arnett cobb

「ARNETT COBB IS BACK」(PROGRESSIVE ULS−1670−G)
ARNETT COBB

 このアルバムについてはあちこちに何度も書いたので、簡単にとどめておこう。とにかく私が生まれてはじめてアーネット・コブというこの化け物の演奏を聴いたアルバムである。時は大学一回生のとき、場所は先輩のテナー吹きHさんの下宿だった。フルバンドのみんなで徹夜麻雀をやっていたのだが、その間中、なにかしらのレコードがかかっているのが常だった。私はそのときたまたま抜けていたので、H先輩に、
「つぎ、なにかけましょか」
「そやな。そのうえに置いてあるやつ。そのレコードかけて」
 それが、このアルバム「アーネット・コブ・イズ・バック」との出会いであった。いやもう、あまりの衝撃に、麻雀なんかどうでもいい、という気持ちになりましたね。そして、徹夜明けの翌日、さっそく三宮に行ってこのアルバムをゲット。以来、聴き狂っている。一曲目の「フライング・ホーム」がとにかくすごい。コブがこれまで幾度となく吹き込んできた同曲の集大成的な演奏。デレク・スミス、ジョージ・ムラーツ、ビリー・ハートというちょっと驚きのリズムセクションをバックにコブがブロウする。人選ミスだというひともいるが、完全にモダンジャズ、それもかなり先進的な演奏をするムラツやハートを、荒武者コブがおのれのブロウ一発でスウィングの世界に引き戻し、堂々たる演奏を繰り広げたと思えば痛快ではないか。ピアノも、たとえば「シッズリン」のレッド・ガーランドなんかよりもずっとコブにあっていると思う。このアルバムには思い入れがありすぎて、このアルバムをけなすやつは許さんという気持ちになってしまうが、そうでなくても、この作品を「白人ピアノをバックにした軟弱な作品で、コブの実力はこんなもんじゃない」とかいろいろ言うやつがいて困る。一般のジャズファンに知られているという意味ではポピュラーな作品であるが、内容もすばらしいと私は思う。ずるずるべったりのブルースもいいし、「A列車で行こう」のテーマ部分の吹き方は何度聴いてもしびれまくる。5小節目から7小節目にかけてを、あれだけひっぱって吹けるのはコブだけだ。本作を馬鹿にする連中はそういうところをちゃんと聴いてるのかなあ。モダンなリズムセクションとの関係が、ちぐはぐにならず、また、古臭くもならず、ちょうどいい感じで、じつに最高のモダンスウィング、テキサステナー入門盤になっていると思うがなあ。いつまで書いててもきりがないのでやめるが、入門書的な本でファラオの「ライヴ」やコブの本作を「あれは有名だが、じつはあれよりももっといい作品がある」とかいって推薦しない連中は、マイナーな作品を推薦するほうが通だ物知りだファンだという感覚が、頭のどこかにあると思う。これだけコブを聴いてきた私が言うんだからまちがいない。本作は名盤です。

「JUMPIN’ AT THE WOODSIDE」(BLACK & BLUE 33.175)
ARNETT COBB

 いいんですよねー、これ。じつは同時期のライヴである「スムーズ・セイリン」とまったく同じメンバーで、曲もほとんど一緒。4弦ギターのタイニー・グライムズ(よくパーカーのレコーディングに関して「お世辞にも上手とはいえない歌手の」と不名誉な言われかたをしているが、ジャズ評論家にとってはいまだにそういう認識なので驚く。ブルースファンにとっては神様みたいなもの)が入っていて、一種の双頭バンドであるが、メンバーがぴったりはまってるためか、コブのブロウは入魂の出来映えで、スタジオ録音とは思えない迫力である。おなじみのタイトル曲もいいが、数曲入っているブルースでのシンプルかつ凶暴なブロウは凡百のホンカーどもの追随を許さぬ悠然たる、またレベルの高いものである。傑作!

「LIVE IN PARIS,1974」(ESOLDUN FCD133)
ARNETT COBB−TINY GRIMES QUINTET

 これは凄いぜ! コブを聴くならまずこの一枚、と言いたくなるぐらいの傑作だ。本作が発売されたとき、コルトレーンのものやカークのものなどが一度に出たのだが、どれも驚くほどのレベルの高い演奏ばかりだった。しかし、なんといっても驚愕したのはこの一枚。ブラック・アンド・ブルーの「ジャンピン・アット・ザ・ウッドサイド」と同時期、まったく同メンバーによる演奏で、曲目もほぼ一緒。しかし、ライヴなのでコブの魅力がたっぷり味わえる。コ・リーダーのタイニー・グライムズもすばらしいが、とにかくコブのライヴでこれほどまでに「全部が出ている」ものはない。コブの魅力の一端を味わえる、というものは多いが、本作はたまたま偶然だとは思うが、あのフレーズもこのフレーズもあの引用フレーズもあの曲もあのギャグもあのブロウも……とにかく全部が全部詰まっているのだ。コブがあちこち指をさしながら悠々と吹きまくっているさまが、そして、じっくり、まったり、ゆったりと盛り上がっていき、ついには観客が興奮のるつぼに叩き込まれているさまが聴いているだけで存分に想像できるアルバム。テキサス魂ここにあり。コブはまず、これを聴いてほしいです。

「GO POWER!!!」(PRESTIGE PR7835)
ARNETT COBB WITH EDDIE ”LOCKJAW” DAVIS & ”WILD BILL” DAVIS
「BLOW ARNETT,BLOW」(PRESTIGE PR7151)
ARNETT COBB WITH EDDIE ”LOCKJAW” DAVIS

 大学何年かの夏休みだったか、新宿だったかどこだったかにあったなんとかいうジャズ専門店で見つけたのが「ブロウ・アーネット・ブロウ!」で、タイトルも凄いし、ジャケットも凄くて、ただちに購入。聴いてみてびっくり。ロックジョウとのバトルで、オルガンがワイルド・ビル・デイビス。やかましいったらありゃしない。ロックジョウ〜グリフィンチームどころか、ファラオ・サンダースとブロッツマンのバトルすらしのぐと思われるほどのテナー対テナー、男対男、怪物対怪物の大決戦が楽しめる。どの曲もとにかくやかましいにもほどがある大音量壮絶バトルで、たとえばアル・アンド・ズートのようにお互いに歩み寄って、協調し合って、洒落た演奏を……みたいな気持ちは小指の先ほどもない、文字通りの「戦い」。あるひとは「ロックジョウが勝っている」と評していたが、コブファンの私としてはとうてい認められない意見である。まあ、公平に見て、引き分けだと思う。ロックジョウはだれとなにをやってもだいたい同じで、ハードボイルドに徹したストレートアヘッドなブロウで、暴力的なパワーで寄り切り、みたいな感じだとおもうが、コブはその点、変幻自在で引くときは引くし、フレーズにユーモアと歌心があるあたりが特徴である。じつはその「ブロウ・アーネット・ブロウ」は再発の偽ステで、オリジナルは「ゴー・パワー!!!」(びっくりマークが3つも!)というアルバムだということはかなり後年に知った。もちろんそちらも買ったが、最初に買ったほうのタイトルやジャケットが捨てがたく、いまでも両方置いてあるのです。

「FUNKY BUTT」(PROGRESSIVE ULS−6034−G)
ARNETT COBB

「コブ・イズ・バック」に続く復活(?)第二弾。おおかたの好評を得た「コブ・イズ・バック」に比して、こちらはいまひとつ評論家筋では不評だったように記憶しているが、今回聴き直してみて、なかなかええやんと思った。おなじみの「ジャンピン・アット・ザ・ウッドサイド」からはじまる選曲もいいし、コブ自身はめちゃめちゃ好調である。「コブ・イズ……」でも弾いていたデレク・スミスのピアノもいい。問題はレイ・ドラモンドのドラムで、これがどうもピンとこない。コブがぶりぶりブロウしているのにドラムがうまくそれを煽りたてない。そのあたりが評論家の勘にさわったのかもしれない。スウィング派とモダンな若手が噛みあわないということではないと思う。「コブ・イズ・バック」のビリー・ハートは十分にコブを盛り立てていたではないか。まあ、そういった瑕疵はなきにしもあらずだが、さっきも書いたようにコブ自身はめっさ好調で、「コブ・イズ・バック」にまさるともおとらぬ快演をくりひろげており、「ジョージア・オン・マイ・マインド」や「サテン・ドール」などすごいですよ。まずは「コブ・イズ・バック」を聴いてほしいが、そのつぎに来るアルバムとして悪くありません。

「BODY AND SOUL」(TIMELESS RECORDS RJL−8075)
ARNETT COBB QUARTET

 最初聴いたときあまり良い印象がなかったのでながいあいだ聴かなかったが、今回聴き直してみて、なるほどコブはなかなか好調である。ライヴだけに荒い演奏もあるが(なにしろワイルドマンだから良い意味で荒いのはいいのだけれど、ときにはさすがのコブも悪い意味で荒い場合がある)、全体的にはなかなかどうしてがんばっている。おおっ、と思わず声を上げてしまうような快演もある(タイトルチューンの「ボディ・アンド・ソウル」がいまいちかも)。問題はバックのトリオで、普通のジャズについてあまり知識の私にとってはまったくなじみのない名前の3人である。ピアノのひとは有名らしいが、いちばんコブに合っていないのがこのピアノだろう。モダンなピアニストだからダメということはない。そんなことを言い出したら、コブの中期以降の活動は全部ダメということになる。要するに「合わない」のだろうな。コブが吠えているときのバッキングは可もなく不可もないが、自分のソロになると途端に全体から浮きあがり(つまり自分の世界観で演奏してしまい)、その部分がダレてしまう。もしかするとこのひとはこれでもかなりコブに歩み寄ったつもりなのかもしれないが、まだまだです。コブと一緒にやるミュージシャンは、楽器がなんであれ、もっとぐーーーーんとテキサステナーの世界に歩み寄らなければならない。コブが吠えれば自分も吠えるぐらいの気持ちがなければ。そういう意味で、このアルバムはちょい惜しい感じでした。

「KEEP ON PUSHIN’」(BEE HIVE BH7017)
ARNETT COBB

 ジャケットやメンバーからはどう見ても「ブラック・アンド・ブルー」の作品のようだが、じつはビーハイヴというレーベルのもの。ジャケットのテナーを吹くコブの姿を一目見て、「ぜったい傑作にちがいない!」と興奮して買ったのを覚えているが、なかなか世の中そううまくはいかない。ジャケ買いというのは当たりもあるが外れもある。本作は、メンバーがすごくて、コブのほか、ジョー・ニューマン、アル・グレイ、ジュニア・マンス、ジョージ・デュビビエ、パナマ・フランシスというコブの音楽を演奏するにはうってつけのメンツのはずなのに、なぜか出来映えがいまひとつである。ワンホーンか同一楽器(つまりサックス)との共演が多いコブが本作では3管ということで、もしかすると往年のアポロセッションやオーケーセッションの再現(リトルビッグバンド的なサウンド)か、と期待したが、その実は、単なるジャムセッションであった。さすがのジョー・ニューマンも絶頂期を過ぎており(アル・グレイはまだまだ元気なはずだが……)、全体にダレた感じで、コブのワンホーンものも、なぜかいまいち爆発しない(指が回っていないものもある)。全体にリーダーのコブ自身が、気合いは十分なのにどうもそれが演奏にうまく反映されていないのか、もうひとつ実りのないセッションになっていて残念だ。もちろん聴き所も多々あり、熱心なコブフリークは買って損はないが、ほかに聴くアルバムも多いので、そちらを聴いてから、ということで。繰り返すが、ジャケットは最高ですよ。

「THE WILD MAN FROM TEXAS」(CLASSIC JAZZ CJ102)
ARNETT COBB

このアルバムはもちろんブラック・アンド・ブルー原盤だが、同レーベル(フランス)のアメリカ盤はこのクラシック・ジャズというレーベルから発売されており、その際、なぜかジャケットを写真からへったくそな絵に差し替えているのだ。私の持っているこのアルバムはクラシック・ジャズ盤なのでジャケットを見るとどうも聴くがうせるのだが、中身はすばらしいので許す。まさに、あのアポロセッションやオーケーセッションを思わせる4管編成のリトルビッグバンドに、ミルト・バックナーのオルガンとバイヴが華をそえ、じつにすばらしい出来ばえである。当時、世界中でコブ(やジャケーやテイト)の音楽を、きちんと録音していたのはフランスのこのレーベルだけといっても過言ではない。ブラック・アンド・ブルーのおかげで、我々は今、70年代のテキサステナーたちがどのような演奏をしていたのかうかがい知ることができるのだ。このアルバムもコブ・イズ・バックよりまえの録音であり、我々ブロウテナーファンはフランスにはいくら感謝しても足りない。本作は、コブも全編にわたって豪快かつ繊細な大ブロウを展開して絶好調のうえ、バスター・クーパー、ウォレス・ダベンポート、アール・ウォーレン、エディ・チャンブリーらが見事なサポートをし、御大を盛り上げる(メンツ的にはあのアール・ウォーレンの参加が興味深いが、アンサンブルを吹いているだけ。それでも貴重でしょう)。どの曲もいいが、とくにおなじみの「ダッチ・キッチン・バウンス」での豪快かつ快調なブロウや「ニアネス・オブ・ユー」でのいやらしすぎるバラード表現(絶品!)など、聞きどころ満載である。なお、CDは何曲か未発表テイクが入っていてお買い得。

「THE COMPLETE APOLLO SESSIONS」(VOGUE JAZZ LEGACY66 500116)
ARNETT COBB

ジャケーのものと並んで非常に有名なアポロセッション。ライオネル・ハンプトンのビッグバンドを辞めてすぐの録音で、めちゃめちゃ若々しいコブによる、めちゃめちゃ若々しいブロウの数々が聴ける。どんなアップテンポでも楽々対応して吹きまくるコブは自信がみなぎっており、どんなソロも迫力満点である。リトル・ビッグバンド編成だが、主役はあくまでコブで、ほかの楽器はちょろっとソロをするだけ(でも、ラッパのデイヴ・ペイジなどはすばらしいソロをしているが)。特筆すべきはコブの「音」で、70年代のコブは病気や年齢のせいもあってか、かすれたような音色で、ときどきフルトーンでガーッと吹くのがかっこいいわけだが、このアルバムあたりでは全編フルトーンで吹きまくり、しかもかなりの割合でグロウルしており、おお、やはり世界一野蛮なテナーマンだわい、と感心する。リズムのノリがカクカクして四角い(わかりにくい表現だが、誤解を承知で言うと、アモンズのノリと一緒だ)のもこのころの特徴で、そのあたりがじつに、若いころの笑福亭松鶴(もちろん六代目)を連想させるのだ(風貌もね)。松鶴も若いころはカクカクした四角いしゃべりかたで、じつに良かったが、晩年枯れてきて、口がおぼつかなくなっても、それなりに味わいがでてきたんだよなー。とにかくSPのための録音だから短いわけだが、その短い収録時間のなかでいかに聴き手を楽しませるか必死になっている彼らの最上の演奏がぎっしり詰まっており、もう最高なのである。録音はたしかにあまりよくないが、コブを聴く分には問題ない。今はおそらくCD化されていると思うが、音質が向上しているかどうかは知らない。いくら歴史的な名盤とはいえ、コブをまったく聴いたことがないひとが本作を窓口にするのはどうかと思うが(やはり「アーネット・コブ・イズ・バック」など、長尺ものから聴いたほうがいいと思う。いらんおせっかいか)、コブを好きになったらぜひ本作を聴いてほしいと思います。

「SMOOTH SAILIN’」(PRESTIGE P−7184)
ARNETT COBB

 プレステッジのコブのアルバムのなかでも(ロックジョウとのバトルや「ベリー・サクシー」はのぞくと)いちばん好きかもしれない。バスター・クーパーとの2管で悠揚せまらぬブロウを展開する。プレステッジ時代のコブが美味しいのは、ヨーロッパ録音期やコブ・イズ・バック以降のように音色的にも演奏的にも枯れていないうえ、アポロやオーケーのように演奏時間が短いこともなく、また、ホンカー的な大向こうウケするブロウではなく、ジャズテナーの猛者としての腕を存分に発揮していることなど、つまり、コブの充実期の、「働き盛り」的演奏ばかりが長尺で味わえるからなのである。ピアノトリオ(+コンガもあり)がバックのものが多いうえ、スタンダードを多くとりあげていて、なんともはや「ジャズ」的な演奏になっており、そのあたりが物足らなく思うひとはいるかもしれないが、私はひじょうに満足である。だいたい一枚に1〜2曲はオリジナルヒットが入っているのもうれしい。趣味のいいピアノがウリのプレステッジのコブだが、本作はオルガンが入っているのも迫力増加に貢献している。

「PARTY TIME」(PRESTIGE 7165)
ARNETT COBB

「スムース・セイリン」に続く、プレステッジで個人的に二番目に一押し(へんな表現)のアルバムが本作だ。コンガ入りで呑気な感じだが、コブのブロウは筋金入りである。一曲目のミディアムのスタンダードからコブが気合い十分でテナーを唸らせる(コブのプレステッジ盤は、一曲目にミディアムテンポの曲を据えることが多いようだが、そのあたりも「こってり」した感じでじつに良い)。「フライング・ホーム」も、何度も何度も吹き込んでいる曲ではあるが、本作のバージョンは非常にスムーズで、歌心と迫力のバランスがとれていると思う。バラードでのずるずるの表現力も頂点に達していて、真っ黒さ、ダルさ、音色……どれをとっても最高なのだ。ここぞというときに、ググッとダーティートーンで唸るコブの黒人的美意識のかっこよさは、ほかのテナーの追随を許さない。吠えると、シェップもファラオもアイラーもウェアも真っ青のブラックテナーの最高峰であることを再認識できる。いいねえ、「パーティー・タイム」!

「MORE PARTY TIME」(PRESTIGE 7175)
ARNETT COBB

傑作「パーティー・タイム」の続編ではあるが、内容的にはややおとなしい感じ。一曲目の「ラバカン」も、ぐっとテンポを落としたダルい表現がいい。コンガが入って、どっちかというと軽やかで脳天気なリズムなのだが、それに対してコブがだるーく、重く、レイドバックしたソロをするところがまためちゃめちゃかっこいいのです(「スワニー川」とか、まるで茶褐色に濁ったミシシッピ川でナマズを釣ってるみたいな雰囲気ですばらしい)。迫力の点では「パーティー・タイム」に一歩譲るかもしれないが、コブ上級者(そんなものがあるのか?)にとっては本作でのコブの表現もベリー・デリシャスであろう。もしかするとコブの諸作のなかではもっともジャズ寄りの作品かもしれない。B面のほうがどちらかというとコテコテな演奏が多くて好きかも。「ダウン・バイ・ザ・リバーサイド」とか「ブルー・ミー」とか、かっこええなあ。

「SIZZLIN’」(PRESTIGE 7227)
ARNETT COBB

 プレスティッジのコブに凡作なし! といいたいところだが(ムーズヴィルのやつはバラードばっかりのムードアルバムなので、除外)、本作はやや落ちるかも。というのは、レッド・ガーランドのピアノがどうしてもコブとは合わないのである。ほかのアルバムでのピアニストはフラナガンでもジュニア・マンスでもレイ・ブライアントでも、なんというか、コブにすり寄るというと言い方が悪いが、要するにスウィングスタイルに合わせようとしているし、それができている。ところがガーランドはコブに合わせる気はないようで、自分のコロコロしたバップスタイルで押し通している。そういうときにジャズは刺激が生まれ、名演になることもあるわけだが、コブのように自己のスタイルが確立されていて、共演者によってそれを変えようとしない頑固一徹のオヤジに対してそういうことは通用しない。というわけで、どうもちぐはぐな演奏が多い。得意曲のはずの一曲目の「スウィート・ジョージア・ブラウン」にしてからが、誰か知らんがずっと演奏しながら声を出してるやつがいてめちゃめちゃ耳障りだし(たぶんドラム)、なぜかコブもいまいちはじけない。かなりがんばっているのだが、バックとずれている感じだ。どちらかというとピアノトリオが音楽的にはしっかりかたまっているからか、メインの存在のようで、主役のはずのコブだけが浮いているようにも聞こえる。だって、ガーランドのピアノソロになると、完全にレッド・ガーランド・トリオになってしまうのだから……。同じく得意曲の「ジョージア・オン・マイ・マインド」もいつものコブならもっと……と思ってしまうような中途半端なソロで(リードの調子が悪いのかもしれないなあ)、とくに「これはあかんがな……」と絶句してしまうのがタイトルナンバーでもある「シッズリン」のソロ。どの演奏も途中でなんとなくダレてしまい、悪い意味で緊張感がないようだ(コブに関していうと、音が細いし、音程も悪いように思う。よほど絶不調だったのか……)。プレスティッジのお手軽ジャムセッションの悪い面が出てしまい、コブがそれに巻き込まれたようにも聞こえる。もちろん良い演奏もあって、ブルースとかはコブだけを聴くならなかなかかっこよく、思わず「おおっ」と唸ってしまうような場面もあるのだが、バックとのちぐはぐさは常につきまとうのだ。とにかくアーネット・コブの真価はこんなものではないことは、皆さんもよくわかっているだろうが、プレスティッジのコブを聴くなら、まずほかの作品からにしたほうがよいかと思う。あと、ジャケットもどうにもならんと思います。

「ARNETT COBB AND THE MUSE ALL STARS LIVE AT SANDY’S!」(MUSE RECORDS MR5191)
ARNETT COBB

 もう何遍聴いたかわからないほどの愛聴盤。ミューズ・オールスターズ(コブ、テイト、クリーンヘッド・ビンソン、レイ・ブライアント、ジョージ・デュビビエ、アラン・ドーソン)のサンディーズのライヴはそれぞれのセットで中心になったサックス奏者の名義で何枚かにわけて発売されており、最初に聴いたのはバディ・テイト名義のやつ(これも傑作!)。それで味をしめ、そのあとコブ名義の本作を聴いたのだが、とにかく気合い十分で張り切るコブの雄姿が聴ける。時期的にいうと「コブ・イズ・バック」のすこしあとで、枯れ具合もよろしく、指も回っており、常時唸っているわけではないが一度唸りだしたらめちゃめちゃ凄い……という理想の状態のときの、しかも最高のメンバーでのライヴということで、これは傑作でないわけがない。一曲目の「ジャスト・ア・クローザー・ウォーク・ウィズ・ティー」から、ミディアムでゆったりとテナーをくゆらせる(という言い方は変かもしれないが、まさにそんな感じ)コブのテキサス仕込みの、ぐいっと拳を突き上げるような節回しと歌心、ブルースフィーリングが存分に味わえる。二曲目は、ハーシャル・エヴァンス以来テキサステナーの課題曲ともいうべき「ブルー・アンド・センチメンタル」だが、これをコブは朗々と、スローブルースのようにいなたく歌いあげる。そして本作の白眉ともいうべき3曲目「サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」。これが凄い。ブロウにつぐブロウの嵐。コブの独特のへしゃげたような音は、「コブ・イズ・バック」のころから顕著になったが、ここではそれが爆発。まさにワン・アンド・オンリーの怪物ぶり。こんな激情の吹き荒れる「表通り」なんて歩けるかっ! B面にうつって、「セプテンバー・ソング」がすばらしい出来ばえ。そして最後に怒濤の3管ジャムセッションに突入……というめちゃめちゃゴージャスなアルバムなのだ。裏ジャケの英文ライナーがすごく良くて、こういう箇所がある。バディ・テイトがつぎの曲を紹介した。「テナーサックスの巨人が皆さんに物語を語ります」……そういってはじまったのが前述の「サニーサイド」だったという。ええ話やなあ……。

「MORE ARNETT COBB AND THE MUSE ALL STARS LIVE AT SANDY’S!」(MUSE RECORDS MR5236)
ARNETT COBB

ジャケットがめちゃめちゃかっこいいんです。これはレコードで持ってないとねー。確認したわけではないが、このときのミューズ・オール・スターズのサンディーズでのライヴで、第二弾が出たのはコブのセットだけではないだろうか。それほど第一作の評判がよかったのだろう。スタンダード集のような第一作(それを完全にコブ節に変えてしまうのだから凄いのだが)にくらべて、こちらの「モア……」のほうは、コブのお得意のオリジナルおよびヒット曲ばかり。出来ばえはさすがに、さきに出た第一作のほうが頭ひとつ良い感じだが、本作も負けてはいない。いきなり「レスター・リープス・イン」をブルース化(?)した「ブルース・フォー・レスター」で幕開け。これは3管の熱いセッションで、クリーンヘッド・ヴィンソンが意外なほどいいソロをしている。個人的にはクリーンヘォドはシャウターであって、アルトは添え物というか余技的な印象があるのだが、ここでの彼は一糸乱れぬ8分音符を吹きまくっている。二曲目の「ゴー・レッド・ゴー」もアポロ時代からのヒットだが、ふつうはボントロとの掛け合いで演じる。しかし「ブロウ・アーネット・ブロウ」でロックジョウとの壮絶なバトルで演っていて、ここではそのパターンを踏襲し、バディ・テイトが相手役。エンディングのカデンツァでフラジオがうまく当たらなかったのか、やりなおしながらあの変態コブフレーズ(と私が勝手に名付けている)を披露するあたりも、いかにもコブらしいし、彼がこのライヴを心から楽しんでいるのが伝わってきてすばらしい。B面にうつって、これもおなじみ、というか超おなじみの「スムース・セイリン」。いやー、何度聴いてもかっこいいけど、本作はライヴということもあって、コブ節全開。このライヴのとき、たぶんコブは絶好調も絶好調だったことがわかる。ラストは「フライング・ホーム」で、おなじみのフレーズがばんばん飛び出して爽快。いやー、やはりこれは二枚とも聴かなければね! アラン・ドーソンのドラムもすばらしい。

「SHOW TIME」(FANTASY F−9659)
ARNETT COBB/DIZZY GILLESPIE/JEWEL BROWN

1987年にテキサスで行われたアーネット・コブの69歳の誕生日を祝う大コンサートの際の録音。コブの娘でテキサス・ジャズ・ヘリティッジ・ソサエティにかかわっているリゼット・コブ(本盤のプロデューサーでもある)によって実行されたらしい。東京から24時間かけて戻ってきたばかりのディジー・ガレスピーが2曲、コンサートに華を添えている。死ぬ2年前の演奏なので、コブはよれよれかと思いきやとーんでもございませんです。めちゃめちゃ元気で、思わず「おおっ」と叫んでしまうようなブロウを連発。すごいなあ、コブは。ガレスピーもトランペットはややよれているが(といっても、たいしたものである。また、ボーカルを一曲披露するのだが、そっちはたいへん聴かせる)。ただし、B面の4曲は、2曲がジュウェル・ブラウンのボーカル、1曲がサミー・プライス(!)のピアノトリオ(これがめっちゃいいブギなのです)でコブは入っておらず、もう一曲もガレスピーをフィーチュアした「チュニジア」なので、本作は、コブを聴くならA面を、ということになる。世間ではどういう評価になっているのかはしらないが、コブのファンなら聴いて損はない一枚。

「CHITTLIN’ SHOUT」(BLUES INTERACTIONS PCD−1616)
ARNETT COBB & HIS MOBB

原田和典という評論家(コテコテデラックスのかたですね)は本作をコブの最高傑作であるかのように書いていて、私も20年ほどまえ、最初に聴いたときはびっくりしたが(なにしろファンクなのだ)、やはり4ビートのほうがコブもリズムのなかで自由にふるまえるように思う。たしかにメガトン級のブルース衝動が爆発するような凄い演奏ではあるが、けっしてコブの本流ではないと思うがどうか。でも、とにかく「コブ・イズ・バック」の8年ほどまえ、テキサスにこもっていたころのコブが地元のミュージシャンとこのような演奏を繰り広げていたというのは感動だし、テナーもこのころのほうがフルトーンで鳴りまくっているし、ファンクリズムに対するコブのノリかたも半端じゃないほどうまくて驚く。共演者としては、あのクラレンス・ホルマンがギターを弾いていたり、なんとジョー・ガリアードがボントロ(めちゃめちゃうまい)を吹いていたりして、それらを聴く楽しみもあるが、ジミー・フォードというアルトはどう聴いてもバップのひとで場違いに思う(正直言って、邪魔かも)。曲としては、ラストの10分にも及ぶ「メデューサ」というドスの聴いたファンクがあまりにありがちな曲で、ベタにかっこよくて好き(昔、こればっかりリピートして聴いていたことがあった)。コブもグロウルを駆使した大上段のブロウで仁王立ちである。

「ARNETT COBB AND HIS MOB IN CONCERT FEATURING DINAH WASHINGTON」(HIGHNOTE HCD7068)
ARNETT COBB/DINAH WASHINGTON

フェニックスから海賊盤として出ていたもののCD化らしいが、ダイナ・ワシントンとコブバンドが共演しているわけではなく、14曲中、コブグループが7曲、ダイナ・ワシントン(自分のピアノトリオを連れてきている)が7曲という構成。バードランドでのライヴらしいが、ようするに対バンだったのだろう。私の興味としては52年当時のコブがどんなブロウをしているかに尽きるが、どういうわけか(というのも変だが)非常に音がいい。これは偽ライヴか、という疑いが当然出てくるわけだが(つまり、ありもののスタジオ録音に客の歓声や拍手をかぶせたもの)、どうやらちゃんとしたライヴ録音のようだ(何曲か、アポロやオーケーのものと聞きくらべてみたが、あまりちゃんと調べたわけではない)。放送録音か? とにかくコブは圧倒的なすばらしさで、音色もド迫力だし、フレーズもスタジオ録音のように完璧で、「ゴー・レッド・ゴー」の掛け合い部分などもスピード感といい文句のつけどころがない。バラードの泣かせかたも適度に甘く、適度にだるく、適度に辛口で最高。うーん、これは掘り出し物というかコブのライヴとしてはかなり上位に属するのでは? 客の歓声の入り方とかがどうもベターッとしている点が気になるが(まだ疑っている)、このころのコブの圧倒的な実力を思うと、ライヴでもこれぐらいの完成度はアリかなあと思う。とにかくすごいのでコブファンはぜひ聴いてほしい。残り半分のダイナ・ワシントンに関しては、たしかにええなあと思うが、私の管轄外であります(最後の一曲だけ、クーティー・ウィリアムスが入っている)。

「TENOR ABRUPT」(BLACK & BLUE BB958.2)
ARNETT COBB GUY LAFITTE

 アーネット・コブをフィーチュアした曲と、白人テナーのガイ・ラフィテというひとをフィーチュアした曲、ふたりのバトル曲、そしてピアノトリオだけの曲など、曲によっていろいろだが、全体に一本の筋が通っていて、バラバラ感はない。アル・コーンに(顔が)似たガイ・ラフィテ(と読むのか?)というひとも、なかなか豪快な音でスウィングするし、ローランド・ハナを中心としたピアノトリオ(ベースはジミー・ウッド、ドラムはエディ・ロック)も抜群なのだが、やはりなんといってもコブが登場すると景色が変わる。凄まじくもダルくて熱いブロウを繰り出し、聴いていて思わず、ぐいっと拳を突きあげそうになる。ワンホーンのときと吹いていることはなにもかわらないのだが、やはりもうひとりのテナーがいるとそれを意識した演奏になり、非常におもしろい(昔の、ロックジョウやジャケーとのバトルのようなむちゃくちゃな吹き合いにはならないのは当然か)。コブとガイ・ラフィテとの相性は悪くない、というか、とても良い。コブのワンホーンをいろいろ堪能したあとで、ちょっと聴きたい毛色の変わったアルバム。

「DEEP PURPLE」(BLACK & BLUE BB864.2ND215)
ARNETT COBB

 えっ? アーネット・コブのディープパープル曲集? と思ったひともいるかもしれないが、そんなわけないでしょう。ミルト・バックナーと組んだコブは向かうところ敵なし状態で、気力もめちゃくちゃ充実しているように聞こえる。ビッグコンボ編成の「ワイルド・マン・フロム・テキサス」よりもはるかにすばらしいと思う。コブにしてもジャケーにしても「芸術」というより「芸」なのだが、その「芸」を通り越して、とんでもないことになってしまう、というのがコブの凄いところなのだ。1曲目のテーマをサブトーン混じりで吹くところですでに感動・興奮してしまう。このテーマの吹き方を聴くだけで、身も心もしびれるのです(「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」をはじめ、テーマだけで感動する曲の多いことよ!)。一音一音の力強さ、色気、迫力、表現力などなどがすばらしすぎて、何度聴いてもほれぼれする。この1年後があのタイニー・グライムズとのライブで、5年後が「アーネット・コブ・イズ・バック」なのだが、「コブ・イズ・バック」のあの枯れた境地に比べると本作はタイニー・グライムズとのセッションに近いような、元気溌剌、気力みなぎる最高の演奏が詰まっている(枯淡の境地のコブももちろん悪くない。なにしろはじめて「コブって凄い!」と思ったのは「コブ・イズ・バック」なのだ。あれは、コブ自身枯れた感じだし、ジャズ的にもちゃんとしているリズムをバックにしたコブが、そういう境地を突き破るかのようにときおり見せる豪快なブロウを味わえる傑作だと思っています。コブファンならおなじみの独創的なフレーズもたっぷりだし、あの作品をけなすひとの気がしれない)。2曲目の循環の曲のサビでの猛烈・激烈なブロウを聴けば、だれしも諸手を挙げて万歳するのではないか。あざとすぎるほどあざといミルト・バックナーの演奏ももちろんすばらしすぎるのだが、なんといってもゲイトマウス・ブラウンのギターが涙、涙の快演で、バッキングはもちろん、単音でのソロのかっこよさは筆舌に尽くしがたい。ゲイトはもともとジャズっぽい演奏もするひとなので、相性はばっちりである。丁寧で的確でしかもブルージーの極みなソロの数々は美味しすぎてよだれがでます(さまざまな仰天テクニックが駆使されまくっていてテナー奏者は学ぶこと多過ぎ。それはゲイトもバックナーも同じで、アイデアの宝庫)。ブルーズファンもこのあたりを見逃す手はないですよ! しかしなあ、70年代のフランスで、こういう演奏が行われていたというのは奇跡だし、それがこうして録音されていたというのも奇跡としかいいようがない。ブラック・アンド・ブルーの功績はいくら賞賛しても賞賛しきれないほどのものですよ。アメリカ本国では例の「チッタリン・シャウト」ぐらいで録音が途絶えていたのを、約10年間記録し続けていたのはフランスなのだ(しかも最良のメンバーで)。このブラック・アンド・ブルーの活動があったからこそ、そのあとの「コブ・イズ・バック」、そしてミューズ・オールスターズ……と続いていくのだ。ブラック・アンド・ブルーへのコブの録音はギー・ラフィットとのライブまで、つまり1980年まで続く。そういうなかでも、本作はめちゃくちゃいいできばえで、大推薦したい。コブの魅力のすべてがここにある。マジで。傑作です。しかし、コブを聴くたびに思うのだが、私はコブを愛しすぎていると思う。ほんまに好きなんです。