ari brown

「ULTIMATE FRONTIER」(DELMARK DE−486)
ARI BROWN

 アリ・ブラウンをはじめて知ったのは、エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンのレコードだった。たしかソニー・フォーチュンと2テナーだったと思うが、きっちりとコルトレーンフレーズを吹くフォーチュンに対して、濁った音色でフリーキーに吹きまくるアリ・ブラウンはエルヴィンのところのテナーには珍しいタイプだったので、印象は強烈だった。たぶんライナーノートかなにかに、AACM出身ということが書かれていて、あー、なーるほどなーと思った覚えがある。その後、どこでどうしているのかと思っていたら、カヒール・エルザバーというひとのアルバムに入っているのを見つけ、早速購入。これが決定的な出会いとなった(ちなみに、そのアルバムで私は、カヒール・エルザバーを知ったのである)。マラカイ・フェイバースの弾くベースパターンがすべてのベースになっているモードジャズなのだが、アリ・ブラウンはそこでコルトレーン以降のモーダルなフレージングをするというより、民族音楽のようなペンタトニックで、自分の歌を訥々とつむいでいくような演奏を行っており、それがめちゃくちゃ心に染みたのである。そのアルバムは今でも愛聴盤だが、それ以来、アリ・ブラウンの名を見たら聞かざるをえない病気にかかったのである。本作は、そんなアリ・ブラウンの52歳での初リーダー作。このアルバムでも披露しているが、アリ・ブラウンはソプラノ、アルト、テナー、フルート、ピアノを演奏する。AACMなので多楽器なのはわかるが、最初がエルヴィンのバンドで聴いたせいもあって、ずっとテナーが主奏楽器のような感じがしているが、アルトを多用したアルバムもあるし、まあ、どれも上手いのだ。しかも、演奏内容も多彩で、本作でも1曲目がバップ的な曲(バップ的なテナーを吹いている。無骨だが味わい深い)、2曲目はモーダルなナンバー(濁った音でアルトを唸らせている。ときにフリーキーになる。曲もものすごくかっこよくて、ベースとピアノが作り出す「モーダル空間」が心地よすぎる。ドラムとカラフル)、3曲目はテナーによるバラード(演奏もすばらしいが、この曲がアリ・ブラウンの作曲ということが凄い。完全にスタンダードだと思った。ちなみに本作は1曲をのぞいて全部アリ・ブラウンの曲。このバラードでのソロを聴くと、アリ・ブラウンがじつは古いタイプのテナー奏者だということがわかる)、4曲目はテナーによるマイナーブルース(まさに「無骨」という感じの、めちゃめちゃ好きな演奏。これほどブラックジャズを感じさせるテナーマンは、現代では稀である)、5曲目は、アリ・ブラウンはピアノを弾いているが、これが超上手いし、味のある演奏なので、驚きまくる。アーチー・シェップやミンガス、ディジョネットのピアノなどに比べても雲泥の差である。カヒールとのアルバムでも、テナー奏者がゲストのときは彼はピアノにまわることが多いが、それもうなずけるぐらい、音楽的にもすばらしいピアノだ(ちなみに、本作に参加しているピアニスト、カーク・ブラウンはアリ・ブラウンの兄弟らしい)。6曲目はソプラノによる、ややポップな曲(ソプラノも無骨だ)、7曲目は唯一のオリジナル以外の曲(ゴスペル?)でフルートによる演奏(イントロ?)からテナーによる激しいブロウになる(コルトレーンの「インディア」的なモーダル曲から、一転、インテンポの16小節の曲になる)……とバラエティ豊かである。豊かすぎる、という感じもするが、なにしろ52歳での初リーダー作だ。詰め込めるだけ詰め込んだとしても、だれが責められよう。というか、その詰め込み方が実にバランスがよく、いい効果を生んでいるのだ。(たぶん)今までに3枚のリーダー作が出ているが、この1枚目がいちばん好き。捨て曲がひとつもないのです。なお、「シャドウ・ヴィネッツ」来日時に見に行って、アリ・ブラウンのソロを聴いたときはめちゃめちゃ感動したなあ。まわりにいるだれに話しても、みんな、アリ・ブラウンってだれ? と言ってて、がっくりした。それはカヒール・エルザバーも一緒。まあ、しかたないか。リーダーのエド・ウィルカーソン自体、日本では有名じゃなかったもんな。と、それはまた別の話。

「VENUS」(DELMARK RECORDS DE−504)
ARI BROWN

 遅すぎたリーダー作といわれた傑作「アルティメイト・フロンティア」から3年後のセカンドリーダー作だが、なんと1枚目とメンバーがほぼ一緒。いや、全部一緒か。一枚目にゲスト的に入っていたパーカッションが抜けただけで(べつのパーカッションがゲストで入っている)、ピアノ、ベース、ドラムは不動(ただ、ベースの名前の表記だけ1文字違っている)。そして、もっと驚くことは、このアルバムの15年後の2013年(つまり去年だ)に録音された3枚目のリーダー作も、メンバーが一緒なのである(しかも、1枚目に入っていたパーカッションまで復帰しとるやないか)。どれだけ同じメンバーで続けるねん。こういうのは、まさしくシカゴのローカルな感じがあって、すばらしいことだと思う。「エアー」にしてもアート・アンサンブル・オブ・シカゴにしてもリチュアルトリオにしても、シカゴ系のひとって律儀にメンバーチェンジをしないなあ。と、まあ、驚いたところで、内容について。あいかわらずテナーをメインに、アルトとソプラノを吹き分けているが、独特の無骨さはどれも変わらない。1曲目はテナーによる軽快なボサっぽい曲で、洒落た歌心を聞かせるが、2曲目はストレートど真ん中のモードナンバーで、ごりごりと熱く吹きまくる。こっちが1曲目のほうがよかったのではないかね。3曲目はアルトとピアノのデュオでのフリーな演奏。アリ・ブラウンはあまりここまでのフリーな演奏はしないが、この曲では徹底的に過激な表現を貫く。4曲目は、テナーによる表題曲で、テナーの無伴奏ソロからバラード風にはじまるが、ピアノのコンピングが入って、ラテンリズムがはじまり、アラビア的というか、エキゾチックなタンゴみたいな雰囲気の演奏になる。これがいいんですねー。アリ・ブラウンは、シンプルにねちっこく、ダーティートーンや捻じ曲げた音も使いながらゆっくりゆっくり吹き上げている。かなりしつこく、黒々としたアドリブを重ねたあげく、最後にはしゃべりながら吹くという暴挙にでる。すばらしい。5曲目は、唯一のカーク・ブラウン(ピアノ)の曲で、しかもピアノソロである。チェンジ・オブ・ペースということか。6曲目もマーチ風のリズムでのモーダルな曲で、アリ・ブラウンの無骨でごつごつしたようなソロと流麗なカーク・ブラウンのソロの対比がいいっすね。7曲目はテナーでのバラードで、美しいったらありゃしない。太く男性的な音で朗々と旋律を歌い上げる姿を聞けば、だれでも「このひとはすごい」と思うのではないか。この曲もピアノとのデュオである。コルトレーン的なバラードではなく、濁った音色も織り交ぜた、もっと古いブルーステナーを想起させるような感動の演奏。途中で倍テンになってからの歌いかたも、めちゃめちゃうまい。しかもこの曲がアリ・ブラウンのオリジナルなんだから、作曲の才能も豊かだよなー(本作は1曲を除いて全曲アリ・ブラウンのオリジナル)。8曲目は3拍子のモーダルな曲で、テーマはアリ・ブラウンがアルトとソプラノを同時吹きするのだが、驚くべきことにアドリブに入ってからも2本同時吹きなのだ。タイトルからしてカークに捧げられた曲なのだが、カークもこんなことは(たぶん)やってないのでは。まあ、むちゃくちゃと言えばむちゃくちゃで、途中からは突然ソプラノ一本だけにしたり、また二本吹いたり、アルトだけで吹いたりと、ひとりバトル状態にも。それがどうした、と思うかもしれないが、実際に聴いてみると、その熱さに驚き、感動すると思う。たぶんこの演奏場面を見たら、もっと感動するのではないか。音楽って人間が作ってるんだよなあという当たり前のことを再確認させてくれる演奏だ。カークになると、そのうえに、人間ってここまでできるんだなあ、という感慨にまで至るけどね。とにかくこの8曲目の熱さは尋常ではないです。この演奏でアルバムを締めるというのも大胆というかなんというか。というわけで1枚目に勝るとも劣らぬ傑作だと思う。

「LIVE AT THE GREEN MILL」(DELMARK RECORDS DE577)
ARI BROWN

 アリ・ブラウン初のライヴ盤(リーダー作としては)。初リーダー作が1995年でそのとき51歳。2作目「ヴィーナス」がその3年後。ここまでは順調といえば順調だが、3作目である本作は2007年で2作目から数えて9年後。そして去年4作目が出た。18年間で4作である。少なーっ。しかも全部デルマークで、メンバーもほぼ一緒。すごいよなー。去年の4作目のときはすでに70歳にならんとする年齢なのだが、たいした創造意欲である。珍しくトランペット奏者(ファレス・ウィテッド)が3曲に加わっていて2管編成になっているが、このひとがまためちゃめちゃうまい。全曲アリ・ブラウンのオリジナルで、やる気満々、ますます盛んなクリエイティヴィティなのだが、バラードまで自作というのが泣かせる。また、ええ曲を書きまんねん、このひと。聴いてみるとすぐにわかっていただけると思うが、とにかく流暢に吹きまくったりするタイプではない。それは、年齢を経てそうなったというのではなく、昔からそうなのだ。非常に無骨で、ごつごつしたフレージングを丁寧に心を込めて吹くひとだ。どちらかというとモードっぽい曲調のものが多いが、カヒール・エルザバーとのトリオでも言えるとおり、そういったモードというかワンコードのアフリカ的なサウンドのなかで、ひとつひとつフレーズを積み上げていく自由さ、みたいなものがアリ・ブラウンの身上だと思う。ソプラノなんか、音程悪いし、これがいいのか? と思うかたもいらっしゃるかもしれないが、何度もよく聴けば、この滋味あふれるスルメ感がわかってもらえると思う。一見、地味だが、このぼそぼそ、ごつごつした手ごたえのなかで繰り広げられている自由な音楽をぜひ好きになってほしいです。ライヴなので、全員いきいきした一期一会の演奏を、振り返ることなくやりきっている。ドカーンといくのではなくじわじわ盛り上がるエモーショナルな味わいも好ましい。底に流れるのはブラックミュージックとしての伝統とフリージャズ的な要素で、溌剌としたシカゴの空気を楽しめる一枚。4曲目の途中で二本同時吹奏がはじまると、客が大うけします。ラストの曲の、その場その場の、その瞬間瞬間のノリに身を任せた奔放なソロが、このグループの音楽性・方向性を表している。

「GROOVE AWAKENING」(DELMARK RECORDS DE5011)
ARI BROWN

 アリ・ブラウンも今年で74だが、本作を録音したときは69歳だったはず。相変わらずのおなじみのメンバーで、メンバーチェンジなし。しかもレーベルもずっと一緒。それだけでもすごいことである。アリ・ブラウンなんていってももう70歳のジジイなんだから、これまでのリーダー作に比べてパワーもテクニックもダウンしてるんでしょ? と思うひとがいても不思議はない。まあ、正直、私も買ったときはそう思って、しばらく聞かずに置いてあったぐらいだ。しかし、あるとき聴いてみて、自分の浅はかさに呆れました。いやー、パワーダウンどころか、はっきり言って、これまでの最高傑作だと言ってもいいのではないか。以来、何度も聴き返して現在に至る。今ではすっかり愛聴盤である。同じことは共演者にも言えて、みんなどんどん若返ってるんじゃないかと思うほどである。アリ・ブラウンはたいていテナーとアルトを両方吹くが、本作ではテナー(とソプラノとピアノだが、テナーが中心)に絞って演奏していて、それもうれしい(ライナーによると、最近の、ヴォン・フリーマンとフレッド・アンダーソンというシカゴの2大テナー奏者の死を受けて、シカゴテナーの伝統を継承したい、という思いもあるようだ)。テナーの音も、ますますいい感じに渋く、また輝かしく鳴りまくっているし、指使いもなめらかで、ときどき「おっ!」というようなフレーズが来て思わずカンドーしてしまう。しかも、相変わらずええ曲を書く。本作においても9曲中6曲がブラウンのオリジナルである(1曲はカーク・ブラウンの曲で、あと2曲はコルトレーンの「ロニーズ・ラメント」とエリントンの「イン・ア・センチメンタル・ムード」。前者はレゲエ(?)っぽいリズム処理をした演奏だが、それが見事にマッチしている。後者はライナーに「ベン・ウエブスターみたいな」と書いてあるとおり、無伴奏ソロからはじまるオールドスタイルの堂々たる演奏であり、アリ・ブラウンのテナー奏者としての根本的な実力を示していてすばらしい。ラストのカデンツァも叙情たっぷりで泣かせる。ライナーには「アリ・ブラウンの奥さんが好きな曲」と書いてあるが、知らんがな。ベースソロも歌う)。それにしてもシカゴのAACM周りのひとたちは、みんなすばらしいコンポーザーであるというのはおそらくAACMがそういう方針で、加わっているミュージシャンにそういう教育(?)をしているからだと思うが、その成果は大きく実っている。モーダルな曲のテーマはどれもめちゃかっこよくて、力強いものばかりで、1曲目のマイナーブルースもしかりだが、2曲目のタイトル曲なんかすごいええ曲ではないですか?(うねるようなテナーソロもノリノリで、2本くわえてのハモリも披露)3曲目は「エンカ」という曲名だが、演歌とは関係なさそう(でも、めちゃええ雰囲気のバラードで、この曲でのテナーソロは最高である)。奥さんに捧げた4曲目も超かっこいいノリノリの曲で、ウッドベースが太い音で豪快にスウィングし、バンドを引っ張る。テナーの引き締まった低音や中音域での細かいフレーズを畳み掛けるところなどもすばらしい。続くピアノソロもいいっすねー。最後にはまたまた2本吹きも。7曲目はカーク・ブラウンの曲で、2006年に亡くなったシカゴのトランペッターのマラカイ・トンプソン(レスター・ボウイのブラス・ファンタジーやシェップのアッティカ・ブルースで有名だが、デルマークを中心に多くのアルバムを残しているひと)に捧げた曲。ミディアムテンポのこってりした曲で、作曲者のカーク・ブラウンが先発ソロをしていて、これがとてもいい雰囲気です。カーク・ブラウンはマラカイ・トンプソングループのレギュラーでもあったらしい(うちにあるCDに入ってた)。8曲目は「ウェインズ・トレーン」というショーターとコルトレーン両巨匠に捧げたような曲名(ライナーに触れていないのでわからん)の曲だが、かっこいいがそうとう難しいモード的なテーマ。アリ・ブラウンも水を得た魚のように存分にブロウしまくる。いやー、すごい。めちゃくちゃかっこいい。この荒々しく、無骨で、自由奔放で、しかもこちらの心の中心をずばずば突いてくるような演奏はまさにシカゴテナーの本領という感じである。ピアノソロもいいっすね。ラストの「ギブ・サンクス」という曲だけ、アリ・ブラウンはソプラノを吹き、ピアノをみずからオーバーダビングしている(らしい。なんでピアノニストがいるのに自分がピアノを弾きたかったのかはよくわからん。最近亡くなった義母に捧げた曲だというから、なにかしらの思い入れのせいかもしれない)。
まあ、なんだかんだ書いたが、実際、この輝かしいテナーの図太い音を聴くだけで目がうるうるする。そして、ドスのきいた独特のフレーズを積み重ねていく、真摯で熱い演奏。それを盛り立てるリズムセクション。もう、たまらんなあ。ピアノのカーク・ブラウンもいいソロを随所でかますし、ベースのヨゼフ・ベン・イスラエルやドラムのラー、パーカッションのドクター・カッツもとにかくアリ・ブラウンの意図を汲んだひたむきな演奏である。それらが一丸となったとき、月並みな表現だが、ジャズのグループ表現が最高のものになるわけで、長年同じメンバーでやり続けるという、アリ・ブラウンやカヒール・エル・ザバー、アーネスト・ドーキンスらのやり方は間違っていないと感じる。というわけで、私も久々に聴いたが、とにかく傑作としか言いようがない。アリ・ブラウンが好きなひとは絶対聞き逃さないほうがいいです。