバシバシキメまくっている。そうなのだ。フレーズをキメるという言い方ができるアルバムなのである。(私にとっては)まさに王道のジャズアルバムで、聴きごたえ十分。マーシュはブラッシュもいい感じで、スウィング感がある叩き方。タイトル通り「深み」のある内容で、聴きかえすたびに発見がある。ただ、かなり、ぐーっと抑えた演奏でもあり、ギャーッとかグエーッといったブロウとは無縁。6曲目なんかは、CDが壊れたのかと思うぐらいのピアニシモではじまるという微細な表現が続く。いいアルバムだと思います。

「EPIPHANY」(FMRCD209−0906)
CIRCUIT:ELECTRO−ACOUSTIC ENSEMBLE

 第一作とはメンバーが変わり、ダンモールとテイラーは残留で、あらたにトランペットとベースが加わった。しかも、前作では4人全員が主奏楽器のほかにエレクトロニクスも使っていたが、今回はエレクトロニクスを使っているのは新加入のふたりだけで、ダンモールとテイラーはアコースティック(らしい)。でも、演奏は非常に面白い。基本的には即興なのだが、速い4ビートに乗ってテナーとトランペットが具体性のあるフレーズを吹きまくる場面では、オーネット・コールマンの初期の演奏を思い出させるようなネオビバップというかフリーバップな雰囲気もあってめちゃかっこいい。全体に、前作同様エレクトロニクスの使用は控えめで、あくまで生楽器として使われているし、わざわざエレクトロ・アコースティック・アンサンブルと名乗らねばならないほどのことはない。でも、非常に気に入りました。

「OCCASIONAL RAIN」(FMRCD211−1106)
PAUL DUNMALL/PETER BRANDT

 前前作からトニー・マーシュのドラムを除いたメンバーでのデュオ。1曲目はダンモールの不気味かつ美しいメロディカがフィーチュアされる。メロディカでこんな不穏な空気を醸し出せるというのもすごいことかも。いやー、メロディカとアルコベースだけでここまでの表現力というのは、ダンモールの音楽家としてのふところの深さ、引き出しの多さを物語っていると思う。これはすばらしいですよ。2曲目はサクセロとピチカートベースの共演。ダンモールはアブストラクトにもメロディックにもならないぎりぎりのラインで抒情的で即興性の強いフレーズをストイックに奏でていく。ああ、快感。ベースは合わせているような好き勝手なような(もちろん合わせているのだが、単純に寄り添ったり反応したりしているわけではない。)独自のフレーズを弾いていて、ふたつを合わせ聴くとひとつのオーケストレーションになっている。4分30秒あたりからのサクセロの力強い具体的でリズミカルなフレーズに心を掴まれた。そのあとの魅力的な展開といい、これもすばらしい演奏。ダンモールのサクセロは本当にいい。約15分にわたる楽しい楽しい音楽ドラマ。3曲目(なんと「ブルー・トレイン」という曲名。あれかと思った)はテナーとピチカートベースによるフリーなバラード。全編サブトーンで演奏されるテナーは、自由で柔らかくしかも強烈にジャズである。この楽器コントロールのすばらしさを聞いているだけで心地よい。エンディングもかっこいい。4曲目は短い演奏で、アルコベースとサクセロの対話。

「DEEP SEE」(FMRCD217−0207)
PAUL DUNMALL/TONY ORRELL/JIM BARR

 SEAではなくSEEなのだ。本作もまた、ジャズっぽい、というか、ジャズな一枚。やはりベース、ドラムとのトリオという編成が、ジャズっぽい演奏を誘発するようだ。とにかくめちゃくちゃかっこいい。フリージャズというよりはっきりモードジャズと言い切ってしまったほうがいいだろう。それぐらいストレートアヘッドな内容。1曲目いきなりベースのラインからはじまる「至上の愛」的なトリオ演奏には驚いた。まあ、普通だから驚いたというのも変だけど、そうなのだからしかたがない。こういう曲調だと、ダンモールのうまさが露骨に出るなあ。ものすごいテクニックで、スケールやアルペジオを組み合わせて吹きまくるだけの根本的な実力がある。スピード感も最高。そしてそれを煽りまくるトニー・オレルのドラム。ここまで聴いたなかでは、ダンモールを一番ストレートに鼓舞するタイプのドラマーだと思う。つまり、即興演奏者として対等にやりとりするのではなく、ドラム本来の役割というかリズムでコミュニケイトするオールドスタイルかつアグレッシヴなドラム。いやー、最高じゃないですか。ベースのジム・バールも3曲目の冒頭でいいソロをしている。本作はダンモールの「ジャズ」アルバムとして、万人におすすめできます。かっきー。

「FOUR MOONS」(FMRCD241−0807)
PAUL DUNMALL QUARTET

 おお、はじめて「ポール・ダンモール・カルテット」名義のアルバムが。メンバーもテナー+ピアノトリオということで、オーソドックスな感じなのだろうか、と聴いてみると、これはなかなかの「フリージャズ」ではありませんか。たとえば1曲目、最初のうちはピアノもテナーも、幻想的な雰囲気のあるふわっとしたフリーなリズムでのモードジャズみたいな演奏で、おおっ、ええ感じやん、と思って聞いていると、いつものダンモールならこのままで押し通すところが、だんだんエキサイトしていき、気が付けばドラム(マイルス・レヴィン)は激しく煽り、ピアノ(マイク・ハーレイ)はガンガンとパーカッシヴに叩き、ベースはからみつき、テナーが吠える。ひじょーに古い感じのフリージャズで、パワーミュージック的な部分もある。なお、ドラムはトニー・レヴィンの息子だそうだが、いやー、なかなかの才能ではありませんか。ダンモールが自己のカルテットに起用するのだから、よほど買っているのだろう。ダンモールはなかなかパワー全開で吹くということをしないが、本盤ではモードジャズ的な展開の果てにマッツのような激烈なブロウを繰り広げる場面もある。いや、マッツというより、後期コルトレーンというべきか。音色といいフレーズといい、コルトレーンっぽいなあ。いやあ、感動です。無伴奏ソロになって、そこにピチカートベースが入ってくるあたりのかっこよさをなんと表現すればいいのか。4人とも、パワーのある、ジャズをルーツにしているっぽい感じなので、しっくりくるのだろう。ベース主導の部分もピアノが活躍する場面もそれぞれにいいし、いずれもドラムの超強力な煽りが興奮を呼ぶし、もちろんドラムソロもいい。なんとも凄いカルテットだ。2曲目も、雰囲気のあるベースの無伴奏ソロから期待感が高まる。そこにソプラノがからんでいき、ほんとうに「からみつく」ようなデュオになる。そのパートが静かに終わっていくと今度はピアノとドラムのもっと静かなデュオになる。そして、4人の演奏になるが、ダンモールのソプラノがまるで夢を見ているみたいな美しさを保ったまま光の速度で駆け抜ける。いったいこれはなんだ……と思っていると唐突に演奏は終わる。長い即興の一部を切り取ったようにも聞こえる。3曲目はフリーでディープなパーカッションからはじまり、そこにテナーが力強く、モーダルだが歌心もあるフレーズを吹きながら加わり、パーカッシヴなピアノも入ってくるという、リズムはあるが自由な展開。ドラムが神技のように叩きまくり、それに触発されながらダンモールがブロウする。めっちゃかっこいい。ピアノ主体の部分(実際はベースとのデュオ)もいいなあ。そこから4人でのビート感のない非常にラフなフリーフォームな演奏になり、この部分もものすごく楽しい。ダンモールがフラッタータンギングとかでノイズを出していき、次第に盛り上がっていき、隠れていた強くしなやかなリズムが現れる。おお、これもまたフリージャズの王道ではないか。ピアノがシンプルにガンガン弾きだして、ダンモールのソプラノがフリーキーに炸裂、ドラムが暴れまわればこれはもう極楽の音楽。ダンモールって、ほんと、こういうタイプの演奏は少ないんだよなー。4曲目は、ピアノが弦をはじくところからはじまる。ピアノとベースの幻想的なデュオになり、ドラムがちりちりと入り出す。ピアノが次第に疾走感を増していくが、ダンモールは出てこない。10分ほどの演奏の6分半を過ぎたあたりでようやくテナーが登場する。いやー、ピアノトリオで終わるのかと思った。というわけでかなりの傑作だと思いました。

「DEEP WHOLE」(FMRCD243−0807)
PAUL DUNMALL/PAUL ROGERS/MARK SANDERS

 ダンモールの演奏の特徴として、フリーインプロヴィゼイション、モードジャズ、(パワーミュージックとしての)フリージャズ……などの絶妙なブレンドがあると思う。どれかに集中した作品もあるが、本作はそれらのブレンドの典型だろう。コントラバスがアルコで、ドラムがパルス的に、痙攣するようなリズムを作り出していても、ダンモールはフリーフォームにならず、ひたすらモードジャズ的に具体的なフレーズをものすごいスピード感で吹きまくったり、その逆もあって、モード的なリズムパターンが提示されているのにダンモールはアブストラクトな音響に終始したり……つまり自由なのだろうと思う。ダンモールの音楽がどのようなものかを知るには、本作あたりがもっともよい見本となるかもしれない。それにしても密度の濃い即興であることよ。正直言って「いつものメンバー」なのだが、この変わり映えしないメンバーが結局もっともすごいことをするということなのかもしれない。メンバーを見て、ああ、いつものやつね、パスしようか、となる可能性は十分にあるが、たとえば山下トリオのアルバムを、ああ、いつものメンバーね、とパスしたりしないのと同様、このおなじみの3人が最高なのだということも再認識できる。かっこええ。

「REGENERATION」(FMRCD244−0807)
PAUL DUNMALL/PAUL ROGERS

 上記アルバムからマーク・サンダースを抜いたデュオだが、これまた「いつものメンツ」といえるだろう。しかし、このデュオは実績十分なのだから、絶対にはずさないだろうという保証はなされているようなものだ……と思って聴いてみたら、こちらの予想を大きく外す内容なのだった。まず1曲目は、ダンモールは管楽器ではなくピアノに徹している。つまり、ピアノとベースのデュオなのだ。しかもそれを1曲目に持ってくる大胆さ。そしてダンモールのピアノはなかなか味わい深い。2曲目は、ダンモールはバグパイプに終始する。ポール・ロジャースの7弦ベースのソロも大きくフィーチュアされる。ダンモールのライナーによると、ポール・ロジャースは自分のことをベース奏者とは考えていない、とあるが、たしかにそうかもしれない。そして3曲目でやっと主奏楽器であるソプラノが登場するが、この演奏の凄さはとてつもない。無伴奏ソロも延々と行われ、そのテンションの高さはすごい。デュオにおける無伴奏ソロのパートというものの位置づけについても考えさせられる演奏でした。

「CROSSING」(FMRCD247−1107)
TREVOR TAYLOR/PAUL DUNMALL/EVELYN CHANG

 トレヴァー・テイラー〜ダンモールという「いつもの」メンバーに、イヴリン・チャンというおそらく中国系の若い女性ピアニストが参加した全編即興の一枚。テイラーはいつものような感じでパーカッションとライヴエレクトロニクスを操っており、演奏に彩りを添えているが、実質的にはダンモールとチャンがど真ん中にいるわけで、この顔合わせが聴きものなのだが、うーん……合っているといえば合っているが、なんというか、あまり刺激がない。こういう感じで、ただ合っている(合わせている)演奏というのは美しい部分もあるが、高揚はない。ダンモールはすごくがんばっているし、自己主張もしており、かっこいい場面もたくさん作り出しているが、そこにピアノがもっと切りこんだらべつの展開になったかもしれない。ピアノのソロパートもたっぷりあるのだが、やや冗長で甘く流れているかも(厳しい?)。個人的には、4曲目で、ダンモールと対立するようなリズムを弾きまくるあたりがおもしろかった。

「MIND OUT」(FMRCD248−1107)
PAUL DUNMALL/BARRY EDWARDS/MARK SANDERS

 トレヴァー・テイラーに比すと、マーク・サンダースはアグレッシヴなドラマーなので、ガッツのある演奏になることはわかっていたが、ギターのバリー・エドワーズがとても面白いプレイをするので、聴いているあいだじゅうすごく楽しかった。誤解を生む言いかたかもしれないが、ジム・ホールのようにちょっとした音で共演者を刺激し、鼓舞し、包み込み、新たな展開へと導く。ダンモールもテナーを多用していて、ゴリゴリと吹きまくっている。3曲目だけはソプラノ(?)を吹いていてこれもいいけど、あとの3曲はテナーで、そのあたりも本作が好きな理由のひとつ。

「ATOMOSPHERES WITHOUT OXYGEN 1」(FMRCD258−0506)
PAUL DUNMALL/EVELYN CHANG/TREVOR TAYLOR/PHILIP GIBBS

「ATOMOSPHERES WITHOUT OXYGEN 2」(FMRCD271−0209)
PAUL DUNMALL/EVELYN CHANG/TREVOR TAYLOR/PHILIP GIBBS

 ふたつうえのアルバム「クロッシング」の3人に、フィリップ・ギブスのギターを加えたカルテットによる演奏。同日の録音かと思ったらちがうのです。やはり、ギブスのギターはええなあ。聴き惚れる。リズムがいいし、アイデア豊富で、引き出しも多いし、音も好みだ。そして、ダンモールとの相性抜群で、このふたりが出会うと、お互いに猛烈な速さでアイデアを出し合い、凄まじいテクニックでそれをぶつけ合って最高の音楽にまで高めてしまう(2の2曲目と4曲目でもふたりが激突する凄い場面あり)。イヴリン・チャンも前作よりはかなり共演者に深いところで寄り添っており、ドライヴ感もある。ダンモールと対峙する場面もガンガン弾いているし、単調にもなっていない(でも、無伴奏ソロをすると、突然、調性が全面に出ためちゃふつうの弾き方になる)。しかし、なんといってもフィリップ・ギブスのギターがすばらしい(プチプチ、コリコリという弾き方で弾きまくるあの奏法はなんなんでしょうね)。ギター〜ピアノのパートも聴かせる。こういう風に、たったひとりの参加で演奏ががらりと変わってしまうのだからインプロヴィゼイションは面白い。もちろんダンモールもかなり過激に、そして圧倒的存在感をもって吹きまくっています(とくに1のラストの曲では珍しく咆哮している)。トレヴァー・テイラーのグロッケン(?)とノイズもいい味出している。1も2も、ほぼおなじぐらいの内容なので、これはもうふたつとも聴くしかないですね。

「LIVE AT THE RUDERSDORF JAZZ FESTIVAL 1」(FMRCD274−0708)
PAUL ROGERS FREEDOM ORCHESTRA

「LIVE AT THE RUDERSDORF JAZZ FESTIVAL 2」(FMRCD275−0708)
PAUL ROGERS FREEDOM ORCHESTRA

 これはすばらしい。ポール・ロジャーズの仕切りによるオーケストラ……といっても7人編成。冒頭、まるでパーカッションのようなフィル・ギブスのギターと、ヒラリー・ジェファリーのトロンボーンのすばらしい変幻自在のデュオで幕を開ける。この部分を聴いているだけで、このオーケストラへの期待感が増す。そこからフィル・ギブスのギターソロになり(ここも相変わらずすばらしい。ほんとこのひとはいいよね)、そこにトロンボーンが戻ってきてふたたびデュオになる。このトロンボーンのひともめちゃめちゃうまい。シンセのごときノイズからパーカッシヴな音、朗々たる歌い上げまで自由自在。まさにがっぷり四つのデュオで聴きごたえ十分。どんどん場面が変わっていき、盛り上がっていくさまは感動的である。これぞフリーインプロヴィゼイション……というべきハイクオリティの即興。2曲目は全員によるコレクティヴ・インプロヴィゼイションから4ビートに乗ってトロンボーンが前面に出たパートへ。しっかりした音でパワフルに具体的なフレーズを吹きまくるところにほかの管楽器がからみ、トロンボーンもそれを受けながらソロを展開。そしてふたたび混沌からリズムがなくなり、怪しげなムードになり、ロングトーン、不気味なヴォイス、サックスとアルコの狂乱……などが現れては消える。3曲目は、トニー・レヴィンのドラムとダンモールのソプラノによる白熱のデュオ。まるでモジュラーシンセを超絶技巧で弾きまくっているような、凄まじいソプラノのラインと、それをプッシュし、からみまくるドラム。これはたしかに本盤の白眉かもしれない。ものすごい速さで展開し、場面が変わっていくこのデュオは、ラシッド・アリ〜コルトレーン以来のサックスとドラムだけでなにができるかという命題についての回答のひとつだ。2枚目にいって、1曲目は全員による演奏。なんらかの譜面的なものや指揮があるのかもしれないが、よくわからない。混沌とした集団即興からフルートとトロンボーンが残り、デュオ(実際にはパーカッションなどがところどころ聞こえる)になる。ベースやシンセ(?)、ギターなどが入り、トロンボーンを前面に出したジャズっぽい即興のパートになる。ヒラリー・ジェファリーはうまい。フルートとソプラノが加わり、ドラムがインテンポになり、どんどん盛り上がる。そして、ミディアムの4ビートになっても、まだトロンボーンソロは続く。9分を越えたあたりからまた混沌とした状態になり、そこからトロンボーンとソプラノサックスが残ってデュオになる。タンギングの妙義が炸裂しまくるここも聴きもの。16分ぐらいからまた全員が入ってきて、爆発的なコレクティヴインプロヴィゼイション。このあたりの出入りはたぶんロジャーズが指示しているんじゃないかな。そして、次第に収束していきエンディングに向かうと思いきや、そこからじわじわと演奏は続き、マグマが地下でどろどろと溶けながらも地上を目指すように熱さが次第に高まっていき、4ビートのモードジャズみたいになってとうとうエンディング。2曲目は、アルコベースとパーカッション、ギター、フルートによる静かな集団即興ではじまり、やがてトロンボーンやドラムも加わるが、そののち幻想的なパーカッションとフルートのデュオ的な様相になる。そこからはさまざまな組み合わせでの即興が展開し、速い4ビートに乗ってソプラノが吹きまくる場面に。ビートがミディアムになって、今度はトロンボーンソロになる。このあたりは決まっているのかその場で適当にそうなっているのかはよくわからない。そこから7弦ベースの無伴奏ソロになり、ここも聴きものである。16分ぐらいからそこに、ほかの楽器も加わっていき、一旦拍手が来るが、そこからオルガン(?)が荘厳なハーモニーを弾き、それにほかの楽器が乗るような、ゴスペルというかスパニッシュというか、変なモードに突入。そのあともビート感のある集団即興が続くが、やがてリズムがなくなり、混沌とした演奏になる。そして、また速いリズムが出現し、アグレッシヴなソプラノとトロンボーンが絡みあうように吹きまくり、フルートがそれに加わって、全員でのパワーミュージックのような展開になる。28分ごろにリズムが消えて、ロングトーン中心の静かな即興になって、最後、どうやら譜面があるらしいメロディーをトロンボーンとサックスが演奏してエンディング。3曲目は、フルートとアルコベースのデュオを中心に、ほかの楽器が加わるような即興で始まる。次第に楽器が増えたり減ったりするが、フルートとアルコベースが中心であることはずっと継続される。
1枚目は、3曲中1曲がオーケストラで、あとの2曲はデュエット。2枚目は、3曲ともがオーケストラ、という構成だが、個人的には1枚目のほうがはるかに面白かった。いずれにしても、これがライヴというのはにわかには信じがたいほど繊細な演奏である。

「REPERCUSSIONS」(FMRCD277−0708)
PAUL DUNMALL/PAUL ROGERS

 本作については以前にレビューしたので、上記を参照してください。この50枚のなかで唯一、まえに聴いていたアルバムなのだった。

「BOUNDLESS」(FMRCD278−0709)
DUNMALL/EDWARDS/GIBBS/SANDERS

 傑作。ふたりのギタリストを加えたカルテットというのは、一番最初の「イースト・ウエスト・ノース・サウス」もそうだったが、非常に刺激的な音楽になる。もちろんそれはギタリストのチョイスによるのだと思うが、今回のフィル・ギブスとバリー・エドワーズはどちらもすばらしい才能あるひとなので、結果的にえげつないぐらい凄まじい演奏になった。ふたりのアイデアとパッションあふれる即興的なやりとりに刺激されて、ダンモールもいつにもまして荒ぶる演奏を繰り広げる。いやー、かっこいい。そのかっこよさのかなりの部分はふたりのギタリストが作り出してるといっても加減ではない。サックスが消えて、ギターメインの部分(3曲目とか)もめちゃめちゃおもしろく、ギターという楽器の可能性はまだまだ無限にあると思った。ダンモールとマーク・サンダースによるテナー〜ドラムのバトルもすごい。曲ごとに雰囲気がちがうし、1曲目のフリージャズな感じ、4曲目の尖ったインプロヴァイズドな感じなどバラエティに富んでいる。これはもう聴いてもらえればこのアルバムの素晴らしさはわかってもらえると思うが、いつものメンバーやん、とスルーするのはもったいない。ぜひ、聴いてほしい。

「RITUAL BEYOND」(FMRCD288−0210)
PAUL DUNMALL/TONY BIANCO/DAVE KANE

トニー・ビアンコの激烈なドラムに激しく鼓舞されてダンモールが吹きまくる。サキソフォンズとクレジットされているが、1曲目冒頭に出てくるのはクラリネットである(これがまたすばらしい)。ビアンコはずーーーーーっと激しい調子で叩き続けており、2曲目になっても同じ。ベースもかなりえげつないラインを弾いているが、そういう過激ななベース〜ドラムに対して、ダンモールは決してフリーキーにならず、いわゆる教則本的なパターンをしっかりとした音色、音程、アーティキュレイションですごいテクニックで積み上げていく。教則本的というのは貶しているわけではもちろんなく、フリージャズにありがちの、ぐちゃぐちゃしたクラスターやぎゃーぎゃーとスクリームするような演奏ではなく、きっちりと具体的なフレーズを確固たるリズムでつむいでいるということだ。これがまたかっこいいんですわ。普通、これだけドラムに煽られたら釣り出されるというか熱くなってブロウしてしまうのがテナー吹きの性だと思うが、ダンモールはゆらぐことなくまっすぐに前進する。いやー、ほんまかっこいい。これはやはりフリージャズというよりは、モードジャズというか主流派ジャズに属する音楽のような気がする。3曲目は、ビアンコの神業的なリズムとエキゾチックなベースラインのうえでダンモールが自在に暴れる。ここまでくるとビアンコのリーダーアルバムみたいだ。めちゃ心地いいです。4曲目はブラッシュの妙技が冴え、ケインのアルコベースが延々とフィーチュアされる。やがてダンモールのテナーが猛スピードの目まぐるしいフレージングで圧倒的なソロを展開する。やがてビアンコがスティックに持ち替えると、ダンモールも凄まじさに拍車がかかり、とんでもない盛り上がりになってエンディング。あー、疲れた。

「ATOMOSPHERES WITHOUT OXYGEN 3 LIVE IN CHANTHAM」(FMRCD290−0410)
PAUL DUNMALL/TREVOR TAYLOR/PHILIP GIBBS/NICK STEPHENS

 なぜかこのアルバムだけ聴けない。プレスミスなのか、分表示は出るのだが、音が出ないのです。

 と書いたが、後日、添野さんがちゃんと聴けるCDを貸してくれた。抒情的な雰囲気のなかでダンモールのソプラノが美しく、またテクニカルに(このふたつはちゃんと両立するのです)吹きまくる。トレヴァー・テイラーのライヴエレクトロニクスも、本作ではすごくいい感じでハマッている。下記に、3のほうがたっぷりしているのだろうと書いたが、こちらも45分ほどでした。フィル・ギブスのしみじみとかっこいいギタープレイのコーナーから、ダンモールのクラリネットが低音で嫋嫋と入ってくるあたりの見事さは、即興ならでは。ダンモールはクラリネットもめちゃうまいし、フルートもすごくて、いつも感心する(フリーなインプロヴァイザーとしてももちろんだが、基本的な楽器の扱いがしっかりしているのだ)。あいかわらずギブスのギターが天才ぶりを発揮していて聴き惚れる。全員、かなり過激なプレイもしており白熱のインタープレイの応酬なのに、全体の印象はなぜか室内楽的なのもおもしろい。力の抜きどころというか、間というか、空間というか、そういうスカスカな部分をたっぷり残しているからだろうな。すごく面白かった。

「ATOMOSPHERES WITHOUT OXYGEN 4 LIVE IN CHANTHAM」(FMRCD295−0810)
PAUL DUNMALL/TREVOR TAYLOR/PHILIP GIBBS/NICK STEPHENS

「アトモスフェアズ・ウィズアウト・オキシゲン」待望の(?)続編だが、1〜2からピアノのイヴリン・チャンが抜け、ベースのニック・ステフンスが入っている。不穏な空気を掻きたてるはじまりから、静かではあるがじわじわと周囲を侵食していくような緻密でテンションの高いインプロヴィゼイションが続いていく。こういう「く、苦しい、酸素がない……」的な緊張感がこのバンド(?)のポリシーなのか(1,2もそういう感じだったが)。これは、やるほうも聴くほうもたいへんだが、ここでもやはりフィル・ギブスのすばらしいギターとそれに見事に応じるダンモールの瞬発力と解読力もすごい。個人的には1,2よりもこっちのほうが好きだが、それはメンバー変更のせいなのか、それともグループエクスプレッションとして練れてきているのか。1曲目が終わったあとぱらぱらとくる拍手の感じも、客にとっても「スカッとする演奏」というのとはだいぶちがったのだなと思うが、それは演奏が悪かったわけではなく、このシリアスで緊張感のあるじりじりした演奏に対してはこういう拍手がふさわしい。2曲目はまるでガムランのようにスピード感のあるリズムと狂おしいサックスの饗宴にライヴエレクトロニクスがからむという展開から、一転してギターソロによる、間を生かした、空間を構築するような演奏になる。ああ、やっぱりフィル・ギブスはええなあ。そしてギターとソプラノの対決になる(ベースとパーカッションも入っているが、実質はデュオ)が、ここはいつも通りとはいえ、両者の異常に高い音楽性が最善な形でぶつかりあい、高め合い、凄いことになるので注目。そこからまたこのグループの特徴である静かなインプロヴィゼイションが続き、そのままエンディング。ラストの終息していく雰囲気もなんともいえない味わい。収録時間が40数分と短いが、たぶん3のほうがたっぷりしているのだろう。でも聴けないからわからんなあ。

「MANU」(FMRCD296−0810)
PAUL DUNMALL/PHILIP GIBBS/MILES LEVIN

 ダンモール、ギブスという「いつもの顔ぶれ」だが、それにドラマーとしてマイルス・レヴィンが加わったトリオ。マイルス・レヴィンというのはトニー・レヴィンの息子である(「フォー・ムーンズ」でダンモールは自己のカルテットの一員として共演している)。つまり、かなりの若手とのセッションということだが、「フォー・ムーンズ」ではかなり叩きまくっていたので、期待をもって聴いてみる。いきなりダンモールがリードするかなり激しい即興で幕を開ける。ギブスのギターももちろん正面から受け止めている。肝心のドラムはどうかというとなるほどアグレッシヴに叩きまくり、とてもがんばっているが、いまひとつキレがない感じもある。でも、ダンモールはバリバリ吹きまくり、いきなりクライマックスを作り出してしまうが、そのあとドラムソロになり、若さにまかせて叩きまくるかと思ったらちゃんとダイナミクスを考えて駆け引きをする。さすがわかってらっしゃると思ったが、ここはぐいぐい行ってもいいんじゃないの。ダンモールがクラリネットでええ味を出すコーナーになり、すばらしいソロ。サックスに持ち替えてドラムとのデュオ。なるほど、ドラムはすごく上手いのだが、がーっと出ていく一歩手前で、ぐっと引きしめている感じ。ギターソロになり、あいかわらず独得の世界観によるギブス・ワールドを繰り広げる。また3人になり、レヴィンはブラッシュでふたりにぴったりと付ける。ダンモールが吹きまくりはじめてからはレヴィンもバリバリとプッシュする。めちゃええ感じ。こういう4ビートを基調にしたほうが実力が発揮できるタイプなのか。ものすごく才能に恵まれているように思う。2曲目はギターが、例によって頭のおかしいようなパターンを弾きまくり、そこにダンモールがべつのラインをからめていくような展開。これはかっこいいっすねー。そして、ギブスのソロコーナーをレヴィンがきっちりサポート。がっぷり四つ、という感じにはならないのだが巧みに盛り上げ、ギブスのうまさを際立たせる。ダンモールの無伴奏ソロ(テナー)になるが、ここはゆったりとしたリズムでテンションはさほど高くない。悠々自適な雰囲気。次第にスピードは速くなっていくが、安定感は抜群である。大男が大きな声でゆったり話していて、だんだん早口になるのだが、決して怒ってはいない、みたいな感じか。そこに凄まじいスピードでフィル・ギブスのギターが斬り込んでくるあたりがクライマックスでしょうか。ドラムも入って、ボルテージがどんどん上がっていき、ついにはテナーが絶叫する。

「LIVE IN AUSTRIA」(FMRCD298−1210)
DEEP JOY TRIO

 ディープ・ジョイ・トリオというのはダンモール、ロジャーズ、トニー・レヴィンによるトリオで、つまりはこれもいつものメンバーである。オーストリアでのライヴだそうだが、まあ、こういう感じがダンモールのもっともダンモールらしい演奏かも。フリーインプロヴァイズミュージックなのだが、エヴァン・パーカーやミッシェル・ドネダなどとはちがって、ものすごくジャズ臭い。そう、「フリージャズ」っぽいのだ。フリージャズをめちゃくちゃ昇華させたらこうなった、みたいな。トニー・レヴィンがドラムということもあるかもしれないが、ビートはころころ変わるがつねに強烈なリズムが感じられ、そこに乗ってダンモールが自在に吹きまくるのだが、何十回と書いてきたように、彼のフレーズは常に具体的でアイデアがしっかりしており、それを発展させて大きな流れにつなげていく、という、バップ的なやり方なのだ。これは、その場その場で思いついたことをハプニング的に演奏する、という考えとは逆のようだが、じつはそんなことはないのだ。えげつないほどのテクニックと、(おそらく)膨大な練習量によって裏付けされている彼のサックスは、(それなのに、というべきか)印象としてはまったく「技術に頼っている」ようには聞こえない。くねくねと蛇が走るように共演者にからみついていくダンモールのソプラノはまるで歌舞伎役者が放つ何百もの白い糸のように空間をからめとり、包み込むようだ。こうして場面がどんどん変わっていくのも、良い即興演奏には多いが、なかなかできることではありません。ついつい、ひとところに腰をすえて、同じリズム、同じチェンジ、同じ雰囲気のうえで延々と演奏してしまう。それを、ばっさばっさと変えていくというのは、よほどの見識、音楽感、大局観、それに技術力がともなっていないとできないことで、この三人はそういう意味の猛者なのだ。1曲目が40分もかかる長尺演奏だが(最後にはバグパイプも登場)、2曲目は短い。

「SUN INSIDE」(FMRCD306−0311)
PAUL DUNMALL/PHILIP GIBBS/NEIL METCALFE/PAUL ROGERS

 いつもの顔ぶれに「インテューアティヴ・アート・アンサンブル」で共演したフルートのニール・メットカルフェが加わったカルテット。冒頭からダンモールのバスクラ(ブックレットにはソプラノ・テナーとあるがバスクラもかなり吹いている)、メットカルフェのフルート、ギブスのアコースティックギターなどが室内楽的ではあるが、不穏かつ躍動的な空気を演出していく。だが、結局はいつものダンモール(たち)の音楽なのだ。微妙なずれ、反復、刺激などをきっちりつかまえて、発展・展開させて、アメーバが触手を伸ばすようにどんどん広がっていき、盛り上がっていく。アコースティックなので、音量的にめちゃくちゃな高揚はしないのだが、内容は十分高揚しているので、真剣に最初からずっと演奏に密着するように聴いていたら、その高まりを実感することができるはず。フルートとアコースティックギターがじつにいい味を出していてたまらん。フルートのひとは、クラシックをきっちりやったと思われる音色と音程の良さ、そして朗々とした美しい吹き方に説得力がある。ギターはときにスパニッシュギターを思わせる、フレーズというよりリズムとモードによるコミュニケートがかっこいい。そして、ダンモールのバスクラは、太く鳴り響く低音中心に不気味な気配を出す。フルートとソプラノの、高音域2管による即興的な絡み合いもすばらしい。(ロジャーズのベースはややおとなしいが)4人ともそれぞれすごくて、互いを高め合っていて、もっとも望ましい結果が生まれている。傑作といっていいんじゃないでしょうか。

「KITHARA」(FMRCD312−0611)
PAUL DUNMALL/MARK SANDERS/PAUL ROGERS/PHILIP GIBBS

 これもいつものメンバー。北原かと思ったらキサラなのか? たしかにすばらしいインプロヴィゼイションかもしれないが、この組み合わせ、メンバーはもう聞き飽きたとおっしゃるむきもあるかもしれないが、これが50枚組ボックスではなく、なにげなく手にしたアルバムだとしたら「大正解!」と叫ぶのではないか。1曲目からめちゃくちゃスリリングな手に汗握る凄まじくもスピード感のある即興がバリバリに展開されていて、ひたすら吹きまくるダンモール(ときどき絶叫)、弾きまくるギブスのふたりがとにかく全体をひっぱり、持ち上げ、放り投げる。ダンモールに限っても、50枚のなかでもとびきり過激な咆哮が収録されている。キブスもぶっ飛んだ演奏で、まあ、ギブスが入ってる盤に外れなし、と言っておきましょう。ガチンコフリーっぽい1曲目に対して、2曲目の冒頭はノイズっぽい展開でこれもいいなあ。そこからはまたビート感のあるフリージャズになったり、リズムのないインプロヴィゼイションになったりするのだが、とにかくダンモールの「上手さ」に脱帽。やっぱり基本的に「上手い」ひとなのだ。ここぞというときに繰り出す「上手さ」の奔流に心をわしづかみにされる。マーク・サンダースのドラムソロもすばらしい。どんどん局面が変わるが、ラストのダンモールのハーモニクスを使った朗々としたスクリームが全部持っていった感じ(個人的好み)。3曲目は短いが、超アップテンポでギターがぶっちぎる演奏。そのあとダンモールがフィーチュアされる。

「DIG DEEP TRIO」(FMRCD314−0511)
PAUL DUNMALL/PAUL ROGERS/TONY BIANCO

 これもまたいつものメンバーによる組み合わせだが、お気づきのひとはお気づきだと思うが、ダンモールのアルバムタイトルにはDEEPという言葉のものが多い。「DEEP WELL」「DEEP SEE」「DEEP WHOLE」……あと、DEEP JOY TRIOとか。メンバーにも共通点はない。たんに言葉が好きなのかも。というけで聴いてみると、これもあいかわらずのガチンコ即興な内容で、クオリティはめちゃめちゃ高い。全7曲と、たいがい2〜4曲しか入っていないダンモールのアルバムとしては珍しく曲数が多いなあと思って聴いてみると、さにあらず。長いふたつの演奏を途中で区切っているだけなのだ。密度が濃い。超濃厚な演奏ばかりなので、真剣に向き合うとへとへとになる。1曲目は激しいドラム、弾きまくるベースと2対1のような感じで対峙するダンモールのテナーが太くたくましいトーンでブロウしまくる。まるでデヴィッド・ウェアかチャールズ・ゲイルのようなえぐいフリー「ジャズ」。そのあとロジャーズがアルコで狂ったように弾きまくり、その後ダンモールの激しいブロウを経て、ビアンコがそのままの激しさを保ったままソロに突入。そのあとベースが弦から白煙が出るほどの熱いアルコソロ(実際はドラムも入っている)を展開。だんだんベースとドラムのデュオ的に白熱していき、満を持した感じでテナーが入ってくる。そのまま激烈なトリオ演奏が重戦車のような迫力で進行して、1曲目は終わり。2曲目は1曲目よりゆったりしたリズムではじまる、いかにもテナーの入ったピアノレストリオによるフリージャズといった感じの、自由で豪快な演奏。ちょっと「アワ・マン・イン・ジャズ」あたりのロリンズを連想したりして。ロジャーズのベースソロになり、パーカッションがからむ。ダンモールのテナーが登場して、後期コルトレーンのようなスピリチュアルなサウンドになる。エンディングもやたらとかっこいいですよ。

「MONTANA STRANGE」(FMRCD315−0911)
BBC CONCERT ORCHESTRA/BRIAN IRVINE ENSEMBLE/RTE NATIONAL OCHESTRA/PAUL DUNMALL

 そろそろ、おんなじようなメンバーの順列組合せには飽きたとおっしゃるむきも出てきていようが、本作は最大の変化球かつ大傑作かも。ブライアン・アーヴィンという作曲家の曲をBBCコンサートオーケストラとブライアン・アーヴィン・アンサンブルなどで演奏したもので、ダンモールがソロイストとして参加している。1〜3曲目までは、BBCコンサートオーケストラとブライアン・アーヴィン・アンサンブルという室内楽グループにダンモールが加わった2004年の演奏、4曲目はダブリンでのRTEナショナル・オーケストラにダンモールが加わった2007年の演奏。現代音楽だが、ダンモールはしょっぱなからゴリゴリ吹いて、まったく現代音楽+サックスソロイストという感じはなく、いつものダンモールの演奏の延長(つまり即興)として楽しめる。それにしても、私は現代音楽には詳しくないが、このひとのスコアはすごいと思う。なにより、ダンモールの即興と完璧に融合しており、互いに引き立てあっている。ガリガリとフリーキーにブロウするパートもあり、朗々とメロディを吹くパートもあり、ちょっとリリカルなダンモールも聴けるので、これはなかなかいいんじゃないでしょうか。スコアが、ひとつのムードやリズムにとどまることなく、すぐにそれを捨てるようにしてどんどん場面を転換していき、新しい息吹きを吹き込みながら演奏を新鮮に保っているのは、「良い即興演奏」とまったく同じ。そのあたりがさすがわかってらっしゃるという感じ。あちこちにすごい場面が用意してあるのだが、後ろに行くにつれてどんどん盛り上がるあたりもすばらしい。このアルバムは(おそらくだが)ダンモールにとってもブライアン・アーヴィンにとっても代表作のひとつといえるのではないか。3曲目の冒頭でヴォイスが挿入され、オペラというかミュージカルみたいになるあたりもものすごく楽しいし、ダンモールの無伴奏ソロもあったり、エンディングもちょっと驚いた。4曲目は、ソプラノのすばらしい演奏をフィーチュアした小品だが中身は濃く、ファンタスティック。ほかにもとにかく聴きどころ満載で、私は聴き進むにつれてどんどん興奮し、終わったら自然にもう一度プレイボタンを押しておりました。傑作だと思います。

「THE REALIZATION TRIO」(FMRCD317−0911)
PAUL DUNMALL/JIM BASHFORD/NICK JURD

 ここへ来て、いつものメンバーではなく、まったく新しいベースとドラムを従えたトリオを結成。ふたりとも若いひとらしい。曲数も多いなあと思いながら、1曲目の頭を聴いて驚いたのは、ちゃんとしたコンポジションがあることで、それがこのトリオのコンセプトなのだろうか。テーマが終わると、いつものインプロヴィゼイションになるのだが、それでもどこかにテーマの影を感じる。1曲目と2曲目はまったく途切れることなく流れており、別のテーマが出てくるというだけだ。3曲目はピチカートのベースソロではじまり、ベースソロで終わるという曲。4曲目へのイントロですね。インテンポになり、テナーによるテーマが出た段階で、突然、演奏が途切れて、なんだかよくわからない神様みたいな声で「リアライゼーション」ついて語ったかと思うとすぐに消えて、また演奏が浮かび上がる。まるで、だれかがハッキングしたみいな割り込み方だ。演奏のほうは、かなりジャズ寄りのまともなもの(だいたいこのアルバム全体がジャズ寄りだが)なので、このインポーズがいっそう不気味だ。テナーソロのあとと大きな波がうねるような長いドラムソロになり、このふたりの新しいメンバーの実力が十分わかる。ドラムソロがすーっと消えると、ベースのオスティナートがはじまり、スピリチュアルなモードジャズがはじまる。一定のビートがなく、大づかみなリズムしかないので、かなりゆらゆらと揺れ動くような演奏で、めちゃかっこいい。そのゆらぐリズムにのって、テナーが速くなったり遅くなったりしながら吹きまくる。倍テンというのともちょっとちがうようだ。3者一体の熱い演奏。6曲目は3者それぞれのゆったりしたラインがからむ短い曲。ラストの7曲目はベースが強く弾くような弾き方でリズミカルなパターンを弾き、ダンモールが好き放題する感じ。ベースソロもフィーチュアされる。こうして通して聴くとわかるのだが、全体でひとつの組曲なのだ。それにしても4曲目で入ったナレーションはなんだったのだろう。ああいう趣向があちこちに盛り込まれてるのかと思ったが、結局あそこ一か所しかなかった。不思議だ。

「SALT DOLLY」(FMRCD326−0112)
REALIZATION TRIO

 前作でデビューしたリアライゼーショントリオだが、早くも同じメンバーでの第二弾である。やはりコンポジションがちゃんとある。前作ではパート1、パート2……とそっけない名前しかついていなかった曲も本作ではちゃんとタイトルがつけられている。しかも10曲。ダンモールのアルバムでは、普通はありえない多さだ。ちょっとジャズをやりたいと思ったのだ、というようなことがブックレットに書いてあったような気がしたが、合ってますかね。二人の若いメンバーは、こういうフリーインプロヴィゼイションには慣れていないのだが、ジャズ的なアプローチで見事にそれをこなしてる、というようなことも書いてあるような気がするが、定かではない。たしかに短い演奏ばかりで、しかも周到に用意されたコンポジションがちゃんとある(どれもよくできた曲で、ダンモールの作曲能力の高さもわかる)。そういう自分が用意した曲に対して、ダンモールはソロになると、かなり自由自在にふるまい、自ら枠組みを逸脱したり、フリーになったりするが、ベースとドラムはちゃんとその意図を理解して、同じように自由にふるまい、ときには滅茶苦茶になりそうな危うさもはらみつつ、しかし、見事に着地する。なるほど、これはすばらしいトリオだ。どれもいい曲だが、たとえば4曲目は美しいバラードだけどすぐに躍動感のあるリズムが入るめちゃくちゃいい曲だし、8曲目はドラムの律動のうえにテナーが朗々と吹きのばす曲でかっこいい。9曲目はバグパイプフィーチュアの曲だがそのまま10曲目に突入し、それに地の底から聞こえてくるような不気味なヴォイスがまとわりついていくというわけのわからん趣向だったりする。ほかにも、モード風あり、ドルフィを思わせるような曲あり、クラシックっぽい曲あり、民俗音楽っぽい曲あり……で、バラエティに富んでいるし、テナーがテーマを吹く、というだけでなく、ドラムやベースも合わせての全体的なアレンジがちゃんとほどこされているので心地よい。ソロも、全部で10曲もあるわりに、3人ともたっぷりフィーチュアされているし、ダンモールはさまざまな引き出しを全開にして、ときに激しく、ときに優しく、ときにアブストラクトにブロウする。しかし、やはり「作曲」が柱のアルバム(バンド)なので、一曲一曲をもっと長くやったら、もしかしたらもっと燃焼するのかもしれないが、これはこれですごく楽しかった。このバンドで来日せんかなあ。

「CLOWN」(FMRCD327−0112)
PAUL DUNMALL/STEVE KANE/STEVEN DAVIS

 目新しいリズムセクションとのトリオ。ワークショップで出会った若いミュージシャンを起用したということらしいが、大正解。ダンモール名義だと思うが、曲のほとんどはドラマーのスティーヴン・デイヴィスの作曲。いきなりドラムソロではじまるのだが、これがなかなかいい感じで、もうアルバムとしての良さは決まったような気分。テーマが現れるが、きちんとしたコンポジションである。コンポーズものはリアライゼーショントリオだけかと思ったらそうではない。この時期のダンモールの関心が作曲も含めた演奏に向かっていることがわかる。柔らかい音でひたすら「ライン」を吹きまくるダンモールに、非常に新しいなにかを感じるが、それが具体的になにかはわからない。そのバックでこれをひたすらに3拍のフレーズに固執するベースも鬼気迫る感じでよい。ジミー・ジュフリー的な室内楽的狂気も感じるような演奏。そこから弱音のフリーインプロヴィゼイションになり、ベーシストはひたすら、軋むような高音を出し続ける。ふたたびダンモールが柔らかい、サブトーンで入ってきて、テーマに戻る。うーんきっちりした構成だ。2曲目は、これもコンポジションもので、激しい曲。テーマからの流れでソロも非常に激しく、ノイジーなブロウが堪能できる。ダンモールが作曲を重要視しはじめた成果がすぐに出ていると感じる。ブラックミュージシャンによるフリージャズのように濃厚で煮えたぎるような演奏。パッと思いつくのは(ブラックミュージシャンではないが)アイヴォ・ペレルマン。中音域でひたすらしっかりした音で吹きまくるところが似てるかも。めちゃめちゃ興奮する演奏です。ウッドベースをチョッパーみたいにバチバチ弾きまくるソロもすげーっ。岩見さんみたい。アルコベースとドラム(ガラクタ系パーカッション?)のデュオになり、そのあとドラムと小刻みなフレーズを吹くテナーとのデュオ。どんどんボルテージがあがっていき、森山〜坂田みたいな激しいぶつかり合いとなり、ダンモールのいいところすべてが出た白熱の演奏となった。凄い凄い。でも、最後はきっちりテーマに戻って終わる。3曲目はバグパイプ(ボーダーパイプと表記されている。スコットランド低地地方のバグパイプということらしい)による演奏だがこれがえげつないぐらいかっこいい。4曲目は、(おそらく)7+5拍子の曲。ベースとテナーが律儀にユニゾンで延々テーマを吹いたあと、ベースは同じパターンを弾いて、テナーソロになる。途中でかなりむちゃくちゃになって、フリーになってついにテーマに戻らないという(!)構成。でも、傑作です。

「TRIBUTE TO TONY LEVIN」(FMRCD328−0112)
PAUL DUNMALL/PHILIP GIBBS/PAUL ROGERS

 2011年2月に亡くなったドラマーのトニー・レヴィンを追悼するために6月に吹き込んだアルバム。メンバーは、まさにダンモールのもっとも気心のしれたふたりで、非常に音楽的内容も濃いが、痛切な追悼の気持ちもあらわれている。1曲目はダンモールがフルートを吹く。ギターとベースのからみあうなかを響き渡るフルートがめちゃくちゃ良い。こんなにフルートもうまいひとだったのね。クラシックの奏法をきちんとマスターしているように聞こえる(けど、定かではありません)。あいかわらずギブスはええなあ。こんなええギター、なかなかいないよね。2曲目は大迫力のギターとバグパイプの暴走で幕を開ける。それを下から下から煽るようなベース。すばらしい。これは凄まじい演奏です。3曲目はギターの単音と、ノイズのようなひくひくと痙攣するアルコベースとのデュオではじまり、最後までそのふたつの楽器による壮絶なデュエットに終始する。4曲目はエレキギターの不穏なサウンドのなか、野太いベースがフリーなリズムで底辺を支え、スピリチュアルな雰囲気を漂わせるテナーがゆっくりと出発し、しだいにスピードを上げていく。そして再びゆっくりと失速していく過程が描かれる。5曲目は重厚なアルコベースのソロ曲。めちゃかっこいい。6曲目はダンモールのトリルとギブスの速弾きが一体となってえげつない空気を醸し出すところからはじまり、3者がぶつかり合ったガチンコのインプロヴィゼイションがひたすら展開していく。このめちゃくちゃ面白い、わくわくする感じはものすごーく「おなじみ」だったはずだが、考えてみれば、この少しまえまでのダンモールはコンポジションものが多くこういうガチンコフリーは久しぶりかも。やはり共演者によるのか。7曲目はこれも緊迫したインプロヴィゼイション。馴染みのメンバーでこれだけテンション高く演奏するというのはなかなかむずかしいと思う。まるでどこからかトニー・レヴィンのドラムが聞こえてくるような演奏だ、と書くと感傷にすぎるだろうか。傑作だと思います。

「HIS LIFE AND SAYINGS」(FMRCD329−0212)
PAUL DUNMALL/PHILIP GIBBS/HASSE POULSEN/MARK SANDERS

 いやー、これも傑作だからなあ。ダンモール、どれだけ傑作ばかり作るねん。思わせぶりなタイトルがつけられたアルバムだが、意味はよくわからない。これもダンモールの好きな2ギターのカルテットだが、いつものフィリップ・ギブスに加えて、ハッセ・ポールセン(と読むのか?)というひとが加わっている(めちゃくちゃ有名なグレイトギタリストだそうだが知らん)。ふたりのギターがそれぞれに過激なフォームで弾きまくるうえを、ダンモールが一瞬のためらいもなく吹きまくる。本当にギターという楽器はなんでもできる。リズムを作り出すのも、ハーモニーも、オルガンみたいな伸ばす音も、パーカッションみたいな音も、シンセみたいな音も……とにかくあらゆる音とリズムとハーモニーがこの6本の弦を張った楽器から引っ張り出されるのだ。個性的なギター奏者をふたりそろえるというのは、インプロヴィゼイション的に言ったら無敵ではないか。まるでオーケストラのような奥行、広がり、ダイナミクスがそこに現出し、たった2台とは考えられないような宇宙的な空間が感じられる。まあ、このふたりのギタリストがすばらしい、ということなのだろうが。1曲目はひたすらぐいぐい行きまくる演奏で、高揚しまくる。2曲目はかなり長尺だが、テンションの高い即興が繰り広げられる。これ以上の説明はむずかしい。ただただストイックに「即興」のみがそこにある、というような演奏。ビートもメロディもないが、スピード感とハーモニーはたっぷりと存在する。そして、スウィング感というか、ノリもめちゃめちゃある。9分目ぐらいの、片方のギターがカッティングして、もうひとりが単音で弾きまくるあたりの興奮をなんといえばいいのか。そのあとカッティング→単音でのベースラインみたいに移行して盛り上がったところにダンモールがガーッと入ってくるところもめちゃめちゃかっこええやん。26分ぐらいのところにあるギターのソロもすごいし、そこにもう一本のギターが猛烈な勢いで別のリズムを叩き込んでくるところもカッキー。これってダンモールいらないのでは。いや、それを言っちゃおしまいだ。でも……ああ、フリーインプロヴァイズドミュージックの快感はこれです。すべてのギター弾き、ギター好きはこのアルバムを聞きのがしてはいけません。30分ぐらいのところで突然、また大きく流れが変わる。ダンモールの下降スケールの入り方も心得てる感じ。そして、ダンモールが咆哮し、ドラムが暴れ、えげつない緊張感とともにエンディング。この2曲目はとんでもない演奏だと思う。もちろんどんどん局面は変わるが、静と動の対比があって、メロディックなものとノイジーなものの対比があって、大音量と小音量の対比があって、リズミックなものと浮遊感のあるものの対比があって、次々と場面が変化し、全体として大きなドラマが展開するので、聴いていると大作のオペラを見たような充足感がある。3曲目はそれに比べると短い演奏(といっても11分はあるのだが)。二台のギターがスペーシーな世界を作り出す。傑作だと思います。

「INTERVENTION  BASED ON 60 STUDIES FOR SAXPHONE」(FMRCD334−0412)
PAUL DUNMALL/NEIL MCGOVERN

 ポール・ダンモールが書いた「サックスのための60の勉強」という教則本に基づいて、クラシックのサックス奏者ニール・マクガバーンが演奏し、そこにダンモールがフリーな感じでソロを乗せる……みたいな解釈でいいのかな。たぶんそういうアルバムです。この、ダンモールが書いたという練習用の譜面は、めちゃめちゃむずかしい。ドルフィーのような跳躍をともなったとんでもないパターンで、クラシックの奏者でないとこんなの吹けないのではと思ってしまうようなえげつなさだが、今はたぶんジャズやロックのサックス奏者でもこういうのはちゃんと吹けるのかもしれない。私ですか。絶対無理です。まあ、超絶技巧を要する曲ばかりではなく、いろいろ入ってはいるのでバラエティ豊かといえば豊かである。1曲だけニール・マクガバーンのソロ演奏が入っているし、ラストの15曲目はダンモールが自宅で、(別の)クラシックサックス奏者マット・ロンドンとインプロヴァイズを試みたものらしい。いやー、この演奏(マクガバーンが吹いたダンモールの譜面)を聴いて、ダンモールの超絶技巧のバックボーンがわかった。ダンモールが、マクガバーンの演奏に重ねている即興のパートが不必要ではないかと思えるほど、圧倒的な音楽的な存在感がある。しかし、譜面と即興を同時に、という趣向(?)にもかかわらず、聞こえてくる音はまるで違和感がない、一体となった「音楽」に思える。ヴァンダーマークとマーズ・ウィリアムズのデュエットや、イギリスのフリー系サックス奏者を集めたジョージ・ハスラムのサックスアンサンブルなどを連想した。つまり、めちゃめちゃ上手いサックス奏者が自由奔放に吹いた、という空気があるのだ。一方が譜面なのにもかかわらず、である。ダンモールはブックレットに、「音楽においてバリアはない」と書いているが、ほんとにそんな感じ。しかし、全部が全部譜面ではなく、ときどきマクガバーンも即興をしているようで、ふたりでハーモニクスを出し合うあたりの盛り上がりは絶対即興だろう。しかし、何度も書くけどほんとに上手いよなあ。ラストのもうひとりのクラシック奏者との即興デュオも、じつにお見事。サックスにおいて、クラシック〜ジャズの壁はないな。でも……あー、怖い怖い。上手いって怖いなあ。私も含めてサックス奏者は必聴……かもしれないが、たぶんそうでないひとにはあまり面白くないかもしれない。私にはめちゃくちゃ面白かったです。ただ、ダンモールをはじめて聴くひとには、本作はおすすめしません。でも、最高。

「THE ICEBERG QUARTET」(FMRCD332−0312)
PAUL DUNMALL/SAM WOOSTER/CHRIS MAPP/MARK SANDERS

 ダンモール〜サンダースといういつもメンバーに、珍しくトランペット奏者が加わっている(サム・ウースター)。クリス・マップというベースも初めての顔ぶれ。このダンモールとウースターという二本の管楽器による絡み合う2ラインが、非常によくマッチングしていてすばらしい。この絡みを聴いているだけでもものすごく昂揚する。たぶん、ウースターというトランぺッターは(どういう経歴のひとかしらないけど)すごく上手いんだと思う。レスター・ボウイみたいなプリミティヴでトリッキーな音使いも随所にあって、表現の幅も広いし、イマジネーション豊かな演奏をする。写真を見るかぎりでは若いひとっぽいが、ドスの効いた、パワフルなプレイは好感度大(2曲目8分ぐらいからのドラムとトランペットのデュオ部分などめちゃかっこよく、ほかにも秀逸な見せ場多し)。ただ、1曲目のソロのところ、かなり音量が落ちて聴き取りにくくなるのはなぜか(録音の問題?)。3曲目冒頭のベースとトランペットのデュオの部分も、信じられないぐらいうまくいっている。このひと、全然知らなかったけど、すげープレイヤーじゃん。全体として非常にスリリングなフリー「ジャズ」。こういうフォーマットだと、ダンモールの重厚なテナーが一段と映える(3曲目のとてつもない怒涛のような凄まじいソロはマジ聴きものです)。ベース奏者もすごくこのカルテットにはまっている。マーク・サンダースもさすがの演奏で、さまざまな大技小技を駆使して煽り立てる。ものすごーく気に入りました。傑作。

「PIPE AND DRUM」(FMRCD333−0512)
PAUL DUNMALL/MARK SANDERS

 バグパイプとドラムのデュオで、その名もずばり「パイプ・アンド・ドラム」。バグパイプがものすごい可能性を秘めた、えげつない表現力があり、泣き叫ぶようなブロウや超ハイテンションの演奏ができるとんでもない楽器である、というのは、正直、ダンモールがはじめて示したのではないか、という気さえする。冒頭からパワー全開の凄まじい演奏が展開する。ローランドカークが何本もくわえて吹いているかのごとき、エヴァン・パーカーが循環呼吸とハーモニクスを駆使して吹きまくっているかのごとき、そういった効果がバグパイプでは得られるのだ。それを煽りまくるサンダースのドラミング。ものすごくハイテンションで、聴いていると息が詰まってくるようなぴりぴりするような世界が延々と続く。また、バグパイプ本来の、ややエキゾチックな表現の演奏もあり、まったく聞き飽きるどころか興奮のうちに一枚を聞きとおすことができる。それにしても、ダンモールはテナーもソプラノもすごいが、バグパイプだけとっても、まさしくこの楽器のパイオニアだといえる。本作を聴いているだけでも、この楽器をメイン奏者とする新しいバグパイパー(というのか?)が志をもってどんどん出現してもおかしくないと思うぐらい。さまざまな楽器に、フリーインプロヴィゼイションに使用できる可能性があり、そういう試みが間断なく行われているが、音量や操作性、出せる音域や音の範囲の限界、瞬発力その他もろもろのせいで、共演者やその演奏内容を限定的にせざるをえない状況での即興になることも多い。しかし、バグパイプというのは完全に「あり」の楽器だと思う。そして、そういうことはこうした天才がひとり出現することで認知されるということもよくわかる。本当にすばらしい演奏なので、多くのひとに聴いてほしい。そして、バグパイプでジャズ? ゲテものじゃん、などとしたり顔でうそぶくひとが少しでも減ることを願う。傑作。

「FOR THE LAST TIME」(FMRCD342−0812)
PAUL DUNMALL/PHILIP GIBBS/TONY MARSH

 ドラマーのトニー・マーシュ追悼盤。2012年4月に亡くなったのだが、本作は1月に収録されている。しかし、マーシュ本人は3月にもロスコー・ミッチェルやジョン・エドワーズとカフェ・オトで演奏しており、この収録の時点では演奏を聴く限りではパワフルでクリエイティヴでなんら問題のないすばらしい演奏を繰り広げている。あいかわらずフィリップ・ギブスの変幻自在のギターがすばらしく、もちろんダンモールもよくて完璧なトリオ表現になっている。本作がこの50枚組ボックスのラスト(DVDを除くと)を飾るというのはなかなか象徴的でもあるが、演奏している側はそういった感傷とは一切無縁だ。しかし、どう虚心に聴こうとも、トニーの一打一打が魂の一打に聞こえてきて、心に響くのは避けがたい。ダンモールはフルートも吹いていて、これがまたすばらしいし、5曲目冒頭と6曲目冒頭のテナーの無伴奏ソロも柔らかい音色で彼の理想の音を垣間見ることができる。また、ギブスのギターとのデュオ部分など随所でトニー・マーシュの繊細さとパッションを感じることができたし、「マーシュは最後まで上手かった!」ということも知ることができた。本作のリリースの意義は大きい。このアルバムをもってポール・ダンモール50枚組聴破という作業も終わるが、傑作揃いのこのボックスをしめくくるにふさわしい傑作だと思う。それにしてもマーシュの演奏は本当に気合いこもっていて、いきいきと躍動していて、ひとが死ぬ、ミュージシャンが死ぬということの意味をあらためて感じざるえなかった。さまざまなタイプの演奏が入っており、めちゃくちゃ楽しい。傑作だと思います。

「DEEP DVD」(FMRDVD−003)
PAUL DUNMALL

 一応このDVDについても簡単に。やっぱりタイトルは「DEEP」がつくのね。FMRが作った「アーティスト・プロモーション・シリーズ」のひとつらしく、ダンモールが生い立ちとかサックスを始めたきっかけとか音楽的遍歴などを語っていく。でも、英語なので、なにを言ってるのかはぼんやりとしかわからない(わかりやすい発音なので、普通の英語力のひとならたぶんちゃんとわかるはず)。2時間近くある大作だが、ダンモールの演奏だけでなく、彼が影響を受けたコルトレーンとかの映像も入るので、飽きることなく楽しめる(まあ、事細かに語り過ぎという気もするが、ダンモール研究家のひとには最高の資料でしょう)。ロックバンドのホーンセクションにはじまり、ジョニー・ギター・ワトソンのグループのホーンセクションをつとめたり、ルイス・モホロやアリス・コルトレーンと出会い、自分の音楽性を開花させていく。ダニー・トンプソンやアンソニー・ブラクストンと共演し、クラシックからも多くを吸収する。そして、キース・ティペットと出会って多大な影響を受ける。ポール・ロジャーズのインタビューがめちゃくちゃ長い。絵画やセルマーのサックス(マーク6だと本人が言ってる)についても語る。テナーだけでも何本も持っていて、それぞれについて語るが、正直、だれが興味あんねん、という感じ。それにしても、ちょっとしゃべると、コルトレーンという単語がめちゃめちゃ出てきて、かなり重症のコルトレーンオタクだということはわかった(非公式だがコルトレーンの曲ばかり演奏した音源もある)。サクセロについても語るが、すごく状態がよさそうな楽器でうらやましい。あとバグパイプについては奏法も解説してくれる(これも何台も持っているらしい)。そうかあ、こうやってああいう叫ぶような音やハーモニクスをバグパイプから出していたのか。観ると良くわかるなあ。あー、バグパイプ欲しい。
 ダンモールの演奏の映像としては、彼が根城にしているヴォルテックス・ジャズ・バー(50枚のうちにもここでの演奏は収録されている)でのトリオにはじまり(これは現在の演奏)、ダニー・トンプソンのバンドでインド風のソプラノを吹いているもの、キース・ティペットのグループでポール・ロジャーズなどとともにテナーを吹いているもの、キース・ティペットのコンダクションによるビッグバンドでフィーチュアされているもの(凄まじい演奏。このときはラバーのマウピを吹いている)、どこかのホールでのキースのピアノ入りカルテットのやや長尺の演奏、現代音楽のアンサンブルにソロイスト(ソプラノサックス)として加わったもの(これも長尺)、イヴリン・チャン、フィリップ・ギブスらとのカルテット、アンドリュー・シリル、ヘンリー・グライムズを擁したトリオでの(たぶん)ヴィジョンフェスでの演奏(ずっと扇風機が首を振っている)など。最後にスタッフロールが出たあと、映像なしの音だけで、オーケストラとダンモールのテナーの共演が何曲か入っている。

「THE DARTINGTON TRIO」(FMR RECORDS FMRCD133−i1003)
KEITH TIPPETT/PAUL DUNMALL/JULIE TIPPETS

 上記「DARTINGTON IMPROVISING TRIO LIVE AT THE PRIORY」と同メンバーによる演奏で、FMRからリリースされているのだが、なぜかこの50枚組ボックスには収録されていない。添野さんによると、録音されたもののティペットの不同意でリリースされず欠番になったアルバムと同日のライヴが収録されているためではないか、とのことだが、こうしてめでたく聴くことができた。内容は、ピアノ〜ヴォイスではじまる「LIVE AT THE PRIORY」とはちがい、ヴォイスとソプラノではじまり、そこにピアノが入ってくる感じ。ジュリー・ティペッツの音域とソプラノの音域がだいたい同じなのか、ふたつのラインがからみあう感じが良い。ティペットのピアノは、さまざまな語彙があって刺激的である。ティペッツもすごくがんばっていると思うが、ヴォイスインプロヴィセイション的なものはネタ数も多くなく、どうしても単調になりがちだが、メロディを押し出した部分はどれも説得力があり、それと即興をうまく取り混ぜていて、「LIVE AT THE PRIORY」より面白かった(ホーミーみたいなテクも使う。あと、メロディカ?を吹くところもよかった)。でも、本作の成功はキース・ティペットの力が大きいと思う。手を変え品を変え、さまざまな引き出しを開けまくり閉めまくり、演奏の局面を変えていくだけでなく、つねに刺激を与え、ドライヴ感もぶちこみ、八面六臂の活躍だ。それにしても(これは添野さんに指摘されたのだが)、なぜキースは「ティペット」でジュリーは「ティペッツ」なのか。

「TRIBUTE TO COLTRANE」(SLAM PRODUCTIONS SLAMCD292)
PAUL DUNMALL TONY BIANCO

 前作「サンキュー・フォー・ジョン・コルトレーン」の続編的作品で、収録は同時に行われているようだが、いわゆる残りテイク感はまったくない。ただ、前作がそこそこ有名曲も入っていたのに比べて、本作は後期コルトレーンの曲が中心で、かなり渋くてエグいナンバーがずらりと並び、演奏もそれにあわせたよりハードな内容となっていて、聴いていてウハウハ状態になる。つまり、ダンモールとビアンコは、たったふたりで20曲ものコルトレーンナンバーを二日で録音したわけで、すごいことでもあり、しんどいことでもある。しかし、そのクオリティは尋常ではなく、ダンモール自身が「このとき演奏は私のテナーのベストプレイだ」という意味のことを述べているぐらいである。コルトレーンの曲をやる、という枠というか枷があるために、ふたりとも完全なフリーにはならず、しかし、かなり自由で、アグレッシヴで、壮絶な演奏となっている。このギリギリ感がなんともいえない。しかもコルトレーンというテーマのせいか、精神的なものも多分に感じられ、私のように、テナー好き、コルトレーン好き、テナーとドラムのデュオ好き、フリー好き……という人間にはこたえられん演奏ばかり。ベースやピアノがいないことで、後期コルトレーンの曲がコンポジションとしてもすごくいいということが再確認できる。「ワイズ・ワン」などは比較的多くの奏者が取り上げていると思うが、「サンシップ」とか「オファリング」とかバラードの「リヴァレンド・キング」とか「アセント」とかを取り上げたコルトレーントリビュートものも少ないだろう。ラスト曲は「ザ・ドラム・シング」で、エルヴィンとの演奏が名高いが、ビアンコはさすがに、エルヴィンとはちがったアプローチで個性を出している。DVDで観たダンモールへのインタビューでは、テナーサックスのブランドや機種、ナンバリング、マウスピースなどへのこだわりも「コルトレーンが使ってるやつ」みたいなことがベースになっているらしく、かなりマニアックなひとらしい。そういう点もアラン・スキッドモア的なものを感じますね。添野さんに教えていただいた音源には、スキッドモアがコルトレーントリビュートライヴを行うはずがドタキャンになり、その代役をダンモールが果たした……という内容のものがあって、スキッドモアとダンモールの関係もいろいろ考えさせられた。まあ、本作とは関係ない話ですが。とにかくダンモール〜ビアンコの2枚のコルトレーントリビュートアルバムは、ダンモールのファンはもちろん、コルトレーンファンもぜひ聴いてほしいです。